勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第七章 幻の都

724 リッチへの挑戦

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 カーンとメイサーの地位を盤石なものにするには、目に見える功績が必要だった。
 そのためには、勇者のための神剣を迷宮都市から得て、その過程にメイサーの並々ならぬ尽力があったという風に喧伝けんでんするのが一番だろう。
 なんと言っても大公国は、神の威光の強い国。
 勇者に対する功績は、貴族、平民共に、褒め称える大きな名誉になる。

 それに実際、嘘でもなんでもないからな。
 メイサー達の情報によって、俺達は迷宮深部に挑戦するめどがついたのだ。
 超絶に危険な魔物である死鬼リッチの存在が予想外の難関となりそうだが、事前に情報が得られるのと得られないのとでは、全く挑戦の難易度が違う。

 俺達は、死鬼リッチに対して、完全な対抗策を持って挑むことが出来る。

「それが、祝福されし四種か」

 役に立たないどころか、教会で非道な行いを繰り返したと思われる教主おしえぬしを拘束した後、聖女自らが封印を解いた聖具は、現在、聖女の腕に嵌っている。

 命無き者に、疑似的な存在感を与える聖具と聞いたので、つい、人形のような依り代的なものを想像していたのだが、実際には、少し鈍い銀色に輝く腕輪だった。
 その腕輪には、ひねりがくわえられていて、大変装着しにくそうに見える。
 腕輪に嵌め込まれている四個の魔宝石は、赤、青、茶色、透明となっていて、赤と青以外はあまり見ない色だ。
 透明は、魔力を失った魔宝石と思う者もいるだろうが、魔力を失った魔宝石は光を発しないので、その透明な魔宝石にも、なんらかの魔力が溜まっていると思える。

「はい。この腕輪は表も裏もない造りになっています」
「へ?」

 言われて、よくよく見ると、ひねってあるところから裏表が逆転しているので、確かにどちらの面が裏とも表とも言えるかもしれない。
 ちょっと子ども騙しのような気がしないでもないが。

「これは命の巡りを表しているのです。この全体に彫られている文様が、それぞれの石を繋いで、命の循環を開始します。今はまだ発動していませんが、仕組みとしてはそう難しいものではありません。使われている素材と、魔法が特殊なのです」
「……まぁ俺が聞いてもわからないが、ミュリアに使えるようなら問題ない」
「はい。大丈夫です」

 現在俺達は、満を持しての二度めの迷宮アタックを開始していた。
 メイサーの部下によって詳細に記された地図があり、入り口からはアリアドネの糸を使って迷宮に痕跡を残している。
 アリアドネの糸は、迷宮で迷わないための目印としての役目もあるが、ツムの先端に所有者の血を垂らし、動力源である畜魔筒を破壊することで、一度だけ、糸に繋がった者を、その始まりの端に戻すことが出来るという、緊急脱出用のアイテムでもあった。
 だいぶ値段も高いので、普通の探索には使われないが、深部に潜って大金を稼ぐ探索者なら、必ず装備する魔道具だ。

 まぁ使わないに越したことはないんだけどな。

 迷宮に潜ってからは、小型や中型の魔物に遭遇はしたが、さほど問題なく、メイサー達のいたヤサまでたどり着いた。

 ここを拠点にして、最深部にアタックするのだ。

「寝具や、竈や水場に、調理器具が、丸々残っているんで助かるな」

 メイサーの仲間達や、ごうつくばりの商人の手下共のなかには、襲撃時に、助からなかった者も出た。
 そういった死体は全て焼いて、聖女によって清められた。
 そのため、あの悲惨な戦いの跡地でも、死体や霊が魔物化して襲って来る心配もない。
 まぁそんなことをしなくても、迷宮の魔物達が死体を始末しただろうけど、そこは、聖女のたっての願いだった。

「ガフッ!」『最高に美味い魔物がいるって、本当だろうな?』

 若葉が勇者に確かめるように聞いている。
 勇者の奴、ずっと若葉を挑発していたのだ。

 お前は弱っちいから死鬼リッチが怖くて小さくなっているんだろうとかいう内容だった。
 おそらくこの世で、小なりともドラゴン相手にそんな挑発をするのは、この勇者だけだろう。
 一方の若葉は、その挑発を、食事の誘いだと受け取ったようだった。
 あの二人の噛み合わなさは、いっそ見事なぐらいだ。

「は? 俺が倒すんだから、お前の出番なんかないんだよ」
「ガウッ!」『そんなことを言って独り占めする気だな!』
「勇者さまは若葉さんと仲がいいですね」

 そんな二人のやりとりを、聖女がにこにこと見守っている。
 今から、強敵と戦うとは思えないようなほのぼのとした光景だった。

 俺はそんな様子から目を逸らし、ひそかに気合いを入れた。
 死鬼リッチは、伝承で語られる程度しか情報がなく、出会って生きて帰る者はない、と言われるような魔物である。
 気楽に戦える相手ではない。

「メルリル。やっぱりここで待っていたほうがいいんじゃないか? 後方支援も大事な役割だぞ?」

 戦う力のないメルリルのために、俺は出来るだけ魔道具を用意しておいた。
 だが、やはり、一緒に行く必要はないと思うのだ。

「今さらそんなことを言うなんて。私を侮ってる?」
「いやいや」

 俺が言葉を濁すと、メルリルは、腰に下げた魔法筒をそっと撫でる。
 それは、この魔道具大国でもある大公国で、最近人気の魔道具だった。
 帝国や東方でよく目にしていた火薬筒という奴を、魔道具として作り変えたものだ。
 畜魔筒という、魔宝石よりも安価に魔力を溜めることの出来る筒と組み合わせることで、一気に魔法に近い攻撃を撃ち出せる。
 魔道具屋のジジイによると、女子どもでも簡単に魔物を退治出来るとのことだった。

「それに、私にはいざとなったら聖者さまからいただいた加護の神璽みしるしもあるから」

 確かに、下手をすると俺よりも攻防のバランス的にはいいかもしれない。

「わかった。もう言わん」
「うん」

 俺達は拠点で一泊した後、迷宮最深部へのアタック、つまり、死鬼リッチへの挑戦を開始したのだった。
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