王太子に転生したけど、国王になりたくないので全力で抗ってみた

こばやん2号

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第八話「レイオール、国王に相談される」

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「というわけなんだが、息子よ。どうしたらいいと思う?」

(えー)


 ある昼下がりに自室に籠って本を読んでいると、突然現れた国王にそんな質問をぶつけられた。その内容は、“兵士たちの畑仕事に対するやる気が凄いため、新しく【農業兵団】という組織を作りたいがどうすべきか?”というものだ。


 それを聞いてレイオールは内心でため息を吐いた。まだ三歳の子供に一体何を聞いているんだと国王の質問に呆れを覚えていた彼だったが、前回自分が助言をしたことが今回の出来事を引き起こしたとすぐに結論付けたレイオールは、国王に助言をしなければよかったと後悔しつつも、ひとまずは国王自身の意見を聞いてみることにした。


「父さまはどう思っているのですか?」

「俺か? 俺は問題ないと思うが」

「では、それでいいではないですか」

「お前の意見が聞きたいのだ」

「三歳の僕に一体何を期待しているのです?」

「うっ」


 レイオールの指摘に、思わず国王も反論の言葉を失う。一国の王ともあろう人間が、息子とはいえまだ年端も行かない子供に政の相談をしているのだから。一体何の冗談だと思われても仕方がない。


 しかしながら、三歳児とは思えないほどの的確な助言をしてしまっているレイオールが、常識の範囲内におさまる人間なのかと問われれば、それは首を傾げざるを得ないのもまた事実であり、それに縋ってしまう国王の気持ちもわからなくはない。


「はあー、僕も【農業兵団】という組織を作ること自体は問題ないと考えております」

「おお、そうかでは――」

「しかし、農作業……つまりは畑仕事自体は、あくまでも村人が主体で行うべきだとも思っています」

「どういうことだ?」


 国王の項垂れた態度に、仕方がないとばかりにため息を一つ吐くと、レイオールは注意しなければならない点について言及をする。


「兵士の仕事は、あくまでも治安維持です。通常時は問題ないですが、他国などの侵略があった場合にはそれを阻止することが何よりも最優先となるのです。ですので、兵士としての務めを主体としつつ、何もない平常時においては畑仕事などに従事してもらうということであれば問題ないかと」

「なるほど! さすがは我が息子だ。さっそくそのように――」

「それから、こういったことは今後国王である父さまが自分で判断して決めていただきたい。僕はまだ三歳なのです。僕が国のことに口を出すのは十年早い。もっと国王としての自覚を持ってください」

「うっ……」


 今回は特別に助言をしたレイオールだったが、これは本来国のトップである王が判断すべきことだ。王太子とはいえ、年端も行かない子供のレイオールが軽々と口に出していいことではないのだ。


 国王もそれを理解しているのか、レイオールの釘を刺すような言葉に反論できない様子だ。いくら的確な助言ができるとしても、十歳にすらなっていないレイオールの言葉を鵜呑みにして政治を行うのは、国を預かる身である国王としては些か信用に欠けるのではないだろうか。


 最愛の息子から諭されてしゅんとなっている姿を見ると、一体どっちが子供なのかわからなくなってしまう。だが、腐っても国王なのだ。ここで国王がちょっとした反撃に転じてくる。


「しかし息子よ。お前は王太子だ。いずれ俺の後を継ぎ、国王としてやっていかねばならん。今回はその練習ということで――」

「国王になるための帝王学も習っていない三歳児に、何を期待しているのですか?」

「ぐっ」


 しかしながら、人生一回分の経験を持つレイオールの方が一枚も二枚も上手であるため、すかさず反論され国王は撃沈する。だが、いかんせん国王も諦めが悪かった。


「な、ならばお前に家庭教師を付けることとする! これは決定だ!!」

「どうぞご自由に」


 国王の苦し紛れの決定に、内心で呆れつつもレイオールはそれを了承する。彼としても、本以外の知識や情報を得る機会が増えることは望むところであり、寧ろようやくといった思いが強い。現状では情報は本からでの入手となっているため、得られる情報にも偏りができてしまう。


 であるからして、国王の提案はレイオールにとっては喜ばしいことであるのだが、彼のそんな喜びとは裏腹に立ち塞がる壁が現れた。


「……あなた」

「サ、サンドラ。どうしたのだ?」

「レイオールちゃんの教育については、私に相談してくださいと言っていたはずですが?」

「ち、違うんだ。こ、これは――」

「あなた、ちょっとあちらに行きましょうか」

「い、いててててててっ!!」


 そこに現れたのは、今生におけるレイオールの母サンドラだ。穏やかな笑顔を張り付けてはいるものの、その背後では凶悪な顔をしたドラゴンが仁王立ちで睨みつけている幻が見えるほどの有無を言わせぬ威圧感があり、絶対に逆らってはいけないと本能に訴えかけてくるほどだ。


