勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第七章 幻の都

670 ゴブリンのお礼

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「チュー! チュチュウウッ!」
「チッ、チチチチ?」
「チュウ? チチチチチ!」

 俺達の道案内をした奴だけではなく、凶悪な面構えの迷宮鼠ゴブリン達が、次から次へと集まって来た。
 踊り場に降りて来たのはフォルテの羽根飾りをつけた一匹だけだったが、ぐるりと内壁を巡る階段の、段という段に、迷宮鼠ゴブリン達が鈴なりになっている。
 顔が凶悪なので、うちの女子組が怖がっているんだけど、何してくれるんだ?

「お前等、そんなに集まって、俺達を脅すつもりか?」

 ああん? と、すごんで見せたら、声が届く範囲の迷宮鼠ゴブリン共が焦ったようにチューチュー鳴き出して、最初よりもうるさくなった。

「うるさい! 言いたいことがあるなら代表が話せ! ただし、俺達にお前等の言葉はわからないぞ!」

 そう怒鳴りつけると、周囲で騒いでた奴等がショックを受けたようで、しょんぼりと黙り込んだ。
 なんかこいつら、顔は凶悪だが、案外気は小さい冒険者仲間を彷彿とさせるな。

「お師匠さま、そんなにきつくおっしゃられたら、かわいそうですわ」

 聖女がとりなして来る。
 いやいや、さっきまでビクビクしてたでしょ?
 まぁ顔が凶悪な魔物でも、善性があると思ったら庇おうとするのは、さすが聖女だな、とは思うけどな。

「聖女さまがああおっしゃってるから、暴力を振るったりはしないからさっさと帰れ」
「あの……」

 俺がシッシッと、迷宮鼠ゴブリン達を追い散らそうとしていると、メルリルが遠慮がちに声をかけて来た。

「どうした?」
「私、彼等が言っていること……というよりも、考えていることが、なんとなくわかるの」
「マジか!」

 そうか森人の共感能力か。
 魔物相手にも共感が働くとか、さすがは巫女メッセリというところなのだろうな。

「多分だけど、彼等は私達にお礼を言いに来たんだと思う」
「礼?」
「うーん……」

 メルリルは、困ったように目前の羽根飾りの迷宮鼠ゴブリンと、周囲の迷宮鼠ゴブリン達を見た。

「チュ、チュウ、チューチュー」

 目前の羽根飾りの迷宮鼠ゴブリンは、何かを説明するように、両手や全身を使って表現しようとしている。
 底のほうを差して、バタンと倒れるふりをしてみたり、怖がる様子をしてみたり、今度は踊り出したりと忙しい。

「なんか俺にも段々わかって来たぞ」
「師匠、俺もだ」

 どうやら勇者パーティと俺達に、魔物の言葉を理解する能力が芽生えたようだ……って、そんな訳あるか!
 あまりにも必死で表現するので、なんとなくわかった気になっただけの話だ。

「彼等は、あの魔物が怖かったみたい。だからそれを倒したダスターや勇者さまにお礼を言いたかったのね」

 メルリルがなんとか苦労しながら翻訳してくれた。
 それは、俺が、そして多分ほかの連中も、感じていた内容と同じだった。
 なるほど、言葉が通じなくてもある程度は気持ちというのは通じ合うようだ。
 相手が魔物なので、正直どうでもいいけどな。

「気持ちはわかった。わかったから帰れ」
「チュウチュウ! チュー!」

 む、ちゃんと気持ちは汲み取ってやったというのに、目前の迷宮鼠ゴブリンは……面倒くさいから聖女さまの呼ぶ名前のチュウでいいや、チュウは、納得していない様子だ。
 ほかの迷宮鼠ゴブリン達も再びチューチューうるさくなった。

「うるさい! 黙れ!」

 とうとう切れた勇者が怒鳴ると、怖かったのか、集団で身を寄せ合いながらブルブル震え出した。
 チュウはピタッと地面に伏せて頭を抱えている。
 こいつ、顔が見えないと愛嬌があるな。

「勇者さま。好意を向けて来る相手に向かって、そんな無慈悲な振舞いをなされてはいけませんわ」
「うぬう」

 勇者め、聖女に叱られたぞ。
 ちょっと胸がすかっとした。

「ダスター、どうも彼等、何かを受け取って欲しいみたい」

 メルリルがそっと囁く。

「なるほど。それを受け取ったらこいつ等帰るのかな?」
「どうかな?」

 俺の言葉にメルリルも困って首をかしげている。
 チュウがパッと立ち上がり、くるっと飛び上がって一回転してみせた。
 なんだ? その軽業師の芸みたいなの。
 すると、ほかの迷宮鼠ゴブリン達もそれぞれその場で飛び上がったり、駆けまわったりしている。
 うーむ、理解し難い連中だな。

 そうしているうちに、上のほうから迷宮鼠ゴブリン達が手渡しで何かを運んでいるのが見えた。
 踊り場近くまで運んで来たそれを、チュウが引き受けると、俺達へと持って来た。
 どうやらそれがお礼らしい。

「お前が受け取れ」

 俺は勇者を押し出した。

「なんでだ!」
「これも勇者の役目だろ! ほら!」
「ミミズとか、骨とかだったらどうすんだっ!」
「勇者だろ!」
「えー」

 などとぐずっていたが、やがて諦めて、引きつった笑顔でチュウから何かを受け取る。

「あー、ありがとう」

 偉いぞ、ちゃんとお礼が言えるじゃないか。
 俺は生暖かい目でその様子を見守る。
 チュウはテンションが上がったらしく、ぴょんぴょん飛び跳ねて、また回転した。
 うんうん、なかなか見ごたえがある体捌きだな。
 
「チュ、チュー!」
「チュウ! チュチュウ!」

 ほかの迷宮鼠ゴブリン達もその場で跳ねまわる。
 小柄とは言え、あの狭い階段の上でよく落ちないものだ。
 あ、何匹か落ちた。
 落ちた奴は途中で壁を蹴って、下の階段の仲間の上に落ちる。
 上から押しつぶされる形となったその仲間は何やら文句を言っているようだ。
 見てて飽きない。
 ヤバいぞ。
 こんな風にしていると、地上で迷宮鼠ゴブリン共を狩らなきゃならないときに躊躇っちまうだろ。
 まったく。

「チュウ!」

 チュウはぺこりと頭を下げると、さっと階段の上へと戻った。
 それを合図とするように、ほかの迷宮鼠ゴブリン達も、さああっと、たちまちのうちにらせん階段から姿を消す。
 あれだけの数がどこに隠れたやら。

「やれやれ、とんだオマケだったな」
「ししょー」
「おいおい、助けた相手に感謝されたんだから、もっとうれしそうな顔をしろよ、勇者さま」

 俺は、情けない顔で、ばっちいものを持つようにお礼の品を持っている勇者を、笑いながらからかった。

「何をくださったのでしょうか?」

 聖女が興味深そうに勇者の手にあるものを覗き込む。
 それは枯れた草のようなものを荒く編んだ袋のようなものに包まれていた。
 どこからどう見ても外見からしてゴミにしか見えない。

「そこそこ重みはあるぞ」

 勇者がソレを体から離しながら言った。
 そんなに持ちたくないならいったん置け。
 すると、勇者のマント留めの振りをしておとなしくしていた若葉が、ちょろりと首をもたげた。

「ガフン?」『美味そう?』

 なんで疑問の残る言い方なんだ?
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