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お仕事頑張るぞ編

噂とセクハラ魂

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 うひゃひゃひゃっ、笑いが止まらん!!
 売れる!!
 サングラスが超売れる!!
 形やサイズを数種類用意して、レンズの色も数種類用意した。日差し避けとしても売れるし、お洒落なファッションアイテムとしても売れる!!
 我がぁ!! 商会はぁ!! 永遠に不滅ですぅ!!
 サングラスを掛けたキオも大忙しである。
「ぷふっ」
「……笑いました?」
「笑ってない」
「そ、そうですか……」
 キオのビジュアルが面白ぇ。前世基準で言うと、似合ってなくて堪らねぇ。しかしそこが良い。

 ある日。
「野良ユニコーン……ですか?」
「そそ。野良ユニコーン。お客さんに聞いたんだけどね、見たっていう噂があるんだよ」

 一本の長い角を額に持つ白馬、ユニコーン。
 本来、ユニコーンは深い自然の中で定住していると聞く。ただそこにはユニコーンの不思議な結界が張ってあり、容易にその姿を見付ける事は出来ない。
 それに対して世界を回る好奇心タップリのユニコーンもいる。それが野良ユニコーンである。

「ねぇ、キオ。その野良ユニコーンに会いに行かない?」
「噂は聞きましたけど……少し離れた場所ですし……」
「大丈夫、大丈夫。移動に適した奴がいるから。それにもしかしたらキオの傷跡を治せるかもよ?」
「わ、私の為ですか?」
「だって女の子にそんな酷い傷跡が残っていたらね~治せる可能性があるなら治そうよ」
 ユニコーンは特別な治癒の力を持つと言われる。
 もしかしたらキオの傷跡だって治せるかも知れない。
「……でもこれは……私への罰なんです……だから……私だけ……治せないです……」
「だったらキオが傷付けた奴も治せば良いよ。これでおあいこ、問題無いよね。まぁ、本当に治せるか分からないけど」
「あ、ありがとうございます。わ、私も出来るなら治してあげたいです……」
 治してあげたいって、自分は右目を潰されているのに……優しいなぁ、キオは。

 まぁ、そんなワケで野良ユニコーンに会いに行こうぜ!!

★★★

「姐さん、本当に良いんすか? 数日とはいえ店を閉めちまって」
「良いの。だってミツバさんだって休んでなかったじゃないですか? 逆に少し休むべきだって。それよりせっかくの休みなのに一緒で良いんですか?」
「あー……強盗の一件があったんで。俺が護衛します」
 そう言うミツバの背中には体格と同じような巨大な戦斧。同行してくれる事になった。
「ヴォルの他にミツバさんも一緒なら安心だね」
「さらにアバンセも付いて来そう」
「ヴォル兄、アバンセってどういう事です? 不死身のアバンセの事っすか?」
「ちょっとヴォル~まだ秘密にしといてよ~驚かそうと思ってるんだから」
「あっ……あの!!? ヴォルさん、ミツバさん……お、お二人とも、これを見て下さい……」
 キオにしては珍しい大きな声。
 そしてサングラスを外す。
 その両目。
 傷で塞がれた右目、虹色をした左目。
「シノブがユニコーンに会いたいのはキオの為?」
 ヴォルフラムの言葉に俺は頷く。
「その眼……カトブレパスの瞳だな?」
 ミツバの言葉にはキオが頷く。
「キオ。良いの?」
 あまり他人には見せたくないはずだ。
「……良いんです。だって……これからずっと働いていくんですから……」
「そっか」
 俺は笑った。

