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第五章 破滅を招くもの
431 天守山に棲むモノ
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とりあえず、当初の予定通りフォルテを目的地まで飛ばす。
まずは道を見つけて天守山へのルートを確認する必要がある。
「師匠、ここから出ないのか?」
今いる場所は洞窟というよりもただの亀裂であり、幅もあまり広くないので居心地が悪く、勇者がみじろぎしながら聞いて来た。
「今ここから出ると、現地の人間に発見されかねない。そうなると作戦自体が駄目になる。とりあえずフォルテに飛んでもらってルートを確認するという当初の予定を消化するつもりだ」
何も言わないで待機させるのも酷なので、これからのことを説明する。
「師匠、マジで言ってるのか? もしかして帰りに来た道を戻るつもりか?」
「……まぁそれしかないだろう」
「無理だろ?」
勇者の指摘もわかる。
途中何度か崖のような斜面を滑り降りているし、あれを逆に登るとか、少なくとも聖女には無理だ。
「なんとか出来なくはない。ともあれあっちの少し広い場所に移動しよう」
「戻り方があるのか、さすが師匠」
勇者が無駄な感心をしているが、今回は体力に任せた方法だからな。
お前が大活躍だぞ?
そんなやりとりをしながらも、フォルテが上空から天杜の全景を見渡して行く。
ここから天守山方向へのルートは、街を横切って進むのが本道らしい。
だがそれをやると外国人の俺たちは見た目や言葉ですぐに怪しいことがわかってしまう。
しかし大回りをすると、農場などを横切りことになり、何もない場所を歩くことで目立ちまくる。
これはおもったよりも難物だぞ。
「こっそりと潜入は無理かもしれないな」
「と言うと?」
聖騎士が尋ねる。
「この国の地形がネックになりそうだ。小規模の丘はあるが、基本的にはほとんど平原で、山は目的地である天守山の周辺に密集している。途中まで丸見え状態になるんで、こっそり行くよりは堂々と行くほうが目立たない。しかし、そのためにはこの地に詳しい人間が必要だ」
「あの……」
メルリルが手を挙げた。
どうもこの国の習慣に染まって来たらしい。
「意見はどんどん出してくれ」
「ネスさんに力を借りてはどうかな?」
「彼女は魔力を持っているとは言え、一般人だぞ。さすがにそんな無茶はさせられないだろ」
「そう、だよね」
メルリルも自分の意見に自信があった訳ではないようだった。
とりあえず言ってみたという感じである。
「それならいっそのことウルスを使ったらどうだ? あいつなら商人なんだから外国人でもおかしくないし、俺たちが見掛けない人間でも変じゃないだろ」
今度は勇者からの発案である。
「ん~、あいつ、性格がこすいからつい雑に対応しちまうが、あれだって一般人だ。巻き込めないだろ?」
「いや、だってあいつ今回の戦争にどっぷり巻き込まれてるじゃないか」
勇者の指摘は間違いなかった。
南海との密約のようなものを交わさざるを得なくなってしまったウルスは、国の偉いさんに働きかけて南海に戦争協力をしているらしい。
まぁ半分脅されたようなもんだが。
しばし考える。
こればっかりは考えて答えが出ることでもない。
相手がいることだからだ。
いやでもなぁ。
今回の戦争に巻き込まれた件については俺は少しウルスに同情的だ。
あいつは身内と思っていた相手に裏切られて北方の国の研究所で化物にされるところだった。
そこから逃げ出したと思えば、今度は南海とアンリカ・デベッセの連合軍に脅されて戦争に協力させられることになったのだ。
俺たちがさらに利用しようというのは、あまりにも非道のように思える。
