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第七章 幻の都
669 緩む時間も大切
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一応大丈夫だとは思うが、石喰いの獣の毒が気化して影響するとまずいので、早めに底部を離脱する。
「あいつ、なんで自分の毒で石になっているんだ?」
空中に足場を作って渡って来た勇者が不思議そうに上空から見下ろして言った。
「おそらくだが、自分の毒に耐性があるのは外皮、つまり体の外側だけだったんじゃないかな? 肉の部分は毒に抵抗出来なかったんだろう」
「不思議な話だな」
勇者は興味深そうに石化した石喰いの獣を見つめる。
そして、俺が手にしたものに視線を移した。
まぁかなり大きくて目立つからな。
「それはあいつの羽根か? 記念に取っておいたとか?」
「いやいや、石喰いの獣の尾羽はかなり高値で取引される素材なんだぜ。見た目も綺麗だし、無茶苦茶硬くて薬品にも強くて劣化しにくい。滅多に出回らない素材ということもあって、これだけでひと財産になるんだ」
「そうだったのか。よかったじゃないか。それでメルリルとの豪華な結婚の祭典をやれるな!」
「いやいや、結婚の祭典とかどこのお貴族さまだよ。俺らは知り合い集めてお披露目して、飲み食いするだけだぞ。料理とかは近所で持ち寄るから案外金はかからないんだ」
「楽しそうだな! 俺達も参加するからな」
「……まぁそれはいいとして。採取してから気づいたが、ちょっとまずったかな?」
「返事にためらいがあったような気がしたけど。まさか師匠、俺達を結婚のお披露目に招かないとかないよな?」
「……その話は今度、落ち着いたときにしよう」
「え? 師匠? えっ?」
メルリル達が心配しているはずなので、俺は情けない顔になった勇者を放置して、少し上の踊り場部分に戻った。
どうもフォルテと一緒になっていると、世界がいつもとは違うように感じられて、あまり好きではない。
いつもは個別の形で捉えられているものが、全部混ざったスープのように感じられてしまう。
もちろん認識としてはそれぞれを区別は出来るんだが、多くのなかの一つみたいな感じになるんだよな。
自分が特別だと錯覚してしまうような、嫌な感覚だ。
「ダスター!」
踊り場に降り立つと、メルリルが抱き着いて来た。
「無事でよかった!」
「そりゃあ当然だ。安全マージンは十分とっていたからな」
「どんなことにも絶対はないもの」
「それはそうだ」
俺は苦笑いしながら、メルリルの背中を撫でてやった。
だがまぁ冒険者にとって危険というものは近しい友人のようなものだ。
うまく付き合っていくしかない。
とは言え、逆の立場だったら俺も平静ではいられないだろうから、メルリルに慣れろというのは酷なんだろうな。
「無事でなによりだけど。ダスター、それなに?」
ようやく落ち着いて、恥ずかしそうに離れたメルリルに対して優しい笑顔を向けたモンクが、俺には別の種類の笑みを浮かべながら近寄って来た。
「あー、石喰いの獣の素材なんだが、マズかったかな?」
「なんで? いいんじゃない? そりゃあ私等は強欲は罪とか言われちゃってうるさいから、そういうのいちいち採ったりしないけど。そんな縛りにダスターは関係ないでしょ。それでメルリルに最高の結婚道具を贈ってあげなよ」
「お前とアルフって、似てないように見えて、実は根っこのところでは似てるんだな」
「へ? 何言ってんの?」
どことなく嫌そうな顔をしたモンクを見てちょっと噴き出す。
もう二年近く一緒に過ごしているんだ。家族みたいなもんだし、考え方が似て来るのは当然かもしれないな。
「そもそも結婚道具を揃えるのって、花嫁側の親族……ああ、そうか、俺がその代わりでもあるのか。ややっこしいな」
自分とメルリルの立場を思い出した俺は、勇者やモンクがあんな風にからかった言葉の意味を正確に理解した。
結婚に関わる費用は全部俺が持つ必要があるのだ。
「私が働いて揃えるから」
そんな俺に、申し訳なさそうにメルリルが提案して来る。
「いやいや、俺ってそんな甲斐性無しに見えるか?」
「そうですよ。お師匠さまはとても頼りがいがあります! それに、教会が便宜を図ってくれると思いますから、場所とか、祝福についてはご安心ください」
聖女がちゃっかりとこの話題に乗っかって来た。
女ってみんなこういう話題好きだよな。
それとは別に、教会で場所や祝福を都合してくれるというならかなりありがたい話だ。
いやいや、いかん。
俺まで乗せられてしまってどうする。
とりあえず危険な魔物は倒したと言っても、まだ迷宮のなかだぞ。
「ほら、そういう話題は迷宮を出てからな。とりあえずは、石喰いの獣の毒の効果がなくなるのを待とう」
「師匠……今回俺、頑張ったよな?」
どんよりとした雰囲気の勇者が踊り場に降り立った。
「凄かったですね。あんな魔法は見たことがありません。強さと美しさを兼ね備えた、素晴らしい魔法でしたよ」
聖騎士が感銘を受けたように、勇者を褒めた。
聖騎士はおべんちゃらを言うような奴ではないので、これは勇者も嬉しかったようだ。
「そうだろ! 師匠と鍛錬を重ねたからこそあれだけ練り上げることが出来たんだぞ」
「確かにあの魔法は凄かったな。天罰というよりも憤怒って、感じだったが」
天が罰するにしては激しすぎたからな。
「じゃあ、あれは憤怒の矢とでも呼ぶとしよう」
天の要素が消えたな。
つまりお前の怒りという解釈でいいんだな?
