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第六章 その祈り、届かなくとも……
622 化け物が死んだからって物事は終わらない
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ドラゴンライダーというのは、子どもに人気の物語の一つだ。
吟遊詩人の語る伝説という形を取っているが、現実に起った出来事ではない。
無実の罪を着せられて国を追われた王子が、数々の冒険を経て、魔物を従え、その果てにドラゴンをも従える。
そして、自分を追い出した国が危機に陥ったときに、ドラゴンに騎乗して国を救うというのが大筋の展開だ。
物語の語りの演目が、「ドラゴンライダー」といい、その煽り文句が「ドラゴンを治めし者」なのである。
そのせいでこの二つの言葉の意味は同じであると多くの人が考えていた。
物語の創作者はなんとかいう有名な吟遊詩人らしいが、遠い昔に生きた人で今は存命ではない。
「ドラゴンライダー、ね」
そう言えば俺も以前ドラゴンの背に乗ったなぁと思い出すが、慌ててその記憶を打ち消した。
間違っても自分がドラゴンを従えることが出来るなどと思いあがってしまわないようにしないとな。
勘違いした人間の行く末は決まっている。
傲慢による自滅だ。
まぁそれはともかくとして、人間がどんなに頑張っても倒せなさそうなヤバい化け物を簡単に食っちまったドラゴンを、勇者が成敗した? ように見えたのは確かだろう。
これが普通の人間だったら、とんでもない騒ぎになって、国の偉いさんに引き立てられたり、英雄として祀り上げられた挙句、将軍とかなんとかの位をもらって貴族にでもなるところなんだろうが、勇者の場合はその辺、勇者だからで全てが通ってしまうところは便利だと思う。
よし、何も問題ない。
俺は勇者とそれを称える城の連中から目を反らし、ずっと化け物との戦いを不安そうに見守っていた、メルリルや聖女のほうへと向かった。
「メルリル大丈夫か? 精霊の様子はどうだ?」
「……あ、はい!」
何やらぼーっとしていたメルリルは、俺が話しかけると、慌てて飛び上がって返事をした。
いや、そんなに驚かなくてもいいんだぞ? ちょっと傷つくし。
「ええっと、あの、精霊は大はしゃぎをしていて、さっきとは別の意味で、その、コントロールが……」
「あー、なるほど。まぁ、今は特に危険ということはないだろうからいいが、落ち着いたら周囲に危険がないか確認しておいてくれないか? あの化け物がアレだけとも限らないしな」
「あ……でも、水のなかや土のなかだと、私じゃ……」
「あ、そうか。全然わからないんだっけ?」
「あの、……こう、布越しに触ってそこに何があるか当てる遊びとか、子どものときにしなかった?」
唐突な話題の転換にちょっと驚きながら、俺は遠い子どもの頃を思い出す。
「うむ、なんか覚えがあるぞ。やったような気がする」
「そういう感じなの」
ん? ああ、水や土の精霊との繋がりか。
それはかなりぼんやりしているな。
「なるほどな。……なら、なんとなくでいいから、嫌なモノの存在を感じないかを探ってくれ。あの化け物を精霊はかなり嫌がっていたみたいだし」
「あ、はい! そのぐらいなら」
メルリルは最初ちょっとしょんぼりとしていたが、自分に出来ることがあるとわかるとパッと顔を輝かせた。
俺達平野人には精霊そのものが感じられないので、ぼんやりとでも感じるなら十分凄いことなんだが、メルリル的には使えないと判断してしまうようだ。
そういう認識の祖語はきちんと話して埋めていかないとな。
俺は次に聖女を見る。
ものすごくソワソワしているぞ。
「ミュリア、どうした?」
「あの、あの、よろしければ、あちらに行って治療をいたしたいのですが」
「城の連中か」
