王太子に転生したけど、国王になりたくないので全力で抗ってみた

こばやん2号

文字の大きさ
6 / 47

第五話「レイオール、国王に助言する」

しおりを挟む



 レイオールがこの世界に生を受けて、三年の時が経とうとしていた。その期間彼が何をしていたのかといえば、やはり情報の収集と魔法の知識を取り入れることだ。


 未だ未成熟な体では思うような活動ができず、しかも日中の間は過保護といってもいい程に監視の目があり、レイオールが自由に動けるのは主に使用人が寝静まった夜だけであった。


 そして、その短い時間ではあるものの、その時間を確実に有効利用してこの世界の知識や常識などを吸収していき、ある程度は理解できるようになってきていた。


 この世界の言語や文字が、前世の日本の言語や文字とまったく同じだったということも、この世界の知識を収集する速度に一役買っていた。


 そんなレイオールも三歳となり、歩くことや言葉を話せるといった基本的なことができるようになっており、自分の意志を相手に伝えたり好きなところに行くことが簡単に可能となった。


 魔法についても、魔力の操作は相変わらず続けており、今では無意識の状態でも自由自在に体内の魔力を動かすことができるようになっていて、そのお陰かはわからないが魔法については中級の魔法にまで手が伸びていた。


 そんな順調な日々を送っていた彼の元に、突如としてある問題が降り掛かってきた。それは、彼がいるレインアーク王国に近年稀にみる大飢饉が発生したのだ。


 すでにその被害は国全体に及んでおり、少なくない人々が飢えによって死に絶えている状況だ。事態を重く見た国の上層部は、対策を講じるために連日遅くまで会議を行っているが、具体的な妙案など思いつかずただ無駄に時間が経過していた。


「父さま、大変だね」

「そうだぞ息子よ。父は今大変な時期なんだぞ」


 そんな折、気分転換と称して部屋を訪れた国王から国の現状を聞いたレイオールは、内心で呆れていた。それは父が無能だからという理由ではなく、それほど危機的な状況にあるのにもかかわらず、気分転換とはいえ息子である自分に会いに来る父親のお気楽さにである。


 そうはいっても、この忙しい時期に時間を見つけて会いに来てくれる父を無下にできる息子などいるはずもなく、彼の愚痴を黙って聞くだけに留めていたレイオールだったが、話を聞くと状況的にかなりまずい状態であることが理解できたため、少しだけ助言のようなものをすることにした。


「父さま」

「ん? どうした息子よ」

「どうして食べ物がないのですか?」

「ああ、どうやら今年は大麦や小麦の収穫量が凶作だったようでな。それに加えて、流行り病によって働き手が動けなくなったことで更に収穫量が減ったようだ」

「なるほど」


 この世界の主食は、大麦や小麦などを使ったパンとなっているのだが、パンの原材料となる大麦も小麦も不作によって必要な量が確保できていない。更にその状況を見た商人たちが、原材料である大麦や小麦はもちろんのこと加工品となった商品も軒並み高騰させてしまったため、流通量が極限にまで減ってしまっていた。


 商人たちとて国に所属する国民の一人であるため、日々の生活で食料の重要性は十分に理解していることだろう。だが、一部の悪徳な商人の手によって流通量の減った食料品の価格が吊り上げられてしまっているため、善良な商人が行動を起こそうと思っても、一度高騰してしまった価格の流れは変えることができないのだ。


 それとは別に、大麦と小麦の不作以外にも流行り病が蔓延してしまったことによる労働力の確保ができないということも問題で、仮に不作の問題を解決したとしてもそれらを育てるための労働力の確保ができないため、この大飢饉を抜け出すのは容易ではなかったのである。


(不作の原因はなんとも言えないけど、流行り病は手洗いうがいの徹底で減少させることができるんじゃないかな)


 まずは労働力を奪っている要因である流行り病をなんとかするべく、レイオールはその対応策を国王に話した。


「父さま、流行り病については手洗いとうがいである程度は予防できます」

「手洗いとうがい?」

「はい。まず外から帰ってきたら手を洗って、それからうがいをするんです。それだけで病気に罹る可能性がぐっと下がるはずです」

「ふーむ」


 レイオールの言葉に、なぜそのようなことを知っているのかという疑問を覚えた国王だったが、もしそれが本当に有効な手立てであれば、一考の余地があると彼は顎に手を当てながら唸る。


 頭の中でレイオールの言ったことを考えていると、さらに彼の口からとんでもないことを告げられる。


「それと大麦や小麦の不作ですが、おそらくは連作障害というものが原因だと思います」

「れんさくしょうがい? それは一体なんだ?」

「連作障害とは、同じ作物を同じ場所で栽培し続けることによって土壌の状態が変化し、収穫量が減ったり病気になりやすくなってしまう状態のことです」

「そのようなことが……」


 この世界の文明力はそれほど高くなく、精々中世ヨーロッパ程度のものでしかない。そのため、連作障害などというものがあること自体を知る人間など皆無であり、その対策を講じることができる者もまた誰もいない。


