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第三章 神と魔と
187 丁々発止
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「どういうことでしょうか?」
初老の女性は困ったように首をかしげる。
そりゃあそうだよな。隣の国の英雄さまが謝罪と取れることを言い出したのだ。
困惑するに決まっている。
「実は我が国の研究者が身分け山中で実験を行っていたのですが、そこに強力な魔物が集まり、対処に苦慮していたところ、勇者さま方に手助けいただきなんとか討伐することが出来ました」
「まぁ」
保養所の女性が驚きの後にホッとしたように微笑む。
近くに強力な魔物が出たと言われたら恐ろしいものな。だが、もう討伐されているなら問題ない。
「ところが、その最中に地面に深い亀裂が入り、魔物の死骸が亀裂の奥に落ち込んだのです。結果としてその場に巨大な穴が開いたのですが、そこに熱湯が溜まりました。どうやら温泉の道が通っていたようで」
「まぁなんということでしょう」
女性は驚きの声を上げた。
そう、そういう話に落とし込んだのだ。
ディスタスの特権騎士として禁忌の実験のことは口外出来ないとのことなので、人工迷宮の話はなしとして、なんとか納得してもらえそうで、ついでにディスタス側に責任を取ってもらえる内容としたのである。
「それでは、今のお湯には魔物の体液などが混ざっているということになりますね」
「その通りです」
「わかりました。しばしお待ちを」
女性は立ち上がると部屋を出て行った。
残された俺たちに今度は少し若い男性が茶を淹れてくれる。
「ありがとう」
礼を言うと体をすくめるような所作の礼をしてその場を離れた。
つくづく思うのだが、この保養所の人間は全体的に物静かだな。行動もゆっくりとしているし、あまりしゃべらない。体の具合が悪い者が施設に多いからだろうか。
「納得いかない」
勇者がごねはじめる。
「もう話し合いは済んだだろ」
「他人に迷惑を掛けておきながら自分たちを守ろうとするその考えが気に入らない」
勇者はこういうときは鋭い。
大人らしい穏便な考えというものが嫌いなんだろうな。
「十分な援助はさせてもらう」
「そういうことじゃないだろ」
二人が睨み合う内にまた初老の女性が戻って来た。
「お待たせしました。しばらくはお湯に体をつける治療を中止することにいたします。安全を確認してから再開することになるでしょう。今回は本当にありがとうございました。申し遅れましたが、私はこの施設の代表のカテドラと申します」
驚いた。
代表自ら対応してくれていたのか。
勇者がいたからかな?
「それは知らぬこととは言え、失礼いたしました」
俺は立ち上がって礼を取る。
何しろこのメンバーのなかで俺が一番身分が低いからな。
「そのようなことなさらずに。ここでは身分の上下は問わないことになっているのです」
「わかりました。ありがとうございます」
なるほど、だから勇者に平気で奉仕を要求出来る訳だ。
なかなか剛毅な気風なんじゃないか?
「それで、ご相談があるのですが」
ディスタスの騎士殿が口を開いた。
「なんでしょう?」
「どうも我が国の者の実験の結果、温泉に魔力が増大したようなのです。そこで、魔力調整に必要な空の魔宝石の提供と魔力を充填した魔宝石の買い取りをさせていただきたいのです。また、調節などの技術提供もよろしければさせていただけないかと思いまして」
「まぁ」
カテドラ代表は少し困ったような顔になった。
「申し訳ありませんが、この保養所を運営するにあたり、特定の勢力の支援は受けないことしているのです。ですからありがたい申し出ですが、お断りさせていただきます」
おお、断った。
特定の勢力の影響下には入らないということか。
勇者がニヤニヤしていたので、ひじで小突いてやめさせる。
「むう。いえ、支援という形ではなく、今回のことは我が国の責任が大きい。その責任を取らせていただきたいということなのです」
「それはとても尊いお考えです。ありがとうございます。しかし、かえりみて、他国や他の勢力がその特別なご配慮を見てどう思われるでしょう。隣国と直接取引するなど国元から疑われても仕方のないことです」
「なるほど。これは私が浅慮でした。きちんと国と国との間で話すこととします。その上で改めてお話しをさせていただくこととしましょう」
「英雄さまはお聞きしていた通り聡明なお方。ディスタス大公国の民は幸せですね」
「いえ、考えが足りず、お恥ずかしい限りです」
まぁそうだよな。
いくらなんでも他所の国からいきなり支援は受けられない。
この施設が教会絡みであり、現在独立しているからこそ、運営には気を使っているのだろう。
さて、俺たちの奉仕はこれで終わりということでいいのかな?
