勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第六章 その祈り、届かなくとも……

623 残された者の覚悟

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 結果として、若葉は湖に投げ込まれることになった。
 いや、捨てた訳じゃないけどな。

「湖のなかに、気持ち悪い感触の石のようなものがいくつかある」

 と、メルリルが発言したため事後処理状態で落ち着いていた場が一挙に緊張したのだ。
 そこで、「若葉、お前俺達に同行したいならヤバい魔物は始末してこい」と、勇者が若葉を湖に放り込んだという流れである。

『えー、水のなかの奴等臭いから嫌い。アルフが魔力で料理してくれたら食べてもいいぞ』
「贅沢言うな。ドラゴンは魔物を食うんだろ。魔力の多いのがいいというなら十分だろうが!」
『僕にも好みというものがあるよ。ならさ、後で口直しにアルフの髪を一束くれる?』
「毛先を少しだけならいいぞ」
『ケチ!』
「さっきたらふく食っただろうが!」
『だからだよ。もうしばらく食べる必要ないのに嫌いなものを無理に食べるんだよ? アルフだってそういうの嫌だろ?』
「うぬぬ……」

 という交渉の末に、指の第二関節程度の長さの毛先を一束食わせるという約束で折り合いがついたようだ。
 お前、そういう交渉続けてると、いずれ本体を食わせろという話になりかねないぞ。
 大丈夫だろうな?

 後で若葉から詳しい話を聞いたところ、湖のなかには密閉された石棺のようなものがいくつか沈められていて、そのなかに魔物の死骸が封じられていたようだ。
 なかに変異した魔物が育っていたのはそのうちの二つ程度とのことだった。

「石棺をどうやって密閉していたんだろう?」
「州公の魔法だろうな。この城や外郭部分の基本を造ったのは州公とのことであるから。それに俺の目の前で石棺を開いて見せた」

 俺の疑問に答えたのは英雄殿だ。
 その英雄殿は、かなり苦労していた。
 州公、つまり富国公の部下に、今回の件や魔物を集める魔道具、さらにはアンデル国への国主に無断での侵略行為などの証拠や証言を集めていたのだが、誰もかれもが口が堅く、ご当主の命がないと何も話せないと言い張っていたのだ。
 臣下としては立派なんだろうけど、国には従わずに主だけに従うというこの国の在り方を垣間見るようで、つくづく英雄殿やその主人が気の毒になった。

 そもそも当の富国公は亡くなってしまわれたのだが、その場合は後継者が責任を負うことになる。
 だが、その後継者である長女のイルミダスは、現在アンデルに囚われの身なので、問題外。
 また、後継者に指名されていない二人の息子は存命で、城に滞在中だという話だが、誰も彼等を支持しない。
 当主に後継者として指名されていない者は、たとえ実子でも臣下の一人に過ぎないということらしい。
 貴族は面倒くさいな!

「奥方に諭してもらえばいいんじゃないか? 話に聞いたところでは、奥向きのことは奥方が采配を採るそうじゃないか」
「なるほど」

 英雄殿は正に虚を突かれたと言った表情で、城の連中に奥方の居場所を確認する。
 結果として、奥方は富国公の命で自室にて蟄居状態であるということが判明した。
 あの騒動の後、そんなことになっていたのか。

「命じた州公が亡くなった時点で、我が権限において、その命令は無効とする」

 英雄殿が厳かに告げると、騎士達はしぶしぶながら、城内の使用人達はホッとしたように奥方を迎えに行った。
 どうやら奥方は使用人や内政官には慕われているようだ。
 内政官と言っても、ここにいるのは領地を取り仕切る官僚ではなく、俺達庶民風に言うと、家計を預かる係らしい。
 いや、貴族の政治はよくわからないし、覚える気はないけどな。
 城内にまだ動揺はあったが、勇者と聖女、そして英雄殿の存在が知れ渡ると、皆落ち着きを取り戻し、どこか安心したような様子となった。

