勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第六章 その祈り、届かなくとも……

561 運命を動かすのは人の決断

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「それで、師匠たちには……」
「わかった。みなまで言うな。付き合おう」
「え? いや、師匠たちには安全なところで……これは俺の」
「お前、忘れてないか?」
「へ?」
「大公国の英雄殿の聖なるコインとやらは俺が預かっているんだが」
「あっ!」
「必要になるとは思わないか?」

 以前ディスタス大公国の英雄と呼ばれているらしい男と知り合い、そのときの縁で、持つ者の身元をその英雄が保証するという聖なるコインとやらを俺が受け取ったのだ。
 その後森のなかで人さらいを行っていた悪人共を捕まえたときに、地元の兵士に対して俺たちの身元を保証するときに使ったきりですっかり忘れていたが、今回の問題の根本となるものをあぶり出すには絶対に必要となる。
 俺はそう確信していた。

「……師匠はズルい」
「はぁ?」
「いつもは俺を突き放すくせに、俺が決意を固めたときに助けてくれようとする。そういうのはズルい」
「弟子が困ったときには手を貸すのが師匠というもんだろ。まぁうちの師匠は逆だったけどな」

 我が師匠イルハスのことを思い出してしまい、俺は少し顔をゆがめた。
 あの人には特に女性関係で面倒ばかりかけられたものだ。
 俺が今まで女っけがなかったのはあの人のせいだからな。

 まぁ……。
 俺はメルリルを思い浮かべた。
 そのおかげで彼女に出会えたのなら、師匠に感謝するべきなのかもしれないが。

 いやいや、変な考えに至ろうとした自分を心のなかで叱咤する。
 あの師匠は困った人だ。
 あれを受け入れて俺がそれに倣ってしまったらきっとメルリルに嫌われてしまう。
 それだけはゴメンだ。

「ガフン」『僕はどこでもいいぞ。出来れば面白そうなところがいいな。戦争って楽しい?』
「お前は黙ってろと言ったよな……」

 勇者がマント留めにくっついている若葉をつまみ上げると剣の鞘の先をカチリと開いてそこに放り込んだ。

「ウウ~!」『何するんだ! こんなところ……ん? 出れない!』
「そこでしばらく反省してろ。歴代勇者の霊力の籠った勇者の剣の封印が破れるかな? まぁ破ったら破ったでお前とは絶交だがな」
「フグッ?」『ぜっこうとは何だ?』
「口を利かないし目も合わせないことだ」
「キュルル」『ううぬ、わかったおとなしくしている。ここも慣れれば気分がいい寝床だし』
「こいつ歴代勇者の封印を気持ちいいとか言いやがって」

 面倒事を起こしそうな若葉を勇者が閉じ込めることに成功したようだ。
 とは言え、若葉のいいようではちょっと大変だが、頑張れば好きに出れそうな感じだが。
 しかし、剣の鞘に歴代勇者の封印がかかっている物入れのような部分があるとは。

 はっ! もしかしてこれって俺が知っちゃダメなことなんじゃ?
 嫌なことに思い至って再び冷や汗をたらしたのだった。

「若葉とじゃれ合うのはほどほどにして具体的な方針を決めよう」
「俺は真剣だ。じゃれてなんかいないぞ!」
「そんなことを言っていると、いつの間にかなし崩し的に仲間にしてしまっているんだぞ。拒絶するつもりならもっときっちりしないとな」

 うちの青い某鳥みたいにな!

「……はっきりと拒絶したときに周囲及ぼすかもしれない被害を思うと……」
「ああうん。俺が悪かった。そうだよな。お前一人が我慢すればいいんだ。尊い決意だ。さすがは勇者だな」
「さらっと俺に若葉を押し付ける流れにしないでくれ! 師匠だって当事者じゃないか!」
「いいか、俺はフォルテで手一杯だ。若葉の面倒はみない」
「うぬぬっ」
「ほらほら二人共、ロジクルス殿が困っているぞ」

 俺たちの不毛なやりとりを、本来関係ないはずの学者先生が止めてくれた。
 聖騎士はむしろ楽しそうに見守っている感じだぞ?

「私はこれで失礼するよ。担当の事務方に届け出をする必要があるのでね。あまり部外者が聞いていてはマズいこともあるだろう。ああ、もちろん、私は謁見の後すぐに別れたので君たちの話は聞いてないよ?」
「お気遣いいただきありがとうございます」

 学者先生に礼をする。

「私も戦争は嫌いだよ。大切な研究が滞るし、大切な環境が荒らされて失われるものがたくさん出て来る。君たちの健闘を祈っているよ。……おおっと、勇者はまつりごとには関わらないんだったな。失言失言」

 学者先生はハッハッハッと楽しそうに笑いながら部屋を後にした。
 俺たちは扉が閉まってもしばらくその背に感謝の姿勢を向け続けたのだった。

「師匠、この後……」
「あ、待て。ああは言ったが今後の方針はここでは決めないほうがいいだろう。ミュリアとメルリルとテスタもいないことだし」
「わかった。確かに城だと話した内容が筒抜けになる可能性もあるからな」

 マジか?
 何か魔法的な仕掛けとかがあるのか?
 ということは今までの会話もマズかったんじゃ?

「今この場は一応俺の影響で変な魔法は働かないはずだが、魔法だけ警戒していればいいということでもないから」

 俺の疑問に気づいて勇者が説明する。
 魔法以外にも会話を聞く方法があるのか。
 王城こええな。

 遅まきながら俺はこの城のなかでは余計なことは言わないようにしようと心に誓ったのであった。
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