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第六章 その祈り、届かなくとも……
587 業突く張りの財布には穴を開けろ
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「最初、あの騎士団と合流したときは酷かったんだよ。あんた達が戻ったときにはあのテンションだったけど、私らに声をかけて来たときには切羽詰まった感じでさ。別れたときからさらにケガ人が増えているし。ミュリアったら、私が止めたのに治療しちゃって」
「で、でもテスタ姉さま、ケガは辛いのですよ。それに時間が経つほどに治癒の魔法は効きが悪くなります。治療は手早く行うのがいいのです」
「それは余裕があるときの話だろ。目の前にヤバそうな砦があって、今まさに勇者達がそこに突入したんだよ? 勇者やダスターさんが大ケガして戻って来て、治療に使う魔力が足りなかったらどうするのさ? それに治癒の魔法はわずかだけど一度使ったら循環の間が必要なんだろ? 一瞬の遅延で仲間が助からなかったら一番傷つくのはミュリアなんだよ?」
どうやら傷だらけだった騎士達を治療して回ったらしい聖女にモンクが説教をしている。
まぁモンクの言うことはいちいちもっともなので、誰も聖女を庇うことが出来ない。
「でも、でもですね。わたくしだって考えているのです。大量の魔力と循環停滞を起こす全体治癒は使わずに一人一人に消費が少なくて間も短い単発の治癒魔法を使ったのですよ」
「それはむしろ全体治癒よりも魔力を余分に消費したんじゃないか?」
聖女の言い訳に、今度は勇者がツッコミを入れる。
まぁ勇者は自分は治癒魔法は使えないが、魔法についてはエキスパートだから詳しいんだろうな。
でもな、それはいくらなんでも気の毒だろ。
二人から責められたら、さすがに聖女さまも落ち込むぞ。
「ゆ、勇者さま、確かに……そう、なんですけど」
あ、ほら、昔みたいに言葉がうまく出なくなってるじゃねえか。
俺は聖女に見えない角度から勇者のケツを蹴っ飛ばした。
「イタッ! 師匠、何を?」
『な・ぐ・さ・め・ろ』
俺は指を使った合図を組み合わせて勇者に指示を出した。
言われて、ハッとした勇者は、すっかりしょげてしまった聖女を見て急にオロオロし出す。
お前いつも勢いだけでものを言うからそういうことになるんだよ。
「コホン、あー、でもミュリアのおかげで騎士たちが元気になったのは助かった。砦には戦える人間がほとんど残っていないからな。あの連中まで使えなくなってたら砦主がつぶれるところだったぞ」
薄情にも面倒そうな大公国のお偉いさんを押し付けて来た奴の言うことではないな。
「砦のほうはそれほど大変なことに?」
聖女は自分のことはさておき、今度は砦の人達が気になりだしたらしい。
さすが聖女と言うべきか、慈愛にあふれているよなぁ。
「う……まぁな。だが、下手人はもう捕らえて、奥のほうで頑張ってた連中も助け出したから、後は事務方の仕事だけだ。すぐにあの連中も元気になるさ」
「それならよかったです」
勇者の説明に、聖女はホッとしたようだった。
さっきまで自分のことで落ち込んでいたのは既に忘れたらしい。
まぁよかった……のかな?
「魔物がどうして森からあふれ出したかはわかったが、さてさて、アルフどうする?」
「どうするとは? 師匠」
俺の言葉に勇者が首をかしげる。
「お前もともとはこの戦を止めるためにここまで来たんだろ? だけどここに来て、別の問題も出て来た。とりあえず砦の連中は鎮圧したから大公国の策の一つは止めた訳だが、これからどう動くつもりだ?」
「基本の方針は変わらないぞ。アンデル王を助ける。大公国のなんとかいう家の奴の悪事を暴いて突きつける。タシテは……まぁ知ってて加担したのかどうか問い詰めるか?」
「俺に聞くな、貴族同士の話なんざ俺にわかるか。……で、手段は?」
「む?」
俺の問いに勇者が不思議そうな顔をする。
「む? じゃねえよ! やりたいことはわかったが、具体的にどうすんだよ。前にも同じことを話したが、アンデルの王都に行くのか、その大公国のなんとか家に乗り込むのかってことだよ」
「なにか堂々巡りをしているような気がして来た」
「問題の先送りをしただけで解決してないからな」
「いえ、少し進展はありましたよ」
俺と勇者のしょうもない言い合いに聖騎士が口を挟んだ。
おお、頼りになるな。
「進展というと?」
「砦を占拠していた者達への尋問によって、彼らの行おうとしていた作戦が判明したことです。大公国とタシテの連合軍がどれぐらいこっちからの別動隊を当てにしていたかわかりませんが、本来は挟撃を考えていたのですから、彼らはなりふりかまわずに短期に戦を決着したいという考えなのでしょう。作物が不作であったということなので、出来るだけ無傷で収穫物を接収したいということですね」
