勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
上 下
627 / 885
第七章 幻の都

732 扉の向こう

しおりを挟む
「だいたいわかりました」

 メルリルが、万年氷の封印をあちこち小突きまわした末、一人うなずく。
 後ろで見ていた俺には何が何やらさっぱりだが、メルリルには何かがわかったようだ。

「いきます」

 すうと息を吸い込むと、メルリルは神璽みしるしの枝を掲げ、くるりと回る。
 不思議なことに、掲げられた神璽みしるしの先端で、わずかに花びらを開きかけていた、水晶のような花が、色濃く、大きく、花開いた。

 あの花は、植物ではない。
 だが、正直、何で出来ているのかということは俺にはわからなかった。
 大聖堂の聖者さまにいただいたものだ。
 森人の巫女メッセリであるメルリルに、神の盟約の加護を与えたしるしらしい。
 単なる魔宝石ということもないんだろうなぁ。

 メルリルが優雅に動き、知らない言葉で詩を歌う。
 すると、万年氷の表面のあちこちに、星のような光が灯った。

「おお?」
「まぁ。きれい」

 勇者と聖女が揃って小さな声を上げる。
 変化はそれだけじゃなかった。
 小さな光は、まだまだ序の口だったのだ。

 メルリルが踏んだ地面に、陽炎のような揺らめきが生じ、それが線になって繋がっていく。
 メルリルは、クルリクルリと、複雑に重なり合った円をつま先で描いた。

 同時に、その歌は万年氷に吸い込まれるように遠ざかり、歌と共に、氷の内部に、光が浸透していっているようだ。

 やがて、地上に揺らぐ淡い陽炎の模様と、万年氷のなかに灯る光が、実体と影のようにぴたりと一致した。

『目覚めよ。息吹のとき来たり』

 最後の一節は、森人の言葉だった。
 その直後、シャリーン! という、美しい音を立てながら、万年氷が粉々に割れる。

「あぶない!」

 俺は咄嗟にぼおっとしているメルリルを引き寄せて、勇者達がいる場所まで下がった。
 同時に、聖女が結界を張る。
 特に視線を向けたり、言葉で頼んだりした訳ではなかったが、ジャストタイミングだった。

 とは言え、その砕けた氷に危険があったのかはわからない。
 キラキラと、まるで雪山のなかでときどき見る細かい氷の吹雪のように、しかし、通常の氷とは違い、自ら光を放ちながら、最後は氷らしく溶けて消えてしまった。

「メルリル、大丈夫か?」
「あ、うん。ダスターありがとう」
「よくやった。さすが一族の誇る巫女メッセリだな」

 もし、メルリルがいなかったら、この氷の封印を解くことが出来ただろうか?
 もちろん戦力的な意味なら十分以上な俺達だ。
 暴力的に無理やり破壊することは出来たかもしれない。
 しかし、破壊という行為には、必ず消失が伴う。
 扉の守る何か大事な要素を破壊してしまっていたかもしれないのだ。

 そう考えれば、メルリルが行ったことは、とても偉大なことと言える。

「……私も、ちょっとは役に立った?」
「ちょっとどころじゃないぞ。なぁ?」

 俺は、勇者達を振り向いて問う。

「素晴らしいですわ! メルリルさん!」

 ぴょんと飛んで、聖女がメルリルに抱き着く。
 おわっ、びっくりした。

「きゃっ」
「あ、ごめんなさい!」

 聖女は真っ赤になって、恥ずかしそうに謝っている。

「いや、ほんと、凄かった! あんな綺麗なの、お金払っても見れないよ!」

 モンクよ、それは褒め言葉なのか?

「感動しました。あれが……精霊というものなのでしょうか?」

 聖騎士も心動かされたように言った。
 
「あれは、精霊メイスではありません。でも似たものではありました。だから、私の習って来た技で、本来の形を辿ることが出来たのです」

 メルリルがそう説明する。
 本来の形?

「本来の形と言うと?」

 俺はメルリルに尋ねたみた。

「うん。これは、最初に決まった形があって。それを組み替えて別の形にしていたの。組み替えた順番を正しく辿って元に戻すことで、封印が解けるようになっていたみたい」
「なるほどな」

 太古の技術は、バカにしたものじゃないな。
 今平野の民が神の盟約によって使っている魔法とは違っても、魔力を使うなんらかの方法を編み出していたようだ。

「師匠、扉を開くぞ?」

 勇者が、じっと巨大な扉を見据えて言った。
 そうだ。ここからが本番だ。
 少しの油断も出来ない。

「ミュリア、アルフが扉を開けた瞬間に、全員を結界で護ってもらえるか?」
「はい。いつでも大丈夫です!」

 聖女は、はりきって力一杯答える。
 どうやらメルリルの技を見て、元気が戻ったようだ。

「じゃ、行くぞ」

 勇者が扉に触れた。
 すると、扉全体に光が灯り、巨大な樹の絵が色鮮やかに浮かび上がった。
 扉の材質は石だろうと思っていたが、どうやら、大きな木材に魔宝石を埋め込んで作られているようだ。
 特に勇者が力を込めたようにも見えなかったが、扉がするすると奥へと開いて行く。

「風?」

 驚愕したように勇者が言った。
 迷宮の最奥、大地の下のさらに下である。
 そんな場所に風が吹く。
 普通ならあり得ないことだ。

 だが、確かに俺達はそのとき風を感じたのだった。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。