勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第五章 破滅を招くもの

351 子どもたちの話

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「妹の跳び足と、隣に住んでるサリだ」

 ぶすっとした顔で堅い角という名を持つ山岳の民の少年が連れ立った少女たちを紹介してくれた。
 おう、モテモテじゃないか。
 俺があの年頃の時分は女の子と口も利かなかったぞ。

「おめぇらなんでこそこそ盗み聞きしてたんだ?」

 ボリスが怖い顔を作りながら子どもたちに問いただした。

「そいつらが悪さをしないか見張ってたんだ! そしたらそのトカゲが俺に噛みつきやがって!」

 そう、この坊主たちは家同士の地下の連絡通路を使ってボリスの家に侵入し、俺たちの様子を窺っていたらしい。
 そこにフォルテと若葉が突入して、若葉が堅い角少年の少しクルンと巻いた角に齧りついたとのことだった。
 
「若葉お前な、人に危害を与えるならどっか適当な岩とかに封印しちまうぞ?」
「グギャッ!」

 堅い角少年の角から離れないままガウガウ言っていた若葉だったが、叱り飛ばすと驚いたように固まった。

「うちには聖女さまも勇者もいるんだぞ? そのぐらいちょちょいとやってもらえる」
『ヤダヨ~』

 あ、逃げた。

「えっ? トカゲがしゃべった?」

 子どもたちと、ボリスのおっさんが仰天している。

「従魔だからな」
「へーすげえや!」
「私もじゅーま欲しい!」
「ヒック、グスッ、……じゅーまってなに?」

 子どもたちは俺の説明に目をキラキラさせて喜んでいる。
 今の今まで泣いていた幼い跳び足少女も泣き止んだ。
 さすがに大人であるボリスのおっさんは懐疑的な顔をしているが、西の常識を知っている訳ではないから否定しきれないのだろう。
 とりあえずそれで納得しておくことにしたようだ。

「フォルテ、若葉を見張ってろよ」
「キュッ! ピャウ!」
「……こいつめ」

 ちゃっかり代価を要求されたので、干しナツメを一個やると張り切って飛んで行った。
 む? 視線を感じる。

「それ、なんだ?」

 堅い角少年がむちゃくちゃ食いついて来た。

「干しナツメだ」
「木の実を干したの?」

 次に興味津々といった風に聞いて来たのは、森人の少女サリだ。

「そうだ。大陸中央辺りにある植物の実らしい」 
「へぇ」

 子どもたちがじいっと見つめるので、仕方なく答える。
 驚く程の熱視線に、俺はため息をついた。

「俺の質問に答えてくれたらこれをやってもいい」
「ほんと!」
「おい」

 ボリスのおっさんが困ったように眉をひそめた。
 仕方ないだろ。
 見せびらかしてそのままという訳にもいかんだろうし。

「メルリル。どうすれば才能がある子を見分けられるんだ?」
「え? あ、まず絶対条件として、歌や踊りが得意な女の子であること、ね。導き手なら歩いている姿や話している声だけでわかる場合もあるみたい」

 俺の突然の問いに、それでもメルリルはすぐに答えてくれた。

「ふむ」

 メルリルに聞いたのはメッセリの素質とやらがある子どもの見分け方だ。
 しかし歌と踊りね、魔力の量や質とか精霊の声が聞こえるなんていうものじゃないんだな。
 つくづく森人の使う力って不思議だな。

「この里で歌や踊りが上手い女の子は誰だ?」

 俺の質問に、堅い角少年と、跳び足という少女、そして森人のサリは顔を見合わせた。

「うーん、歌ならサリだろ。踊りはミヤ、かな?」
「歌は好きだけど、みんなで一緒に歌うから私だけ上手じゃないよ」
「あのね、サリねーちゃんのお歌好き!」

 三人はごしょごしょ筒抜けの状態で話し合った末、サリを指さした。

「歌が上手いのはサリだ。踊りはミヤねーちゃんだ」
「ミヤという人のお年はわかるかな?」

 メルリルに尋ねられて、堅い角少年が真っ赤になる。
 案外うぶだな。

「ミヤねーちゃんは十八だ!」
「十八はもう遅すぎるかも。素質を見ないとわからないけど」

 堅い角少年の言葉にメルリルは少し考え込む。

「ふむ。で、そのどのくらいの時間があれば一人前になれるんだ?」
「つながり方を覚えれば、目覚めるのは一瞬なの。ただし、目覚めがいつ訪れるかはわからない。ほかに代々伝えられる口伝があるから半年ぐらい必要になる」
「結界だけに限ればどうだ?」
「それなら覚えのいい子なら数日で大丈夫だと思うけど……ダスターまさか?」

