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第七章 幻の都
651 迷宮 幻の都1
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「以前、フィールドタイプの湖の迷宮や、ほとんど迷宮としての力を失った北部の洞窟型の迷宮なんかは経験したよな」
「ああ」
迷宮「幻の都」に降り立った俺は、勇者達に説明する。
「ああいうのは実は特殊なタイプの迷宮だ。本来はここのように沈下型の迷宮が一般的なんだ」
「前にもそのようなことはお聞きしましたね」
聖騎士がうなずく。
俺もそれにうなずき返す。
「沈下型の迷宮ってのは、そうだな、俺がもしフォルテの目を使って上空からこの迷宮を眺めたら、切り株の年輪みたいに見えるだろう」
「年輪ってのは、あの、輪っかがいくつも重なったみたいな」
勇者が確認するように言った。
「そうだ。迷宮の沈下、または崩落は、段階を踏んで発生する。最初は広く浅く、後になるほど狭い範囲に集中して深くなる。最初はなんらかの理由で魔力溜まりが出来て、その範囲の小さな生き物や植物が魔物化し、その死骸が積み重なって、魔結晶になるところから始まる。魔結晶は魔力を集める性質を持っているから、濃くなった魔力で、より大きな魔物が発生することになる。その魔物の死体が、さらに大きな魔結晶となって、魔力が許容量を超えると沈下か崩落が起きるんだ。その繰り返しが迷宮の深化の成長と呼ばれている」
全員がうんうんうなずきながら真剣に聞いている。
俺は説明を続けた。
「発生した魔物は生物だから、当然巣作りをしたり、テリトリーを広げたりする。それで起こるのが迷宮の広域化だ。つまり、迷宮の段階ごとに魔物が迷宮を横に広げるせいで、魔物の棲み分けが出来る。上層には魔力の薄い魔物が、下層には魔力の濃い魔物が棲んでいるし、魔鉱石もより深いほうが質がいい」
「つまり稼ぐなら深いところに潜ったほうがいいんだ」
モンクが冒険者のようなことを言い出す。
わりと思考が冒険者向きだよな、モンクは。
「そうだ。だが、同時に命の危険もより大きくなる」
「理解した。つまり今俺達がいる最初の層は、ほとんど危険がないんだな?」
勇者があまり面白くなさそうに周囲を見回す。
「ああ。ただし、特殊な薬草や、薬の原料になる虫なんかはこの辺が採りやすい」
「以前ダスターが教えてくれた冒険者の稼ぎ方ね」
メルリルがニコニコしながら言った。
冒険者の心得を教えたのは長屋にいた頃だから、だいぶ前の話だが、ちゃんと覚えてくれていて嬉しいぞ。
「なるほど安全である程度稼げるというのは魅力的だな」
勇者が感心したように言った。
最初は浅い層をつまらない場所のように思っていたようだが、見直したようだ。
「それで、大きなギルドだと、浅い層にキャンプを作って、経験の浅い冒険者に採取をさせて、探索者はそこを拠点に深く潜るという方式を取る訳だ」
「おお、効率的だな」
「まぁ冒険者にとってはこれが仕事だからな」
すっかり感心した様子の勇者に釘を刺す。
仕事である以上、生活の基盤に出来ないと意味がない。
そういう連中からすると、俺達勇者一行というのは邪魔者だ。くれぐれもトラブルを起こさないようにと注意しておいた。
まぁトラブル体質の勇者がいるから、何もないってことはないだろうが、自分達からわざわざトラブルに突っ込んで行く必要はないからな。
納得してもらったところで、入り口から奥のほうへと進む。
光が降り注いでいた入り口から遠くなるごとに、頭上は土や木の根で覆われてしまい、太陽の光は届かなくなった。
「日の光が届いてないのにほんのり明るい」
「ああ、迷宮草だな」
メルリルが周囲を見回して不思議そうに言うので、指で差し示して教える。
「あ、迷宮跡の洞窟にもあった花」
「そうそう。魔力を帯びて光として放つ草だ。だいたい迷宮のどこにでも生えているからありがたいんだ」
「なるほど」
勇者もうなずいている。
「きゃっ!」
「ミュリア! ひゃっ!」
聖女とモンクが悲鳴を上げた。
「どうした? 魔物か?」
「ぶよぶよしたのが……」
モンクが涙目だ。
「スライムだ。この辺りのやつは動きも遅いし、小さい虫ぐらいしか食わないからそう危険じゃないぞ。ただ、スライムは下層に行くとヤバいのがいるから侮れない魔物だ。気配が全体的にうっすらとしていてわかりにくいから、今のうちに独特の気配を覚えておくといい」
