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第五章 破滅を招くもの
342 見知らぬ森の過ごし方
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予想通り、あまり進まない内に日が傾いて来たので、早々に寝床を探すことにする。
だが、森のなかには開けた場所はない。
「大丈夫です」
野営場所をどうするかと話し合っていたら、メルリルがそう言って、たちまち広場を作ってしまった。
森人凄い。
いや、メッセリであるメルリルが凄いのか。
木々が広場を中心にして外側に向けて湾曲しているので、幹の部分に腰を下ろすことが出来るし、頭上には逆に内側に曲がって広がった枝葉が屋根のように重なっている。
全体の形としては、生きた樹木で作られた鳥かごという感じだろうか。
「よし、開けた場所も出来たので手の込んだ料理を作ろう」
「やった!」
何もしていない勇者が一番喜んでいるのにイラッとしたので、手伝わせることにした。
石がないので竈は諦めてモンクと聖女が拾って来た枯れ木で料理に向いた焚き火を起こす。
そこにテント用の支柱を組み合わせ大鍋を吊り下げた。
まずは下準備として、熱湯を沸かして森ねずみをまるごと放り込み、少し茹でて取り出す。
「アルフ、毛を全部むしっておいてくれ」
「わかった」
どうやら雑用も楽しいらしい勇者が意気込んで毛をむしっている間に、ハーブなどの調味料を用意し、鍋の湯を捨てて布できれいに拭き上げる。
「ダスター、これね」
「お、それだ。ありがとう」
メルリルが取って来てくれたのは扇の葉に似た柔らかで害のない厚みのある葉だ。
メルリルの言うにはこの辺りは葉の大きな植物が少ないらしい。
俺たちだけでは見つからなかったかもしれないな。
そのときは木の皮を剥いで使えばいいが。
鍋に新しく張った水に、食べられる野草と根のもの、割った木の実などを入れて辛味のある薬味ペーストを加えて煮込む。
「師匠終わった!」
「うん。よし、きれいに取れたな。じゃあ腹を割いて内臓を全部取るんだ。内臓を傷つけたり破ったりするなよ?」
「わかった」
勇者の監視役に聖騎士をつけてスープの調理を進め、堅パンを取り出して切り分ける。
「出来た!」
「うん。問題ないな。ありがとう」
「へへっ」
勇者がむちゃくちゃ得意そうだ。
魔物を倒したときよりも嬉しそうなんだが、お前勇者向いてないんじゃないか?
ああいや、そうだよな、押し付けられただけだもんな。
もうすっかり肉になった森ねずみの腹に削った岩塩をふり、ハーブを詰めて、メルリルの取って来てくれた大きな葉で包み、焚き火の下に差し込んだ。
焼けすぎないように土を被せる。
「よし、じゃあ飯にするか」
パンとスープを配って食事をしながら明日からの方針を話し合うことにした。
「このスープも美味いな。肉が欲しいけど」
「肉はもうちょっと待て」
「ピャ」
「ガフッ」
勇者がこっちを向いている隙にフォルテと若葉が勇者のスープを味見している。
「あ、きさまら!」
「ギャギャッ!」
「ピューイ」
完全に遊ばれているな。
「明日はこのまま東に進むとして、距離感がさっぱりわからないのが困るな」
「東方諸国の西側には高い山脈があると聞きました。それを目印にすればよろしいのでは?」
「昼にフォルテを通して見たときもうっすら見えていた山だな。見た感じだとあそこまで到達するのに最低でも二日かかるぞ」
「そのぐらいは予定通りでは?」
「う~ん」
聖騎士の言葉に、俺はちらっと聖女を見た。
と、目線がモンクと重なる。
「ミュリアの体力は大丈夫だと思うよ。ほら、あの疲れにくい魔法を使ってるだろ」
「俺たちもお世話になっているな」
確か天使の行進とかいうやつだ。
聖女の魔法は派手じゃないけどかなり便利だよな。
話題になっている当の聖女は、堅いパンをスープにひたして一生懸命齧り取ろうと奮闘していた。
堅いからな、そのパン。
「なら様子を見ながら距離を稼ぐか。地形とかの問題が起きる可能性もあるからな」
「谷とか川とかに出くわすかもしれませんからね。しかしメルリル殿がいらっしゃるので危険はかなり軽減出来そうで、とても助かります」
「それは本当にそうだよな」
「え? え?」
聖騎士と俺との話の流れをのんびり食事をしながら聞いていたメルリルだったが、突然話を振られて目をぱちくりしている。
