勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第五章 破滅を招くもの

425 未来を見据えて

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 崖下は岩場だがわずかに砂浜部分もあった。
 そこに到着した俺たちは、聖女の魔法で服を乾かし、海の底へと去って行く幻島姫げんとうきの巨大な姿を見送る。

「島が沈んで行くようにしか見えない」

 モンクがスケール感に呆れたようにそう言った。
 幻島姫げんとうきほどの大きさのものが沈めば、その影響で俺たちの立っているような砂浜は水を被りそうなものだが、全く波を起こさずに静かに身を沈めて行く。
 まさに幻のようだった。

「さて、予定が変わって探索になった訳だが、なんで全員ついて来たんだ?」

 いや、特に止めなかった俺も悪かったが、何も全員で来ることはなかった。
 特に聖女とメルリルには残っていて欲しかったんだが。

「師匠が前に言ってたじゃないか。全員が役割を理解して自然に動けるように常にお互いを意識しろって。だから全員で行動したほうがいいだろ」

 勇者が言い分を説明する。
 ちゃんとした理由があり、その理由も正当なものだった。
 これは俺が一本取られたな。

「確かにそれは大事だな」
「勇者様はアンリカ・デベッセは刺激のない退屈な場所だから嫌だとおっしゃってました」
「うおっ、ミュリア。そ、それはちょっとした感想だろ。今の状況には関係ないよな」

 聖女の突然の暴露に勇者があたふたする。
 あー、だがこればっかりは俺も勇者の気持ちがわかる。
 何でも望みを叶えてくれるっていうのはいいことのようだが、達成感を得られなくなるんだよな。

「……まぁそういう理由もありだ」
「え? ありなんだ?」

 当の勇者が驚いていた。
 
「使命を与えられて世界を救う勇者様なら停滞を嫌うのは当然だろ」
「お、おう……師匠なんか変なもの食べたんじゃないか?」
「……お前、もしかして怒られたいのか?」
「い、いや、そういう訳じゃないぞ!」

 クスクスとメルリルと聖女が笑う。
 こうしてみると、アンリカ・デベッセの王宮での滞在は一見満たされていたように思えたが、あそこはあそこで閉塞感があったんだとわかるな。
 それに……。

「アルフ。今回の戦争について、お前は肯定的だったよな」
「ああ。大切な民が不当な扱いを受けたり、理不尽に命を奪われたりするなら、国を守る者は戦うのが当然だからな。実際、俺たちがあの場所で見たものはひどすぎた。アレを止める為なら俺も戦って国を滅ぼすのもいとわないぞ」
「俺もそれは正しいと思う。だが、戦争を始めれば最初に割を食うのはいつだって弱い立場の人間なんだ。それがなんとも腹が立つ。いっそ責任者同士で殴り合いをして欲しいぐらいだ」
「師匠の言うこともわかる。だけど国を司るということは結局のところ民を人間ではなく国の一部と見做すことなんだ。そうでなければ支配は出来ない。つまり支配者にとっては民が武器であり防具ってことだな」
「そういうの酷いと思う」

 俺と勇者の話を聞いていたメルリルが強い口調で言った。

「私達はみんなが里の一部で、戦うときはお互いを守るために戦った。平野人の国はなんだかおかしい」

 メルリルの言葉に勇者が申し訳なさそうにうなだれた。

「俺も、おかしいとは思う。だけど国というのはそういうものなんだ。図体が大きすぎて小さな大切なものは零れ落ちて行くんだ」
「俺は偉い人は嫌いだが。あの人らが国のために頑張っていることは認めている。でも結局苦しむのは取りこぼされた者なんだよな。……ああ、変な話になったが。実は言いたかったのは、今回の戦争について俺なりに考えたんだが、犠牲を出す前に止める方法が一つだけあると思ったんだ」

 俺の言葉に、勇者が目を剥き、メルリルが俺の顔をじっと見た。

「ダスター殿のおっしゃった責任を取るべき者を殴りつけること。つまり戦争が起こるよりも前に邪神を倒すこと、ですね」

 俺たちの様子を静かに見ていた聖騎士がずばりと言う。
 
「そうだ。今まで見聞きして来たことを総合すると、結局のところ問題なのは天守山にいる神様を名乗る奴だろ。そいつが平野人以外を亜人と呼んで迫害し、魔力持ちを魔人と呼んで閉じ込めて人体実験を命じた」
「確かに、そうだ」

 勇者が今まさに目が冷めたような顔で呟いた。

「それなら今すぐに行こう! そいつを倒してしまえばいいんだろ?」
「……俺はときどきお前がうらやましいよ。そんな風に単純に物事を考えることが出来たらいいな」

 俺の言葉に勇者が口を尖らせる。
 子どもか?

「なんで駄目なんだ?」
「情報が少なすぎる。帝国や東方の国々の技術を見ただろ。あれはその邪神とやらからもたらされたということだし、他者に力を与えることも出来るという話もあった。とんでもなく知恵が回る相手であることは間違いない。一筋縄では行かない相手なのは確かだ。それに今闇雲に邪神を襲撃して俺たちが失敗したらどうなる? お前のほかに誰が邪神を倒せるんだ? おそらく僅かな時間稼ぎが出来る奴すらほかにはいないだろう。そうしたら南海とアンリカ・デベッセの仕掛ける戦争もただ弱者が大量に死ぬだけで結果的には邪神の介入で現状は変わらないということになってしまうぞ」
「うっ、そうか」

 俺の説明に全員が難しい顔になった。

「でも」

 聖女が静かに言う。

「お師匠様は戦われるおつもりなのですね。情報を得て、勝ち筋を探して、そして戦って勝つおつもりなのでしょう?」

 うっ、信頼が痛い。

「……依頼を請けた以上は成功させる。それが冒険者だからな」
「じゃあ俺は師匠の指示に従って、邪神を倒してやるぜ! 勇者だからな」

 いつも自信たっぷりな勇者が俺に信頼を寄越して来る。
 俺は本当の意味でお前を導ける自信なんてないんだぞ。

「まずは正確な情報を集めよう。そして、出来れば戦争前に邪神を倒す」
「はい!」

 メルリルがいの一番に同意してにっこりと笑う。

「ピュイ!」
「おーっ!」

 フォルテと勇者が息ぴったりのタイミングで声を上げた。
 そして睨み合う。

「我らが未来を切り拓く。なかなか燃えるシチュエーションですね。命を賭ける理由には十分です」

 聖騎士はちょっと大げさだと思うぞ。
 命を賭けるよりも生き残るほうを考えるようにして欲しい。

「わ、わたくしの力がお役に立つならぜひお使いください!」

 ふんすと意気込む聖女が大変可愛い。
 いやもう可愛いばかりではないか。頼もしいパーティの守護者だ。

「私はミュリアの未来のために戦うから」

 モンクはぶれないな。
 
「ああ、よろしく頼むぞ。だが、そう力まなくていいから。まだ本番じゃないからな?」
「自然体だな、自然体!」

 勇者は拳を振り上げて、目的の洞窟に向かって走り出した。

「ピャ!」

 それを追い越してフォルテが飛んで行く。

「あくまでも調査だからな。少なくとも遊びじゃないぞ」

 俺は呆れながらその後を追って洞窟へと向かったのだった。
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