勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第四章 世界の片隅で生きる者たち

264 帝都の路地裏

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「今回別行動を取ろうと思う」

 俺がそう言うと、勇者がぎょっとしたような顔になり、次に悲しそうな顔になる。
 
「ついて来てくれないのか?」
「そもそも俺が皇帝陛下にお目通りしてどうするよ。従者だぞ? 絶対控えておくように言われるよな。その分無意味な時間になる。その時間で調べ物をしたいんだ。役割分担だ。パーティの基本だろ」
「それはそう、だな」

 勇者は納得しつつも納得出来ないという顔をしていた。
 頭では理解しても、感情が納得出来ないという感じか。

「いいか。本来お前はこういう交渉は得意のはずだろ。ここまで一緒にいて見て来たが、偉いさんに対する交渉能力は俺より格段に高い。俺がいなくても問題ないはずだ。それに……」

 俺はニヤリと笑って見せる。

「真の勇者を目指すなら、皇帝ぐらい説得出来ないとな」

 俺の言葉に勇者は真剣な顔つきになった。

「もちろんだ。俺は真の勇者になる。皇帝程度簡単に説得するさ。それに俺がとやかく言わなくても、大聖堂から全ての国に向けて通達が出たからな。よっぽど愚かでなければ協力的なはずだ」
「なら安心だ。まかせたぞ」
「っ……わかった」

 どこか複雑な思いを隠そうともしない勇者に俺は続けた。

「お前はもっと仲間を頼れ。ミュリアもクルスもテスタも、お前と志すところは同じなんだ。困ったときには相談しろ。それぞれ違う環境で違うものを見て生きて来たからこそ、お前の思いもしない考え方を教えてくれるはずだ」

 俺の言葉に聖騎士が真っ先にうなずき、聖女が微笑みながらそれに続く。
 モンクはやれやれと言うように肩をすくめたが、「まぁ任しときな」と、少しお姉さんぶって答えた。
 モンクはたしか勇者よりも一つ上なだけだったはずだが、まぁ上は上だよな。

「俺たちが皇帝陛下に会っている間、師匠は何をするんだ?」
「列車で聞いたんだが、この国にはドラゴン研究者がいるらしい。出来ればその話を聞きたい」

 俺たちの国ではドラゴンはただ畏れられるだけの存在であり、唯一冒険者がその大いなる魔力によって作られる竜結晶を手にするために砂浴び場を探索する程度だ。
 ドラゴンの生態を調査して排泄場が時代によって移動するということを突き止めたというその学者にいろいろ尋ねてみたかった。
 俺にフォルテを預けた青いドラゴンのこともあるが、どうもこれから先にある世界の危機を乗り越えるためには、ドラゴンの存在が鍵になるのではないかという気がしているのだ。
 単なる俺の勘に過ぎないが、冒険者にとって勘というの馬鹿に出来ない。
 それは経験の果てに生まれるもう一つの知覚のようなものだと考えられているからだ。

「ドラゴンか、あの壁の話も確かに気になるし、ドラゴンには何かと縁がある。師匠が気になるんならきっとそれは大切なことなんだと思う。……わかった。皇帝から渡航許可証を早々にもぎ取って来るから安心して存分に調べておいてくれ」
「頼んだぞ。あと、あんまりことを性急に運ぶな。相手の話をちゃんと聞いて対応するように」
「子どもじゃないんだから大丈夫だ」

 子どもじゃないなら感情をすぐに顔に出すな。
 ムッとしているのが丸わかりだぞ。
 不安は多いが、この大神聖帝国は大聖堂に対しては腰が低く、勇者には憧れを抱いている国だ。
 まぁ悪いようにはならないだろう。
 俺とメルリルとフォルテは、勇者たちを見送ると、宿で情報収集を行ってから街に出た。
 宿の人間はドラゴン研究者についてはほとんど知らないとのことだった。
 ただ、建材などの技術については、建築ギルドで尋ねるのがおすすめと言われて、場所の簡単な地図を描いてもらえたので、まずはそこへ行くこととなった。

 黒煙漂う街は、なんとなくくすんでいるが、人々は元気で賑やかに動き回っている。
 通りを走る車がそれなりに多いので、道を横切るのもコツが必要だったが、俺もメルリルも魔物の突進を避けるのは慣れていた。
 ヒョイヒョイと大通りを渡り、地図に描かれた場所へ向かう。

「しかしわかりにくい街だな。全部同じ通りに見える」
「お店がある通りはまだわかるけど、家が並んでいるだけのところは違いがわからないかも」
「ピャッ!」
「なるほど。どうしてもわからなくなったら頼むよ」

 俺たちが地図を見ながら四苦八苦していると、フォルテが上から全体を俯瞰ふかんして確認することを提案して来た。
 確かに有効な提案だ。
 困ったら使わせてもらおう。
 少し迷ってやっと辿り着いた建築ギルドの門は、しかしながら閉ざされている。門の横には小窓がついていたので、その小窓をノックをしてみた。

「何か御用ですか?」

 小窓が開いて文人のような男が顔を覗かせる。

「あの、建材のことで少々お伺いしたいことがあるのですが」
「用件をまずは伺います。会員以外は特別な許可がないとお通し出来ない決まりなので」
「はい。実はこの国の魔物避けの壁に使われているドラゴンの素材について詳しい方をご紹介して頂きたいのです。ドラゴンの研究をしている方がいると聞いたものですから」

 男は眉をしかめて少し考えるそぶりをすると、首を振って見せた。

「申し訳ないが、そういう用件ではお通し出来かねる。もしドラゴンのことを詳しく知りたいだけなら、専門書店を覗いてみることをおすすめする」
「専門書店ですか?」
「ああ。技術書とか特別な勉強をしたい者のための書店だ。この近くには建築のための専門書を多く扱った書店がある。行ってみるといい」

 男はそう言うと、俺の持っていた地図にさらさらとペンで書き足しをした。
 どうやらそこが彼の言う専門書店らしい。

「わかりました。ありがとう」

 パタンと小窓が閉まる。

「残念だったね」
「いや、こんなもんだ。怒鳴られないだけマシだな。調査の仕事とかになると何日もこういうことを繰り返すことになる」
「そうなんだ。私もがんばる!」

 手がかりがあまり手に入らずにがっかりするメルリルに軽く笑ってみせると、やる気を取り戻したようで、ぐっと拳を握ってみせた。
 こういう空振りでいちいち落ち込んでいたら仕事にならないからな。
 立ち直りの早さは冒険者としての大切な資質だ。
 複雑な路地を地図を見ながら進んでいると、何やら先のほうで争う気配を感じ取り、メルリルを止めた。

「こいつ、おとなしくしろ!」
「離せ! ひと……モガッ!」
「薬を、早くしろ!」

 なにやら良からぬことが進行している雰囲気だ。
 俺はメルリルに声を出さないように合図すると、騒ぎの起こっている路地へと入る角にフォルテを飛ばし、その目を借りて何が起きているかを確認する。
 そこには、背の低いがっちりとした大地人の男を袋に詰め込んで車の荷台に乗せようとしている二人組の男の姿があった。
 しかも俺はその男たちに見覚えがある。

「あいつら……」

 そこにいたのはメルリルを獣呼ばわりした東国の貴族だった。
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