 ちなみにレオは留守番。
 店は閉めているけど、一応という事で残っていた。

★★★

 いつも通り。
 エルフの町から少し離れてアバンセを呼び出す。
「アバアバ」「アバアバ」
 キオもミツバもアバアバ言ってやがる。
「アバンセ~乗せろ」
「シノブ……俺をまた馬車代わりに使うつもりか?」
「ちなみに竜を馬車代わりに使うのと、女の子を騙して犯そうとするの、どっちが重罪であるか……アバンセはどう思う?」
「シノブ、それって……」
「違う。違うぞ、ヴォルフラム。ど、どうした、シノブ、急に? 乗せてやるぞ、ほら、何処まで行くんだ?」
「あ、あ、あ、あの、あの、あの、シ、シノシノ、ブさん、も、もしか、かかかしてアバ、アバンセって、ふ、ふふ、ふふふふふ、ふじっ、ふじっ、不死身、の、ののアバ、アバ、アバンセさんでしょ、しょしょしょうか?」
 ふふっ、さすがキオ。期待通りの反応をしてくれるぜ。何を言ってんのかよく分かんねぇ。
「スゲェっす……姐さん、アバンセともお知り合いなんですね……」
「お前達は初めて見るな」
「こっちがキオで、こっちがミツバさん。二人とも私のお店の従業員なの」
「キオにミツバだな。俺が不死身のアバンセだ」
「キ、キキ、キ」
「ちょっと、キオ、落ち着いて。ほら、深呼吸、すーはー」
「すーはー……キオです……初めまして」
「ミツバっす。飛んでいる姿は見た事がありましたが、こんな近くで見られるなんて光栄っす」
「光栄か……ほら見ろ、シノブ。これが普通の反応だぞ」
「光栄って……そうかなぁ?」
「姐さん、俺達、ドワーフの間では当たり前の話なんですが、大地には竜脈というエネルギーの流れがあります。そのエネルギーは大地を安定させ、土地に豊饒を与えます。そのエネルギーの元がアバンセを含めた五人の竜なんすよ」
「……つまりアバンセ達がこの世界を守っているって事?」
「そうとも言えますね」
「……影響があるのは知っていたけど、そこまでだとは……ヴォルは知ってた?」
「知ってた。次期、森の主として母さんから聞いた」
「キオは?」
「し、知りませんでした……」
「よし、仲間」
「その俺の背中に乗れるんだぞ? シノブはもっとその貴重さを感じるべきだ」
「そうだね。世界を守る竜に胸やお尻を触」
「ほーら!! 全員、乗れ!! この不死身のアバンセの背中に!!」
 俺の声をアバンセの大声が掻き消すのだった。

★★★

 大森林の端。
 馬車で数日掛かる所も、アバンセの翼ならアッと言う間だぜ!!
 上空から大きな湖を見付ける。
 お客さんから聞いた場所もこの辺りだし、ユニコーンは清浄な水を好むとも聞く。探すなら、あの湖を中心に探すのが良いかな。
 俺達は湖のほとりで降りた。
「……わぁ」
 キオはアバンセの姿を見て、小さく声を上げた。
「かわいいでしょ?」
 俺の言葉に頷くキオ。
「かわいいとは心外だが、まぁ、認めよう」
 小さいアバンセを俺が胸に抱える。
「姐さん、ミニアバンセ……店のマスコットに出来ませんかね? ヌイグルミとか作って」
「ナイスアイディア」
「やめろ。俺の印象が」
「じゃあ、そこでミニヴォル人形だよ」
「か、かわいいと思います」
「ただの犬の人形だと思われそうなんだけど? 次期、森の主なんだけど?」
 なんて話は後回しにして、今はユニコーンだ。

