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シャロンの死神テオドア

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 シャロンは、泣き続けることすら無くなったが、アリスが差し出した血の入った銀のワイングラスに口を付けることは、なかった。
「ごめんなさい。辛くて飲めないわ……それに、この血は、生きていた人間の血、それぞれの人生があったはず、申し訳なくて、飲めないの……」
「でも、飲まないと……あなたは、このままだと消滅してしまうわ……」
シャロンは、頭を横に振った。

 アリスは、その場を離れ、ジョセフに相談した。
「シャロン。憔悴しきってるわ。このままだと彼女もたない……」
ジョセフは、神妙な顔をして言った。
「そうだな。しかし、いずれ飲みたくなるだろう。それまで待とう」
「そうね。わかったわ。待ちましょう」

 ジョセフは、言った。
「本当は、シャロンの気持ちがわかるのは、ローズなのだが……」
アリスは、首を横に振った。
ローズも目を逸らした。
「それも、そうだな」
アリスにジョセフは、言った。
「では、アリス。シャロンのことは、頼んだぞ」
「ええ」

 アリスとシャロンを置いて、ヴァンパイア達は、オリバーを先頭に人間の血を吸う通りを歩いた。
ジョセフは、最近、なぜかブルーノの呪術の訓練を切り上げさせ、ブルーノに人間の血を吸う通りに一緒に付き合うように命令していた。

 ヴァンパイア達が通りを歩いていると、前を塞ぐように死神が現れた。
「私は、シャロンを消滅させる死神テオドアだ。お前達、シャロンをかくまっているな。シャロンは、どこにいる?」
「さあ、どこだろうな」
ジョセフは、死神テオドアに挑戦的な目をして言った。

「そうか。では、吐かせるまでだ!!」
そう言うと、死神テオドアは、ジョセフに向かって、カマを振り上げた。

 ジョセフが死神テオドアに向けて手を翳す間に、オリバーが死神テオドアに向かって、手を翳した。
死神テオドアは、ギリギリのところで吹き飛ばされることから避けて、今度は、オリバーに向かって、カマを振り下ろそうとしたが、その間に、また、オリバーに手を翳されて、カマで攻撃する余裕を与えなかった。
次々とオリバーに手を翳されて、死神テオドアは、右へ左へ避けなければならなかった。

 ブルーノも短剣で参戦しようとしたが、オリバーと死神テオドアの動きは、あまりにも速く、目で追うことがやっとの程だった。

 死神テオドアは、今度は、ノアにカマを振り下ろそうとしたが、ノアが手を翳す間にも、また、オリバーが死神テオドアに手を翳し、振り下ろすことを阻止した。

 死神テオドアは、悔しそうに言った。
「クソッ!! 全く攻撃できん。今日のところは、引き下がるか。仕方あるまい」
死神テオドアは、そそくさと逃げていった。

 ジョセフは、オリバーに嬉しそうに言った。
「今回が初めてじゃないか? 死神が自分から逃げていくの。凄いじゃないか、オリバー!」
「ははっ!そんなことは……」
オリバーは、照れて頭を掻いた。
ローズは、自分のことのように喜んだ。
「ほら、言ったでしょ。オリバーが大活躍するって!」
オリバーは、また照れて、頭を掻いた。

 ローズは、オリバーに対する嫌味を忘れなかった。
「さぁ、これからは、私の出番。オリバーのために血を溜めないと」
オリバーは、ガックリときてローズに言った。
「それは……すまない」

 ヴァンパイア達は、それぞれ人間の血を吸い、シャロンとオリバーのために血を溜めて、寝床に帰ると、シャロンの面倒を見ているはずのアリスが皆の元に駆け寄ってきた。
「大変、大変よ。シャロンが倒れてしまって、動かないの!!」
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