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第七章 幻の都
721 勇者とその仲間達
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「いやでもおかしくないか? 確か教会は奴隷制はしぶしぶ認めていたが、神の盟約の守護を誓った者が、奴隷を買うのは許してなかったはずだろ? なんでも戒律を破ると、破門されるとか」
大聖堂と傘下の教会の関係者にとって、破門というのは、とんでもなく重い罰だと聞いた。
祝福を貰った手の魔法紋を焼いて、戒律破りの焼き印が押されるらしい。
俺はそういう破戒者を実際に見たことはないが、人々に徹底的に嫌われるので、まともに生活も出来ないらしい。
「それがですね。教主さまは、戒律は破ってないとおっしゃっているのです。奴隷となった者が背負った業である、借金を肩代わりしてさしあげて、その代わりに教会に奉仕する奉仕者として仕事を与えているだけだと……」
聖女が俺の疑問に答えてくれた。
は? なんだそれ。
つまり代金を払って購入したんじゃなくて、奴隷から解放したってことか?
いや、それって借金が教会に移っただけなんじゃないか?
「もちろん確認したぞ。その開放した人は、家に帰してやったのか? と。すると、あいつ堂々と言い放ちやがった。『もちろん、信心深い、心の清い者を選んで肩代わりをしているので、そのような恩知らずな真似をするはずもありませんぞ。解放奴隷は、心のこもった奉仕をしてくれるようになります』とな。だから神罰魔法で奴の罪を計ったという訳だ」
勇者が胸を張って言った。
うーん。
怒りたい気持ちと、褒めてやりたい気持ちが半々で、判断が難しい。
よし、一つずつ行こう。
「お前、その魔法を放つ前に、仲間に相談したか?」
「あっ!」
「何度も言ったよな。お前一人の考えで突っ走るな、仲間と相談して決めろと」
「だ、だが、あの男は、教会の主として、何よりも人として許されないことを行っていたのだ。罰を受けて当然だろう!」
「それがいかに明らかに正しい処罰であっても、正しさの全てをお前が判断すれば、それは独善だ。間違いを犯した教主と同じ迷宮に堕ちるぞ」
「う、俺が間違っていた」
「だから俺じゃなくて、仲間に謝れ」
勇者は仲間達に向き直る。
そして頭を下げた。
「いつもいつも、先走ってしまってすまない! 出来れば、俺が先走りそうなときには止めてくれるとありがたい」
こいつ、謝るところで注文をつけやがった。
まぁ確かに勇者に何も言えない仲間側にも問題はあるよな。
「ゆ、勇者さま。今回のことはわたくしも同罪です。盟約の民でありながら、神罰の雷に痙攣するあの教主さまをいい気味などと思ってしまいました」
聖女が悲しそうに言った。
もしかしてしょげていたのはそれが原因か?
正直に言って、俺も絶対にいい気味だと思ったはずなので、聖女が悪いとはカケラも思わないが、聖女という立場的には思うところがあるのだろう。
人間無理をしすぎるのもよくないと思うが。
「私は、勇者のお傍についていて、悪しき者からお守りする立場にありながら、あのような醜い者をうっかり、勇者や聖女さまに近づけてしまったことに忸怩たる思いを抱いております。あの者は神の盟約をあまねく知らしめるという立場にありながら、その立場を利用して、自分の欲望を満たそうとしたのです。勇者が手を下すような価値もありませんでした。ご相談いただけていたら、お二方の目の届かぬ場所で、死にゆく豚の気持ちを味わわせてやったものを」
ぴしっとした立ち姿で、聖騎士がぶっそうなことを言った。
おいおい。
死にゆく豚の気持ちってなんだ?
「とりあえず、私なら潰してた。でも、ミュリアに醜いものを見せることになったかもしれないから、勇者には感謝している」
とは、もちろんモンクの言だ。
……。
うーん。
勇者パーティ、相談せずに勇者が突っ走ったほうがマシとかないよな。
大丈夫だよな?
「……ところで、その、教主は、生き延びたのか?」
肝心なところである。
「ああ。死にはしなかった。だいぶ焦げたが。どうやら、最悪の所業である、やむにやまれぬ理由以外の殺人は、犯していなかったらしい。その代わり、あいつの屋敷全体と、教会の一部が吹っ飛んだ。あれだな、おそらくは汚れた金で造られたものだったんだろう」
「お、おう」
「教会の連中は上を下への大騒ぎで、肝心の聖具の話が出来なかった。すまない、師匠」
勇者はそう説明すると、俺の前に膝をついて頭を下げた。
なるほど、お前的には謝るべきところはそこだと思ってたんだ。
まぁうん、冒険者的な考え方からすれば、間違いでもないんだけどな。
目先のことに囚われて、目的を果たせないというのは、冒険者にとって恥ずべきことだ。
でも、お前は冒険者じゃないからな?
そして、聖女と、モンクと、聖騎士も勇者に倣う。
やめろ、お前等!
勇者がやったら自分達も、という安易な考え方を変えたほうがいいぞ。
「おい、やめろ! 人に見られたらどうすんだ!」
って、メイサーがいるじゃねえか!
あいつめ、目を丸くしてその様子を見ていたが、いきなり部屋の扉に駆け寄って、全開にした。
すると、扉の前でなにやら入るタイミングを計っていたらしい、何人かの男女が、驚いた様子でこっちを見た。
ち、違うんだ! これは、違うんだ!
