電子世界のフォルトゥーナ

有永 ナギサ

文字の大きさ
191 / 253
4章 第4部 それぞれの想い

186話 博士

しおりを挟む
 とおるとルナがナツメに案内されたのは、少しかたむいたボロボロの高層ビル。ところどころ窓が割れ、壁のいたるところが崩れている。さらに周りの廃墟街同様ツタに浸食され、しかも真横にある大きな湖に沈みかけていた。もはやあまりに荒れ果て過ぎて、いつ崩れ落ちてもおかしくないほどだ。ナツメいわく、上層部の人間はここの屋上でデータをとってるとのこと。

「着いたよ」

 ナツメは屋上の扉を開ける。
 すると奥の方に一人の男が立っていた。

(この男、確か被験者時代に何度か……)

 眼鏡めがねをかけた、三十代後半の白衣を着た男。仏頂面ぶっちょうづらでなにを考えているのかわからない印象いんしょうを受ける。ただその人物には見覚えがあった。第三世代計画の被験者だったころ、何度か目にしたことがあったはず。

「今回は話し合いの場を作っていただき、ありがとうございます。ええと……」
「お初目にかかります。ルナ・サージェンフォードさん。自分の名前はヴィクター・エストマン。今日はお呼びしてしまい申しわけありません。自分、いろいろと忙しいもので」

 ヴィクターはうやうやしくお辞儀じぎし、謝罪の言葉を。

「いえ、お気になさらず」
「ナツメさん、道案内、ご苦労さまです」
「じゃあ、もう、帰っていい?」

 ヴィクターのねぎらいの言葉に、ナツメは冷たく返す。

「おや、どうしましたか? いつにもまして、やけに不機嫌そうではありませんか?」
「ふん、別に」
「ふむ、これはかなり虫のいどころがわるそうですね。一体なにが……、うん? そこの少年、あなたどこかで?」

 そっぽを向くナツメに、ヴィクターはアゴに手を当て冷静に分析する。そして透の方に視線を移し、たずねてきた。

「ッ!?」
「透、どうしました?」
「――透……。なるほど。ナツメさんの機嫌きげんがわるくなるわけだ。久しぶりですね、透さん。まさかあなたがルナさんのところにいるとはね」

 なにやら納得したヴィクターは、透に対し意味ありげにあいさつを。
 どうやら向こうも透のことを覚えていたみたいだ。

「ええ、お久しぶりですね。ヴィクター博士」
「――ええと……、透とヴィクター博士はどういうご関係なのですか?」

 ルナは透とヴィクターを見比べながら、不思議そうに質問してきた。

「――それは……」
「――ふむ……、いやいや、昔、少しばかりありましてね。彼にはいろいろお世話になったんですよ。ですよね? 透さん」

 どう説明しようか迷っていると、ヴィクターがいろいろ察してくれたのか適当にごまかしてくれた。

「――ああ、そうなんだ。それでヴィクター博士。一つたずねさせてください」
「キミが聞きたいこととなれば、さきさんのことですかな?」
「ッ!? もしかして知ってるんですか!? 咲は今、どこに!?」

 いきなり透の核心を突いてくるヴィクターに、思わず取り乱してしまう。
 彼は当時からかなり上の立場の人間だったため、咲についてなにか知っていてもおかしくはないはずだ。

「ふむ、本来なら答えるわけにはいかないのですが、キミにはいろいろ世話になったのも事実。ゆえにお答えしましょう。彼女は今、自分たちエデン財団上層部のリーダー、アンノウンの専属エージェントをやっていますよ」

 ヴィクターはアゴをさすりながら答えてくれる。

「なっ、アンノウンの!?」

 SSランク最上位に位置する電子のみちびき手、アンノウン。表側にまったく姿を現さないため、もはや都市伝説といううわさもある人物だ。まさかそんなアンノウンのもとで、専属のエージェントをやっているとは予想外であった。

