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第八章 真なる聖剣
816 船乗りの仕事
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カリオカの港を出た船は、一度大きく岸を離れるようだ。
なにやら緊張しながら説明してくれた船長によると、海はやたら広いように見えるが、大きな船が通れる場所は決まっていて、最短時間で目的地に行こうとすると、ほぼ同じ場所を通る必要があるとのこと。
それを、船乗り言葉で航路と呼んでいるのだそうだ。
なるほどな。
航路という言葉はちょくちょく聞いてはいたが、ちゃんと意味を理解出来たのはありがたい。
「船長。勇者さまや聖女さまに乗っていただいて嬉しいのはわかりますが、きちんとお仕事をしてくださらなければ困ります。ご案内なら私がしますから」
あがり症らしい船長を仕事に戻し、代わりに俺達の案内に付いてくれたのは、船乗りには珍しいとされる女性だった。
見習いの航海士とのことだ。
「航海士というのはどのようなお仕事なのですか?」
同じ女性ということで安心したのか、いつも人見知りで見知らぬ相手と話すのを苦手としている聖女が、見習い航海士さんに尋ねた。
「はい。あ、まずは自己紹介からさせていただきますね。私はタラッタと申します。この船で一番手が空いているのが私なので、一番長い時間お相手することになるかと思います。もしお嫌だったらおっしゃってくださいね」
にっこりと微笑む。
「皆さまのことは事前にお伺いしています。今、航海士について質問してくださったのは、聖女さまですね」
聖女がこっくりとうなずく。
「それではお答えしますね。航海士というお仕事は、船が安全に航行出来るように管理確認するのが主なお仕事です。船の航路の確認や、荷物の管理などをしています」
「まぁ、そうなんですね。船の乗組員の方に女性は少ないみたいですけど、やっぱり珍しいのですか?」
「そうですね。一般的に船員は腕っぷしの強い男の仕事と思われています。ただ、お客さまを乗せる船などには、女性の客室乗務員もたくさんいます。それと、船というのはスペースが限られた空間ですから、小柄な女性は、意外と船に向いてもいるんですよ」
「よくわかりました。ありがとうございます」
なるほど、言われてみれば、船は全体的に狭い。
体の大きな男よりも、小柄な女性のほうが意外と向いているのかもしれないな。
「おいおい、タラッタ。船乗りに女を増やしたいからって、勇者さま方に嘘を教えちゃいけねえな」
その話を近くで聞いていたらしい船乗りの一人が、見習い航海士のタラッタに絡んで来た。
険悪な雰囲気ではない。
少しからかっている風だった。
だが、言われたタラッタのほうは、顔をしかめている。
「私の持論を述べたまでよ。別に嘘じゃないでしょ」
「へーへー、でもよう、体が小さけりゃいいってもんじゃないぜ。頑丈さが必要さ」
「ちょっと、勇者さま方の前ですよ。行儀の悪いことはしないでください」
「あーわかった。失礼しました」
船乗りの男は、一礼すると去って行った。
「誰だ、あれは?」
苛ついたように勇者が聞く。
「甲板係です。すみません。私が見習いなので、舐められているんです。本来航海士は、甲板係を指揮する立場なんですけど……」
「それなら、早く一人前になって、こき使ってやれ」
実に勇者らしいアドバイスに、タラッタも思わずフフフと笑ってしまい、すぐに失礼しましたと顔を引き締めた。
なるほどな。
冒険者も男が多い仕事なので、そういう場所に女が入って行くのがどれだけ大変かは見て来たつもりだ。
そして、そういう女達が一様に、並の男よりも根性があることも知っている。
自分の力で、この場所に立っているということは、タラッタが並大抵ではない努力をしたということだ。
それだけの根性があるなら、きっと偏見も、自分の力で乗り越えて行けるだろう。
