勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
517 / 885
第六章 その祈り、届かなくとも……

622 化け物が死んだからって物事は終わらない

しおりを挟む
 ドラゴンライダーというのは、子どもに人気の物語の一つだ。
 吟遊詩人の語る伝説という形を取っているが、現実に起った出来事ではない。
 無実の罪を着せられて国を追われた王子が、数々の冒険を経て、魔物を従え、その果てにドラゴンをも従える。
 そして、自分を追い出した国が危機に陥ったときに、ドラゴンに騎乗して国を救うというのが大筋の展開だ。

 物語の語りの演目が、「ドラゴンライダー」といい、その煽り文句が「ドラゴンを治めし者」なのである。
 そのせいでこの二つの言葉の意味は同じであると多くの人が考えていた。
 物語の創作者はなんとかいう有名な吟遊詩人らしいが、遠い昔に生きた人で今は存命ではない。

「ドラゴンライダー、ね」

 そう言えば俺も以前ドラゴンの背に乗ったなぁと思い出すが、慌ててその記憶を打ち消した。
 間違っても自分がドラゴンを従えることが出来るなどと思いあがってしまわないようにしないとな。
 勘違いした人間の行く末は決まっている。
 傲慢による自滅だ。

 まぁそれはともかくとして、人間がどんなに頑張っても倒せなさそうなヤバい化け物を簡単に食っちまったドラゴンを、勇者が成敗した? ように見えたのは確かだろう。
 これが普通の人間だったら、とんでもない騒ぎになって、国の偉いさんに引き立てられたり、英雄として祀り上げられた挙句、将軍とかなんとかの位をもらって貴族にでもなるところなんだろうが、勇者の場合はその辺、勇者だからで全てが通ってしまうところは便利だと思う。

 よし、何も問題ない。
 俺は勇者とそれを称える城の連中から目を反らし、ずっと化け物との戦いを不安そうに見守っていた、メルリルや聖女のほうへと向かった。

「メルリル大丈夫か? 精霊メイスの様子はどうだ?」
「……あ、はい!」

 何やらぼーっとしていたメルリルは、俺が話しかけると、慌てて飛び上がって返事をした。
 いや、そんなに驚かなくてもいいんだぞ? ちょっと傷つくし。

「ええっと、あの、精霊メイスは大はしゃぎをしていて、さっきとは別の意味で、その、コントロールが……」
「あー、なるほど。まぁ、今は特に危険ということはないだろうからいいが、落ち着いたら周囲に危険がないか確認しておいてくれないか? あの化け物がアレだけとも限らないしな」
「あ……でも、水のなかや土のなかだと、私じゃ……」
「あ、そうか。全然わからないんだっけ?」
「あの、……こう、布越しに触ってそこに何があるか当てる遊びとか、子どものときにしなかった?」

 唐突な話題の転換にちょっと驚きながら、俺は遠い子どもの頃を思い出す。

「うむ、なんか覚えがあるぞ。やったような気がする」
「そういう感じなの」

 ん? ああ、水や土の精霊との繋がりか。
 それはかなりぼんやりしているな。

「なるほどな。……なら、なんとなくでいいから、嫌なモノの存在を感じないかを探ってくれ。あの化け物を精霊メイスはかなり嫌がっていたみたいだし」
「あ、はい! そのぐらいなら」

 メルリルは最初ちょっとしょんぼりとしていたが、自分に出来ることがあるとわかるとパッと顔を輝かせた。
 俺達平野人には精霊そのものが感じられないので、ぼんやりとでも感じるなら十分凄いことなんだが、メルリル的には使えないと判断してしまうようだ。
 そういう認識の祖語はきちんと話して埋めていかないとな。
 俺は次に聖女を見る。
 ものすごくソワソワしているぞ。

「ミュリア、どうした?」
「あの、あの、よろしければ、あちらに行って治療をいたしたいのですが」
「城の連中か」

 城の連中はあの化け物から直接何かをされたという訳じゃないんだが、あの凶悪な存在に当てられたのか、倒れてそのまま動かないような姿も見受けられた。
 精神的なダメージを受けているのかもしれない。
 とは言え、あの連中のところに聖女一人をやる訳にはいかないだろう。

「んー。テスタ、クルス、どう思う?」
「私は反対だけど、ミュリアがしたいって言うなら止めないよ。一緒に行って不埒なことをする奴がいたらぶっ飛ばしてやるよ」

 モンクは苦手なもの以外には頼もしい。

「私もついて行きましょう。騎士についてはそれなりに知識がありますし、彼らの考え方もだいたい予想がつきますから」

 聖騎士も申し出る。
 勇者のほうは放っておいても大丈夫と判断したんだな。

「ふむ。俺は連中から詳しい話を聞かねばならん。だが、それは連中を苦しめたいという意味ではない。同行してもよろしいだろうか?」

 と、英雄殿も申し出てくれた。
 やっぱりこの国の人間がいたほうが間違いが起きにくいから助かる。

「じゃあ、そっちは頼む。精神的に追い詰められている人間は何をするかわからんから、くれぐれも用心するように」
「はい!」

 聖女は元気よく答えると、さっきまで青白かった頬を紅潮させて騎士団のほうへと向かった。
 まぁあっちは任せて大丈夫だろう。
 子どもでもないしな。

「ピャッ!」
「お、フォルテ、さっきはよくやったぞ。指示を伝えてくれてありがとうな」

 火矢を射るように騎士団に伝えてくれたことを褒めて撫でてやる。
 フォルテはばっさばっさと羽根を広げて自慢気である。
 そうこうしている間に勇者が戻って来た。

「師匠、これ、どうしよう?」
「いや、知らん」

 勇者の手のなかには、パッと見た感じ、緑柱石か何かで作られた細工物としか見えない、小さくなった若葉がすやすやと眠っている。
 勇者はげっそりとした顔だ。
 お前、ドラゴンライダー認定されたみたいだから、きっちりそいつをしつけてくれよ。
 さすがに俺はもうドラゴンに関わりたくない。
 
「湖に投げ捨ててみるか」
「やめておけ。うるさくなるだけだからな」

 お前、いい加減諦めたらどうだ?
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。