 しかし、前世の記憶を持っているレイオールならば、その原因と対処法を詳細でなくともある程度知っているため、今回はそれを大いに活用することにしたのである。


「肝心の対処法は至って簡単で……あ、父さまあそこにある本を取ってきてください」

「む、あれか」


 わかりやすく説明するため、レイオールは国王に机の上にある本を取ってきてもらった。そして、それを四つ並べると説明を始めた。


「いいですか。この四つの本の一つが小麦畑の一面だと思ってください。通常であれば、この四面すべてで小麦を育てます。それはわかりますよね?」

「ああ、今までずっとそうしてきた」

「ですが、それだと先ほど言った連作障害によって収穫量が減るばかりか、最悪の場合作物が病気になってしまう可能性もあるのです」

「なんと」

「そこでこうします」


 レイオールは、小麦畑に見立てた本を使って国王に詳細を説明する。四面あるうちの二面は、そのまま小麦畑を育て残りの二面は別の作物を育てる。すべての作物を収穫したのち、小麦を育てていた面を他の作物を育てていた面と交換する形で再度栽培するという方法だ。


 この方法で気を付けなければならないのは、小麦とは別の育てる作物が、同じように連作障害を引き起こす可能性のある作物を栽培するときには注意が必要だということだ。


「父さまはこのような作物を見たことがありますか?」

「これは【ナピー】という豆だな。こっちは【ポテ】という芋だ」

「では、このような雑草に心当たりは?」

「これは【バロク】という雑草だが、これがなんだというんだ?」


 次にレイオールが国王に質問したのが、大麦や小麦以外に育てる作物があるかどうかという確認だ。彼は手元にあった本の何も書かれていないページに、大豆とジャガイモの絵を描いて見せたあと、さらにクローバーの絵を描き、それも国王に見せたのである。


 そして、先の国王の返答を受け、レイオールは内心で“よっしゃ、勝った!!”とガッツポーズを取った。自分が思い描いた対策が、これでなんとかなるかもしれないという曖昧なものから、なんとかなるという確信に変わったからだ。


 それから、レイオールはできるだけわかりやすく国王に連作障害に対する対処法をレクチャーし、なんとか理解してもらえた。同じ畑で連続して同じ作物を育てなければ連作障害は起きにくいため、最悪理解できていなかったとしても、育てた作物とは別の種類の作物を育てるというルールさえ守れば問題はないのだ。


「うーん、息子よ。そのような方法一体どこで覚えたのだ?」

「父さま、今はそんなことよりも一刻も早く行動せねばなりません。それと、先ほどの対策を講じる際の労働力ですが、兵士を使ってはいかがでしょうか?」

「兵士だと?」


 国王の追求をはぐらかし、レイオールはさらに畑の作業をする人間として兵士を使うことを提案する。本来、畑で作物を育てるのは村人の仕事であるが、現時点で流行り病により村人による労働力が確保できない。そこで白羽の矢が立ったのが、国を守る兵士たちである。


 兵士の本来の仕事は街や都市といった重要拠点の治安維持だったり他国からの侵略から拠点を防衛することであるが、現在必要な人材は確保できており、正直なところ暇を持て余している者が少なからず存在する。他国からの侵略があれば迎撃するための戦力として大いに頼もしいが、有事の際以外では余剰なものでしかない。


 だが、村人から労働力を確保できない現状、兵士をその労働力とすることで十分な人材を確保できるというわけだ。それに加え、日々鍛錬をしている兵士たちは屈強な者が多く、村人と比較して流行り病に罹患している者も少ないため、派遣した先で流行り病に感染するというリスクも少ないのだ。


「今は戦争を仕掛けてくるような国もないですし、国民のために矢面に立つという意味ではなんら変わりありませんから」

「ははははっ、それは盲点だったわ。……わかった。さっそく宰相たちを召集して先ほどの話をしてみよう」

「父さま、その話し合いの際、先ほど話した内容は父さまが考えついたものということにしておいてください」

「何故だ?」

「その方が何かと都合がいいのですよ。僕にとっても、父さまにとっても」

「……(この歳で、そのことを理解しているとは)」


 仮に国王に伝えた対策が、第三者からもたらされたものだということを他の人間に知られるとどうなるのか。答えは、取り込まれるか排除されるかの二択だ。


 取り込まれる方については、その能力を自身のものとして利用しようとする者が必ず現れる。例えそれが王族であったとしても例外ではない。


 次に排除される方だが、その能力を脅威と見なされ、今後のことを考えていなくなってもらった方が賢明だと判断された場合、あらゆる手段を使って排除に乗り出すだろう。


 今回の場合、その第三者が王太子であるレイオールであることから、どちらかというと取り込まれる可能性が高い。そして、そこから本人たちが望まずとも、親子同士で王位の継承権を争うことになりかねないのだ。


 前世で財閥の跡取りという肩書を持っていたレイオールにとって、その可能性を考えるのは至極当然のことであったが、そのことを知らない国王からすれば彼が神童に見えてしまうのは仕方のないことだ。故に……。


(どうやら、レインアークは安泰のようだな。流石は俺の息子だ)


 などと勘違いしてしまうのも無理からぬことで、自身の息子の優秀さに顔を綻ばせていた。そのあとも、いろいろとレイオールに細かい情報を聞き終えると、彼の部屋をあとにした。


 こうして、少しの助言をするつもりだったレイオールが、類まれなる才覚を持っているという勘違いをされ、次期国王として周囲の期待を受けてしまうという、彼にとっての受難の始まりであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

処理中です...