俺達が一戦終えて、そんな風にひと息ついていると、上のほうが何やら騒がしくなって来た。
「チュ、チュチュチュウ!」
「チ・チチチチチッ!」
「おお、あんなに迷宮鼠がいたのか。どこに隠れていたんだ?」
上を見上げると、階段の端々から顔を出す迷宮鼠達の姿があった。
どうやらせわし気に何か話し合いながらこっちを見下ろしている感じだ。
「やるってんなら全部いっぺんに落としてもいいぞ。面倒だし」
勇者があまりやる気がなさそうに言った。
いやいや、面倒だからいっぺんに落とすとか意味がわからない。
面倒なら放置しておけばいい。
こんな狭い階段では、迷宮鼠がどれだけいようと大した脅威にはならないからな。
そんななか、一匹の迷宮鼠がひらっと上の階段から飛び降りて、器用に下の段に飛び移りながらこっちへとやって来た。
フォルテの羽根飾りをつけているので、俺達を案内した迷宮鼠だとわかった。
何の用だ?
「あいつ、なんで自分の毒で石になっているんだ?」
空中に足場を作って渡って来た勇者が不思議そうに上空から見下ろして言った。
「おそらくだが、自分の毒に耐性があるのは外皮、つまり体の外側だけだったんじゃないかな? 肉の部分は毒に抵抗出来なかったんだろう」
「不思議な話だな」
勇者は興味深そうに石化した石喰いの獣を見つめる。
そして、俺が手にしたものに視線を移した。
まぁかなり大きくて目立つからな。
「それはあいつの羽根か? 記念に取っておいたとか?」
「いやいや、石喰いの獣の尾羽はかなり高値で取引される素材なんだぜ。見た目も綺麗だし、無茶苦茶硬くて薬品にも強くて劣化しにくい。滅多に出回らない素材ということもあって、これだけでひと財産になるんだ」
「そうだったのか。よかったじゃないか。それでメルリルとの豪華な結婚の祭典をやれるな!」
「いやいや、結婚の祭典とかどこのお貴族さまだよ。俺らは知り合い集めてお披露目して、飲み食いするだけだぞ。料理とかは近所で持ち寄るから案外金はかからないんだ」
「楽しそうだな! 俺達も参加するからな」
「……まぁそれはいいとして。採取してから気づいたが、ちょっとまずったかな?」
「返事にためらいがあったような気がしたけど。まさか師匠、俺達を結婚のお披露目に招かないとかないよな?」
「……その話は今度、落ち着いたときにしよう」
「え? 師匠? えっ?」
メルリル達が心配しているはずなので、俺は情けない顔になった勇者を放置して、少し上の踊り場部分に戻った。
どうもフォルテと一緒になっていると、世界がいつもとは違うように感じられて、あまり好きではない。
いつもは個別の形で捉えられているものが、全部混ざったスープのように感じられてしまう。
もちろん認識としてはそれぞれを区別は出来るんだが、多くのなかの一つみたいな感じになるんだよな。
自分が特別だと錯覚してしまうような、嫌な感覚だ。
「ダスター!」
踊り場に降り立つと、メルリルが抱き着いて来た。
「無事でよかった!」
「そりゃあ当然だ。安全マージンは十分とっていたからな」
「どんなことにも絶対はないもの」
「それはそうだ」
俺は苦笑いしながら、メルリルの背中を撫でてやった。
だがまぁ冒険者にとって危険というものは近しい友人のようなものだ。
うまく付き合っていくしかない。
とは言え、逆の立場だったら俺も平静ではいられないだろうから、メルリルに慣れろというのは酷なんだろうな。
「無事でなによりだけど。ダスター、それなに?」
ようやく落ち着いて、恥ずかしそうに離れたメルリルに対して優しい笑顔を向けたモンクが、俺には別の種類の笑みを浮かべながら近寄って来た。
