勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
上 下
245 / 885
第五章 破滅を招くもの

350 土のなかの家

しおりを挟む
「ところでボリスは東部生まれなのか? 実は西部の帝国から大地人が誘拐された事件があって、何人かすでにその北冠ってとこに連れて行かれてしまったらしんだが」
「誘拐だぁ? またなんでそんなことしやがったんだ? 俺ら大地人は数が少ないとは言え鉱山とかで働いてる奴隷は多いんだぞ。おっと、質問の答えがまだだったな。ああ、俺はこっち生まれで間違いねえよ」

 どうやら帝国の大地人が誘拐されていることをボリスは知らないようだった。

「帝国には冶金ギルドってのがあるんだが、そこの技術者はほとんどが大地人なんだ。その技術者が狙われたらしい」
「……冶金てのはなんだ?」
「俺もあまり詳しくはないんだが、金属加工技術らしい」
「へえ。なるほどな。俺たちはこっちじゃ人間扱いされてないから、平野人の技術に触れる機会がないんだ。その帝国? ってところでは大地人が普通に技術を勉強出来るってことだよな? なら答えは簡単だ。大地人は大地のなかにあるもんを加工する特殊な能力があるんだが、知らないものは作りようがない。俺らじゃ役に立たない分野で他所に使える便利そうな大地人がいたから持って帰ったぐらいの考えじゃないか? やつら俺らを同じ人間とは思ってないからそれが誘拐とは思っていないのかもしれねぇぞ」
「うそだろ。自分たちの国ではともかくとして、帝国では大地人は立派な国民だぞ。バレたら国家間の問題だ。そんな気軽にやられちゃあたまったもんじゃないな」
「バカな奴ってのはどこでも自分たちの常識で行動するのさ」

 そう言って、ボリスは周囲に視線を走らせた。
 周囲には、俺たちが気になるのか徐々に足を止めて様子を窺う人間も増えはじめている。
 ボリスはふうと息を吐いた。

「お前ら、面倒になる前にうちに来い」
「え? いいのか?」
「お前さんたちを巡って諍いが起きでもしたら気分がわりい。この里はずっと団結してやって来たんだ。あんま波風立てんでくれ」
「そういうつもりじゃなかったんだが、偶然遭遇して連れて来られて俺たちも困ってるんだ。先に進ませてもらえればそれでいいんだが」
「バカ言うな。俺たちの里が知られたのに、簡単に外に出せる訳ねぇだろ。ほれ、ここが俺んちだ」

 ボリスの言葉にやっぱそうだよなと思いつつ付き従う。
 彼らは奴隷にされていてそこから逃げたのだ。
 いわば追われる身、見知らぬ相手を無条件に信じられるはずもない。
 なかなか面倒くさい事態と言える。

「おじゃまする」
「おじゃまします」
「キュル」
「ガフ?」

 外からの見た目は屋根が地面に置いてあるだけという家だが、なかに入ってみて驚いた。
 地面が深く掘り広げられていて、なかなかに広いのだ。
 岩をそのまま加工したような家具も揃っていて、外からは想像出来ない立派な家だった。

「おお、立派な家だな」
「言ったろ。俺たちは地面のなかにあるもんを加工する特別な能力があるんだ。とは言え、この敷物やドアとかは森人が、毛皮を張った椅子や寝台なんかは山岳の民の手によるもんだから、全員の力を合わせた家と言ったほうがいいだろう」
「なるほどな」

 思わず感心していると、メルリルが急に恥ずかしそうに頭を下げた。

「ごめんなさい」
「ど、どーした嬢ちゃん」
「私、この里のことを自分の里と比べてみすぼらしい貧しい集落だと思っていました。でも森人風の家ではないけれど、立派なお家です。知りもしないでいつの間にか見下してしまっていました。とても申し訳ないです」

 メルリルの言葉に胸を打たれる。
 俺だってこの里の様子を初めて見たときには貧しい粗末な家だとしか思わなかった。
 実際に見て認識を改めたが、その自分の心の動きを特に気にしてはいなかったのだ。
 しかしメルリルは自分の心の動きが他人を見下すものであると気づいて、相手に頭を下げた。
 なかなか出来ることではない。