「ゆ、勇者さま。今回の件お疲れさまでした」
仕方ないので、俺も勇者に対して膝を突いた。
慌ててメルリルが俺の後ろで座り込む。
くっ、動けない。
部屋のなかは、ひたすら異様な沈黙に支配されていたのだった。
大聖堂と傘下の教会の関係者にとって、破門というのは、とんでもなく重い罰だと聞いた。
祝福を貰った手の魔法紋を焼いて、戒律破りの焼き印が押されるらしい。
俺はそういう破戒者を実際に見たことはないが、人々に徹底的に嫌われるので、まともに生活も出来ないらしい。
「それがですね。教主さまは、戒律は破ってないとおっしゃっているのです。奴隷となった者が背負った業である、借金を肩代わりしてさしあげて、その代わりに教会に奉仕する奉仕者として仕事を与えているだけだと……」
聖女が俺の疑問に答えてくれた。
は? なんだそれ。
つまり代金を払って購入したんじゃなくて、奴隷から解放したってことか?
いや、それって借金が教会に移っただけなんじゃないか?
「もちろん確認したぞ。その開放した人は、家に帰してやったのか? と。すると、あいつ堂々と言い放ちやがった。『もちろん、信心深い、心の清い者を選んで肩代わりをしているので、そのような恩知らずな真似をするはずもありませんぞ。解放奴隷は、心のこもった奉仕をしてくれるようになります』とな。だから神罰魔法で奴の罪を計ったという訳だ」
勇者が胸を張って言った。
うーん。
怒りたい気持ちと、褒めてやりたい気持ちが半々で、判断が難しい。
よし、一つずつ行こう。
「お前、その魔法を放つ前に、仲間に相談したか?」
「あっ!」
「何度も言ったよな。お前一人の考えで突っ走るな、仲間と相談して決めろと」
「だ、だが、あの男は、教会の主として、何よりも人として許されないことを行っていたのだ。罰を受けて当然だろう!」
「それがいかに明らかに正しい処罰であっても、正しさの全てをお前が判断すれば、それは独善だ。間違いを犯した教主と同じ迷宮に堕ちるぞ」
「う、俺が間違っていた」
「だから俺じゃなくて、仲間に謝れ」
勇者は仲間達に向き直る。
そして頭を下げた。
「いつもいつも、先走ってしまってすまない! 出来れば、俺が先走りそうなときには止めてくれるとありがたい」
こいつ、謝るところで注文をつけやがった。
まぁ確かに勇者に何も言えない仲間側にも問題はあるよな。
「ゆ、勇者さま。今回のことはわたくしも同罪です。盟約の民でありながら、神罰の雷に痙攣するあの教主さまをいい気味などと思ってしまいました」
聖女が悲しそうに言った。
もしかしてしょげていたのはそれが原因か?
正直に言って、俺も絶対にいい気味だと思ったはずなので、聖女が悪いとはカケラも思わないが、聖女という立場的には思うところがあるのだろう。
人間無理をしすぎるのもよくないと思うが。
「私は、勇者のお傍についていて、悪しき者からお守りする立場にありながら、あのような醜い者をうっかり、勇者や聖女さまに近づけてしまったことに忸怩たる思いを抱いております。あの者は神の盟約をあまねく知らしめるという立場にありながら、その立場を利用して、自分の欲望を満たそうとしたのです。勇者が手を下すような価値もありませんでした。ご相談いただけていたら、お二方の目の届かぬ場所で、死にゆく豚の気持ちを味わわせてやったものを」
ぴしっとした立ち姿で、聖騎士がぶっそうなことを言った。
おいおい。
死にゆく豚の気持ちってなんだ?
「とりあえず、私なら潰してた。でも、ミュリアに醜いものを見せることになったかもしれないから、勇者には感謝している」
とは、もちろんモンクの言だ。
……。
うーん。
勇者パーティ、相談せずに勇者が突っ走ったほうがマシとかないよな。
大丈夫だよな?
「……ところで、その、教主は、生き延びたのか?」
肝心なところである。
「ああ。死にはしなかった。だいぶ焦げたが。どうやら、最悪の所業である、やむにやまれぬ理由以外の殺人は、犯していなかったらしい。その代わり、あいつの屋敷全体と、教会の一部が吹っ飛んだ。あれだな、おそらくは汚れた金で造られたものだったんだろう」
「お、おう」
「教会の連中は上を下への大騒ぎで、肝心の聖具の話が出来なかった。すまない、師匠」
勇者はそう説明すると、俺の前に膝をついて頭を下げた。
なるほど、お前的には謝るべきところはそこだと思ってたんだ。
まぁうん、冒険者的な考え方からすれば、間違いでもないんだけどな。
目先のことに囚われて、目的を果たせないというのは、冒険者にとって恥ずべきことだ。
でも、お前は冒険者じゃないからな?
そして、聖女と、モンクと、聖騎士も勇者に倣う。
やめろ、お前等!
勇者がやったら自分達も、という安易な考え方を変えたほうがいいぞ。
「おい、やめろ! 人に見られたらどうすんだ!」
って、メイサーがいるじゃねえか!
あいつめ、目を丸くしてその様子を見ていたが、いきなり部屋の扉に駆け寄って、全開にした。
すると、扉の前でなにやら入るタイミングを計っていたらしい、何人かの男女が、驚いた様子でこっちを見た。
ち、違うんだ! これは、違うんだ!
「ゆ、勇者さま。今回の件お疲れさまでした」
仕方ないので、俺も勇者に対して膝を突いた。
慌ててメルリルが俺の後ろで座り込む。
くっ、動けない。
部屋のなかは、ひたすら異様な沈黙に支配されていたのだった。
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