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3 君の秘密
第53話 ミリアの理由
しおりを挟む「そもそも、人間誰でもちょびーっとは魔力があるじゃん? それに反応して動く魔具があるんだからさ。ウチらは、そのチカラが特別強いだけでー。それを術として操れるんだから、漏れるわけなくない?」
「漏れる漏れないについては、わからないけれど。……それで、出てきたのか?」
「おうよ」
「…………親は? 家族はどうしたんだよ」
「出たもんが勝ち。出てしまえばこっちのもん。『一生ローブ』で人生終えてたまりますかっ!」
「…………」
清々しいほどはっきりと言いきる彼女に苦笑する。
心の底でほのかに思う。
────見ていて気持ちがいい、と。
気持ちよさと呆気が混じり言葉を失う彼の前。ミリアは『理解できないでしょ?』を言わんばかりに小首をかしげ続けるのだ。
「ローブの下まで黒一色なんて、地味で仕方ない。みんな真っ黒。及び灰色。あっちも黒、こっちも黒。蟻の大群もびーっくりだわ?」
「……それはそれで、見てみたい気もするけど」
「上から見ると気持ち悪いから、マジでやめたほうがいいと思う」
瞬間的に『真っ黒な人々』を想像し、笑いながら興味本位で述べるエリックにげっそりとした突っ込みが飛ぶ。
実際にその国で育った彼女と、想像だけでのエリックとでは、見えている世界が違う──のだが。
全力ゲンナリモードの彼女を横目に、エリックは(……昔聞いた「国を焼き尽くす黒き魔物」はそれなんじゃないか)と思いつつ。
完全に雨の上がった青空の元、ぽつぽつと出歩き始めた通行人を横目で流し──彼は、流れるようにさらりと顔を向け、
「で? それで、どうしてウエストエッジに? 今でさえ、魔具の取り引きぐらいで、それほど国交はないのに。うちが服飾で伸び始めたのも、ここ20年だぞ?」
「…………うん、あのね?」
尋ねたエリックに、返ってきたのは、ぱあっと花咲くような浮かれた顔だった。
彼女は語る。
気恥ずかしそうに手のひらを合わせて、憧れの眼差しで空を仰ぎながら。
「……10歳ぐらいのころかな? 町の外れにバザールが来てね? すっごく綺麗なワンピースが混じってたの。わたし、はじめはそれが何なのかわからなくて。おじちゃんに『これ、なに? すごく綺麗な色』って言ったら『ワンピースだよ』って教えてくれたんだ」
「…………へえ」
「──もう、ほんっっっとにびっくりしちゃって! 『えっ! うそでしょっ!?』って! だって服って言ったら黒か灰色しか知らなかったんだもん!」
「……フ! ……うん、それで?」
「それでねっ? 『うあああ、きれー! こんな服があるんだ!』って感動してたら、おじちゃんが『シルクメイル地方のウエストエッジという街で流行ってるんだよ』って。『あそこは衣装が華やかなんだ、綺麗だろ?』って教えてくれたの!」
言うミリアは、とても浮き足立っていて『幼かった彼女の感動』がとてもよく分かった。その様子に──エリックが感じるのは『誇らしさと喜び』だ。
話す彼女の声のトーン、華やいだ表情を見ればわかる。
ミリアの中で『この街の衣装』がどれだけ衝撃的だったのか。
我が国の産業が、巡り巡って他国の人間を動かしたのだ。これほど誇らしいことはない。
胸の中。
じんわりとした嬉しさを感じるエリックの隣で、ミリアは嬉々とした顔のまま『ぴっ』と人差し指を立てると、
「で、おじちゃん曰く~。当時人気だったモデルさんが着てた服と同じものが流行って? それが回り回って、あんなところで……。……出会ってしまったんですねぇ~……────革命的でした……!」
「────ああ、ココの」
「おや。呼び捨て。モデルさんを。」
するりと飛び出した『ココ呼び』に反応するミリアに、エリックは穏やかな笑みで言う。
「…………まあね。モデル『ココ・ジュリア』。センセーショナルなデビューを果たした人で、俺たちにとっては馴染みが深いんだ。街のあちこちに、瞳をマスクで隠した女性の転写絵があるだろ?」
「覆面モデルさんのことだよね? うん」
「そう。彼女が『ココ・ジュリア』。転写魔具の販売と共に、あっという間に服飾産業を発展させたんだ」
「へえ~。リック・ドイルじゃないんだ?」
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