その後、タラッタに、船を一通り案内してもらい、最後にそれぞれの部屋へと案内された。
船の部屋はあまり広くないので、全員で同じ部屋に集まるということが出来ない。
そのため、俺達は、もっぱら甲板に集まることになった。
海洋公の船は、さすがに海賊船よりもだいぶ大きい。
帆柱も立派で、なんと三本も立っていた。
船員も多く、絶えずあちこち行き交って、作業をしているようだ。
のんびりうろうろしている俺達は、かなり場違いといえるだろう。
「こんな船に乗ることになるなんて。びっくりです」
ルフが、船べりに掴まって海を眺めながら言った。
「あんまり端に行くな。海にも魔物はいるんだぞ」
勇者がそう言うと、ビクッとして戻って来る。
「海の魔物はデカいのが多くて、タチが悪いんでさ」
近くで掃除をしていた青年がぼやくように言った。
「つい先日見た。よくもまぁあんなのがいる海をこんな船で移動しようという気になるな」
勇者よ、その言い方では、まるで挑発しているようだぞ。
「あははっ、もっともでさ。でも港街に生まれたからには船乗りにならねえと。それに、命がけでも、その分、実入りもいいんでさ」
「命を賭けるのだから、当然だな」
「それに、魔物は、滅多に浅瀬にやって来ないんでさ。航路は船がぎりぎり通れるぐらいの水深のところを選んでるんで、デカい魔物にとっちゃ、居心地が悪い場所なんですね。それに海の魔物からしてみれば、人間とか獲物としては小さくて、食いでがないってもんですよ」
なかなか陽気な青年だったが、俺達を口実にサボっているのがバレそうになって慌てて掃除に戻った。
これまであまり詳しくなかったが、船の運行も、随分考えられているようだ。
それだけに、海賊に航路と運行予定を知られるということが、どれだけマズいことかがわかる。
これまで情報を漏らして私腹を肥やしていた港湾管理の役人は、もうすでに報いを受けたか、これから裁かれるか知らないが、船乗り達の怒りを一身に受けることになるだろう。
海洋公も今まで気づかなかったことで評判が落ちるかもしれないが、とりあえず、腐った部分を切り離せてよかったと思うべきだろうな。
なにやら緊張しながら説明してくれた船長によると、海はやたら広いように見えるが、大きな船が通れる場所は決まっていて、最短時間で目的地に行こうとすると、ほぼ同じ場所を通る必要があるとのこと。
それを、船乗り言葉で航路と呼んでいるのだそうだ。
なるほどな。
航路という言葉はちょくちょく聞いてはいたが、ちゃんと意味を理解出来たのはありがたい。
「船長。勇者さまや聖女さまに乗っていただいて嬉しいのはわかりますが、きちんとお仕事をしてくださらなければ困ります。ご案内なら私がしますから」
あがり症らしい船長を仕事に戻し、代わりに俺達の案内に付いてくれたのは、船乗りには珍しいとされる女性だった。
見習いの航海士とのことだ。
「航海士というのはどのようなお仕事なのですか?」
同じ女性ということで安心したのか、いつも人見知りで見知らぬ相手と話すのを苦手としている聖女が、見習い航海士さんに尋ねた。
「はい。あ、まずは自己紹介からさせていただきますね。私はタラッタと申します。この船で一番手が空いているのが私なので、一番長い時間お相手することになるかと思います。もしお嫌だったらおっしゃってくださいね」
にっこりと微笑む。
「皆さまのことは事前にお伺いしています。今、航海士について質問してくださったのは、聖女さまですね」
聖女がこっくりとうなずく。
「それではお答えしますね。航海士というお仕事は、船が安全に航行出来るように管理確認するのが主なお仕事です。船の航路の確認や、荷物の管理などをしています」
「まぁ、そうなんですね。船の乗組員の方に女性は少ないみたいですけど、やっぱり珍しいのですか?」