「ヴォル。においは? 何か感じる?」
 ヴォルフラムは鼻を鳴らして、周囲を見回す。背の高い木々に囲まれた湖。
「……特に変わった事は何も」
「アバンセは?」
「何も無い。ユニコーンだったな。あれは自らを隠匿する能力が高い。俺でさえ見付けるのは難しいぞ」
「キオはどう?」
「はい……見てみます」
 キオの左目、その虹色の瞳の輝きが増す。
「それがカトブレパスの瞳か。人が片目で使う能力の程度は分からんが、カトブレパス自身は竜をも超える探査能力を有している」
「アバンセ知ってんの?」
「ああ。あの瞳は生物の生死を左右するだけではなく、遠視はもちろん、未来や過去まで見通すと言われている。ただ知能は高いが、無口で何を考えているか分からん」
 未来や過去を見通すなんて、人が群がって求めそうな能力だけど……即死能力を持つ、何を考えているか分からない奴なんて近付きたくないよなぁ。
「……あの……見えている風景におかしな所は無いんですけど……何か変な感じがします……」
「変な感じって?」
「あっ、はい、あの、上手く説明出来ないんですけど……ごめんなさい」
 でもキオがそう感じるなら何かあるのかも知れない。
 行ってみるか。
「とりあえず私とキオで言って見て来るよ」
 俺はアバンセをミツバに渡す。
「本当に姐さんとキオだけで? ユニコーンは獰猛とも聞きますけど大丈夫っすか?」
「大丈夫だよ、キオだって本当は強いし」
「シノブ。分かっていると思うが、少しでも危険を感じたらすぐに戻るんだぞ」
「アバンセも心配症だなぁ」
「気を付けて」
「うん、ヴォル、行ってくるね。じゃあ、キオ」
「はい」
 俺とキオは二人だけで森の中へ向かうのだった。

★★★

「ねぇ、キオ……一応、聞いておくけど……処女?」
「えっ、あっ、あの、そ、それは、えっ?」
「だから男の人とエッチした事ある?」
「な、なな、無いです!! そ、そんな事、まだ無いです!!」
「私もまだだから大丈夫だね」
「あっ……はい……ユニコーンの習性ですよね?」
「そう。ユニコーンは処女を好むって話だから」
 ユニコーンは治癒の能力を持つと同時に、その性質は獰猛で勇猛果敢。そして処女を好むといい、その膝の上に頭を置いて眠るとも言う。
 そしてここで俺の男だった頃のセクハラ魂が!!
「しかしキオも処女かぁ……」
「は、はい……」
「最初はどんな相手が良い?」
「えっ!!?」
「キオはどんな男性が好みかなと」
「あっ、わ、私は……その……優しい人が、す、好きです……」
「優しい人か。その人とどんなエッチしたい?」
「ふぇっ!!?」
「ほら、女の子だったらあるじゃん? 理想がさ」
「あ、あのあの、私、あ、あんまりそういう事、考えた事が無くて……で、でも、最初は痛いかもって……だから、その、出来るだけ優しくしてほしいです……」
「優しい人に優しくか……普通だね」
「普通……あの、シノブさんは?」
「そりゃ複数よ」
「複数!!?」
「筋肉質な男数十人に激しく犯されたい。キオやみんなの見ている前で」
「はわわわわ……」
 キオ、泡を吹きそうだぜ。
「冗談だけどね」
「も、もう、シノブさん!!」
「あはははっ、まぁ、私はあんまり男の子に興味が無いからな~出来れば相手は女の子が良い。変かな?」
「そ、そういう趣味の人もいます、だ、だから変じゃないです」
「キオでも良いんだけど」
「あっ、そ、その、あの、わ、私も、シ、シノブさんなら……」
「マジ?」
 キオはコクッと頷く。
「……シノブさんが女性なのは分かっているんですけど……気を悪くしたらごめんなさい……そ、その、時々、シノブさんが男性に見えたりしますから……だから……」
 ヤベェ、キオが鋭い。
「確かに、たまに『俺』とか言っちゃうからね~」
「そうなんですか? まだ聞いた事ないです」
「そのうちに聞けるかもよ。ところでキオ、この辺り?」
 俺は話をズラして、辺りを見回す。
 木々に囲まれた森の中。辺りに変わった様子は無いけど。
「もう一度、見てみますね」
 能力を発動させたまま行動するのは体力的にも精神的にも負担になるらしく、キオは必要な時にこうやってカトブレパスの瞳を発動させていた。
 そして周囲に視線を走らせ、一方向を見詰めて言う。
「すぐそこです……景色が……少しだけ……歪んでいるような気がします……ま、待って下さい!! だ、誰かいます!!」
 俺は咄嗟に腰の短剣に手を伸ばす。
 どうする!!? みんなを呼ぶか!!?
 そんな俺とキオの前に現れたのは一人の女性だった。
「こちらに敵意はありません。その短剣に掛けた手を離していただけませんか?」
 彼女は静かにそう言うのだった。
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