「け、気配って……」
うーとかあーとかうなりながらも、モンクはそのスライムとにらめっこをしている。
聖女と勇者も一緒だ。
勉強熱心なのはいいことだけどな。
「ん? クルス、ちょっと止まれ」
声をかけるとクルスはぴたりと止まる。
全く体がぶれないのは凄いな。
「何か?」
「いや、何か動いたようだったから」
言いながら聖騎士の少し前のところの地面を鞘に入ったままの剣でつついた。
ずるずると細長いものが縮むように引っ込んで行く。
「虫取り草か」
ホッとした。
まぁ浅い層だしな。
「大丈夫だ。先に進もう」
幸いなことに、俺達の進んだ方向には探索者のキャンプは無いようだった。
最初から揉めるのは嫌だから幸先がいい。
「よし、止まれ」
床部分にえぐれを見つけて全員を集める。
えぐれ周辺を鞘いりの剣で探ると、下に突き抜ける部分が見つかった。
覆っているツタを引きはがすと、縦穴になっている。
「ここから下層に降りられるな……フォルテ」
「ピャッ?」
「ちょっと様子を見て来てくれ」
「クルル」
十分に食って寝たからか、フォルテは機嫌よく俺の肩から飛び立って穴へと消える。
そのフォルテの視界を共有しつつ、下層の深度を確認した。
迷宮深度は魔力濃度でだいたい判断出来る。
「うん、そこまで深くないか。降りよう」
「わかった。俺から行こう」
勇者が申し出る。
まぁこいつなら何があっても対処出来るから間違いないが、普通勇者は斥候みたいなことはしないんじゃないか? まぁいいか。
「わかった。アルフの次はテスタ、その次はミュリアで、次がクルス、それからメルリル、最後に俺だ」
「了解!」
「あ、そうだ。アルフ」
「なんだ?」
「次の層ぐらいまでならさして問題はないが、迷宮は深くなるほど魔力が濃くなる。魔法を使うときには威力を出そうとするな、コントロールを第一に考えるんだ」
「わかった!」
返事はいいんだよな。
本当にわかっているのか怪しいが、まぁ実際に体験してみないとわからないことだし、やらせてみるしかないな。
俺は若干不安を覚えながらも、全員が縦穴を降りるのを待った。
俺がツタを引っぺがした穴は、もうすでに、成長の早い魔力を帯びた新しいツタによって覆われ始めている。
俺はここまで記録したマップを、革鎧の見た目にカモフラージュした、ドラゴン素材の軽鎧の隠しに突っ込んむと、仲間達の後を追ったのだった。
「ああ」
迷宮「幻の都」に降り立った俺は、勇者達に説明する。
「ああいうのは実は特殊なタイプの迷宮だ。本来はここのように沈下型の迷宮が一般的なんだ」
「前にもそのようなことはお聞きしましたね」
聖騎士がうなずく。
俺もそれにうなずき返す。
「沈下型の迷宮ってのは、そうだな、俺がもしフォルテの目を使って上空からこの迷宮を眺めたら、切り株の年輪みたいに見えるだろう」
「年輪ってのは、あの、輪っかがいくつも重なったみたいな」
勇者が確認するように言った。
「そうだ。迷宮の沈下、または崩落は、段階を踏んで発生する。最初は広く浅く、後になるほど狭い範囲に集中して深くなる。最初はなんらかの理由で魔力溜まりが出来て、その範囲の小さな生き物や植物が魔物化し、その死骸が積み重なって、魔結晶になるところから始まる。魔結晶は魔力を集める性質を持っているから、濃くなった魔力で、より大きな魔物が発生することになる。その魔物の死体が、さらに大きな魔結晶となって、魔力が許容量を超えると沈下か崩落が起きるんだ。その繰り返しが迷宮の深化の成長と呼ばれている」
全員がうんうんうなずきながら真剣に聞いている。
俺は説明を続けた。
「発生した魔物は生物だから、当然巣作りをしたり、テリトリーを広げたりする。それで起こるのが迷宮の広域化だ。つまり、迷宮の段階ごとに魔物が迷宮を横に広げるせいで、魔物の棲み分けが出来る。上層には魔力の薄い魔物が、下層には魔力の濃い魔物が棲んでいるし、魔鉱石もより深いほうが質がいい」
「つまり稼ぐなら深いところに潜ったほうがいいんだ」
モンクが冒険者のようなことを言い出す。
わりと思考が冒険者向きだよな、モンクは。
「そうだ。だが、同時に命の危険もより大きくなる」
「理解した。つまり今俺達がいる最初の層は、ほとんど危険がないんだな?」
勇者があまり面白くなさそうに周囲を見回す。
「ああ。ただし、特殊な薬草や、薬の原料になる虫なんかはこの辺が採りやすい」
「以前ダスターが教えてくれた冒険者の稼ぎ方ね」
メルリルがニコニコしながら言った。