城の連中はあの化け物から直接何かをされたという訳じゃないんだが、あの凶悪な存在に当てられたのか、倒れてそのまま動かないような姿も見受けられた。
精神的なダメージを受けているのかもしれない。
とは言え、あの連中のところに聖女一人をやる訳にはいかないだろう。
「んー。テスタ、クルス、どう思う?」
「私は反対だけど、ミュリアがしたいって言うなら止めないよ。一緒に行って不埒なことをする奴がいたらぶっ飛ばしてやるよ」
モンクは苦手なもの以外には頼もしい。
「私もついて行きましょう。騎士についてはそれなりに知識がありますし、彼らの考え方もだいたい予想がつきますから」
聖騎士も申し出る。
勇者のほうは放っておいても大丈夫と判断したんだな。
「ふむ。俺は連中から詳しい話を聞かねばならん。だが、それは連中を苦しめたいという意味ではない。同行してもよろしいだろうか?」
と、英雄殿も申し出てくれた。
やっぱりこの国の人間がいたほうが間違いが起きにくいから助かる。
「じゃあ、そっちは頼む。精神的に追い詰められている人間は何をするかわからんから、くれぐれも用心するように」
「はい!」
聖女は元気よく答えると、さっきまで青白かった頬を紅潮させて騎士団のほうへと向かった。
まぁあっちは任せて大丈夫だろう。
子どもでもないしな。
「ピャッ!」
「お、フォルテ、さっきはよくやったぞ。指示を伝えてくれてありがとうな」
火矢を射るように騎士団に伝えてくれたことを褒めて撫でてやる。
フォルテはばっさばっさと羽根を広げて自慢気である。
そうこうしている間に勇者が戻って来た。
「師匠、これ、どうしよう?」
「いや、知らん」
勇者の手のなかには、パッと見た感じ、緑柱石か何かで作られた細工物としか見えない、小さくなった若葉がすやすやと眠っている。
勇者はげっそりとした顔だ。
お前、ドラゴンライダー認定されたみたいだから、きっちりそいつをしつけてくれよ。
さすがに俺はもうドラゴンに関わりたくない。
「湖に投げ捨ててみるか」
「やめておけ。うるさくなるだけだからな」
お前、いい加減諦めたらどうだ?
吟遊詩人の語る伝説という形を取っているが、現実に起った出来事ではない。
無実の罪を着せられて国を追われた王子が、数々の冒険を経て、魔物を従え、その果てにドラゴンをも従える。
そして、自分を追い出した国が危機に陥ったときに、ドラゴンに騎乗して国を救うというのが大筋の展開だ。
物語の語りの演目が、「ドラゴンライダー」といい、その煽り文句が「ドラゴンを治めし者」なのである。
そのせいでこの二つの言葉の意味は同じであると多くの人が考えていた。
物語の創作者はなんとかいう有名な吟遊詩人らしいが、遠い昔に生きた人で今は存命ではない。
「ドラゴンライダー、ね」
そう言えば俺も以前ドラゴンの背に乗ったなぁと思い出すが、慌ててその記憶を打ち消した。
間違っても自分がドラゴンを従えることが出来るなどと思いあがってしまわないようにしないとな。
勘違いした人間の行く末は決まっている。
傲慢による自滅だ。
まぁそれはともかくとして、人間がどんなに頑張っても倒せなさそうなヤバい化け物を簡単に食っちまったドラゴンを、勇者が成敗した? ように見えたのは確かだろう。
これが普通の人間だったら、とんでもない騒ぎになって、国の偉いさんに引き立てられたり、英雄として祀り上げられた挙句、将軍とかなんとかの位をもらって貴族にでもなるところなんだろうが、勇者の場合はその辺、勇者だからで全てが通ってしまうところは便利だと思う。
よし、何も問題ない。
俺は勇者とそれを称える城の連中から目を反らし、ずっと化け物との戦いを不安そうに見守っていた、メルリルや聖女のほうへと向かった。
「メルリル大丈夫か? 精霊の様子はどうだ?」
「……あ、はい!」
何やらぼーっとしていたメルリルは、俺が話しかけると、慌てて飛び上がって返事をした。
