21 / 78
2 ミリアとエリック
第21話 ターゲット:ミリア・リリ・マキシマム
しおりを挟む「…………あれ? こんにちは。……君もひとり? 偶然だな?」
「────あ。ひょのまえのおにーふぁん」
やけに親しげのある声で呼ばれて、ミリアは口の中の鳥を頬に避けながら、振り向き目を向けた。
ミリアがもぐもぐと頬張りながら見上げた先、そこにいたのはもちろん、この前の”青年”。
黒い癖毛に、深く黒に近い青の瞳・。シャツの胸元をあけて、袖まくりスタイルの『彫刻のような容姿を持つお兄さん』。エリック・マーティンである。
彼の声賭けに目をぱちぱちさせるミリアに、彼は空いてる席を視線で促し微笑んで、
「ここ、いいかな?」
「どうぞ~。」
「……ああ、ありがとう」
さらりとした返事に、エリックは、にっこりと微笑みかけ、まずは手始めに『一発』。暗く青い瞳に色気を乗せ『じっ……』と『好意』を送る。
────大抵の女は、これで頬を赤らめる。
の、だが。
「…………?」
ミリアの調子は変わらなかった。
彼がじんわりと出す”好色の視線”にもまるで気づかず、もぐもぐと口を動かし、串焼きを咀嚼している様子。
(…………へえ?)
予想外の動きに、エリックは内心唇を引き上げた。
ここで空ぶるのも珍しいのだが、こんなもので驚くわけがない。軽いジャブだ。空ぶったところで特に問題はない。
それよりも、かけた椅子の立て付けの悪さとぼこぼこ感に、若干戸惑いながらも、エリックがそこに座り直した時。
テーブルをはさんで向かい合ったミリアは、串の二切れ目を飲み込むと、
「なーに? この辺よくくるの?」
「ああ、うん。まあね。たまに来るよ」
横目でチラり。軽く一言 言葉を交わす。
胸元をぱたぱたと仰いで頷く彼の隣、ミリアは串に刺さった鶏肉をふりふりしながら自慢げに笑うと、
「ここの串焼き美味しいよね~。わたし、大好きだから良く来るんだ。おにーさんもたべる? いっぽんどーぞ」
「──ああ、ありがとう。……なあ。”お兄さん”じゃなくて、名前があるんだけど。 ……もしかして覚えてない?」
「おぼえてるよー、”エリックさん”」
串焼きを差し出し、受け取り短く答えるエリックの視線の先。
彼女は、そのハニーブラウンの瞳で”じっ”とこちらを見つめると、おもむろに口を開いて言い出した。
「…………なーんか。見た感じのイメージと名前違うよね、エリックさんって」
「? そう?」
「うん。名前見た時『クリストファーとかじゃないんだ~、へえ~』って思った」
「…………ふふ、『クリストファー』? 俺、そんなイメージなのか?」
「うん、あと『ディラン』とか」
「…………うん? 『ディラン』? へえ、そんなこと、言われたこともなかったな」
まずは合わせる。彼女の方に。
彼女の言葉の意図はまるでわからないが、の言葉を冗談交じりに返しながら。エリックはとりあえず、受け取った串焼きを一口頬張り────……
「………………!?」
瞬間。目を見開き静止していた。
舌先から広がる鶏の旨味。
途端・頬の奥が疼いて唾液が溢れ出す。
舌で押しただけで染み出す肉汁。カリカリとした皮を砕く度、鶏皮独特の甘みある脂がじゅんわりと舌を包み、あっという間に肉が喉の奥へ消えていく。
「……これ……! 美味いな……!」
「でっしょー?」
思わず漏らした驚嘆の声に、返ってきたのは自慢げな一言。
その、限りなく黒に近い青の瞳で串焼きを見つめる彼に視線を送りつつ、ミリアはご機嫌な頬杖を突くと
「……ねね、もしかして、これは初めてだった? たまに来るんだよね?」
「……ああ、この辺りにはよく来るんだけど。この店はチェックしてなかったな……」
「美味しいでしょ? 鳥の旨味がじゅわ~って!」
「…………ああ……! 驚いた。……どこで育てた鳥なんだろう……!」
「……や、普通のだとおもう……」
鶏肉のカリッ・じゅわっと感に驚くエリックを前に、一変。
ミリアは若干、トーンを下げて茫然と呟いた。
ここは、この辺りでも屈指の安飯屋である。
高級店でもあるまいし、そんな高い食材を使っているわけがない。
店の親父の焼き方が上手いため、抜群に味はいいのだが、肉自体は最安値のはずだ。
そんな店の、”ただの鶏肉を食べてこの反応”。ミリアは純粋に驚きでいっぱいだった。
(……ふ、フツーの肉に……なぜこんな反応をする……? このおにーさん、なに……?)
と、こーっそり首をかしげるミリアの前で、エリックは今も、串に刺さった肉をまじまじと見つめながら二切れ目の肉を噛み締めている。
(……いや、そんなにまじまじ驚くもの??)
と、不思議に思うミリアの隣で
(……調理方法が違うのか? うち以上だ。特別な銘柄の鶏じゃないんだよな? どうしたらこんな味わい深い肉になるんだ……)
取りを注視するエリック。
そんな、彼の無言の「凝視」に、ミリアは──さらに首を捻った。
(うぅん……ここのおじちゃん、いい肉の時はそう言うしなあ? 今日はそんなこと聞ーてないし……普通にいつも通りの肉だけど……?)
(……美味い。うちの料理人でもこんな味は出せない。これは素晴らしいな……、あとで店主に声を掛けて、……いや……)
不思議に思うミリア。
ただただ驚くエリック。
そんな二人のあいだを、もくもくとしたスモークが立ち込めて──
(…………あ。)
ミリアはひらめき小さく口を開けた。
思いつく『一つの可能性』。
それを確かめるべく、彼女は徐に眉を下げると、おずおずと彼を覗き込み────
「…………ねえ、あのさー」
「うん?」
「…………ちゃんとご飯食べてる? 無理してない?」
「────はっ?」
心底まじめな問いかけに、エリックは素っ頓狂な声をあげたのであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる