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第八章 真なる聖剣
815 船出
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「申し訳ありません。やはり大聖堂専用の特別便を動かすのは難しいとのことでした」
「そうか。仕方ないな」
もともとあまり期待はしていなかったらしい勇者は、あっさりとそう答えた。
こっちから頼んでおいて、期待していないってのは失礼だと思うんだが、もし利用出来たらいいな程度の気持ちだったので、それほどがっかりはしていないっぽい。
緊張の余り、汗をダラダラと流していた海洋公が気の毒なぐらいだ。
というか、その言い方だと、相手に期待していなかったのが丸わかりだろ。
もうちょっと言い方を考えろ。
「で、ですが! そ、それに代わる特別便をご用意出来ます」
「ほう?」
海洋公は、しかし、勇者を落胆させるつもりはなかったようだ。
その言葉に、直行便に興味を無くしつつあった勇者がピクリと反応する。
「大聖堂側としては、聖者さまがご利用になられる特別仕立ての船を、勇者さま方に流用するのは、どちらに対しても失礼である、と考えておられるとのこと。そこで、俺の持ち船を勇者さま御一行にご利用いただき、大聖堂の港へ着けるのはどうか? と、お聞きいたしたところ、それなら問題ないというお返事でした」
「なるほど」
海洋公が、まるで主人の機嫌をうかがう猟犬のような状態になっている。
期待と不安に満ちた目が熱い。
「俺には船の良し悪しはわからないが、仮にも海洋公の名を持つ者の持ち船だ。悪いはずはないだろう。喜んで乗船させていただこう」
「はいっ! ありがたき幸せ!」
その場で土下座でもしそうな勢いで、深く腰を曲げて礼をした海洋公が、顔を上げると、満面の笑みだった。
そんなに嬉しいんだ。
まぁ俺たちも、砂嵐を越えなくていいなら嬉しい。
お互いに幸せなので、とてもいい感じに話がまとまったと言えるだろう。
さて、船を用意してもらった俺たちは、魔道馬車をどうするかについて相談した。
なにしろ、この魔道馬車を用意してくれたのは、大公陛下だ。
売るのはもってのほかだし、海洋公に下賜するという訳にもいかない。
俺たちというワンクッションを置いたにせよ、大公陛下から海洋公への下賜品となってしまうからだ。
政治バランス的に、よろしくないらしい。
「それはこちらで預かるという形にすればよろしいかと」
と、自信たっぷりに海洋公が言った。
「あくまでも持ち主は勇者さまで、俺は預かっているだけという形にいたします。次に勇者さま方が訪れるまで、新品のようにピカピカにして、万全な整備をお約束いたしましょう」
とのことだ。
そこで、全員で話し合った末、お任せすることにした。
どうせ戻って来るのだ。
そのことも海洋公には言ってあるので、船には往復で乗せてもらえることになっている。
難しく考える必要はないだろう。
そして、出立の日が来た。
いや、船の場合は出港と言うのだそうだ。
パーニャ姫とルフはすっかり仲良くなっていて、いつの間にか、例のパーニャ姫の鳥寄せの笛と、ルフが一人で作ったという小さなナイフを交換したらしい。
もの作りという同じ方面に才能を持つ同士、何か感じるものがあったのかもしれないな。
そのパーニャ姫とは城で別れた。
あの家出騒ぎが響いているのだ。
二人共残念そうだが、仕方ないだろう。
既に四度目となる港だが、なかに入るのは二度目、勇者達に至っては、初めてだ。
しかも、領主専用の埠頭は、ごちゃごちゃした倉庫を横切る通路を使う必要がなく、壁で仕切られた特別な場所だった。
つまり実質全員が初めて来た場所となる。
ただし、あの、船の管理塔の一階部分を通って行くとのことなので、全く知らない場所でもない。
