勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
上 下
319 / 885
第五章 破滅を招くもの

424 現場でわかること

しおりを挟む
 この国の守護神の一柱である幻島姫げんとうきとの顔合わせから数日、いよいよルート確認のための潜入作戦の日がやって来た。

「実際に上陸はしないんだけどな」
「ついて行きます」

 メルリルが妙に頑固に主張する。

「当然俺も行くから」

 勇者が当たり前のように言う。

「魔物のなかに入るなんてめったに出来ない体験ですからね」
「おっきい亀さんですね」
「あ、ミュリア、あまり前に行くと濡れるから」

 残りは物見遊山かな?

「ピュイ!」
「うむ。今回は珍しくお前の主張が正しいな。確かに今回の主役はお前だ」

 フォルテが肩の上で胸を張って偉ぶっているが、今回ルート確保の要はフォルテなので好きに言わせておく。
 とりあえずミュリアとメルリルのためにハシゴをかけてもらい、幻島姫げんとうきの頭の上に出た。
 つぶらな目をした幻島姫げんとうきは、この騒がしい面々を優しい目で見つめている。

「みなさんとても彼女に気に入られたようですね。珍しいんですよ」

 巫女のェミュナが微笑ましいものを見るような表情をする。
 幻島姫げんとうきと巫女の感情は共鳴シンクロしているようで、幻の館の女主人であるテア・アンリカは、巫女の機嫌がいい内は危険はないと言っていた。
 ということは巫女の態度が変わったら危ないということだな。

「いろいろありがとうございます。幻島姫げんとうき様、ェミュナさん、よろしくお願いします」
「はい。どうぞ安心して館でお待ちください」

 作戦の細かいところは巫女であるェミュナが幻島姫げんとうきに伝えるのだそうだ。
 巫女の役割は大事だな。
 俺たちは館に乗り込んで到着を待つだけとなった。

 幻島姫げんとうきの体内の島には食べられる実のなる植物もあり、魚や貝も採れる。
 魔獣の甲羅のなかだということを忘れてしまいそうだ。
 そして到着はびっくりする程早かった。
 確か距離的には、この大陸の南の端から北の端までぐらいあるはずなんだが、一日もかからずに目的の場所に到着してしまう。

 海に面した場所での戦いなら負けないとか言うはずだよな。

「これはまた……」

 天杜の海沿いの地に着いたのだが、そこは切り立った崖になっている。
 しかも岩礁に囲まれているので、上陸するときには俺たち自身が小舟で上陸するしかないとのことだった。
 崖の高さからして鈎付きのロープを投げても届かないし、崖をそのまま登るしかないのか?
 聖女には無理じゃないか? 俺も怪しいぞ。

「大丈夫です。そこの崖下の洞窟を進むと、天杜の山間部に出るとのことです。山間部は天守山の間近にありますから、そこからの距離は大したことはないはずです」
「うーん。全部伝聞形式なのが気になる。実際にその洞窟を探索した人はいるんですか?」

 いろいろ教えてくれたテア・アンリカに確認する。
 
「昔うちの漁師が遭難したときにそこを通って外に出たそうですわ」
「昔というのは?」
「ええっと、確か五十年より少ないことはなかったと思うけれど」

 おおう五十年以上前か?

「……ゲア」
「いや、テア・アンリカ様を責めてる訳じゃないからな」

 幻島姫げんとうきが俺に咎めるような目を向けたので、言い訳をする。

「素晴らしいですわ。ダスター様はすっかり彼女の言葉を理解しているようですね」
「いやいや理解してませんよ? うちのフォルテとだいたい同じようにそういう意味に聞こえるだけで」
「それで十分ですわ。ダスター様は案外と巫女の素養がおありなのかもしれませんね」
「え? いやいや、巫女って女性でしょう?」
「そうではありません。女の巫女は受動的ですけど、男のかんなぎは能動的なだけで、本質に違いはないのです。ただ男性は自分の身を他者に任せることが耐えられないという方が多いので、廃れ気味なのですよ」
「身を任せる?……ああ」

 なるほど、俺がフォルテを受け入れるようなことか。
 だが俺だって俺の一部であるような感覚があるフォルテだから平気なんであって、例えばこの幻島姫げんとうきの意識を受け入れられるかと言えば無理だからな。

「ともあれ今はルート確保だな。すみません。予定を変更して構いませんか?」
「と、おっしゃると?」
「洞窟のなかを実際に歩いてみます。ああいう暗くて狭いところはフォルテで確認する意味がないですし、人と会わなければ問題ありませんから。洞窟から出たところからフォルテに確認してもらおうと思います」

 わがままかもしれないが、人が普段通らないところは少しの期間で様子が変わってしまうことがある。
 実際に行ってみないと何かがあったときに対処が出来ないだろう。

「わかりました。それならこれを」

 テア・アンリカは、俺に手のひらの大きさの巻き貝を渡した。

「これは?」
幻島姫げんとうきを呼び出す音を出します。動物の吠え声のように聞こえるので、あまり人の注意は引かないかと」
「助かります。行ったはいいが、ここにずっと待っていてもらう訳にもいきませんし」
「ふふ、少し先の海の深いところでじっとしています。そういうのが得意なんですよ。この娘」

 微笑むテア・アンリカに頭を下げる。
 そして俺たちは出来るだけ海岸近くまで幻島姫げんとうきに首を伸ばしてもらって、残りの距離はがんばって泳いで崖下まで到着した。

 今回まだ夏場だったからいいが、作戦決行時は冬だし、船は忘れないようにしないとな。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。