 メルリルは俺のやりたいことを察したようだ。

「無理だと思うか?」
「……変則的だけど、出来なくはないわ。だけど……ううん。それ以外は自分たちで新しく作っていくことも出来る、か」

 メルリルの目はやってみたいと言っていた。

「よし、わかった。ありがとう。参考になったよ」

 俺は三人に一個ずつ干しナツメを渡す。
 三人はさっそくそれを口に入れた。

「甘い!」
「ほんとーだ、とろけるみたいに甘い」
「おいしい!」

 なんだかんだ言ってもやっぱり子どもだ。
 おやつに夢中になっている。

「はぁ。ああいう姿を見るとつくづく情けなくなるぜ。俺ら大人がしっかりしないから、ガキ共に美味いもんを食わせてやれねえ」

 ボリスが子どもたちを眺めながらぼやく。

「甘味はどこでも貴重だからな、仕方ないさ」
「この森は豊かだ。もっと俺らに余裕があれば甘いおやつぐらいなんとかしてやれるって里長も言ってるんだが、その余裕がねぇ」
「そうだろうな」

 俺の子どもの頃のおやつと言えば、ベリーやヤマモモ、イモ蔓、葛の根、蜂の巣に蜂の子、朽木に潜む蜜虫ってのもいたっけ。
 そうそう、花の蜜も吸ってたなぁ。

 森は安全さえ確保出来れば食い物の宝庫だ。
 その分、獣も魔物も多い。
 常に激しい生存競争が起きていて、魔物のテリトリーの入れ替わりも頻繁だ。
 俺たちのような平野人は、普通森の端っこを切り取りながら自分たちの場所を確保して、そこから森に侵入してその恵みを採取する程度がせいぜいだ。森の真ん中にいきなり居住地を作ることは到底出来ない。

 その点、森人は安全に森の中で暮らす技術に長けている。
 その能力が万全なら、森の豊かさの恩恵で、独立して生活出来る程だ。
 だが、この里は森人もいるが、その力は十分ではない。
 その分、いろいろな種族が補い合いながらなんとか里として形にしようと頑張っているんだろう。
 だから、もう少しだけ、足りないものを手に入れさえすればなんとか自立出来るはずだ。
 急ごしらえでも精霊メイスと繋がれる巫女メッセリがいれば、状況は大きく変わるだろう。

 俺の見たところ、この里の人間は総じて魔力が多い。
 歌が上手いと紹介されたサリという少女と、堅い角という少年は特に魔力が多かった。
 まぁそのせいで若葉に齧りつかれたんだろうけどな。

「なんとなく方向性は見えた気がする。里長に提案してみるか」
「いったい何を考えてるんだ?」

 ボリスが俺を見て不安そうに言った。

「誰もが得をする方法を考えている」
「はっ、そんなもんがあるわけねえだろ」

 ボリスは呆れたように笑った。

「そうかな? 俺はあると思うぞ。そりゃあ人間だから間違えるし、駄目なことだってあるだろうけどな。そこに辿り着くまで何度だって繰り返せば、いつかはその方法に到達する」
「気が長え話だ」
「やってみれば考えているよりも意外と早く到達するもんだ」

 俺は笑った。
 それが俺のずっと変わらない信条だからだ。
 何かを叶えたいなら叶うまでやる。

「ダスターのやろうとしていることは前例のないことだけど、私も挑戦してみる。だって、出来ないって言うほうが簡単だけど、それは全然楽しくないもの。大変でも、ダスターのやることのほうがずっと幸せで、楽しい」
「メルリル……」

 メルリルの言葉に不覚にも胸を打たれる。
 俺のことを諦めが悪いだの、しつこいだの言う奴は多かったが、そんな風に言ってくれた奴はいなかった。

「へぇー、やっぱおっさん、その森人のねーちゃんといい仲なんだ。驚いた。外道人と森人なんて有り得ないと思ってたぜ」
「ちゅーする?」

 堅い角少年と跳ね足少女の兄妹が俺とメルリルを揶揄する。
 おい、今いい雰囲気だっただろうが! 空気を読めよ!
 仕方なく、俺はメルリルのほうへ伸ばそうとしていた手を止める。
 はぁ、とりあえず里長のところに戻って相談してみるか。
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