勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第八章 真なる聖剣

748 ロスト家

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 歩きながらの会話なので、あまり詳しい話は出来ない。
 周辺はいつの間にか、住宅街から、小さな露店が並ぶ、小道になっていた。
 いくつかの露店は既に店じまいしているらしく、露店用の台と椅子が固められて置いてある場所が目立つ。
 未だ残っている店のほとんどが、食料品を扱う店であることからして、朝市に近い場所なのかもしれない。

「おう! あんたフリーの探索者だろ? どうだいこの干し肉。いぶしてあるから香りがいいぜ! 虫もつかないぞ」

 目の粗い枯れた草で編んだザルに並んだ干し肉は、店主の言う通り、なかなかいい物だった。
 
「師匠、買おう!」

 突然の声。
 勇者を認識出来ていなかったらしい店主にはそう思えたのだろう。
 少し驚いたように勇者のほうを見る。
 だが、一度認識してしまえば、後は、フードを深く被った者に過ぎない。

「へー、弟子持ちか。有名人か?」
「まさか。若い時はベテランにわけもなく夢を見るものさ」
「ほー悟ってるね。見た目以上に歳取ってるのか?」
「バカ言うな。……そうだな、そっちの、角牛の干し肉をもらおう。一束半だ」
「おう、一銀貨な」
「高いと言うほどでもないが、安くはないな」
「言っただろ、手間がかかってるんだ」
「さすが、探索者の街で商売しているだけある。バランス感覚がいい」
「おいおい、褒めてもまけないぜ? だがまぁオマケはしよう。こっちの尾長ネズミの干し肉を一束付けてやるよ」
「子どものおやつじゃないか。まぁいい。ありがとよ」
「へ、まいど!」

 商人と交渉を終えて、商品を背嚢に納める。
 おまけの干し肉は全員に配ってやった。

「あっちに、広場があるな。ちょうどいいあそこで一休みしよう」

 この街では、馬車の通らない小道には、四つ辻ごとに広場があり、住人の憩いの場所となっている。
 周辺には、水売りや、茶屋、酒の量り売りなどがいて、売り込みに熱心だ。

 俺は、茶屋から冷やし茶を全員分買うと、広場に設置してある台に適当に座らせた。
 広場にはいい風が吹いていて、心地いい。

「ダスター。風の精霊メイスに頼んで、私達の声だけ散らしてもらおうか?」

 メルリルがそう提案して来た。

「そうだな。それなら違和感が少ないし、頼む」

 俺がそう言うと、メルリルはすぐに小さな声で歌を口ずさんだ。
 かわいらしい、子ども遊びのような歌だ。

 精霊の行いは、魔法とは違って、魔力が固定されることがない。
 そうと知っていないと、術が使われていることなど誰にもわからないだろう。

精霊メイスって不思議ですね。わたくしにも感じられればいいのに」
「ミュリアには特別な力がある。人を癒す力はとても素晴らしいと思う。精霊メイスもミュリアが好きみたい」
「本当に? うれしいな」

 メルリルと聖女の会話が微笑ましい。

「この肉、甘味がある」

 そんなほのぼのとした女子組とは違い、勇者の話題は、もっぱら食い物だ。
 食いしん坊め。

「そりゃあな。尾長ネズミというのは、ベリーを好む生き物でな。ネズミと呼ばれているが、見掛けはもっとすんぐりしていて、ふわっとした尻尾があるんだ。ベリーが主食だから肉も甘いのさ。こいつは罠で獲るんだが、干し肉は子どものおやつに人気なのさ」
「へー」

 尾長ネズミは北のほうにしかいないので、ミホムでは口に出来ない味だ。
 俺もこの街で生活していた頃は、ちょくちょく買っていたっけ。
 少し懐かしい。

 そんな話をしていると、聖女が自分の手元の干し肉をじっと見て、悩ましく言った。

「わたくし尾長ネズミを見たことありますけど、とても可愛くて、ペットとしても人気があるんです。少し複雑です」
「とは言っても、酒造りの里とかでは害獣として嫌われている。すぐに増えるから間引きはどうしても必要だ。狩ったら食うのは正しい行いだろ」
「そう、ですね。命を頂いて巡らせる。神の御心に適うことですね」

 聖女はそう答えて、干し肉をパクリと食べる。

「美味しいです」
「だろ?」

 変な理屈なんかより、食って美味いというのは、圧倒的に人を納得させる。
 
「あ、そうだ。さっきの続き」

 俺が聖女に向かってそう言うと、聖女は口をもぐもぐさせながらそれを手でおさえて俺を見た。

「その、大聖堂にいるお祖父さんを尋ねることで、ミュリアの実家を訪ねやすくなるっていう話だ。……ああ、慌てて飲み込まなくていい。じっくり味わえ。別に急ぎの話じゃないし、よく味わって食べるといい」

 干し肉は、噛み切るのに時間がかかる。
 俺が話しかけたことで、聖女が慌てて咀嚼を早くしたので、それを止めたのだ。
 聖女はコクンとうなずいて、またもぐもぐし始めた。

「ミュリアのお祖父さまは、確か、聖女や聖人の教育係だったはずだよ」

 その代わりという訳でもないんだろうが、とっくに自分の分の干し肉を食べ終えていたモンクが教えてくれる。

「へー。あ、そう言えば、前に聞いた気がするな」
「ロスト家っていうのはさ、大聖堂ではちょっと独特の立場なんだ」
「魔王の子孫だからか?」
「いや。その話は、私はダスター達の話を聞くまで知らなかったよ。少なくとも、大聖堂では広まってない話だね。タブーなのかも?」
「確かに、それが知られていると、大聖堂のなかでもロスト家の立場がマズくなるかもだしな。じゃあどういう意味で独特なんだ?」
「大聖堂って場所は、本来はさ、地位とか家とかを忘れて、みんなが平等に敬い合うっていう建前があるから、あんまり実家の話とかしない訳。でもロスト家は、聖者さまを何人も輩出している家系として、敬われているんだよ」
「それは……また」

 全く知らなかったな。
 しかし皮肉なもんだ。
 勇者によって倒された魔王の子孫が、大聖堂で一番偉い立場に何度もなっているとは。
 ちょっとした皮肉じゃないか?
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