話が終わりなら早くメルリルの様子を見に行きたいのだが。
初老の女性は困ったように首をかしげる。
そりゃあそうだよな。隣の国の英雄さまが謝罪と取れることを言い出したのだ。
困惑するに決まっている。
「実は我が国の研究者が身分け山中で実験を行っていたのですが、そこに強力な魔物が集まり、対処に苦慮していたところ、勇者さま方に手助けいただきなんとか討伐することが出来ました」
「まぁ」
保養所の女性が驚きの後にホッとしたように微笑む。
近くに強力な魔物が出たと言われたら恐ろしいものな。だが、もう討伐されているなら問題ない。
「ところが、その最中に地面に深い亀裂が入り、魔物の死骸が亀裂の奥に落ち込んだのです。結果としてその場に巨大な穴が開いたのですが、そこに熱湯が溜まりました。どうやら温泉の道が通っていたようで」
「まぁなんということでしょう」
女性は驚きの声を上げた。
そう、そういう話に落とし込んだのだ。
ディスタスの特権騎士として禁忌の実験のことは口外出来ないとのことなので、人工迷宮の話はなしとして、なんとか納得してもらえそうで、ついでにディスタス側に責任を取ってもらえる内容としたのである。
「それでは、今のお湯には魔物の体液などが混ざっているということになりますね」
「その通りです」
「わかりました。しばしお待ちを」
女性は立ち上がると部屋を出て行った。
残された俺たちに今度は少し若い男性が茶を淹れてくれる。
「ありがとう」
礼を言うと体をすくめるような所作の礼をしてその場を離れた。
つくづく思うのだが、この保養所の人間は全体的に物静かだな。行動もゆっくりとしているし、あまりしゃべらない。体の具合が悪い者が施設に多いからだろうか。
「納得いかない」
勇者がごねはじめる。
「もう話し合いは済んだだろ」
「他人に迷惑を掛けておきながら自分たちを守ろうとするその考えが気に入らない」
勇者はこういうときは鋭い。
大人らしい穏便な考えというものが嫌いなんだろうな。
「十分な援助はさせてもらう」
「そういうことじゃないだろ」
二人が睨み合う内にまた初老の女性が戻って来た。
「お待たせしました。しばらくはお湯に体をつける治療を中止することにいたします。安全を確認してから再開することになるでしょう。今回は本当にありがとうございました。申し遅れましたが、私はこの施設の代表のカテドラと申します」
驚いた。
代表自ら対応してくれていたのか。
勇者がいたからかな?
「それは知らぬこととは言え、失礼いたしました」
俺は立ち上がって礼を取る。
何しろこのメンバーのなかで俺が一番身分が低いからな。
「そのようなことなさらずに。ここでは身分の上下は問わないことになっているのです」
「わかりました。ありがとうございます」
なるほど、だから勇者に平気で奉仕を要求出来る訳だ。
なかなか剛毅な気風なんじゃないか?
「それで、ご相談があるのですが」
ディスタスの騎士殿が口を開いた。
「なんでしょう?」
「どうも我が国の者の実験の結果、温泉に魔力が増大したようなのです。そこで、魔力調整に必要な空の魔宝石の提供と魔力を充填した魔宝石の買い取りをさせていただきたいのです。また、調節などの技術提供もよろしければさせていただけないかと思いまして」
「まぁ」
カテドラ代表は少し困ったような顔になった。
「申し訳ありませんが、この保養所を運営するにあたり、特定の勢力の支援は受けないことしているのです。ですからありがたい申し出ですが、お断りさせていただきます」
おお、断った。
特定の勢力の影響下には入らないということか。
勇者がニヤニヤしていたので、ひじで小突いてやめさせる。
「むう。いえ、支援という形ではなく、今回のことは我が国の責任が大きい。その責任を取らせていただきたいということなのです」
「それはとても尊いお考えです。ありがとうございます。しかし、かえりみて、他国や他の勢力がその特別なご配慮を見てどう思われるでしょう。隣国と直接取引するなど国元から疑われても仕方のないことです」
「なるほど。これは私が浅慮でした。きちんと国と国との間で話すこととします。その上で改めてお話しをさせていただくこととしましょう」
「英雄さまはお聞きしていた通り聡明なお方。ディスタス大公国の民は幸せですね」
「いえ、考えが足りず、お恥ずかしい限りです」
まぁそうだよな。
いくらなんでも他所の国からいきなり支援は受けられない。
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さて、俺たちの奉仕はこれで終わりということでいいのかな?
話が終わりなら早くメルリルの様子を見に行きたいのだが。
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