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第五章 破滅を招くもの
432 山を斬る
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「そんなにデカいのか?」
「途方もないぞ」
「そもそも山はどのくらいの大きさなのですか?」
「雲に隠れててっぺんが見えない」
勇者や聖騎士たちと情報を交換する。
正直、山肌がテラテラと光ってズルズルと動いたのを見たときには一瞬頭がくらっとしたぞ。
あれとどうやって戦えばいいんだ?
「それはあれだな。俺たちが小さな虫で北の邪神が人間サイズということか。下手すると陽動どころか攻撃に気づいてさえもらえないとかいうふざけた状態になりかねないな」
勇者が眉をひそめた。
勇者はさすがに前向きだな。
どうやったら戦いになるのかを考えているようだ。
「ならば少しずつ削っても意味がありませんね。勇者様の魔法と、お師匠様の剣技が頼りということになりそうです」
「へ?」
聖女の言葉に一瞬惚ける。
なんで俺の剣技?
「もしかして俺の「断絶の剣」で斬れると思っているのか?」
「違うのですか?」
聖女が信頼の籠もった目で俺を見ている。
気づくと、ほかの連中も同じような顔を俺に向けていることに気づく。
いやいや。
「期待させて悪いんだが、あの技は相手の抵抗が大きいと発動しない。魔物の場合は魔力が少ないか、放出系の魔物は斬りやすいが、見た感じ邪神殿は全身に強大な魔力を纏っているようだ。かなり弱らせてからじゃないと刃は通らないだろう」
「ということは邪神を弱らせるのが俺の役割ということか」
俺の説明に、なぜか勇者が納得したようにうなずく。
「ちょっと待て。俺はお前の力にこそ期待しているんだぞ。俺がトドメを刺せるとか考えるな。確か勇者には大物殺しの能力があるはずだよな」
「ああ、敵が強大であればあるほど魔法の効果が上がるのが勇者の紋章の力だ。だが、ドラゴンのときにはあまり効き目がなかったからな」
「そりゃあドラゴンだからな」
「師匠、そいつは神を名乗るような魔物なんだろう? それならドラゴン並と考えたほうがいい。俺の攻撃が決定打にならない可能性がある。もちろん、今なら俺だってドラゴンの一匹ぐらい倒す自信はあるけどな」
そりゃあ凄い自信だな。
というかドラゴンが倒せるならあの邪神も倒せるんじゃないか?
「だが、師匠の魔技はかなり特殊だ。あれには殺気がない。魔物も人間もおよそ戦うときには殺気に反応するものだ。能力が高い奴ほど無意識に殺気に対応する。だからこそ、戦いが激しいときほど、敵が師匠の技に対応するには一瞬対応が遅れる。と、思う」
「そんなもんかな?」
殺気がないと言われて、俺は自分の使う技について考えてみた。
そう言えば、俺はあの技を師匠から教わってからこっち、切断することしか考えていなかったような気がする。
そもそも師匠の教えが、『剣で斬るな、心で斬れ! 最初から二つだったように線を入れて切り分けるんだ!』などという感じだったから、戦うとか攻撃するとか考えたこともなかった。
斬ること、いや、切り分けることしか考えていなかったのだ。
「心の空隙に滑り込むということですね」
聖騎士が感心したように言った。
「ん? どういうことだ?」
「対人戦で効果的な技に『空』というものがあるのですが、これは瞬時に殺気を消し去り、相手の意識から消えたように見せかけて攻撃する技なのです。相手は本当に自分の目の前から敵が一瞬消えたように感じるらしいですよ」
「そんな技があるのか」
「むしろ対人の場合はそのような技が基本ですね。魔物との戦いと違って、対人の戦いは駆け引きです。言い方は悪いですが、いかに相手を騙すかというのが対人剣の真骨頂とも言えるでしょう」
「……対人剣、か」
俺は少し考え込む。
この巨大な魔物であり神と呼ばれるモノは、噂を聞くだけでかなりの知性を持っていることがわかる。
ならば、聖騎士の言っているように、力と力の駆け引きよりも、知恵比べに近い戦いになるのかもしれない。
「相手が巨大な魔物という目に見える部分にばかりこだわるのは愚かなことかもしれないな」
「まぁ目に見える部分も大事だけどな。やっぱり大きいってことはそれだけ有利だし」
俺の呟きに勇者がそう返す。
「それは間違いないな。やつが尻尾を一振りしただけでも俺は死ぬだろう」
「そんなことはさせません!」
「死ぬとか言わないで!」
聖女とメルリルから怒られた。
なんでだ?
