勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第七章 幻の都

703 混沌の始まり

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 その事態が発生してからの経緯を、俺が知ったのはだいぶ後からのことで、最初に行動を起こしたときには、正直、何が起こっているのか、いまいち判断がつかなかった。
 ただし、戦えない人間が危険にさらされているということだけは確実だったので、動いた訳だ。

 とは言え、当時のことを当時の俺達の目線のままで語ると、何がなんだかわからなくなってしまう。
 そこで、この事件については、後に判明したことも交えながら、記録しておこう。

 最初に、メイサー達の言うところのヤサに生じた異変は、隠し通路からだったようだ。
 俺達は、このときはまだ、隠し通路についても知らなかったのだが、この深部にあるヤサに至る通路には、メイサー達がほどこした仕掛けがあり、何も知らない冒険者や探索者達が、迷い込んだりしないようにしてあったらしい。
 イレギュラーにも、迷宮の壁を崩して侵入した俺達のようなのは、まぁ滅多にいないということだ。

 隠し通路が突然開き、あまり熱心ではなかった見張りの男達は戸惑った。
 この日、メイサー達主戦力は、迷宮で集めた、地上で価値がある素材と、地上でしか手に入らない食材や道具などを交換するために、迷宮の中層辺りで、商人に会うということになっていて、留守だった。
 商人との取り引きに、主戦力を引き連れて行くということは、メイサーなりの用心であったのだろう。

 しかし、それが、結果的には災いした。
 隠し通路を突破して侵入した者達は、見張りが戸惑いから抜けないうちに、黙々と攻撃を開始し、殺戮が始まったのだ。
 この侵入者達は、恐ろしいほどに手練れで、しかも殺人に慣れていた。

 明らかに戦えないような者に対しても、ためらいを一切見せずに殺害して行ったのだ。

 俺達が、悲鳴を聞いたのは、おそらくは、襲撃から少し時間が経ってからだったのだろう。
 何しろ俺達に割り当てられた部屋は、メイサーの仲間達が暮らす場所からはやや離れていたのだ。
 いかに戦いの気配に敏感でも、いつでも気を張っているわけではないし、遠い場所の出来事などわかるはずもない。

「なんだ?」

 俺が悲鳴を聞きつけたのと、勇者が剣を手にしたのは、ほぼ同時だった。
 不測の事態には、まず戦う準備をするのが、勇者の性格だ。
 そこへ、自分の仕事をしに、ヤサのほうへと戻っていたリクスが駆けつけた。

「た、助けてください! みんな殺されちゃう!」

 リクス自身も、ケガをしているのか、他人の血なのか、半身に血を被っている。

「リクス!」

 悲鳴のような声を上げて、聖女が駆け寄って、癒しを施そうとしたが、それをリクス自身が止めた。

「私はケガしてない! 私を庇って、白婆が!」

 そう言って泣きじゃくる。
 悠長に事情を確認している場合ではないと判断した俺達は、急いでヤサの中心部に向かった。
 やがて、風のほとんどない迷宮内部にも関わらず、錆びた鉄のような血の臭いが流れて来た。

「フォルテ! 状況を確認してくれ!」

 俺はフォルテを放って、ヤサ全体を俯瞰しようとしたが、なにせ迷宮のなかだ。仕切られた区画内のことしかわからない。
 だが、それでもなんとか、メイサーの仲間達の大部分が暮らしている、居住エリアの前で、壮絶な殺し合いが行われていることが判明した。
 
 そして、俺達が借りている部屋のある奥まったほうに向かって、年寄りや身体の不自由な男、数人の子どもと女性が逃げ込んで来る。
 その動きの鈍い、戦えない集団に追いすがる殺戮者がいた。

「まずは、戦えない人達を保護するぞ! 俺とアルフとテスタで、手ごわそうなのは叩いておくから、その後は、クルスとミュリアとメルリルで、なんとかしてくれ」
「わたくしも先に進んだほうがいいのでは?」