 何故彼女がこれほどまでに怒っているのかといえば、察しはつくだろうがレイオールに関係している。サンドラにとってレイオールは人生で初めてお腹を痛めて産んだ子供であり、しかも異性の子供……息子だ。その溺愛っぷりは国王の比ではなく、レイオールの幸せのためならば例え何人の人間が不幸になろうとも構わないという些か歪んだ愛情を抱いていた。


 そんな最愛の息子の教育に関することを、自分に何の相談もなく勝手に決めようとしている国王に対し、彼女が黙っている訳もなく、国王の耳を引っ張りながら隣の部屋へと連行して行く。ドナドナ。


 それから、しばらくして男性の甲高い悲鳴のような叫び声が聞こえ、二人がレイオールの部屋に戻って来た時には、いつものように微笑んだ顔をしたサンドラと顔中がひっかき傷だらけになっている国王の姿があった。


 国王の顔に傷をつけた犯人が誰なのかは明白だが、二人の様子を見たレイオールが空気を読んで何事もなかったかのように接することにしたのは言うまでもない。触らぬ神に祟りなしというやつである。


 結果として、レイオールが望んでいるということもあって時期的に少し早い気もするが、彼に家庭教師が付くことになった。だが、ここで国王が余計な一言をぽつりと呟く。


「結局、家庭教師を付けるんなら、あんなことしなくてもよかったではないか……(ボソッ)」

「何か言いましたか……」

「な、なんでもないです!!」


 国王のほんの僅かな呟きを耳聡く聞きつけたサンドラが、再び険悪な表情を浮かべそうになるのを首を必死に横に振ってフォローをする。どこの世界でも、女性の方が逞しいのは変わらないらしい。


 そんな表情とは打って変わって、優しい表情を浮かべながらサンドラがレイオールに問い掛けてきた。


「ところで、レイオールちゃん。お披露目の式典のお祝いは何がいいかしら?」

「うーん」


 この世界では、生まれてから最初の三年間は病気などで命を落とす子供の割合がとかく高い。よって王族や貴族などの身分のある人間は、子供が生まれてすぐにはそのことを公の場で公表したりはしない。


 尤も、王妃や貴族の正妻が妊娠したという情報はお触れとして出されるため、子供が生まれたという事実は民には自然と伝わる。そして、生まれてから三年の月日が経つと、そこでお披露目の式典という形で初めて公の場に姿を見せるのだ。


 レイオールもこの世界で生まれ変わって三年の月日が経ち、王族として初めて公の場でその姿を民の前にお披露目する式典が決まっている。サンドラがレイオールに聞いているのは、その式典のお祝いとしてプレゼントしたいが何か欲しいものがないのかということであり、言ってみれば誕生日会を開く際、誕生日プレゼントは何がいいと聞いているのと同じようなものだ。


(プレゼントか……あるにはあるが、頼み難いんだよなー)


 何か欲しいものはないのかと聞かれ、レイオールは日頃から願っているあることを頼もうとしていた。だが、それはとてつもなく頼みにくいことであり、はっきり言ってしまえば少し恥ずかしいお願いなのだ。


 だが、彼が思い描いている悠々自適なスローライフを送るためには、どうしても必要なことなのだ。であるからして……。


「母さま、そのお祝いのプレゼントは何でもいいのですか?」

「もちろんよ。何でも言ってちょうだい」

「なら、僕……弟が欲しいです」

「っ!?」


 レイオールはまだ三歳であるため、サンドラとは身長差がある。それが原因で彼女を見上げる形となってしまい、必然的に上目遣いになる。それが功を奏したのか、その破壊力は抜群であり、そのお願いにNOの選択肢は皆無であった。


 次の瞬間、サンドラは即座に行動を開始する。具体的には、国王の首根っこを引っ掴んでどこかへ引き摺って行こうとしたのだ。


「ガゼル、行きますよ」

「ちょ、ちょっと待てサンドラ! どういうことだ!?」

「どうもこうもありません。聞いた通りレイオールちゃんが、弟が欲しいと言ったのです。であれば、やることは一つ……」

「ま、待て! まだ俺にはやらなければならない仕事が――」

「すべてキャンセルしてください。じゃあレイオールちゃん、ちょっと待っててね。すぐにレイオールちゃんのプレゼントを用意するから」

「サンドラ! 待て! いや、待ってください!! 昨日やったばかりじゃないか、それを――」

「いいから行きますよ」

「サンドラぁぁぁぁあああああああ」


 国王……もとい、ガゼルの叫び声も虚しく、サンドラに引き摺られるように部屋を出て行った。残されたレイオールは、まさか自分の思惑のためとはいえ、父親であるガゼルがそんな目に遭うとは予想だにできず、ただ呆然と母親のサンドラを見送ることしかできなかったのであった。


 余談だが、その夜王妃の部屋からは国王と思しき男性の声で「五回も頑張ったんだからいいじゃないか! もうこれ以上は無理だ!!」という悲痛な叫び声が聞こえたとか聞こえなかったとか。
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