「いや、今は戦いを想定して、倒す方法を探っているだけだからな?」
「それでも駄目。言葉は物事を引き寄せる鍵になることがあるから」
メルリルが真剣な顔で言った。
「……そうか。気をつける」
「それにわたくしがついているのですから、誰も死なせはしません!」
聖女も鼻息荒く言い切った。
「お、おう」
「そうそう言葉には気をつけないとな」
「お前が言うのか?」
考えなしにものを言う代表のような勇者に言われて、俺はさすがに反論した。
「俺はいつだって前向きだぞ! 真の勇者になるんだから」
「ムム……そうだな。少し相手の大きさにビビりすぎてたようだ。どっちにしろやるしかないんだ。倒せないまでも、あの山から動けないような状態にしないとな」
「え? 倒せばいいだろ?」
「う~ん、お前のその楽観的なところは嫌いじゃないんだけどなぁ。無茶と勇気は違うんだぞ」
そんなことを言い合っている間にフォルテが天守山を一周して帰路についたようだ。
この分だと戻って来るのは夜かな?
「さて、少し残念な話をしなければならない」
「ん?」
全員が不思議そうに俺を見た。
「何の準備もなしに今回出立したので、今日はもう干し豆と干し肉少しと水しかない。海岸に戻るまで後二日。かなりわびしい食事になるぞ」
俺の言葉に勇者の顔がみるみる真っ青になる。
「そんな、師匠。俺、死んでしまうぞ」
「弱音は吐かないんだろ?」
勇者だけでなく、全員が大きなショックを受けていた。
やっぱり食べ物は大事だよなぁ。
「途方もないぞ」
「そもそも山はどのくらいの大きさなのですか?」
「雲に隠れててっぺんが見えない」
勇者や聖騎士たちと情報を交換する。
正直、山肌がテラテラと光ってズルズルと動いたのを見たときには一瞬頭がくらっとしたぞ。
あれとどうやって戦えばいいんだ?
「それはあれだな。俺たちが小さな虫で北の邪神が人間サイズということか。下手すると陽動どころか攻撃に気づいてさえもらえないとかいうふざけた状態になりかねないな」
勇者が眉をひそめた。
勇者はさすがに前向きだな。
どうやったら戦いになるのかを考えているようだ。
「ならば少しずつ削っても意味がありませんね。勇者様の魔法と、お師匠様の剣技が頼りということになりそうです」
「へ?」
聖女の言葉に一瞬惚ける。
なんで俺の剣技?
「もしかして俺の「断絶の剣」で斬れると思っているのか?」
「違うのですか?」
聖女が信頼の籠もった目で俺を見ている。
気づくと、ほかの連中も同じような顔を俺に向けていることに気づく。
いやいや。
「期待させて悪いんだが、あの技は相手の抵抗が大きいと発動しない。魔物の場合は魔力が少ないか、放出系の魔物は斬りやすいが、見た感じ邪神殿は全身に強大な魔力を纏っているようだ。かなり弱らせてからじゃないと刃は通らないだろう」
「ということは邪神を弱らせるのが俺の役割ということか」
俺の説明に、なぜか勇者が納得したようにうなずく。
「ちょっと待て。俺はお前の力にこそ期待しているんだぞ。俺がトドメを刺せるとか考えるな。確か勇者には大物殺しの能力があるはずだよな」
「ああ、敵が強大であればあるほど魔法の効果が上がるのが勇者の紋章の力だ。だが、ドラゴンのときにはあまり効き目がなかったからな」
「そりゃあドラゴンだからな」
「師匠、そいつは神を名乗るような魔物なんだろう? それならドラゴン並と考えたほうがいい。俺の攻撃が決定打にならない可能性がある。もちろん、今なら俺だってドラゴンの一匹ぐらい倒す自信はあるけどな」
そりゃあ凄い自信だな。
というかドラゴンが倒せるならあの邪神も倒せるんじゃないか?