冒険者の心得を教えたのは長屋にいた頃だから、だいぶ前の話だが、ちゃんと覚えてくれていて嬉しいぞ。
「なるほど安全である程度稼げるというのは魅力的だな」
勇者が感心したように言った。
最初は浅い層をつまらない場所のように思っていたようだが、見直したようだ。
「それで、大きなギルドだと、浅い層にキャンプを作って、経験の浅い冒険者に採取をさせて、探索者はそこを拠点に深く潜るという方式を取る訳だ」
「おお、効率的だな」
「まぁ冒険者にとってはこれが仕事だからな」
すっかり感心した様子の勇者に釘を刺す。
仕事である以上、生活の基盤に出来ないと意味がない。
そういう連中からすると、俺達勇者一行というのは邪魔者だ。くれぐれもトラブルを起こさないようにと注意しておいた。
まぁトラブル体質の勇者がいるから、何もないってことはないだろうが、自分達からわざわざトラブルに突っ込んで行く必要はないからな。
納得してもらったところで、入り口から奥のほうへと進む。
光が降り注いでいた入り口から遠くなるごとに、頭上は土や木の根で覆われてしまい、太陽の光は届かなくなった。
「日の光が届いてないのにほんのり明るい」
「ああ、迷宮草だな」
メルリルが周囲を見回して不思議そうに言うので、指で差し示して教える。
「あ、迷宮跡の洞窟にもあった花」
「そうそう。魔力を帯びて光として放つ草だ。だいたい迷宮のどこにでも生えているからありがたいんだ」
「なるほど」
勇者もうなずいている。
「きゃっ!」
「ミュリア! ひゃっ!」
聖女とモンクが悲鳴を上げた。
「どうした? 魔物か?」
「ぶよぶよしたのが……」
モンクが涙目だ。
「スライムだ。この辺りのやつは動きも遅いし、小さい虫ぐらいしか食わないからそう危険じゃないぞ。ただ、スライムは下層に行くとヤバいのがいるから侮れない魔物だ。気配が全体的にうっすらとしていてわかりにくいから、今のうちに独特の気配を覚えておくといい」
「け、気配って……」
うーとかあーとかうなりながらも、モンクはそのスライムとにらめっこをしている。
聖女と勇者も一緒だ。
勉強熱心なのはいいことだけどな。
「ん? クルス、ちょっと止まれ」
声をかけるとクルスはぴたりと止まる。
全く体がぶれないのは凄いな。
「何か?」
「いや、何か動いたようだったから」
言いながら聖騎士の少し前のところの地面を鞘に入ったままの剣でつついた。
ずるずると細長いものが縮むように引っ込んで行く。
「虫取り草か」
ホッとした。
まぁ浅い層だしな。
「大丈夫だ。先に進もう」
幸いなことに、俺達の進んだ方向には探索者のキャンプは無いようだった。
最初から揉めるのは嫌だから幸先がいい。
「よし、止まれ」
床部分にえぐれを見つけて全員を集める。
えぐれ周辺を鞘いりの剣で探ると、下に突き抜ける部分が見つかった。
覆っているツタを引きはがすと、縦穴になっている。
「ここから下層に降りられるな……フォルテ」
「ピャッ?」
「ちょっと様子を見て来てくれ」
「クルル」
十分に食って寝たからか、フォルテは機嫌よく俺の肩から飛び立って穴へと消える。
そのフォルテの視界を共有しつつ、下層の深度を確認した。
迷宮深度は魔力濃度でだいたい判断出来る。
「うん、そこまで深くないか。降りよう」
「わかった。俺から行こう」
勇者が申し出る。
まぁこいつなら何があっても対処出来るから間違いないが、普通勇者は斥候みたいなことはしないんじゃないか? まぁいいか。
「わかった。アルフの次はテスタ、その次はミュリアで、次がクルス、それからメルリル、最後に俺だ」
「了解!」
「あ、そうだ。アルフ」
「なんだ?」
「次の層ぐらいまでならさして問題はないが、迷宮は深くなるほど魔力が濃くなる。魔法を使うときには威力を出そうとするな、コントロールを第一に考えるんだ」
「わかった!」
返事はいいんだよな。
本当にわかっているのか怪しいが、まぁ実際に体験してみないとわからないことだし、やらせてみるしかないな。
俺は若干不安を覚えながらも、全員が縦穴を降りるのを待った。
俺がツタを引っぺがした穴は、もうすでに、成長の早い魔力を帯びた新しいツタによって覆われ始めている。
俺はここまで記録したマップを、革鎧の見た目にカモフラージュした、ドラゴン素材の軽鎧の隠しに突っ込んむと、仲間達の後を追ったのだった。
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