 最悪家が取りつぶされる可能性もあるということだが、そういうことは今のところは誰も考えないのだろう。
 もしかすると、勇者と聖女が自分達を救ってくれると根拠もなく信じているのかもしれない。
 こいつらだって人間だし、万能でもなんでもないんだが、まぁ他人に希望を与えるのも役割の一つと思えば仕方ないのかもな。

 以前通されたのとまた違う、広くて豪華な応接室に通され、茶とか茶菓子とか出されてもてなされたが、さすがに誰もそれに口をつける気にはならなかった。
 なんというか、敵地にいるという感じが強いのだ。

 やがてざわめきと共に奥方様の訪れが告げられ、わずかな間に少しやつれたような気配のする、見覚えのある女性が入室して来た。

「この度は我が家の犯した過ちによって、勇者様方にご迷惑をおかけしたことを深くお詫びいたします」

 床近くまで腰を落とし、頭を下げる。
 勇者はそれを見て、冷ややかに答えた。

「俺達に謝る必要はない。そんなことよりも、現在迷惑をかけている隣国に対して、十分な補償をするんだな。それに後継者である娘も囚われている。身代金も十分に渡してやれ」
「承知いたしました」
「後は、そこの貴国の英雄殿と協議するがいい。また、俺としては、今回魔物を使って民の安全を脅かした件を大聖堂に報告する義務がある。かなり厳しい処分を覚悟したほうがいいぞ」
「心します」

 勇者は深く礼を取る奥方様をじっと見て、顔をしかめた。

「貴女は本来外から嫁いで来た人だろう。この家を見捨てて実家に戻るという方法もあるんじゃないか? まぁ娘は気になるだろうが、今戻らなければ、処分が下ってからだと実家から縁切りされてしまいかねない」
「まぁ、勇者様はお優しいのですね」

 奥方様は少しだけ顔を上げると、言葉とは裏腹に、冷ややかな目を勇者に向ける。

「主様とは意見の違いもありましたが、結局のところ、主様の愚行を止められなかったわたくしの罪でもあるのです。わたくしのような女は、殿方からすれば取るに足らない存在でしょう。しかし、それでも、わたくしにも誇りはあるのですよ。自らの罪に背を向けて逃げ出すような真似はいたしません」

 堂々と言い放つ。
 あの富国公からはあまり感じられなかった高位貴族の誇りのようなものを、この奥方様からははっきりと感じられた。

「此度の件、わたくしが州公代理として、全ての咎を負いましょう。それで足りない分は娘に任せるしかありません。頼りない娘ですが、どうか、大公陛下の御指導をよろしくお願いいたします」

 ただの冒険者であり、貴族の家風とは縁遠い俺だったが、今まで、それなりに偉いさんとの付き合いもして来た。
 だから、このときに気づいたのだ。
 この人は、夫の罪を背負って自らが処罰を受けることで、この家自体を守るつもりなんだと。
 後継者である娘を大公陛下の監督下に置くことで、家自体の存続を頼んでいるのだろう。
 夫である富国公のやったことは知らなくても、知らないこと自体を罪だと、それを裁けと逆に迫っているのだ。

「その件は、俺ではなく、そこの英雄殿、ひいては自国の大公陛下に申し上げるんだな。国のまつりごとは俺のあずかり知らぬことだからな」

 対する勇者はその言葉を淡々と跳ねのける。
 まぁ国のことは国で解決しろってことだろう。
 当然と言えば当然だが、英雄殿がげっそりとした顔になっているぞ。

「大公陛下は厳しさと慈愛を合わせ持つ御方である。決して悪いようにはしない」

 あ、英雄殿、奥方様の覚悟にちょっと腰が引けているぞ。
 まぁ、家族であるというだけで、今回の件にほとんど関わりない相手を責め立てるのも気分が悪い話だよな。
 結論として、罪を償わずに死んだ富国公は、あまりにも無責任すぎたということになる。
 おかげで後に残った者が苦労するしかない。
 理不尽だよな。
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