「そうですね。一般的に船員は腕っぷしの強い男の仕事と思われています。ただ、お客さまを乗せる船などには、女性の客室乗務員もたくさんいます。それと、船というのはスペースが限られた空間ですから、小柄な女性は、意外と船に向いてもいるんですよ」
「よくわかりました。ありがとうございます」
なるほど、言われてみれば、船は全体的に狭い。
体の大きな男よりも、小柄な女性のほうが意外と向いているのかもしれないな。
「おいおい、タラッタ。船乗りに女を増やしたいからって、勇者さま方に嘘を教えちゃいけねえな」
その話を近くで聞いていたらしい船乗りの一人が、見習い航海士のタラッタに絡んで来た。
険悪な雰囲気ではない。
少しからかっている風だった。
だが、言われたタラッタのほうは、顔をしかめている。
「私の持論を述べたまでよ。別に嘘じゃないでしょ」
「へーへー、でもよう、体が小さけりゃいいってもんじゃないぜ。頑丈さが必要さ」
「ちょっと、勇者さま方の前ですよ。行儀の悪いことはしないでください」
「あーわかった。失礼しました」
船乗りの男は、一礼すると去って行った。
「誰だ、あれは?」
苛ついたように勇者が聞く。
「甲板係です。すみません。私が見習いなので、舐められているんです。本来航海士は、甲板係を指揮する立場なんですけど……」
「それなら、早く一人前になって、こき使ってやれ」
実に勇者らしいアドバイスに、タラッタも思わずフフフと笑ってしまい、すぐに失礼しましたと顔を引き締めた。
なるほどな。
冒険者も男が多い仕事なので、そういう場所に女が入って行くのがどれだけ大変かは見て来たつもりだ。
そして、そういう女達が一様に、並の男よりも根性があることも知っている。
自分の力で、この場所に立っているということは、タラッタが並大抵ではない努力をしたということだ。
それだけの根性があるなら、きっと偏見も、自分の力で乗り越えて行けるだろう。
その後、タラッタに、船を一通り案内してもらい、最後にそれぞれの部屋へと案内された。
船の部屋はあまり広くないので、全員で同じ部屋に集まるということが出来ない。
そのため、俺達は、もっぱら甲板に集まることになった。
海洋公の船は、さすがに海賊船よりもだいぶ大きい。
帆柱も立派で、なんと三本も立っていた。
船員も多く、絶えずあちこち行き交って、作業をしているようだ。
のんびりうろうろしている俺達は、かなり場違いといえるだろう。
「こんな船に乗ることになるなんて。びっくりです」
ルフが、船べりに掴まって海を眺めながら言った。
「あんまり端に行くな。海にも魔物はいるんだぞ」
勇者がそう言うと、ビクッとして戻って来る。
「海の魔物はデカいのが多くて、タチが悪いんでさ」
近くで掃除をしていた青年がぼやくように言った。
「つい先日見た。よくもまぁあんなのがいる海をこんな船で移動しようという気になるな」
勇者よ、その言い方では、まるで挑発しているようだぞ。
「あははっ、もっともでさ。でも港街に生まれたからには船乗りにならねえと。それに、命がけでも、その分、実入りもいいんでさ」
「命を賭けるのだから、当然だな」
「それに、魔物は、滅多に浅瀬にやって来ないんでさ。航路は船がぎりぎり通れるぐらいの水深のところを選んでるんで、デカい魔物にとっちゃ、居心地が悪い場所なんですね。それに海の魔物からしてみれば、人間とか獲物としては小さくて、食いでがないってもんですよ」
なかなか陽気な青年だったが、俺達を口実にサボっているのがバレそうになって慌てて掃除に戻った。
これまであまり詳しくなかったが、船の運行も、随分考えられているようだ。
それだけに、海賊に航路と運行予定を知られるということが、どれだけマズいことかがわかる。
これまで情報を漏らして私腹を肥やしていた港湾管理の役人は、もうすでに報いを受けたか、これから裁かれるか知らないが、船乗り達の怒りを一身に受けることになるだろう。
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