「ここにその裏切り者がいたんだよな」
勇者はうさんくさそうに船の管理塔の建物を見上げた。
海賊に情報を流していた港の管理官は、この建物を私物化し、自分の城に見立てて、私腹を肥やしていたらしい。
今では海賊と関わっていた連中は一掃されたとのことだが、そのせいで、この建物のイメージはよくないのだ。
みんなで食事をした料理店もあるので、俺自身はそこまで嫌な感じはしていないが、管理官の部屋の内装が、まるで貴族の館のような豪華さだったと聞いているので、思うところが全くない訳でもない。
船に乗る前に、再び、この管理塔の料理店でお別れの食事会を行った。
もちろん貸し切りだ。
味は相変わらず、あの古い宿泊所の料理店には及ぶべくもないが、美味いと言っていい味だった。
勇者は不満そうだが、これに文句をつけるのは贅沢すぎだろう。
海洋公専用の船は、港の外に停泊しているほかの大きな船とは違い、専用の埠頭に、横づけされていた。
聞くところによると、この辺は十分な水深があるため、唯一、大型船を横づけ出来る場所なのだと言う。
「お名残惜しいですが、勇者さまの旅路の一助となれたことに深い喜びも感じます。そして、必ずや、勇者さま方がお戻りになるときには、海賊共一掃の知らせをお伝え出来ることを誓いましょうぞ」
「前も言ったが、力むなよ」
海洋公の熱い気持ちに水を差す勇者。
実に俺達らしい旅立ちと言えるだろう。
海賊船では、魔力不足などもあり、あまりにも目まぐるしく事態が動いていたので、船酔いどころの騒ぎではなかったが、今回は、きっちりと全員が、船酔いを防ぐために、体の状態を正常に保つ魔法を聖女に掛けてもらった。
「魔力は十分です!」
一時期、魔力不足という、今まで味わったことのない状態に苦しんでいた聖女だったが、復活した今は、前よりも張り切っているようだ。
「なぁ師匠……」
「なんだ?」
「なんだか胸騒ぎがする」
勇者が余計なことを言わなければ、気持ちのいい船出だったんだがな。
「そうか。仕方ないな」
もともとあまり期待はしていなかったらしい勇者は、あっさりとそう答えた。
こっちから頼んでおいて、期待していないってのは失礼だと思うんだが、もし利用出来たらいいな程度の気持ちだったので、それほどがっかりはしていないっぽい。
緊張の余り、汗をダラダラと流していた海洋公が気の毒なぐらいだ。
というか、その言い方だと、相手に期待していなかったのが丸わかりだろ。
もうちょっと言い方を考えろ。
「で、ですが! そ、それに代わる特別便をご用意出来ます」
「ほう?」
海洋公は、しかし、勇者を落胆させるつもりはなかったようだ。
その言葉に、直行便に興味を無くしつつあった勇者がピクリと反応する。
「大聖堂側としては、聖者さまがご利用になられる特別仕立ての船を、勇者さま方に流用するのは、どちらに対しても失礼である、と考えておられるとのこと。そこで、俺の持ち船を勇者さま御一行にご利用いただき、大聖堂の港へ着けるのはどうか? と、お聞きいたしたところ、それなら問題ないというお返事でした」
「なるほど」
海洋公が、まるで主人の機嫌をうかがう猟犬のような状態になっている。
期待と不安に満ちた目が熱い。
「俺には船の良し悪しはわからないが、仮にも海洋公の名を持つ者の持ち船だ。悪いはずはないだろう。喜んで乗船させていただこう」
「はいっ! ありがたき幸せ!」
その場で土下座でもしそうな勢いで、深く腰を曲げて礼をした海洋公が、顔を上げると、満面の笑みだった。
そんなに嬉しいんだ。
まぁ俺たちも、砂嵐を越えなくていいなら嬉しい。
お互いに幸せなので、とてもいい感じに話がまとまったと言えるだろう。
さて、船を用意してもらった俺たちは、魔道馬車をどうするかについて相談した。