いや、そんなに驚かなくてもいいんだぞ? ちょっと傷つくし。
「ええっと、あの、精霊は大はしゃぎをしていて、さっきとは別の意味で、その、コントロールが……」
「あー、なるほど。まぁ、今は特に危険ということはないだろうからいいが、落ち着いたら周囲に危険がないか確認しておいてくれないか? あの化け物がアレだけとも限らないしな」
「あ……でも、水のなかや土のなかだと、私じゃ……」
「あ、そうか。全然わからないんだっけ?」
「あの、……こう、布越しに触ってそこに何があるか当てる遊びとか、子どものときにしなかった?」
唐突な話題の転換にちょっと驚きながら、俺は遠い子どもの頃を思い出す。
「うむ、なんか覚えがあるぞ。やったような気がする」
「そういう感じなの」
ん? ああ、水や土の精霊との繋がりか。
それはかなりぼんやりしているな。
「なるほどな。……なら、なんとなくでいいから、嫌なモノの存在を感じないかを探ってくれ。あの化け物を精霊はかなり嫌がっていたみたいだし」
「あ、はい! そのぐらいなら」
メルリルは最初ちょっとしょんぼりとしていたが、自分に出来ることがあるとわかるとパッと顔を輝かせた。
俺達平野人には精霊そのものが感じられないので、ぼんやりとでも感じるなら十分凄いことなんだが、メルリル的には使えないと判断してしまうようだ。
そういう認識の祖語はきちんと話して埋めていかないとな。
俺は次に聖女を見る。
ものすごくソワソワしているぞ。
「ミュリア、どうした?」
「あの、あの、よろしければ、あちらに行って治療をいたしたいのですが」
「城の連中か」
城の連中はあの化け物から直接何かをされたという訳じゃないんだが、あの凶悪な存在に当てられたのか、倒れてそのまま動かないような姿も見受けられた。
精神的なダメージを受けているのかもしれない。
とは言え、あの連中のところに聖女一人をやる訳にはいかないだろう。
「んー。テスタ、クルス、どう思う?」
「私は反対だけど、ミュリアがしたいって言うなら止めないよ。一緒に行って不埒なことをする奴がいたらぶっ飛ばしてやるよ」
モンクは苦手なもの以外には頼もしい。
「私もついて行きましょう。騎士についてはそれなりに知識がありますし、彼らの考え方もだいたい予想がつきますから」
聖騎士も申し出る。
勇者のほうは放っておいても大丈夫と判断したんだな。
「ふむ。俺は連中から詳しい話を聞かねばならん。だが、それは連中を苦しめたいという意味ではない。同行してもよろしいだろうか?」
と、英雄殿も申し出てくれた。
やっぱりこの国の人間がいたほうが間違いが起きにくいから助かる。
「じゃあ、そっちは頼む。精神的に追い詰められている人間は何をするかわからんから、くれぐれも用心するように」
「はい!」
聖女は元気よく答えると、さっきまで青白かった頬を紅潮させて騎士団のほうへと向かった。
まぁあっちは任せて大丈夫だろう。
子どもでもないしな。
「ピャッ!」
「お、フォルテ、さっきはよくやったぞ。指示を伝えてくれてありがとうな」
火矢を射るように騎士団に伝えてくれたことを褒めて撫でてやる。
フォルテはばっさばっさと羽根を広げて自慢気である。
そうこうしている間に勇者が戻って来た。
「師匠、これ、どうしよう?」
「いや、知らん」
勇者の手のなかには、パッと見た感じ、緑柱石か何かで作られた細工物としか見えない、小さくなった若葉がすやすやと眠っている。
勇者はげっそりとした顔だ。
お前、ドラゴンライダー認定されたみたいだから、きっちりそいつをしつけてくれよ。
さすがに俺はもうドラゴンに関わりたくない。
「湖に投げ捨ててみるか」
「やめておけ。うるさくなるだけだからな」
お前、いい加減諦めたらどうだ?
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