「ええ、被験者時代の経験を買われ、今では優秀なエージェントに。まあ、性格は少し難がありますが、ウデは確かでしたからね」
「――咲……」

 彼女の身を案じるしかない。
 六年前の別れから、彼女はどういう扱いを受けてきたのか。そしてエージェントをやっている、今の咲の心情はどうなのか。もはや一刻も早く会いたいという思いにかられてしまう。

「――さて、ルナさん、すみません。さっきから関係のない話しではずんでしまって。では早速、本題の方に入りたいのですが……」

 透との話はこれでおわりと、ヴィクターはルナに謝罪しながら話しを進めようと。
 だがそこへナツメが、自身の愛刀である刀に手をやりながら報告を。

「博士、そろそろ来る」
「――ええ、そのようで。申しわけない、どうやら話しはここまでのようです」

 ヴィクターは目を閉じ、話を打ち切った。

「え? ヴィクター博士、どういうことなのですか!?」
「自分としてもいろいろ話しをしたかったのですが、敵が向かっているそうなんですよ。なのでこれより急いで離脱しなくては。敵に我々の情報を渡すわけにはいきませんので」

 そして彼は情報ろうえいを防ぐためと、離脱の意を。
 どうやらこの近くに敵が向かっているらしい。

「敵? 一体だれが?」
「相手はアポルオンの巫女みこ。そしてもう一人の少年は確か、久遠くおんレイジといいましたかね」
「カノンがここに?」
「ルナさんたちにはわるいのですが、彼らの足止めをお願いしたい。すべては保守派の計画、完遂かんすいのためにね。――では、失礼」

 ヴィクターはうやうやしく頭を下げ、この場を去ろうと。

「待ってください! お父様はなにをやろうとしているのですか!?」

 きびすを返した彼の背中に、ルナは手を伸ばし問うた。
 するとヴィクターはふくみのある口調で、答えを口に。

「フッ、アポルオンの理想を実現しようとしている。完全な不変の世界をね……」
「完全な不変の世界?」
「自分の口からはここまでしかいえません。あとはアンノウン、もしくはルナさんのお父上本人から聞いてください。ナツメさん、行きますよ」

 ヴィクターはナツメに声をかけながら、手すりの方へ歩いて行く。

「トール、次会ったら斬る」

 ナツメは物騒な宣言をし、ヴィクターのあとを追う。
 そしてヴィクターが指にはめた指輪ゆびわを天にかざした瞬間、二人はちゅうに浮きそのまま地上の方へとゆっくり降下していった。

「宙に浮かんだ? いや、それよりもルナどうする? カノンさんたちが来るらしいけど、言われた通りにするのかい?」
「――それは……。――透、一つ私のわがままに付き合ってもらってもいいですか?」

 ルナはしばらく考えた後、瞳を閉じむねをぎゅっと押さえながらたずねてきた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

この世界、貞操が逆で男女比1対100!?〜文哉の転生学園性活〜

妄想屋さん
SF
気がつけば、そこは“男女の常識”がひっくり返った世界だった。 男は極端に希少で守られる存在、女は戦い、競い、恋を挑む時代。 現代日本で命を落とした青年・文哉は、最先端の学園都市《ノア・クロス》に転生する。 そこでは「バイオギア」と呼ばれる強化装甲を纏う少女たちが、日々鍛錬に明け暮れていた。 しかし、ただの転生では終わらなかった―― 彼は“男でありながらバイオギアに適合する”という奇跡的な特性を持っていたのだ。 無自覚に女子の心をかき乱し、甘さと葛藤の狭間で揺れる日々。 護衛科トップの快活系ヒロイン・桜葉梨羽、内向的で絵を描く少女・柊真帆、 毒気を纏った闇の装甲をまとう守護者・海里しずく…… 個性的な少女たちとのイチャイチャ・バトル・三角関係は、次第に“恋と戦い”の渦へと深まっていく。 ――これは、“守られるはずだった少年”が、“守る覚悟”を知るまでの物語。 そして、少女たちは彼の隣で、“本当の強さ”と“愛し方”を知ってゆく。 「誰かのために戦うって、こういうことなんだな……」 恋も戦場も、手加減なんてしてられない。 逆転世界ラブコメ×ハーレム×SFバトル群像劇、開幕。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...