勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第八章 真なる聖剣

753 無我夢中でゴールを目指す

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 サーサム卿達大公陛下の使者が訪れてしばらくして、とんでもない一報が届いた。
 なんと、大聖堂から聖者さまが訪れるという。
 その滞在の準備をするようにとの先触れがあったのだが、その先触れの時点で、領主館は、パニック状態に陥った。

 通常の巡行の際には、各地の大教会に泊まり、一般の人々に場所を開放した上で、説教を行ったりするものらしい。
 ところが今回は、この地の大教会である、上層教会ではなく、領主館泊ということで話が回って来ていた。

 これは、上層教会からしてみれば、大変な恥辱であり、ある意味御叱りのようなものと受け止められる。
 まぁ仕方ないよな。
 あの現状じゃ。
 とは言え、現在は仮とは言え、ちゃんとした教手おしえての人が上層教会を取り仕切っているので、その辺りは、なんとか折り合いをつけてもらいたいところだ。

 いや、そんな場合じゃない。
 真っ青になったホルスが、凄い顔で、カーンとメイサーを働かせ始めたのだ。
 最初はぐずっていた二人だったが、働かないと、お前等の目の前で自刃してやるというような脅しをしたらしい。
 震えあがった二人はさっそく働き出した。
 すごいな、ホルス。

 この二人に何をやらせたかというと、聖者さまが到着する前に、七家全部の代表を集める必要があるため、カーンに直筆署名入りの手紙を書かせて、その手紙に大公陛下の署名を入れてもらい、各家に檄文のような形で届けるらしい。

 ようするに、お前等すぐに来ないと大公陛下と魔獣公を敵に回すけどそれでいいのか? というような脅しを、遠回しにやったようだ。
 貴族、こええよ。

 メイサーの役割は、街の探索者ギルドと商人の抑えだ。
 カーンのガサ入れによって、探索者ギルドも、それを裏で支えている大商人もおとなしくはなっていたが、ここで聖者に対して何か粗相があったら、街全体が熱心な信者によって破壊されかねない。
 その辺りをきっちり言い聞かせる必要があった。
 商人はともかく、探索者連中は頭が悪い奴が多いからな。

 それと、探索者として働くことも出来ず、犯罪まがいのことをやって生きている連中もいて、そういう奴等にもメイサーは顔が利く。
 もともと、そこからのし上がった人間だからな。
 つまりこの街でバカをやりそうな連中に釘を刺しておけということだ。

「わかった。ついでに掃除もしとくよ」

 とは、メイサ―の言葉。
 頼もしい。
 それとは逆に。カーンと来たら……。

「うおおおおおっ! き、貴族の脅迫状ってのは、なんて面倒臭いんだ!」

 などと頭を掻きむしりながらわめいていた。

「我が君。脅迫状ではありません。招待状です」
「体裁の話じゃねえんだよ! わかってんだろうが!」

 まぁホルスが貼り付いているので大丈夫だろうが。

「俺達は特に何もしなくていいのか?」

 思わず勇者に尋ねたが。

「俺達は聖者と同じぐらいの立場のゲストだぞ。本来ならふんぞり返って、いろいろサービスを要求するのが正しい作法だ」

 などと、実にいい加減な答えが返って来たので、どうしようもない。

「うそつけ」

 そんな風に否定はしたものの、正直、俺達に現状やれることはない。
 どう考えても、俺達は邪魔者だった。
 何しろ、俺達がカーン達の手伝いをする訳にはいかないし、その一方で、カーンの立場からすれば、俺達の滞在中は、もてなさない訳にもいかない。
 ホルスもカーンもメイサーも手一杯の今、使用人達にとっては、俺達をどうしていいのか扱いに困っているのが正直なところだろう。

 そこで、俺達は、ホルスからバトンタッチされた、それなりに有能らしい使用人に告げておいたのだ。

「式典を前にして、やらなければならいことがある。こちらで独自に動くから、特に俺達に構わないで大丈夫だ。食事ぐらいは出してもらいたいが」
「承りました」

 ホルスから俺達を任されたらしい使用人は、少しホッとしたような雰囲気で、快く了解してくれたのだった。
 俺達はまず、ロボリスの作業場に向かうことにする。
 連絡係としてつけた使用人からは、必要なものは全て揃って、後は、仕事をするだけとなった、とだいぶ前に告げられていた。
 その後、連絡が来ないので、とりあえず様子を見に行ったほうがいいだろうという話になったのだ。

 そうやって赴いたロボリスの作業場だが、予想に反して静かなものだった。

「ありゃ。試し打ちとかで忙しくやってると思ってたんだが。……もしかして、連絡はまだだが完成したのか?」
「そうだと助かるな。出来るだけ早いうちに、リハーサルをしておきたい」

 そう言いながらも、勇者は慌てた様子はない。
 ある意味世界中を騙すたくらみでもあるんだが、全く気に病んでないらしい。
 俺はずっと胃が痛いっていうのに。

「あっ!」

 作業場の入り口をくぐると、受付の机に突っ伏すように座っていた少女が顔を上げて俺達を見た。
 そして、声を上げる。

「やあ、ひさしぶり、デルタ」

 鍛冶師ロボリスの長女であるデルタである。
 五歳ということだが、年齢から受ける印象よりも、利発そうだ。

「おじさん達、お父さんに何を依頼したの!」

 こ、これは、責められている?

「ま、待った。まずは落ち着いて、話を聞こう」

 なんだか疲れている様子のデルタを座らせる。
 すると、みるみるその両の目に涙が溜まった。

「お父さん、おじさん達が頼んだお仕事に取り掛かってから、最初のうちは、すごく張り切ってたの。うれしそうで。私もうれしかった。……でも」
「あー、なんか行き詰ったのか?」
「うん。窯に火を入れて、打ち始めてから、お父さんどんどん痩せていって、最近は、鉄を打たないで、じっと火を見つめてて……」

 それはヤバいな。
 だいぶ無理なことを頼んだ自覚はあるので、ロボリスにも、その様子を見ている家族にも、申し訳ない気持ちで一杯になる。

「それなら俺が喝を入れて来る」
「え?」

 勇者がローブを脱ぎ捨てると、さっさと作業場へと向かった。
 デルタはびっくりしたようにその後ろ姿を見ている。

 おっと、俺も追いかけないと。
 勇者がうっかり更に追い打ちをかけてしまうようなことがあるとマズいからな。
 とは言え、俺はそれほど心配していなかった。
 勇者は、いろいろ問題がある性格ではあるが、必死でがんばっている庶民に、居丈高に振舞うような男ではない。

「大丈夫。わたくし達にまかせてちょうだい」

 聖女が、少しかがんで、デルタと目を合わせると、にっこりと微笑んで安心させた。
 デルタは、少しぼーっとしているようだ。
 
「はい。あ、あの、お父さんをよろしくお願いします!」

 そして、勢いよく頭を下げて言った。
 さすがは聖女である。
 一瞬で信頼を勝ち取ったようだ。
 しかしまぁ、何か行き詰ったんなら、連絡をくれりゃあいいものを。
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