「よせやい。実際この里はみすぼらしいからな。常に里の周囲を警戒せにゃあならんから、大規模な狩りや採取が難しいんだ。そのせいでいつも物不足さ」
「やっぱ森のなかに住むのに結界がないのはキツイか」
「だなぁ。獣だけならまだなんとでもなるが、魔物の侵入を防ぐには戦える者が大勢必要だ。結果的に外に出せるのはもともと数の少ない森人だけってことになる。本来は山岳の民なんかは狩りが上手いんだが、戦闘能力が高いんで里の防衛から外せない。森人は木の実や食べられる草とかを採取するのは得意なんだが里からあまり離れられない。その上狩りは大きな獲物を獲るのが苦手だから結果的に収穫が少なくなって食料不足だ。里長にはほんと、苦労を掛けてると思うぜ」

 なるほどな。
 と、突っ立ったままそんな話をしていた俺たちだったが、人間の事情など知ったこっちゃない若葉がチョロチョロと家の奥に行ってしまった。
 それを追ってフォルテまで潜り込む。

「あ、おい、戻って来い!」
「いいって、獣に言い聞かせるにも限度があるしな」

 ボリスはフォルテと青葉の見た目で、小さい鳥やトカゲに何も出来ないだろうとたかをくくっているのだろうが、あいつらはとんでもない存在だ。
 自由にさせておくと何をするかわからないという怖さがある。

「ガルルル」
「キュ!」
「きゃぁああ!」
「何だこいつら!」

 さっそく騒ぎが持ち上がっているようだ。

「ああん? すまねえ、そこらに腰掛けてちょっと待っていてくれ」

 ボリスが奥へと入って行く。
 付いて行きたいが、まさか他人の家にズカズカ入って行く訳にもいかない。
 俺はフォルテに向かって「絶対若葉に人を傷つけさせるなよ、お前もだぞ!」と意識を飛ばす以外すべがなかった。

「ダスター……」

 メルリルが深刻な顔で俺を見る。

「どうした?」
「私、この里に手をかしてあげたい」

 ああ、言い出すと思った。
 メルリルは懇願するようにじっと俺を見ている。

「それはこの里に留まりたいってことか?」
「違う! それは出来ない。私はダスターに付いて行く。絶対離れない!」
「お、おう、ありがとう」

 焦るメルリルの表情はぐっと来るものがあるな。
 いやいや、そうじゃなくって。

「もしメルリルが一時的にこの里に結界を張ったとして。それってどのくらい持つんだ?」
「一年ぐらい」

 おお、けっこう持つんだな。

「そうだな。一年結界があるのとないのではずいぶん違うだろうな。だけど、一度結界のある生活を一年続けて、後はその恩恵がなくなってしまう。そうなると彼らは今よりずっと苦しくなるだろう」
「どうして?」
「人は豊かさを経験すると、貧しさに耐え難くなるんだ。貧しい生活が普通ならそれ以上をあえて欲したりはしない人間も、一度体験して取り上げられたら、豊かだったときのことを思い出して辛くなる。もしかしたらメルリルを恨むかもしれない。そういうのは俺はいいとは思えない」

 メルリルの耳と尻尾がしょんぼりとうなだれる。

「ここの人たちに必要なのは、継続して得られる豊かさだ。その、俺には全くわからないことなんだが、メッセリになるのは難しいのか?」
「メッセリは才能が全てなの。才能があればあとは精霊との親和性だけど、それは単に得意な分野にすぎないから、工夫次第でメッセリならだれでも結界は張れる」
「なるほどな。ってことはこの里にメッセリ候補がいれば問題は解決しそうなんだが。結界がないってことはいないってことなんだろうな」
「う~ん。そうとも言えない。メッセリ候補はメッセリにしかわからないの。だからこの里に最初からメッセリがいない場合は、そこでメッセリの継承は途切れてしまう」
「そういうことか。ってことは子どもたちのなかにもしかすると才能を持った子がいるかもしれないんだな」

 俺の言葉にメルリルはうなずいた。

「森で暮らしていれば一定数のメッセリ候補は生まれるはずだから。子どもがそれなりにいるなら可能性はあると思う」

 その辺も里長に提案してみるか。

「待たせてすまねえな。実はそれぞれの家には地下の連絡通路があるんだが、そっから小ネズミどもが紛れ込んだらしくって」
「ネズミじゃねえ!」
「うえーん。堅角の兄ちゃんが無理やり連れて来るから」
「泣いちゃだめでしょ、男の子なんだから」

 ちゃっかり奥から飛び戻って来たフォルテと、見覚えのある角の上にちょこんと乗った若葉。
 どっちも実に楽しそうでうらやましい限りだ。
 ボリスに連れられてぞろぞろと出て来た子どもたちにケガがないことを見て取って、とりあえず俺はホッとしたのだった。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。