「せっかく金になる魔物を倒しても傷だらけじゃ価値がなくなってしまうみたいなもんか」
俺は冒険者なりの感覚で聖騎士の言うことを理解した。
「なら、バカ共に一泡ふかせてやるか」
勇者が悪い笑みを浮かべる。
お前最近そういう顔ばっかりしているが、大丈夫か? 勇者の人相が悪くなったら子どもががっかりするぞ。
「で、でもテスタ姉さま、ケガは辛いのですよ。それに時間が経つほどに治癒の魔法は効きが悪くなります。治療は手早く行うのがいいのです」
「それは余裕があるときの話だろ。目の前にヤバそうな砦があって、今まさに勇者達がそこに突入したんだよ? 勇者やダスターさんが大ケガして戻って来て、治療に使う魔力が足りなかったらどうするのさ? それに治癒の魔法はわずかだけど一度使ったら循環の間が必要なんだろ? 一瞬の遅延で仲間が助からなかったら一番傷つくのはミュリアなんだよ?」
どうやら傷だらけだった騎士達を治療して回ったらしい聖女にモンクが説教をしている。
まぁモンクの言うことはいちいちもっともなので、誰も聖女を庇うことが出来ない。
「でも、でもですね。わたくしだって考えているのです。大量の魔力と循環停滞を起こす全体治癒は使わずに一人一人に消費が少なくて間も短い単発の治癒魔法を使ったのですよ」
「それはむしろ全体治癒よりも魔力を余分に消費したんじゃないか?」
聖女の言い訳に、今度は勇者がツッコミを入れる。
まぁ勇者は自分は治癒魔法は使えないが、魔法についてはエキスパートだから詳しいんだろうな。
でもな、それはいくらなんでも気の毒だろ。
二人から責められたら、さすがに聖女さまも落ち込むぞ。
「ゆ、勇者さま、確かに……そう、なんですけど」
あ、ほら、昔みたいに言葉がうまく出なくなってるじゃねえか。
俺は聖女に見えない角度から勇者のケツを蹴っ飛ばした。
「イタッ! 師匠、何を?」
『な・ぐ・さ・め・ろ』
俺は指を使った合図を組み合わせて勇者に指示を出した。
言われて、ハッとした勇者は、すっかりしょげてしまった聖女を見て急にオロオロし出す。
お前いつも勢いだけでものを言うからそういうことになるんだよ。
「コホン、あー、でもミュリアのおかげで騎士たちが元気になったのは助かった。砦には戦える人間がほとんど残っていないからな。あの連中まで使えなくなってたら砦主がつぶれるところだったぞ」
薄情にも面倒そうな大公国のお偉いさんを押し付けて来た奴の言うことではないな。
「砦のほうはそれほど大変なことに?」
聖女は自分のことはさておき、今度は砦の人達が気になりだしたらしい。
さすが聖女と言うべきか、慈愛にあふれているよなぁ。
「う……まぁな。だが、下手人はもう捕らえて、奥のほうで頑張ってた連中も助け出したから、後は事務方の仕事だけだ。すぐにあの連中も元気になるさ」
「それならよかったです」
勇者の説明に、聖女はホッとしたようだった。
さっきまで自分のことで落ち込んでいたのは既に忘れたらしい。
まぁよかった……のかな?
「魔物がどうして森からあふれ出したかはわかったが、さてさて、アルフどうする?」
「どうするとは? 師匠」
俺の言葉に勇者が首をかしげる。
「お前もともとはこの戦を止めるためにここまで来たんだろ? だけどここに来て、別の問題も出て来た。とりあえず砦の連中は鎮圧したから大公国の策の一つは止めた訳だが、これからどう動くつもりだ?」
「基本の方針は変わらないぞ。アンデル王を助ける。大公国のなんとかいう家の奴の悪事を暴いて突きつける。タシテは……まぁ知ってて加担したのかどうか問い詰めるか?」
「俺に聞くな、貴族同士の話なんざ俺にわかるか。……で、手段は?」
「む?」
俺の問いに勇者が不思議そうな顔をする。
「む? じゃねえよ! やりたいことはわかったが、具体的にどうすんだよ。前にも同じことを話したが、アンデルの王都に行くのか、その大公国のなんとか家に乗り込むのかってことだよ」
「なにか堂々巡りをしているような気がして来た」
「問題の先送りをしただけで解決してないからな」
「いえ、少し進展はありましたよ」
俺と勇者のしょうもない言い合いに聖騎士が口を挟んだ。
おお、頼りになるな。
「進展というと?」
「砦を占拠していた者達への尋問によって、彼らの行おうとしていた作戦が判明したことです。大公国とタシテの連合軍がどれぐらいこっちからの別動隊を当てにしていたかわかりませんが、本来は挟撃を考えていたのですから、彼らはなりふりかまわずに短期に戦を決着したいという考えなのでしょう。作物が不作であったということなので、出来るだけ無傷で収穫物を接収したいということですね」
「せっかく金になる魔物を倒しても傷だらけじゃ価値がなくなってしまうみたいなもんか」
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