「あー、石喰いの獣の素材なんだが、マズかったかな?」
「なんで? いいんじゃない? そりゃあ私等は強欲は罪とか言われちゃってうるさいから、そういうのいちいち採ったりしないけど。そんな縛りにダスターは関係ないでしょ。それでメルリルに最高の結婚道具を贈ってあげなよ」
「お前とアルフって、似てないように見えて、実は根っこのところでは似てるんだな」
「へ? 何言ってんの?」
どことなく嫌そうな顔をしたモンクを見てちょっと噴き出す。
もう二年近く一緒に過ごしているんだ。家族みたいなもんだし、考え方が似て来るのは当然かもしれないな。
「そもそも結婚道具を揃えるのって、花嫁側の親族……ああ、そうか、俺がその代わりでもあるのか。ややっこしいな」
自分とメルリルの立場を思い出した俺は、勇者やモンクがあんな風にからかった言葉の意味を正確に理解した。
結婚に関わる費用は全部俺が持つ必要があるのだ。
「私が働いて揃えるから」
そんな俺に、申し訳なさそうにメルリルが提案して来る。
「いやいや、俺ってそんな甲斐性無しに見えるか?」
「そうですよ。お師匠さまはとても頼りがいがあります! それに、教会が便宜を図ってくれると思いますから、場所とか、祝福についてはご安心ください」
聖女がちゃっかりとこの話題に乗っかって来た。
女ってみんなこういう話題好きだよな。
それとは別に、教会で場所や祝福を都合してくれるというならかなりありがたい話だ。
いやいや、いかん。
俺まで乗せられてしまってどうする。
とりあえず危険な魔物は倒したと言っても、まだ迷宮のなかだぞ。
「ほら、そういう話題は迷宮を出てからな。とりあえずは、石喰いの獣の毒の効果がなくなるのを待とう」
「師匠……今回俺、頑張ったよな?」
どんよりとした雰囲気の勇者が踊り場に降り立った。
「凄かったですね。あんな魔法は見たことがありません。強さと美しさを兼ね備えた、素晴らしい魔法でしたよ」
聖騎士が感銘を受けたように、勇者を褒めた。
聖騎士はおべんちゃらを言うような奴ではないので、これは勇者も嬉しかったようだ。
「そうだろ! 師匠と鍛錬を重ねたからこそあれだけ練り上げることが出来たんだぞ」
「確かにあの魔法は凄かったな。天罰というよりも憤怒って、感じだったが」
天が罰するにしては激しすぎたからな。
「じゃあ、あれは憤怒の矢とでも呼ぶとしよう」
天の要素が消えたな。
つまりお前の怒りという解釈でいいんだな?
俺達が一戦終えて、そんな風にひと息ついていると、上のほうが何やら騒がしくなって来た。
「チュ、チュチュチュウ!」
「チ・チチチチチッ!」
「おお、あんなに迷宮鼠がいたのか。どこに隠れていたんだ?」
上を見上げると、階段の端々から顔を出す迷宮鼠達の姿があった。
どうやらせわし気に何か話し合いながらこっちを見下ろしている感じだ。
「やるってんなら全部いっぺんに落としてもいいぞ。面倒だし」
勇者があまりやる気がなさそうに言った。
いやいや、面倒だからいっぺんに落とすとか意味がわからない。
面倒なら放置しておけばいい。
こんな狭い階段では、迷宮鼠がどれだけいようと大した脅威にはならないからな。
そんななか、一匹の迷宮鼠がひらっと上の階段から飛び降りて、器用に下の段に飛び移りながらこっちへとやって来た。
フォルテの羽根飾りをつけているので、俺達を案内した迷宮鼠だとわかった。
何の用だ?
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