 聖女が、血の臭いにひるんで青白い顔になりながらも、気丈にそう申し出た。

「いや、敵味方入り乱れて戦っているところで落ち着いて治療は無理だ。助けられそうな人間は、こっちに運び込むから、そっちの世話を頼む。クルスはミュリアの護衛、メルリルは、こっちに来たなかに、敵意がある奴等が混じってないか、見分けて欲しいんだが、出来るか?」
「わかりました」
「承知しました」
「強烈な敵意や殺意なら見分けられると思う」

 それぞれの返事を確認するのももどかしく、俺達は先へ進んだ。
 明らかに手加減をしながら得物を追い詰めようとしていた男達は、勇者の無造作に振るった剣と、それなりに重量のある、俺の鞘入りの星降りと、的確なモンクの蹴りに、吹き飛ばされ、道を開ける。

「アルフ、誰でもかれでも斬るなよ。俺達はまだここの連中全員を知らない。だから下手すると、味方を斬ってしまうかもしれん。余力があるなら、全員気絶させて欲しい」
「わかった」

 勇者は簡潔に返事を返すと、身体能力に魔力を乗せて、飛ぶように先へと突き進んだ。

「お前、場所わかるのか?」
「ん~、騒ぎが大きい方向?」
「……フォルテを先導させるから、ついていけ! フォルテ、光ってアルフを導いてやってくれ」
「ピッ!」

 勇者には、一番危険が伴う場所、つまり大勢が入り乱れて、敵も味方もわからない場所を鎮圧してもらわないといけない。
 きっちりとその場所に到着出来るようにフォルテを先導させることにした。
 騒ぎはあちこちで起こっているので、変な場所に突っ込んで行かれては大変だ。

「テスタ、俺達は一番戦えない人間が多い、水場周辺に向かうぞ!」
「りょーかい」

 こんな事態なのに、モンクは平常心を保っているようだ。
 顔から表情が消えて、薄い笑みが口元に浮かんでいるが、まぁ、平常心と言っていいだろう。

 行く先を定めると、次に理由を考えた。
 この襲撃の理由だ。
 ここにいる人間は、一度は抹殺されようとしていた者が多い。
 もしかすると、どこかで生存を知って、確実に殺すために人を放ったということも考えられる。
 だが、もう一つ。
 今日、メイサーが商人と会うことになっていたということが引っかかる。
 もし、その商人が企てた襲撃だったら、奴らの狙いは、人間ではなく、価値あるもの。
 魔鉱石や、遺物だろう。
 ならば、倉庫のような場所を探すはずだ。
 さっきの、逃げている人を追っている連中も、わざと殺さないように追い詰めて、求める場所へ案内させようとしているようにも見えた。

 俺は倉庫の場所を説明されていないが、魔物の解体場所は知っている。
 魔物からも、貴重な素材が採れることを考えると、おそらくは、その近くにあるのではないだろうか?

 解体場所は、裏方の管轄。
 つまり、戦えない者達しかいない場所だ。
 俺達が向かっている、水場周辺だろう。

「急ぐぞ!」
「うん」

 裏方の設備が密集している水場周辺、その場所に走り込んだ俺達が見たのは、縛り上げられ、一人ずつ、なぶるように切り刻まれる者達の姿だった。

「ほらほら、早くしゃべらないと、全員死んじまうぞ? 年寄り連中はもう未練もないだろうが、ガキはどうかな?」

 ゲラゲラと笑いながら、男が剣を振り上げた瞬間、黒髪をなびかせて、モンクが走り込んだ。

「あんたが死ね」

 振り上げた男の腕にくるりと足を絡ませて巻き込むと、モンクは、そのまま男の体を回転させて地面に叩きつける。

「へ?」

 俺は、そっちに気を取られている、周りで見張っていた男達のうち、一番手前側にいた奴の後頭部に、鞘入りのままの剣をぶち込む。
 勢い余って壁に激突したが、まぁ運がよければ生きているだろう。
 勇者には、すぐに暴力を振るうなとか言っておいてなんだが、ときには言葉よりも暴力が必要なこともあるのだ。
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