なにしろ、この魔道馬車を用意してくれたのは、大公陛下だ。
売るのはもってのほかだし、海洋公に下賜するという訳にもいかない。
俺たちというワンクッションを置いたにせよ、大公陛下から海洋公への下賜品となってしまうからだ。
政治バランス的に、よろしくないらしい。
「それはこちらで預かるという形にすればよろしいかと」
と、自信たっぷりに海洋公が言った。
「あくまでも持ち主は勇者さまで、俺は預かっているだけという形にいたします。次に勇者さま方が訪れるまで、新品のようにピカピカにして、万全な整備をお約束いたしましょう」
とのことだ。
そこで、全員で話し合った末、お任せすることにした。
どうせ戻って来るのだ。
そのことも海洋公には言ってあるので、船には往復で乗せてもらえることになっている。
難しく考える必要はないだろう。
そして、出立の日が来た。
いや、船の場合は出港と言うのだそうだ。
パーニャ姫とルフはすっかり仲良くなっていて、いつの間にか、例のパーニャ姫の鳥寄せの笛と、ルフが一人で作ったという小さなナイフを交換したらしい。
もの作りという同じ方面に才能を持つ同士、何か感じるものがあったのかもしれないな。
そのパーニャ姫とは城で別れた。
あの家出騒ぎが響いているのだ。
二人共残念そうだが、仕方ないだろう。
既に四度目となる港だが、なかに入るのは二度目、勇者達に至っては、初めてだ。
しかも、領主専用の埠頭は、ごちゃごちゃした倉庫を横切る通路を使う必要がなく、壁で仕切られた特別な場所だった。
つまり実質全員が初めて来た場所となる。
ただし、あの、船の管理塔の一階部分を通って行くとのことなので、全く知らない場所でもない。
「ここにその裏切り者がいたんだよな」
勇者はうさんくさそうに船の管理塔の建物を見上げた。
海賊に情報を流していた港の管理官は、この建物を私物化し、自分の城に見立てて、私腹を肥やしていたらしい。
今では海賊と関わっていた連中は一掃されたとのことだが、そのせいで、この建物のイメージはよくないのだ。
みんなで食事をした料理店もあるので、俺自身はそこまで嫌な感じはしていないが、管理官の部屋の内装が、まるで貴族の館のような豪華さだったと聞いているので、思うところが全くない訳でもない。
船に乗る前に、再び、この管理塔の料理店でお別れの食事会を行った。
もちろん貸し切りだ。
味は相変わらず、あの古い宿泊所の料理店には及ぶべくもないが、美味いと言っていい味だった。
勇者は不満そうだが、これに文句をつけるのは贅沢すぎだろう。
海洋公専用の船は、港の外に停泊しているほかの大きな船とは違い、専用の埠頭に、横づけされていた。
聞くところによると、この辺は十分な水深があるため、唯一、大型船を横づけ出来る場所なのだと言う。
「お名残惜しいですが、勇者さまの旅路の一助となれたことに深い喜びも感じます。そして、必ずや、勇者さま方がお戻りになるときには、海賊共一掃の知らせをお伝え出来ることを誓いましょうぞ」
「前も言ったが、力むなよ」
海洋公の熱い気持ちに水を差す勇者。
実に俺達らしい旅立ちと言えるだろう。
海賊船では、魔力不足などもあり、あまりにも目まぐるしく事態が動いていたので、船酔いどころの騒ぎではなかったが、今回は、きっちりと全員が、船酔いを防ぐために、体の状態を正常に保つ魔法を聖女に掛けてもらった。
「魔力は十分です!」
一時期、魔力不足という、今まで味わったことのない状態に苦しんでいた聖女だったが、復活した今は、前よりも張り切っているようだ。
「なぁ師匠……」
「なんだ?」
「なんだか胸騒ぎがする」
勇者が余計なことを言わなければ、気持ちのいい船出だったんだがな。
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