この人ときどき子どもみたいな顔をするよな。
かわいい。
「道のない森を歩くときには、草や木をかき分けたりしながら進むのに体力を奪われてしまうんで、思うように行動出来ないのが普通なんだ。おかげですごく助かってる」
「よかった。私、狩りの経験とかあまりないし、そんなにお役に立ってないかと思ってた」
「それこそまさかだろ。自分の価値を低く考えすぎだ」
「そうだよ。すごく助かってるよ」
俺の言葉にモンクが言葉を足し、聖騎士もうなずく。
メルリルはうれしそうに微笑んだ。
そんな俺たちの話し合いの間に、こっちに注意を向ける余裕もなくパンと格闘していた聖女は、やっとパンを食べ終えてほっとしていた。
一方で勇者たちはスープを別皿に分けることで話し合い? がついたらしい。
それぞれの皿でスープを飲むフォルテと若葉を警戒しながら、勇者は自分のカップを隠すようにバリバリとパンを齧りつつスープを飲んでいた。
「そろそろ肉も焼けたようだな」
香ばしい匂いがして来たので、肉を取り出す。
なかまでふっくらと焼き上がっていた。
「おっ、美味そう」
目ざとい勇者が近寄って来る。
「好きに食べていいが、欲張るなよ?」
「美味い!」
「美味しい!」
「これは美味ですね」
それぞれ感想を言いながら自分のナイフを使って肉を切り取って行く。
勇者はちゃんと聖女の分を切り取って渡してやっていた。
ついでに若葉の分も切ってやっているのはちょっと意外だったが。
俺もメルリルとフォルテの分を切り取って渡す。
「ありがとう」
「ピュイ!」
「こういうのはみんなでワイワイ言いながら食べるから美味いのさ」
手についた肉汁を舐め取りながらそう言った。
しかし、こんなときに無粋な輩というものは訪れるものだ。
「気づいているか?」
「はい。人の気配がありますね」
さすが聖騎士は気づいているようだ。
俺は人の気配というよりも、あれだけうるさかった生き物の鳴き声がぴたりと止んだことで気がついたんだがな。
人が楽しく食事をしているというのに、何ものかが周囲をすっかり囲んでいるようだ。
しかも聖騎士の言うには魔物や獣ではなく人らしい。
こんなところにも人がいるんだなと感心しつつ、俺はのんびりと食事を続けたのだった。
だが、森のなかには開けた場所はない。
「大丈夫です」
野営場所をどうするかと話し合っていたら、メルリルがそう言って、たちまち広場を作ってしまった。
森人凄い。
いや、メッセリであるメルリルが凄いのか。
木々が広場を中心にして外側に向けて湾曲しているので、幹の部分に腰を下ろすことが出来るし、頭上には逆に内側に曲がって広がった枝葉が屋根のように重なっている。
全体の形としては、生きた樹木で作られた鳥かごという感じだろうか。
「よし、開けた場所も出来たので手の込んだ料理を作ろう」
「やった!」
何もしていない勇者が一番喜んでいるのにイラッとしたので、手伝わせることにした。
石がないので竈は諦めてモンクと聖女が拾って来た枯れ木で料理に向いた焚き火を起こす。
そこにテント用の支柱を組み合わせ大鍋を吊り下げた。
まずは下準備として、熱湯を沸かして森ねずみをまるごと放り込み、少し茹でて取り出す。
「アルフ、毛を全部むしっておいてくれ」
「わかった」
どうやら雑用も楽しいらしい勇者が意気込んで毛をむしっている間に、ハーブなどの調味料を用意し、鍋の湯を捨てて布できれいに拭き上げる。
「ダスター、これね」
「お、それだ。ありがとう」
メルリルが取って来てくれたのは扇の葉に似た柔らかで害のない厚みのある葉だ。
メルリルの言うにはこの辺りは葉の大きな植物が少ないらしい。
俺たちだけでは見つからなかったかもしれないな。
そのときは木の皮を剥いで使えばいいが。
鍋に新しく張った水に、食べられる野草と根のもの、割った木の実などを入れて辛味のある薬味ペーストを加えて煮込む。
「師匠終わった!」
「うん。よし、きれいに取れたな。じゃあ腹を割いて内臓を全部取るんだ。内臓を傷つけたり破ったりするなよ?」
「わかった」
勇者の監視役に聖騎士をつけてスープの調理を進め、堅パンを取り出して切り分ける。
「出来た!」
「うん。問題ないな。ありがとう」
「へへっ」
勇者がむちゃくちゃ得意そうだ。
魔物を倒したときよりも嬉しそうなんだが、お前勇者向いてないんじゃないか?
