456 / 885
第六章 その祈り、届かなくとも……
561 運命を動かすのは人の決断
しおりを挟む
「それで、師匠たちには……」
「わかった。みなまで言うな。付き合おう」
「え? いや、師匠たちには安全なところで……これは俺の」
「お前、忘れてないか?」
「へ?」
「大公国の英雄殿の聖なるコインとやらは俺が預かっているんだが」
「あっ!」
「必要になるとは思わないか?」
以前ディスタス大公国の英雄と呼ばれているらしい男と知り合い、そのときの縁で、持つ者の身元をその英雄が保証するという聖なるコインとやらを俺が受け取ったのだ。
その後森のなかで人さらいを行っていた悪人共を捕まえたときに、地元の兵士に対して俺たちの身元を保証するときに使ったきりですっかり忘れていたが、今回の問題の根本となるものをあぶり出すには絶対に必要となる。
俺はそう確信していた。
「……師匠はズルい」
「はぁ?」
「いつもは俺を突き放すくせに、俺が決意を固めたときに助けてくれようとする。そういうのはズルい」
「弟子が困ったときには手を貸すのが師匠というもんだろ。まぁうちの師匠は逆だったけどな」
我が師匠イルハスのことを思い出してしまい、俺は少し顔をゆがめた。
あの人には特に女性関係で面倒ばかりかけられたものだ。
俺が今まで女っけがなかったのはあの人のせいだからな。
まぁ……。
俺はメルリルを思い浮かべた。
そのおかげで彼女に出会えたのなら、師匠に感謝するべきなのかもしれないが。
いやいや、変な考えに至ろうとした自分を心のなかで叱咤する。
あの師匠は困った人だ。
あれを受け入れて俺がそれに倣ってしまったらきっとメルリルに嫌われてしまう。
それだけはゴメンだ。
「ガフン」『僕はどこでもいいぞ。出来れば面白そうなところがいいな。戦争って楽しい?』
「お前は黙ってろと言ったよな……」
勇者がマント留めにくっついている若葉をつまみ上げると剣の鞘の先をカチリと開いてそこに放り込んだ。
「ウウ~!」『何するんだ! こんなところ……ん? 出れない!』
「そこでしばらく反省してろ。歴代勇者の霊力の籠った勇者の剣の封印が破れるかな? まぁ破ったら破ったでお前とは絶交だがな」
「フグッ?」『ぜっこうとは何だ?』
「口を利かないし目も合わせないことだ」
「キュルル」『ううぬ、わかったおとなしくしている。ここも慣れれば気分がいい寝床だし』
「こいつ歴代勇者の封印を気持ちいいとか言いやがって」
面倒事を起こしそうな若葉を勇者が閉じ込めることに成功したようだ。
とは言え、若葉のいいようではちょっと大変だが、頑張れば好きに出れそうな感じだが。
しかし、剣の鞘に歴代勇者の封印がかかっている物入れのような部分があるとは。
はっ! もしかしてこれって俺が知っちゃダメなことなんじゃ?
嫌なことに思い至って再び冷や汗をたらしたのだった。
「若葉とじゃれ合うのはほどほどにして具体的な方針を決めよう」
「俺は真剣だ。じゃれてなんかいないぞ!」
「そんなことを言っていると、いつの間にかなし崩し的に仲間にしてしまっているんだぞ。拒絶するつもりならもっときっちりしないとな」
うちの青い某鳥みたいにな!
「……はっきりと拒絶したときに周囲及ぼすかもしれない被害を思うと……」
「ああうん。俺が悪かった。そうだよな。お前一人が我慢すればいいんだ。尊い決意だ。さすがは勇者だな」
「さらっと俺に若葉を押し付ける流れにしないでくれ! 師匠だって当事者じゃないか!」
「いいか、俺はフォルテで手一杯だ。若葉の面倒はみない」
「うぬぬっ」
「ほらほら二人共、ロジクルス殿が困っているぞ」
俺たちの不毛なやりとりを、本来関係ないはずの学者先生が止めてくれた。
聖騎士はむしろ楽しそうに見守っている感じだぞ?
「私はこれで失礼するよ。担当の事務方に届け出をする必要があるのでね。あまり部外者が聞いていてはマズいこともあるだろう。ああ、もちろん、私は謁見の後すぐに別れたので君たちの話は聞いてないよ?」
「お気遣いいただきありがとうございます」
学者先生に礼をする。
「私も戦争は嫌いだよ。大切な研究が滞るし、大切な環境が荒らされて失われるものがたくさん出て来る。君たちの健闘を祈っているよ。……おおっと、勇者は政には関わらないんだったな。失言失言」
学者先生はハッハッハッと楽しそうに笑いながら部屋を後にした。
俺たちは扉が閉まってもしばらくその背に感謝の姿勢を向け続けたのだった。
「師匠、この後……」
「あ、待て。ああは言ったが今後の方針はここでは決めないほうがいいだろう。ミュリアとメルリルとテスタもいないことだし」
「わかった。確かに城だと話した内容が筒抜けになる可能性もあるからな」
マジか?
何か魔法的な仕掛けとかがあるのか?
ということは今までの会話もマズかったんじゃ?