「だが、師匠の魔技はかなり特殊だ。あれには殺気がない。魔物も人間もおよそ戦うときには殺気に反応するものだ。能力が高い奴ほど無意識に殺気に対応する。だからこそ、戦いが激しいときほど、敵が師匠の技に対応するには一瞬対応が遅れる。と、思う」
「そんなもんかな?」
殺気がないと言われて、俺は自分の使う技について考えてみた。
そう言えば、俺はあの技を師匠から教わってからこっち、切断することしか考えていなかったような気がする。
そもそも師匠の教えが、『剣で斬るな、心で斬れ! 最初から二つだったように線を入れて切り分けるんだ!』などという感じだったから、戦うとか攻撃するとか考えたこともなかった。
斬ること、いや、切り分けることしか考えていなかったのだ。
「心の空隙に滑り込むということですね」
聖騎士が感心したように言った。
「ん? どういうことだ?」
「対人戦で効果的な技に『空』というものがあるのですが、これは瞬時に殺気を消し去り、相手の意識から消えたように見せかけて攻撃する技なのです。相手は本当に自分の目の前から敵が一瞬消えたように感じるらしいですよ」
「そんな技があるのか」
「むしろ対人の場合はそのような技が基本ですね。魔物との戦いと違って、対人の戦いは駆け引きです。言い方は悪いですが、いかに相手を騙すかというのが対人剣の真骨頂とも言えるでしょう」
「……対人剣、か」
俺は少し考え込む。
この巨大な魔物であり神と呼ばれるモノは、噂を聞くだけでかなりの知性を持っていることがわかる。
ならば、聖騎士の言っているように、力と力の駆け引きよりも、知恵比べに近い戦いになるのかもしれない。
「相手が巨大な魔物という目に見える部分にばかりこだわるのは愚かなことかもしれないな」
「まぁ目に見える部分も大事だけどな。やっぱり大きいってことはそれだけ有利だし」
俺の呟きに勇者がそう返す。
「それは間違いないな。やつが尻尾を一振りしただけでも俺は死ぬだろう」
「そんなことはさせません!」
「死ぬとか言わないで!」
聖女とメルリルから怒られた。
なんでだ?
「いや、今は戦いを想定して、倒す方法を探っているだけだからな?」
「それでも駄目。言葉は物事を引き寄せる鍵になることがあるから」
メルリルが真剣な顔で言った。
「……そうか。気をつける」
「それにわたくしがついているのですから、誰も死なせはしません!」
聖女も鼻息荒く言い切った。
「お、おう」
「そうそう言葉には気をつけないとな」
「お前が言うのか?」
考えなしにものを言う代表のような勇者に言われて、俺はさすがに反論した。
「俺はいつだって前向きだぞ! 真の勇者になるんだから」
「ムム……そうだな。少し相手の大きさにビビりすぎてたようだ。どっちにしろやるしかないんだ。倒せないまでも、あの山から動けないような状態にしないとな」
「え? 倒せばいいだろ?」
「う~ん、お前のその楽観的なところは嫌いじゃないんだけどなぁ。無茶と勇気は違うんだぞ」
そんなことを言い合っている間にフォルテが天守山を一周して帰路についたようだ。
この分だと戻って来るのは夜かな?
「さて、少し残念な話をしなければならない」
「ん?」
全員が不思議そうに俺を見た。
「何の準備もなしに今回出立したので、今日はもう干し豆と干し肉少しと水しかない。海岸に戻るまで後二日。かなりわびしい食事になるぞ」
俺の言葉に勇者の顔がみるみる真っ青になる。
「そんな、師匠。俺、死んでしまうぞ」
「弱音は吐かないんだろ?」
勇者だけでなく、全員が大きなショックを受けていた。
やっぱり食べ物は大事だよなぁ。
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