ああいや、そうだよな、押し付けられただけだもんな。
もうすっかり肉になった森ねずみの腹に削った岩塩をふり、ハーブを詰めて、メルリルの取って来てくれた大きな葉で包み、焚き火の下に差し込んだ。
焼けすぎないように土を被せる。
「よし、じゃあ飯にするか」
パンとスープを配って食事をしながら明日からの方針を話し合うことにした。
「このスープも美味いな。肉が欲しいけど」
「肉はもうちょっと待て」
「ピャ」
「ガフッ」
勇者がこっちを向いている隙にフォルテと若葉が勇者のスープを味見している。
「あ、きさまら!」
「ギャギャッ!」
「ピューイ」
完全に遊ばれているな。
「明日はこのまま東に進むとして、距離感がさっぱりわからないのが困るな」
「東方諸国の西側には高い山脈があると聞きました。それを目印にすればよろしいのでは?」
「昼にフォルテを通して見たときもうっすら見えていた山だな。見た感じだとあそこまで到達するのに最低でも二日かかるぞ」
「そのぐらいは予定通りでは?」
「う~ん」
聖騎士の言葉に、俺はちらっと聖女を見た。
と、目線がモンクと重なる。
「ミュリアの体力は大丈夫だと思うよ。ほら、あの疲れにくい魔法を使ってるだろ」
「俺たちもお世話になっているな」
確か天使の行進とかいうやつだ。
聖女の魔法は派手じゃないけどかなり便利だよな。
話題になっている当の聖女は、堅いパンをスープにひたして一生懸命齧り取ろうと奮闘していた。
堅いからな、そのパン。
「なら様子を見ながら距離を稼ぐか。地形とかの問題が起きる可能性もあるからな」
「谷とか川とかに出くわすかもしれませんからね。しかしメルリル殿がいらっしゃるので危険はかなり軽減出来そうで、とても助かります」
「それは本当にそうだよな」
「え? え?」
聖騎士と俺との話の流れをのんびり食事をしながら聞いていたメルリルだったが、突然話を振られて目をぱちくりしている。
この人ときどき子どもみたいな顔をするよな。
かわいい。
「道のない森を歩くときには、草や木をかき分けたりしながら進むのに体力を奪われてしまうんで、思うように行動出来ないのが普通なんだ。おかげですごく助かってる」
「よかった。私、狩りの経験とかあまりないし、そんなにお役に立ってないかと思ってた」
「それこそまさかだろ。自分の価値を低く考えすぎだ」
「そうだよ。すごく助かってるよ」
俺の言葉にモンクが言葉を足し、聖騎士もうなずく。
メルリルはうれしそうに微笑んだ。
そんな俺たちの話し合いの間に、こっちに注意を向ける余裕もなくパンと格闘していた聖女は、やっとパンを食べ終えてほっとしていた。
一方で勇者たちはスープを別皿に分けることで話し合い? がついたらしい。
それぞれの皿でスープを飲むフォルテと若葉を警戒しながら、勇者は自分のカップを隠すようにバリバリとパンを齧りつつスープを飲んでいた。
「そろそろ肉も焼けたようだな」
香ばしい匂いがして来たので、肉を取り出す。
なかまでふっくらと焼き上がっていた。
「おっ、美味そう」
目ざとい勇者が近寄って来る。
「好きに食べていいが、欲張るなよ?」
「美味い!」
「美味しい!」
「これは美味ですね」
それぞれ感想を言いながら自分のナイフを使って肉を切り取って行く。
勇者はちゃんと聖女の分を切り取って渡してやっていた。
ついでに若葉の分も切ってやっているのはちょっと意外だったが。
俺もメルリルとフォルテの分を切り取って渡す。
「ありがとう」
「ピュイ!」
「こういうのはみんなでワイワイ言いながら食べるから美味いのさ」
手についた肉汁を舐め取りながらそう言った。
しかし、こんなときに無粋な輩というものは訪れるものだ。
「気づいているか?」
「はい。人の気配がありますね」
さすが聖騎士は気づいているようだ。
俺は人の気配というよりも、あれだけうるさかった生き物の鳴き声がぴたりと止んだことで気がついたんだがな。
人が楽しく食事をしているというのに、何ものかが周囲をすっかり囲んでいるようだ。
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