「今この場は一応俺の影響で変な魔法は働かないはずだが、魔法だけ警戒していればいいということでもないから」
俺の疑問に気づいて勇者が説明する。
魔法以外にも会話を聞く方法があるのか。
王城こええな。
遅まきながら俺はこの城のなかでは余計なことは言わないようにしようと心に誓ったのであった。
「わかった。みなまで言うな。付き合おう」
「え? いや、師匠たちには安全なところで……これは俺の」
「お前、忘れてないか?」
「へ?」
「大公国の英雄殿の聖なるコインとやらは俺が預かっているんだが」
「あっ!」
「必要になるとは思わないか?」
以前ディスタス大公国の英雄と呼ばれているらしい男と知り合い、そのときの縁で、持つ者の身元をその英雄が保証するという聖なるコインとやらを俺が受け取ったのだ。
その後森のなかで人さらいを行っていた悪人共を捕まえたときに、地元の兵士に対して俺たちの身元を保証するときに使ったきりですっかり忘れていたが、今回の問題の根本となるものをあぶり出すには絶対に必要となる。
俺はそう確信していた。
「……師匠はズルい」
「はぁ?」
「いつもは俺を突き放すくせに、俺が決意を固めたときに助けてくれようとする。そういうのはズルい」
「弟子が困ったときには手を貸すのが師匠というもんだろ。まぁうちの師匠は逆だったけどな」
我が師匠イルハスのことを思い出してしまい、俺は少し顔をゆがめた。
あの人には特に女性関係で面倒ばかりかけられたものだ。
俺が今まで女っけがなかったのはあの人のせいだからな。
まぁ……。
俺はメルリルを思い浮かべた。
そのおかげで彼女に出会えたのなら、師匠に感謝するべきなのかもしれないが。
いやいや、変な考えに至ろうとした自分を心のなかで叱咤する。
あの師匠は困った人だ。
あれを受け入れて俺がそれに倣ってしまったらきっとメルリルに嫌われてしまう。
それだけはゴメンだ。
「ガフン」『僕はどこでもいいぞ。出来れば面白そうなところがいいな。戦争って楽しい?』
「お前は黙ってろと言ったよな……」
勇者がマント留めにくっついている若葉をつまみ上げると剣の鞘の先をカチリと開いてそこに放り込んだ。
「ウウ~!」『何するんだ! こんなところ……ん? 出れない!』
「そこでしばらく反省してろ。歴代勇者の霊力の籠った勇者の剣の封印が破れるかな? まぁ破ったら破ったでお前とは絶交だがな」
「フグッ?」『ぜっこうとは何だ?』
「口を利かないし目も合わせないことだ」
「キュルル」『ううぬ、わかったおとなしくしている。ここも慣れれば気分がいい寝床だし』
「こいつ歴代勇者の封印を気持ちいいとか言いやがって」
面倒事を起こしそうな若葉を勇者が閉じ込めることに成功したようだ。
とは言え、若葉のいいようではちょっと大変だが、頑張れば好きに出れそうな感じだが。
しかし、剣の鞘に歴代勇者の封印がかかっている物入れのような部分があるとは。
はっ! もしかしてこれって俺が知っちゃダメなことなんじゃ?
嫌なことに思い至って再び冷や汗をたらしたのだった。
「若葉とじゃれ合うのはほどほどにして具体的な方針を決めよう」
「俺は真剣だ。じゃれてなんかいないぞ!」
「そんなことを言っていると、いつの間にかなし崩し的に仲間にしてしまっているんだぞ。拒絶するつもりならもっときっちりしないとな」
うちの青い某鳥みたいにな!
「……はっきりと拒絶したときに周囲及ぼすかもしれない被害を思うと……」
「ああうん。俺が悪かった。そうだよな。お前一人が我慢すればいいんだ。尊い決意だ。さすがは勇者だな」
「さらっと俺に若葉を押し付ける流れにしないでくれ! 師匠だって当事者じゃないか!」
「いいか、俺はフォルテで手一杯だ。若葉の面倒はみない」
「うぬぬっ」
「ほらほら二人共、ロジクルス殿が困っているぞ」
俺たちの不毛なやりとりを、本来関係ないはずの学者先生が止めてくれた。
聖騎士はむしろ楽しそうに見守っている感じだぞ?
「私はこれで失礼するよ。担当の事務方に届け出をする必要があるのでね。あまり部外者が聞いていてはマズいこともあるだろう。ああ、もちろん、私は謁見の後すぐに別れたので君たちの話は聞いてないよ?」
「お気遣いいただきありがとうございます」
学者先生に礼をする。
「私も戦争は嫌いだよ。大切な研究が滞るし、大切な環境が荒らされて失われるものがたくさん出て来る。君たちの健闘を祈っているよ。……おおっと、勇者は政には関わらないんだったな。失言失言」
学者先生はハッハッハッと楽しそうに笑いながら部屋を後にした。
俺たちは扉が閉まってもしばらくその背に感謝の姿勢を向け続けたのだった。
「師匠、この後……」
「あ、待て。ああは言ったが今後の方針はここでは決めないほうがいいだろう。ミュリアとメルリルとテスタもいないことだし」
「わかった。確かに城だと話した内容が筒抜けになる可能性もあるからな」
マジか?
何か魔法的な仕掛けとかがあるのか?
ということは今までの会話もマズかったんじゃ?
「今この場は一応俺の影響で変な魔法は働かないはずだが、魔法だけ警戒していればいいということでもないから」
俺の疑問に気づいて勇者が説明する。
魔法以外にも会話を聞く方法があるのか。
王城こええな。
遅まきながら俺はこの城のなかでは余計なことは言わないようにしようと心に誓ったのであった。
21
お気に入りに追加
9,275
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい
増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。
目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた
3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ
いくらなんでもこれはおかしいだろ!

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ
柚木 潤
ファンタジー
薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。
そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。
舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。
舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。
以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・
「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。
主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。
前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。
また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。
以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。