電子世界のフォルトゥーナ

有永 ナギサ

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5章 第4部 幽霊少女のウワサ

219話 エデンの巫女の仕事

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 レイジは廃墟はいきょのビルの屋上に続く階段を上がっていく。中は誰もおらず静まり返っているため、一段一段上がることに足音が響いていた。
 現在ゆきとは別行動中。彼女は酒場で花火の相手をしながら休んでおくとのこと。そのためレイジは一人、マナの様子を見に来たというわけだ。
 屋上の扉を開けると、強い日差しが差し込み一瞬目がくらみそうになる。そんな屋上の中心付近では、まるで本物のような白ネコ。マナの操作するガーディアンの姿が。彼女は周囲にいくつもの画面を展開し、調べていた。

「マナ、特定の方はどうだ?」
「レイジにいさま、あまり順調とは言えないですね。面目ないですぅ」

 申しわけなさそうにシュンとするマナ。

「それだけ今回の件が異常ってことなのか?」
「はい、いつもならすでに特定できてるころ合いですが、今回のはなかなか手ごわいですねぇ。ここまでマナが出張っても、あまり成果が得られないなんてぇ」
「そういうのって地理データを読み取って、簡単にわからないものなのか?」
「これに関してはセフィロトが、パラダイムリベリオンとかの影響を問題視してないのと同じ。ひどいバグがあったとしても、地理データにはほとんど記載されないんですぅ。だから近くまで行ってより注意深く調べるか、マナのエデンの巫女の力で感知するかじゃないとダメなんですよねぇ」

 この事実こそゆきがあまり手伝えない理由だ。
 地理データから調査できないとなると、現地へ調べに行くしかない。しかもガーディアンを起点に改ざんで調べようとすると、効率がおちてしまうため本人が直接出向かないとうまくいかないとか。

「ちなみにその感知能力なんですが、そこまで精度はよくないんですぅ。一定の範囲内のどこかで発生してる程度。時間をかければある程度その範囲をしぼれるんですがぁ」
「今回はそれも難しいということか。それってバグの規模が小さいせいとか?」
「いえ、今回のバグはむしろ強大といっていいほどなのですぅ。なのにここまで見つからないとなると、表側ではなくアーカイブポイントみたいな感じで発生してるかもしれません」
「なるほど、それは見るからに厄介そうだな」
「もう少しだけがんばってみますが、こうなってくると目の前に広がる荒野を歩き回り、地道に調べていくしかないですねぇ」

 マナはお手上げと言った感じで、次の案を出してくる。

「そうするしかないか。ゆきとか絶対いやがりそうだけど」
「えへへ、そうですねぇ」

 ゆきが不服そうにする姿を、二人で想像しながら笑う。

「ところでマナ、エデンの巫女って普段どんな仕事をしてるんだ?」

 いい機会なので気になっていたことをたずねる。

「マナの仕事はエデンの調律。今回みたいな不具合があれば、場所を特定し修復するのが役目なのですぅ。基本それ以外はとくにないですかねぇ」
「え? そうなのか? 白神コンシェルンがかかわってるから、もっといろんなことしてると思ったんだが」
「エデンの巫女のもっとも重要な役目は、力の保有。いざというときや、必要と思われたとき、その与えられた特別な力を使ってことをなすことぉ。アポルオンの巫女の制御権を破壊したときみたいな感じですー。だからこそこの力を悪用されないように、白神コンシェルンの最重要機密として守られ管理されてるんですよぉ」

 ようは有事のときの切り札。なにかが起こったとき人間側が対処できるように、規格外の力をあらかじめ与えられているということ。ただ強すぎる力は悪用すると大変なことになるため、これを正しく責任を持って行使することが求められる。それこそがエデンの巫女の一番の責務というわけだ。

「ちなみにその力って?」
「セフィロトのシステムに深く干渉し、いろいろいじることができるんですよぉ」
「ははは、あきらかにヤバそうな力だな。じゃあ、マナに改ざんで場の支配をしてくれたら、すごいことになるのか」
「いえ、このエデンの巫女の力は、改ざんや戦闘面ではあまり使えないんですよぉ。なので無双とかはできません。ちなみにマナの場の支配はSSランクに届くかどうかレベル。ゆきねえさまには劣りますので、あまり期待はしないでくださいねぇ」
「いや、それだけできたらもう十分過ぎるぐらいだよ。さすがはマナだ」
「えへへ、ありがとうございますー。と、まぁ、このエデンの巫女の力なんですが、主にこれのせいで不自由な生活を強いられるはめになっているんですよぉ。エデンでは基本巫女ののみ。現実でも人里離れた屋敷で隔離され、外に出してもらえない。そのうっぷんを晴らすため、日々まもるさんとかにいろいろ要求して持ってきてもらってるんですよねぇ」

 マナは不満ありげに自身の状況をかたる。

「カノンみたいな感じか。それはさぞ息苦しいだろうな」
「はい、これも天津あまつ家、先代が過去に盛大にやらかしてしまった罰みたいなものなので、しかたないといえばしかたないのですがぁ……」

 さぞ憂鬱ゆううつそうに、意味ありげなことを口にするマナ。

「え? それって?」
「すみません。ちょっとした愚痴なので忘れてください。それよりレイジにいさま! アポルオンの巫女のときみたいに、マナを自由にしてくれてもいいんですよぉ! そしたらもう一生、レイジにいさまについていきますのでぇ!」

 マナは白ネコをぴょんぴょんとび跳ねさせながら、はずんだ声で提案してくる。

「確かにこのままだとかわいそうだよな。マナに関しては白神家前当主から好きにしていいって言われてるし、オレたちが面倒見るからって感じで守さんに交渉してみるか」
「ぜひお願いしますぅ! マナ、レイジにいさまやゆきねえさまと、外の世界を堪能したいですー!」
「ははは、任せとけ。かわいい妹分を助けるためなら、なんだってしてみせるさ」

 はしゃぐマナに、レイジは自身の胸をたたきながら頼もしく宣言する。

「やはりマナの目に狂いはありませんでしたぁ! レイジにいさまはマナが慕うにふさわしい、すてきなお方ですぅ!」
(ははは、とはいえそうなると、一番苦労をしいられるのはゆきなんだろうな。がんばれ、ゆき……)

 感極まるマナをよそに、ゆきへ少し同情してしまう。主に白神コンシェルン関係で守からどんな要求、または重荷を背負わされることになるのか。もはや心の中で応援するレイジなのであった。
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