勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第七章 幻の都

708 悪だくみは昔なじみと

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 勇者達と旅をし出してから、混沌とした状況に慣れてしまった感がある俺だが、とうとう領主の屋敷の外に押しかけて来ている、偉そうな連中の顔を見つつ、お茶を楽しむことが出来るようになってしまった。
 豪商とか土地持ちの貴族とか、どっかの騎士とかもいるっぽい。
 見た目だけでも煌びやかだ。

 まぁ俺達には関係ないけどな。

「あ、あの……」

 俺達がテラスで優雅に、食後のお茶を楽しんでいると、昨日見かけた家令がやって来た。

「……ダスターさまは、我が主の昔なじみとのこと。よろしければ、その、適当に遊びにでも誘い出していただけませんか?」
「なんだ、その、建前もなにも放り出したような依頼は?」

 この家令の男とも昔なじみなので、遠慮がなくなった俺は、ぞんざいに返事をした。
 迷宮に潜りたい俺達が、こんな場所でお茶をしているのも、どこかへ行こうとすると、カーンの部下達にやんわりと邪魔されたからだ。

「お二人が、お部屋に籠城してしまいまして……」

 俺は口にしたお茶を噴き出したりしなかった。
 予想がついていたからだ。

「あいつ、領主を辞めるとか言い出したんだろ?」
「はぁ、まことに……」

 うん、まぁ、俺にも責任の一部はあるかもしれない。
 そうしろと言ったのは俺だからな。
 とは言え、俺はそんなこと、知ったことじゃない。

「好きにさせてやれ。あいつの人生だし」
「いやいや、そんな意地悪申されずに」
「あいつに責任を押し付けた連中に苦労させろよ。大捕り物は終わったんだから、後はそれぞれの組織で処理すればいいだろ? 嘆願とか忙しいってことで追い返せばいい。今頃になって顔を青くしてやって来るような連中に何が出来る」
「いえ、そういう問題では……」

 これは心底困っているな。
 だが、うちの連中も、周囲の騒ぎなど素知らぬ風にのんびりと過ごしている。
 勇者は、迷宮に潜れずに、ちょっとへそを曲げたようだが、メルリルを始めとした女性陣は、どうもカーンとメイサーのことが密かに気になっているようだ。

「ご友人でしょう?」
「だからこそ、しばらく二人っきりにしてやればいいだろ」
「師匠、俺達もう、出立していいよな?」

 勇者が決定事項のように口にしたので、家令の男はまた慌てた。

「いやいや、今外に出ると、騒動に巻き込まれてしまいますゆえ」
「は? 蹴散らしてやるから安心しろ。勇者の成すべきところを邪魔したという大義名分があるから、俺の邪魔をした連中は全員罪人として捕らえてしまえ」

 むちゃくちゃ乱暴な提案をしている。
 ところが、こと勇者に関しては、これが通ってしまうんだよな。
 この国では勇者の権限が強いからなぁ。

「あー、ほんと、申し訳ないとは思うのですが。その、我々としても、ちょっと困っているんです。今が大事なときですし……」

 そこに顔を出したのは、迷宮で犯罪ギルドの奴等を捕縛していた、討伐隊の指揮官だった。
 見た目の年齢的には俺と近い。
 まぁ確実に貴族なので、年齢は近くても、醸し出す雰囲気は違うが。
 ちょっと年齢より若く感じるのは、スレた感じがあまりしないからか。
 雰囲気的には、うちの聖騎士に似ているな。

「魔獣公閣下が健在であると、部下に示していただきたいのですが……」
「だから、なんでそれを俺達に頼むんだよ。身分差があるから直言出来ないってか? そういうことやってるから、カーンだって、未練なく立場を捨てられるんだぞ」

 俺の言葉にグッと押し黙った指揮官殿は、何かを決意したように、家令の男を振り向いた。

「閣下のお部屋にご案内ください」
「お断りします」
「な、なぜです!」
「主の平穏をお守りいたすのが、我ら家臣のお役目。もし武力を行使なされるのなら、さすがに防げませんが、そうなされますか?」
「うぬうう」

 家令の男は、俺に頼んでいたときとは別人のように、キリッとした顔つきで、討伐隊の指揮官を遮った。
 もはや何をどうすればわからないという感じで、指揮官はがっくりと膝を突いている。

 俺はため息を吐いた。

「師匠は、優しすぎると思うぞ」
「まだ何も言ってないだろ」

 勇者が先回りして不平を鳴らすのをいなしておいて、俺はイスから立ち上がる。

「美味い飯と茶だった。もてなしの礼は言っておかないと、礼儀知らずになるからな」

 背後でメルリルがクスリと笑う。
 別にこいつらのために行く訳じゃないぞ?

