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第56話:私が間違っていました

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「お父様は確かに騎士団長としての責任を果たすために、家族を犠牲にしていたこともあった。でも、誰よりもあなたとドリトルを大切に思っていたのよ。私も生前あの人が、こんな日記を書いていただなんて知らなかったの」


“ルミナス、私の可愛い娘。君がいればもう俺は何もいらない”

“お父様、魔物討伐になんて行かないで。お父様が危険なところに行くの、嫌よ”

“ルミナス、ごめんね。魔物を倒しておかないと、沢山の人が亡くなったり辛い思いをするのだよ。それに、もしかしたら王都にも魔物が襲ってくるかもしれない。ルミナスが安心して暮らせるように、俺は魔物を倒しに行くんだよ。だから、いい子で待っていてくれるかい?”

“分かったわ…私、いい子で待っている”

“ありがとう、ルミナス。この討伐が終わったら、皆で領地に行こう。領地には自然が豊かなんだよ。ルミナスは行った事がなかったよね”

“本当?本当にお父様と一緒に領地に行けるの?嬉しい、早く魔物を倒して来てね、お父様”

思い出した…

お父様が魔物討伐に出る前の日の夜、お父様とした会話を。そうだったわ、もし無事に帰ってきたら、お父様と一緒に領地に行く約束をしたのだった。家の領地は東の森からも近く、お父様が体を張って守ってくれたから、領民たちもほとんど被害が出来なったのだと聞かされた。

私は一体何を自分勝手な事を考えていたのだろう。お父様はずっと、私やお兄様、お母様の事、さらには領民たちの事を考えてくれていたのに…それなのに私は…

「お父様、ごめんなさい。私、間違っていたわ…お父様があの時体を張って戦ってくれたから、私たちが何も怯えることなく平和に暮らせれているのよね…それなのに私は…」

「私はね、あの人と結婚するとき、あなたと同じ不安を抱えていたの。万が一あの人の身に何かあったら、私は耐えられるかしら?って。でも、それでも私は、あの人と共に歩んでいきたい、そう思ったの。それに私には、ドリトルやルミナス、それにマリンちゃん、ドリー、あの人のお陰でかけがえのない人たちと出会えたの。今でもあの人には感謝しているわ」

それでもあの人と共に歩きたいか…

「ルミナス、カルロス様もお父様と同じ気持ちなのではなくって?もちろん、困っている人を助けたいという気持ちも大きいでしょう。でもそれ以上に、ルミナスが安心して暮らせるように、魔物討伐に行ったのではないかしら?過去には魔物が王都まで押し寄せて来たこともあるし」

「魔物が王都まで?」

「そうよ、それほどまで魔物は強くて恐ろしいの。だからこそ、早く制圧しないといけないのよ。愛する家族や友人、大切な人を守るために、騎士団員たちは自らの意思で、危険な魔物討伐に行くの」

お母様が悲しそうに呟いた。

「私…カルロス様は任務の事ばかり考えていると思っておりましたわ。私の事なんて…残されるものの事なんて全く考えていないと…でも、私たちを守るために、魔物討伐に向かったのですね。私達が平和に暮らせるように。それなのに私は、カルロス様に酷い事を言ってしまいましたわ。それに、お見送りにも行かなくて…」

気が付くとポロポロと涙が流れていた。私はいつも自分の事ばかりだ。お父様の事だって、あれほど私の事を大切にしてくれていたのに。

カルロス様も…

“ルミタン、愛しているよ”

そう言って抱きしめてくれていたのに。私が命の危機にさらされている時は、誰よりも早く駆け付けてくれて、命を懸けて守ってくれたのに。それなのに私は…

「私、カルロス様に謝りたい。それから、あなたと共に生きたいと伝えたいです…でも、もう手遅れかしら?」

あんなにも酷い事を言ったのだ。もう二度と私の前に現れないでって。きっとカルロス様だけでなく、公爵や夫人も、私の我が儘っぷりに呆れているだろう。

「ルミナス、手遅れな訳がないでしょう。カルロス様は誰よりもあなたの事を、大切にしてくれているのよ。それに、自分が悪いと思ったら、謝ればいいのよ。そうでしょう?ルミナス」

「お母様ぁぁ」

わぁぁぁぁんと、子供の様にお母様に抱き着いて泣いた。

「よしよし、ルミナスはいつまでたっても子供ね。本当に困った子」

そう言って抱きしめてくれるお母様。

「あなたは私の子よ。きっと大丈夫、カルロス様と素敵な家庭を築けるわ。だから自分に自信を持ちなさい。ほら、もう泣かないの」

お母様がハンカチで私の涙を拭いてくれた。声を上げて泣いたら、なんだかすっきりした。

「お母様、私、今からカルロス様のお家に行って、謝って来ますわ」

そうよ、悪い事をしたらしっかり謝らないと。そう思い、急いでお父様の書斎を後にする。

「えっ?ちょっと、ルミナス?」

お母様が叫んでいたが、とにかく今できる事をしたいと考えたのだ。すぐに馬車に乗り込み、カルロス様の家へと向かう。

カルロス様の家につくと、急に来たにも関わらず、公爵様と夫人が出迎えてくれた。

「あの…先日は申し訳ございませんでした。私、やっぱりカルロス様が好きです。カルロス様がどんな気持ちで魔物討伐に向かったのかも考えず。自分の事ばかりで。こんな私ですが、まだカルロス様の婚約者として、迎えて下さいますか?」

必死に自分の気持ちを伝えた。すると…

「ありがとう、ルミナス嬢…君は最愛の父親を魔物討伐で亡くしているのだ。カルロスの行動を受け入れられなくても仕方がないと、私たちは思っていた。でも、君はカルロスを受けれいてくれたのだね。本当にありがとう」

「ルミナスちゃん、あなたは私達の大切な娘よ。カルロスの事、お願いね」

そう言って2人が微笑んでくれた。なんて優しい方たちなのだろう、そう思ったら涙が込みあげてきた。

「泣かないで、ルミナスちゃん。そうだわ、せっかくだから、晩御飯を食べて行って頂戴。さあ、入って」

「カルロスがいなくて寂しくてな。ルミナス嬢が一緒に食べてくれると、嬉しいよ」

「ありがとうございます、それでは頂きますわ」

お優しい公爵様と夫人、そんな2人と家族になれる。そう思ったら、なんだか温かい気持ちになった。きっとお2人も眠れぬ夜を過ごしているのだろう。息子が魔物討伐に行っているのだから。私も泣いてばかりいられない、しっかりしないと!

お2人と楽しい食事の時間を過ごしながら、改めてそう思ったのだった。
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