そうこうしている間に、フォルテがぐんぐんと天守山に近づいて行く。
途中に大小いくつもの街があったが、広々とした平原には畑は少なく動物が多い。
どうもこの国の主な産業は牧畜のようだった。
『クルルル……』
フォルテが強い警戒を意識に浮かべる。
天守山のずっと手前に広がる街が独特の結界を形作っていたのだ。
白壁に朱塗りの建物がその街全体に広がっていて、街全てがまるで一つの館のようにも見える。
いや、実際にそうなのかもしれない。
大きな城ではよくある形式だ。
その結界がある場所以外の天守山の裾野はほぼ垂直の断崖絶壁で取り付く島もない。
つまり入山するならその街を通る必要があるという訳だ。
「これは、厳しいな……っ! フォルテ!」
俺は山のほうから飛んできた悪意に反応して、フォルテに避けるように指示を出した。
天守山のほうから真っ黒な何かがフォルテめがけて空中を突進して来たのだ。
ぎりぎり躱したそれは、黒い鳥のようだった。
「ガーガー!」
体が真っ黒で目が赤い。
見たことのない種類の鳥だ。
魔物か? なんでまたフォルテを攻撃して来たのか。
普通の鳥じゃないからなわばりを荒らされると思われたのかもしれない。
と言うか、この鳥、あの天守山から飛んで来たように見えたぞ。
その真っ黒い鳥は続々と集まって来て、黒い雲のようになった。
このまま相手にするには危険すぎると判断した俺は、フォルテに最後に天守山の周りをぐるりと一回りするように指示して、離脱させる。
黒い鳥たちはフォルテが遠ざかるとそれ以上追って来なかった。
この山の北側は北冠に、西側は央国に接している。
鳥であるフォルテには国境は関係ないのでぐるりと大回りして国境を越えた。
北冠側は天守山の裾野になにやら砦のようなものを築いているようだった。
厳重な警戒が敷かれていて、ここにも結界がある。
魔力を使わないんじゃなかったのか? これって魔道具を使った結界に似ているぞ。
その砦にあまり近づかないように少し高めに飛翔したときだった。
天守山の壁面がズズズと動いたように見えたのだ。
「ん?」
地すべりか?
いや、地すべりにしては土埃が全く見えない。
まるで黒い地面そのものが動いているような……。
そこまで見て、俺は真っ青になった。
「ダスター!」
すぐ傍からメルリルの声が聞こえる。
はるか彼方の山肌に向けていた意識が、自分自身の体に戻った。
「邪神、か。……確かにとんでもない化物のようだ」
「師匠?」
「奴の体は山全体を覆っていた。山をまるで締め付けるようにとぐろを巻いていたんだ」
「へ? それってどういう」
「邪神の体は、山と同等か、それよりも巨大だということだ」
まずは道を見つけて天守山へのルートを確認する必要がある。
「師匠、ここから出ないのか?」
今いる場所は洞窟というよりもただの亀裂であり、幅もあまり広くないので居心地が悪く、勇者がみじろぎしながら聞いて来た。
「今ここから出ると、現地の人間に発見されかねない。そうなると作戦自体が駄目になる。とりあえずフォルテに飛んでもらってルートを確認するという当初の予定を消化するつもりだ」
何も言わないで待機させるのも酷なので、これからのことを説明する。
「師匠、マジで言ってるのか? もしかして帰りに来た道を戻るつもりか?」
「……まぁそれしかないだろう」
「無理だろ?」
勇者の指摘もわかる。
途中何度か崖のような斜面を滑り降りているし、あれを逆に登るとか、少なくとも聖女には無理だ。
「なんとか出来なくはない。ともあれあっちの少し広い場所に移動しよう」
「戻り方があるのか、さすが師匠」
勇者が無駄な感心をしているが、今回は体力に任せた方法だからな。
お前が大活躍だぞ?
そんなやりとりをしながらも、フォルテが上空から天杜の全景を見渡して行く。
ここから天守山方向へのルートは、街を横切って進むのが本道らしい。
だがそれをやると外国人の俺たちは見た目や言葉ですぐに怪しいことがわかってしまう。
しかし大回りをすると、農場などを横切りことになり、何もない場所を歩くことで目立ちまくる。
これはおもったよりも難物だぞ。
「こっそりと潜入は無理かもしれないな」
「と言うと?」
聖騎士が尋ねる。
「この国の地形がネックになりそうだ。小規模の丘はあるが、基本的にはほとんど平原で、山は目的地である天守山の周辺に密集している。途中まで丸見え状態になるんで、こっそり行くよりは堂々と行くほうが目立たない。しかし、そのためにはこの地に詳しい人間が必要だ」
「あの……」
メルリルが手を挙げた。
どうもこの国の習慣に染まって来たらしい。
「意見はどんどん出してくれ」
「ネスさんに力を借りてはどうかな?」
「彼女は魔力を持っているとは言え、一般人だぞ。さすがにそんな無茶はさせられないだろ」
「そう、だよね」
メルリルも自分の意見に自信があった訳ではないようだった。
とりあえず言ってみたという感じである。
「それならいっそのことウルスを使ったらどうだ? あいつなら商人なんだから外国人でもおかしくないし、俺たちが見掛けない人間でも変じゃないだろ」
今度は勇者からの発案である。
「ん~、あいつ、性格がこすいからつい雑に対応しちまうが、あれだって一般人だ。巻き込めないだろ?」
「いや、だってあいつ今回の戦争にどっぷり巻き込まれてるじゃないか」
勇者の指摘は間違いなかった。
南海との密約のようなものを交わさざるを得なくなってしまったウルスは、国の偉いさんに働きかけて南海に戦争協力をしているらしい。
まぁ半分脅されたようなもんだが。
しばし考える。
こればっかりは考えて答えが出ることでもない。
相手がいることだからだ。
いやでもなぁ。
今回の戦争に巻き込まれた件については俺は少しウルスに同情的だ。
あいつは身内と思っていた相手に裏切られて北方の国の研究所で化物にされるところだった。
そこから逃げ出したと思えば、今度は南海とアンリカ・デベッセの連合軍に脅されて戦争に協力させられることになったのだ。
俺たちがさらに利用しようというのは、あまりにも非道のように思える。
そうこうしている間に、フォルテがぐんぐんと天守山に近づいて行く。
途中に大小いくつもの街があったが、広々とした平原には畑は少なく動物が多い。
どうもこの国の主な産業は牧畜のようだった。
『クルルル……』
フォルテが強い警戒を意識に浮かべる。
天守山のずっと手前に広がる街が独特の結界を形作っていたのだ。
白壁に朱塗りの建物がその街全体に広がっていて、街全てがまるで一つの館のようにも見える。
いや、実際にそうなのかもしれない。
大きな城ではよくある形式だ。
その結界がある場所以外の天守山の裾野はほぼ垂直の断崖絶壁で取り付く島もない。
つまり入山するならその街を通る必要があるという訳だ。
「これは、厳しいな……っ! フォルテ!」
俺は山のほうから飛んできた悪意に反応して、フォルテに避けるように指示を出した。
天守山のほうから真っ黒な何かがフォルテめがけて空中を突進して来たのだ。
ぎりぎり躱したそれは、黒い鳥のようだった。
「ガーガー!」
体が真っ黒で目が赤い。
見たことのない種類の鳥だ。
魔物か? なんでまたフォルテを攻撃して来たのか。
普通の鳥じゃないからなわばりを荒らされると思われたのかもしれない。
と言うか、この鳥、あの天守山から飛んで来たように見えたぞ。
その真っ黒い鳥は続々と集まって来て、黒い雲のようになった。
このまま相手にするには危険すぎると判断した俺は、フォルテに最後に天守山の周りをぐるりと一回りするように指示して、離脱させる。
黒い鳥たちはフォルテが遠ざかるとそれ以上追って来なかった。
この山の北側は北冠に、西側は央国に接している。
鳥であるフォルテには国境は関係ないのでぐるりと大回りして国境を越えた。
北冠側は天守山の裾野になにやら砦のようなものを築いているようだった。
厳重な警戒が敷かれていて、ここにも結界がある。
魔力を使わないんじゃなかったのか? これって魔道具を使った結界に似ているぞ。
その砦にあまり近づかないように少し高めに飛翔したときだった。
天守山の壁面がズズズと動いたように見えたのだ。
「ん?」
地すべりか?
いや、地すべりにしては土埃が全く見えない。
まるで黒い地面そのものが動いているような……。
そこまで見て、俺は真っ青になった。
「ダスター!」
すぐ傍からメルリルの声が聞こえる。
はるか彼方の山肌に向けていた意識が、自分自身の体に戻った。
「邪神、か。……確かにとんでもない化物のようだ」
「師匠?」
「奴の体は山全体を覆っていた。山をまるで締め付けるようにとぐろを巻いていたんだ」
「へ? それってどういう」
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