 廊下に不安そうな兵士がずらりと並んで俺達を見送っている。
 この領地、今となってはカーン一人の采配でやって来たようなもんらしいからな。
 頭が責任を放り出したとなれば、不安にもなるだろう。
 だが、俺達に対して批判的な目を向ける者はいなかった。
 教育が行き届いているな。

 家令の男に案内されて、デカい扉の前に立つ。
 家令の男がノックをして、室内に声をかけた。

「旦那さま、奥さま、ご友人のダスターさまがお見えです」
「ちょっと気が早くないか?」

 当然だが、メイサーは今のところ、カーンの何でもない。
 奥さまと呼ぶのは先走りすぎである。
 小声でボソッと言うと、家令の男も小声で返す。

「既成事実にしてしまうのですよ。そうすれば、旦那さまだって、いろいろやりやすいでしょう?」

 ほほう、なかなかやるな。
 メイサーが奴隷の子であろうと、奥方さまとして認めてしまえということか。
 そう上手く行くとも限らないが、形から入るというのは案外有効ではあるよな。

「……ああ、入ってくれ、ダスター」

 何やら、疲れ果てたようなカーンの声がする。
 いつもの暴力的なまでに覇気に溢れた男とは別人のようだ。

「いいのか?」

 尋ねる前に家令が扉を開き、なかへと押しやられた。
 メルリルがそっと手を振り、勇者達は付いてこない。

「昔なじみ同士、心ゆくまで話せばいい。何か問題が起こりそうなら俺が片付ける」

 扉が閉まる前に勇者が不安になることを言っていた。
 大丈夫か?

 二人が出て来ないと言っても、ベッドにずっといた訳じゃないのは、すぐに返事が返ったことからわかる。
 扉からすぐにベッドが見えるような造りの貴族の屋敷は、まず存在しないからだ。
 メイサーもカーンも、すでに起きて、二人して床に胡坐をかいていた。

「何してんだお前等?」
「んー、脱出計画? ダスターは、この国を出たらどこに行けばいいと思う?」

 メイサーがそう聞いた。
 どうやら、昨日受けたダメージはもうないようだ。
 それどころか、何やら活き活きとしている。
 一方で、カーンのほうは、いつもの尊大さはどこへやら、小さくなってため息を吐いていた。

「なんだ、魔獣公の称号に未練があるのか?」

 俺の言葉にカーンがぎょっとして、メイサーの目が光る。

「な、なにを言っているんだ。俺はただ、やっと街の暗部を一掃出来そうなのに、それをほっぽいて逃げ出すのは、心が痛むと……」
「ふーん。あたしを放っておいたのに、心が痛まなかったんだ?」
「いやっ! それは、生きていたのを知らなかったからであって、だなっ!」

 ダメだなこの二人。
 決定権はメイサーが握っている。
 そしてメイサーは、毛ほども、この国に興味がない。

「まぁ俺がそう仕向けたようなもんだから、別に止めはしないが、……メイサーあんた、悔しくないのか?」
「はぁ?」

 俺の言葉に、地図を見ていたメイサーが振り向く。

「奴隷の子だからって、あんたらをバカにした連中を見返してやりたくないのかって話さ。俺は見てみたいな。奴隷の子が、国を代表する貴族の奥方になったところを」
「……ダスターお前」

 カーンが驚愕したように俺を見る。
 だが、メイサーはバカにしたように鼻で笑った。

「そもそも、それが無理だから、あんただってこいつの尻を蹴っ飛ばして、あたしを選ぶように言ったんだろ?」
「それが、無理じゃないとしたら?」

 俺は二人にニヤリと笑ってみせたのだった。
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