【完結】『推しの騎士団長様が婚約破棄されたそうなので、私が拾ってみた。』

ぽんぽこ@3/28新作発売!!

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3/6話 宴会も無双する料理係さん

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 夜の騎士団本部は、いつになく華やいでいた。

 食堂ホールの拡張スペースには明かりが灯り、温かな香りと笑い声が満ちている。新たに配属された炊事係、ミレイア・グランシェリの歓迎会が始まっていた。

 卓上には彩り豊かな料理がずらりと並び、団員たちの顔はどれも緩みきっている。


「姉御、これ……マジで全部手作りっスか……」
「胃袋、完全に陥落しました……」

 褒め言葉が飛び交う中、ミレイアはエプロンのまま酒杯を手に現れ、にっこりと笑う。

「さ~て、胃袋の次は、皆さんの心も掴ませてもらおうかな」

 団員たちは歓声を上げて杯を掲げる。だがその盛り上がりの中、ひとりだけ場の熱に乗らない男がいた。


「団長も飲みましょうよ!」

 呼びかけられたレオン・バルクハルトは、微かに眉を動かしただけで、低く返す。

「任務中は控える」

 その瞬間、場の空気が一気に張り詰める——かに思えた。

 しかしミレイアは、何事もなかったかのように杯をくるりと回し、楽しげに言った。

「じゃあ代わりに、私が酔ったふりでもして盛り上げてみようかしら?」

 そして、杯を掲げたまま、くるりとレオンの前に立ちはだかる。

「団長ぉ~~その上腕二頭筋ぅ~~~抱き枕にしたいぃぃ~~~!」

 次の瞬間、ミレイアの柔らかな腕が、豪快にレオンの胸板へと伸びた。

 騎士団の英雄であり、鋼のような精神力を誇る団長が——凍りついた。


「……」

 その顔に、かすかな赤みが差す。

「団長、顔赤い!」
「逃げられないッスね、これは!」
「姉御、それ犯罪スレスレっす!」

 団員たちの喝采が響く中、レオンはぎこちなく声を発した。


「……離れろ。不謹慎だ」

 それでも、ミレイアは頬をすり寄せながら囁くように笑う。

「減るもんじゃないし……むしろ、筋肉は愛されたら育つんだよ?」

「姉御が本気出すと、団長でも手に負えない説」
「これもう結婚しちまえよ……」
「付き合ってないのが奇跡だな……」

 団員たちは酒杯片手に盛り上がり、やがて誰かが言った。


「団長、顔真っ赤っスよ。もう降参したらどうです?」

 レオンは静かに息をつき、ようやく身体を引き剥がすようにして言う。

「……いい加減にしろ。お前は明日、朝食当番だろう」

 耳まで染まったまま、その背中はそそくさと食堂を後にした。

 残されたミレイアは、杯を掲げて笑った。

「は~い、がんばりま~す」

 その笑い声は、夜の帳に軽やかに溶けていった。

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