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第八章 真なる聖剣
749 聖なる力を抱く者達
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「失礼いたしました」
ようやく聖女が干し肉を食べ終えて、話に加わって来た。
しっかりと冷やし茶も飲み終わっている。
注ぎ売りのお茶の量は少な目なので、すぐに飲んでしまうんだよな。
また後でもう一杯買うか。
「慌てる必要はないぞ。テスタが大聖堂でのロスト家の立場を教えてくれたし」
「そうでしたか。ありがとうテスタ」
聖女に礼を言われると、モンクの頬が緩む。
可愛い妹に褒められた姉、という感じだな。
モンクの聖女に対する態度は、仕事上の護衛対象というよりも、守るべき家族という感じだ。
前に話してくれた、幼くして亡くなった妹と、重ねている部分もあるのだろう。
「お師匠さまも、実家のほうでお聞き及びになったと思いますけれど、ロスト家では、魔力の多い子どもが生まれると、幼いうちに大聖堂に迎えられます。このことを、非道であると騒ぐ者も多くいます。実際、わたくしの両親や、親族、臣下の方々や、領民の方々も、この習わしをあまり、よく思っていらっしゃらないようです」
「まぁ、な。そりゃあまだ幼い、可愛い盛りの子どもを連れて行かれちゃ、親としては辛いだろうし、恨むのも当然だと思うぜ?」
「はい。ですが、それは誤解によるところが大きいのです」
「へえ?」
これはまた、意外な話が出て来たな。
俺の聞いたところからすると、大聖堂は、魔王の血筋である辺境伯の血統から人質代わりと、確保の難しい聖女や聖人候補を得るためという、二重の利点を満たすために、幼い子どもを誘拐同然に攫っているという感じだった。
しかし、今の聖女の言い方では、それは正しい見方ではない、ということだ。
「お師匠さまならば、見識も広くいらっしゃるので、魔力暴走という状態をご存じではないかと思うのですが」
「ああ、人間では珍しいが、魔物にはたまにいるからな。そういうのは狂乱種と呼ばれていて、近くに人の住む場所があったりすると、大きな被害をもたらす……っと、まさか?」
「はい。ロスト家は代々魔力の多いものが生まれやすく、魔力の多い者には、幼い頃に魔力暴走による事故を起こしたり、外ではなく、自らの体内を破壊して、命を失う者が、ときおり出るのです。大聖堂が生まれつき魔力の多い者を、幼いうちに集めるのは、暴走状態を鎮める、訓練をさせるためでもあります」
「なるほど」
そう言われれば、それは正しいことのようにも思える。
魔物の狂乱種というものは大きな被害をもたらすが、総じて短命で、人里に近くなければ、放っておけば勝手に自滅するとされていた。
素材は価値があるので、近づかないようにしながらも、その死を待って素材を取りに行く冒険者もいる。
だが、魔力の多いものが、全て魔力を暴走させるかと言えば、それは正しくない。
なんと言っても自分の力なのだ、ほとんどの場合はコントロール出来る。
暴走状態になるのは特殊個体と言えた。
俺はこの件については、大聖堂側が正しいのか、辺境伯側が正しいのか、結論を急ぐのはやめておくことにする。
「そして、実は聖女や聖人には、生まれつき魔力が多い者しか至ることは出来ません」
「ふむ」
「大聖堂で、神の盟約に秘められた言葉を読み解く役割を持つのが、聖者ですが、聖者は、成長した聖女や聖人のなかから選ばれます」
「ほう」
なるほど、だいたいわかって来たぞ。
ロスト家が大聖堂で特別である意味が。
聖女や聖人になりやすいということは、つまり、聖者になりやすいということ。
そりゃあ代々の聖者の多くがロスト家の者となるはずだ。
「聖者に選ばれなかった聖女や聖人には二通りの道が示されます。大聖堂で奉仕者として、生涯を信仰に捧げるか、還俗して、実家に戻ったり、結婚したり、通常の人の営みのなかに戻るかです」
「前々から不思議だったんだが」
「はい」
「どうして、大人になると聖女や聖人としての力を失うんだ?」
これはちょっと微妙な質問になる。
大人になるというのは、つまり、子作りが出来る身体になるという意味だ。
国の定める、成人の意味ではない。
「それは、少し難しいお話になるのですが。大人の身体になると、他者の魔力と反発するようになるのです」
「うん?」
「わたくしたちの癒しの力は、他者のなかに自分の魔力を通すところから始まります。大人の身体になると魔力の質も変わって、他者の魔力に合わせるのではなく、他者の魔力を侵食するようになってしまいます。それは、相手を変質させ、死に至らしめるということです」
「マジか」
思ったよりも、重要な話だった。
俺が聞いてよかったのか? その話。
「昔、なかなか聖女や聖人が確保出来なかった時代には、子どもの頃に、子孫を作る機能を破壊して、大人の身体にならないようにする試みも行われたとか」
「うへえ」
いや、待て。
さすがに今の話は、俺が聞いちゃいけないたぐいのもんだろ?
聖女は、どうも俺に全幅の信頼を寄せ過ぎているような気がする。
まぁ勇者もだけどな。
「あー、話がずれているぞ。肝心なのは、ミュリアの祖父さんに頼んだら、実家と揉めることなく、アドミニス殿と話が出来るのか? ということだ」
「あ! そうでした。わたくしったら、ついついお師匠さまには、いろいろ聞いて欲しくなってしまって」
頼むから止めてくれ。
俺の寿命がどれだけあっても足りなくなるからな。
ようやく聖女が干し肉を食べ終えて、話に加わって来た。
しっかりと冷やし茶も飲み終わっている。
注ぎ売りのお茶の量は少な目なので、すぐに飲んでしまうんだよな。
また後でもう一杯買うか。
「慌てる必要はないぞ。テスタが大聖堂でのロスト家の立場を教えてくれたし」
「そうでしたか。ありがとうテスタ」
聖女に礼を言われると、モンクの頬が緩む。
可愛い妹に褒められた姉、という感じだな。
モンクの聖女に対する態度は、仕事上の護衛対象というよりも、守るべき家族という感じだ。
前に話してくれた、幼くして亡くなった妹と、重ねている部分もあるのだろう。
「お師匠さまも、実家のほうでお聞き及びになったと思いますけれど、ロスト家では、魔力の多い子どもが生まれると、幼いうちに大聖堂に迎えられます。このことを、非道であると騒ぐ者も多くいます。実際、わたくしの両親や、親族、臣下の方々や、領民の方々も、この習わしをあまり、よく思っていらっしゃらないようです」
「まぁ、な。そりゃあまだ幼い、可愛い盛りの子どもを連れて行かれちゃ、親としては辛いだろうし、恨むのも当然だと思うぜ?」
「はい。ですが、それは誤解によるところが大きいのです」
「へえ?」
これはまた、意外な話が出て来たな。
俺の聞いたところからすると、大聖堂は、魔王の血筋である辺境伯の血統から人質代わりと、確保の難しい聖女や聖人候補を得るためという、二重の利点を満たすために、幼い子どもを誘拐同然に攫っているという感じだった。
しかし、今の聖女の言い方では、それは正しい見方ではない、ということだ。
「お師匠さまならば、見識も広くいらっしゃるので、魔力暴走という状態をご存じではないかと思うのですが」
「ああ、人間では珍しいが、魔物にはたまにいるからな。そういうのは狂乱種と呼ばれていて、近くに人の住む場所があったりすると、大きな被害をもたらす……っと、まさか?」
「はい。ロスト家は代々魔力の多いものが生まれやすく、魔力の多い者には、幼い頃に魔力暴走による事故を起こしたり、外ではなく、自らの体内を破壊して、命を失う者が、ときおり出るのです。大聖堂が生まれつき魔力の多い者を、幼いうちに集めるのは、暴走状態を鎮める、訓練をさせるためでもあります」
「なるほど」
そう言われれば、それは正しいことのようにも思える。
魔物の狂乱種というものは大きな被害をもたらすが、総じて短命で、人里に近くなければ、放っておけば勝手に自滅するとされていた。
素材は価値があるので、近づかないようにしながらも、その死を待って素材を取りに行く冒険者もいる。
だが、魔力の多いものが、全て魔力を暴走させるかと言えば、それは正しくない。
なんと言っても自分の力なのだ、ほとんどの場合はコントロール出来る。
暴走状態になるのは特殊個体と言えた。
俺はこの件については、大聖堂側が正しいのか、辺境伯側が正しいのか、結論を急ぐのはやめておくことにする。
「そして、実は聖女や聖人には、生まれつき魔力が多い者しか至ることは出来ません」
「ふむ」
「大聖堂で、神の盟約に秘められた言葉を読み解く役割を持つのが、聖者ですが、聖者は、成長した聖女や聖人のなかから選ばれます」
「ほう」
なるほど、だいたいわかって来たぞ。
ロスト家が大聖堂で特別である意味が。
聖女や聖人になりやすいということは、つまり、聖者になりやすいということ。
そりゃあ代々の聖者の多くがロスト家の者となるはずだ。
「聖者に選ばれなかった聖女や聖人には二通りの道が示されます。大聖堂で奉仕者として、生涯を信仰に捧げるか、還俗して、実家に戻ったり、結婚したり、通常の人の営みのなかに戻るかです」
「前々から不思議だったんだが」
「はい」
「どうして、大人になると聖女や聖人としての力を失うんだ?」
これはちょっと微妙な質問になる。
大人になるというのは、つまり、子作りが出来る身体になるという意味だ。
国の定める、成人の意味ではない。
「それは、少し難しいお話になるのですが。大人の身体になると、他者の魔力と反発するようになるのです」
「うん?」
「わたくしたちの癒しの力は、他者のなかに自分の魔力を通すところから始まります。大人の身体になると魔力の質も変わって、他者の魔力に合わせるのではなく、他者の魔力を侵食するようになってしまいます。それは、相手を変質させ、死に至らしめるということです」
「マジか」
思ったよりも、重要な話だった。
俺が聞いてよかったのか? その話。
「昔、なかなか聖女や聖人が確保出来なかった時代には、子どもの頃に、子孫を作る機能を破壊して、大人の身体にならないようにする試みも行われたとか」
「うへえ」
いや、待て。
さすがに今の話は、俺が聞いちゃいけないたぐいのもんだろ?
聖女は、どうも俺に全幅の信頼を寄せ過ぎているような気がする。
まぁ勇者もだけどな。
「あー、話がずれているぞ。肝心なのは、ミュリアの祖父さんに頼んだら、実家と揉めることなく、アドミニス殿と話が出来るのか? ということだ」
「あ! そうでした。わたくしったら、ついついお師匠さまには、いろいろ聞いて欲しくなってしまって」
頼むから止めてくれ。
俺の寿命がどれだけあっても足りなくなるからな。
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