王太子に転生したけど、国王になりたくないので全力で抗ってみた

こばやん2号

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第二話「異世界と魔法」

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「あーう、あううあうあうあううあうあうあーうあーう!(どーも、王太子に生まれ変わった男ことレイオールでーす!)」


 誰もいない部屋で幼い赤ん坊の声がただただ木霊する。一般的な家庭であれば、そんな日常が繰り広げられることはごく自然なものだろう。だが、それが前世の記憶を持って生まれ変わった人間であれば、話は変わってくる。


 前世で死亡し、王太子として生まれ変わった貞光ことレイオールが、赤ちゃんプレイを開始して早二か月が経過した。赤ちゃんプレイといっても、いい年をした成人男性が母性的な女性に甘えるなどといった倫理的なものに反するようなものではなく、言葉の通り“前世の記憶を持ったままで二度目の人生を歩んでいる”といった意味での赤ちゃんプレイだ。


 その二か月という間にいろいろと情報を得ることができた彼は、改めてその情報を整理していくことにした。


「あうあう(まずはこの世界についてだな)」


 結論から言えば、この国……というよりもこの世界は元の地球のどこかしらの国ではなく、地球とは全く異なる世界、所謂“異世界”であることが確定した。


 レイオールがその結論に至ったいくつかの理由があるのだが、それを箇条書きにすると以下の通りとなる。



 ・ この国の名前は【レインアーク王国】という名の国で、まったく聞き覚えがない。


 ・ この二か月の間に地球の文明の利器である電化製品などを一切見かけなかった。


 ・ 何よりも、魔法というものが存在している事実。



 これ以外にも、レイオールが生まれ変わった世界が異世界だという証拠はあるが、大きくまとめるとこの三点があげられる。


 そもそもだが、“王国”という国の形態を名乗っている時点で王制の国であるということが窺えるが、元の世界に大々的に王国と名乗る国はほどんど皆無であった。


 これは、国の政である政治が国王主導の下で行われていないためであり、国の政は政治家という存在が行うというのが広く浸透していたことが要因だ。


 そんな中で王国と名乗れば、否が応でも印象に残るはずだ。だというのに、レイオールは前世でそんな国名を聞いたことがない。


 次に電化製品についてだが、この二か月間ずっと部屋に籠りっぱなしというわけではなく、乳母のジュリアの手を借りて、部屋の外に連れて行ってもらったことが何度かあった。訪れた部屋は十にも満たなかったが、その部屋すべてにおいて共通していたのが電化製品などがなかったという点だ。


 もちろん、たまたま電化製品のない部屋に行ったという可能性もなくはないが、部屋の明かり取りの方法として、蛍光灯ではなく部屋に備え付けられた蝋燭を立てるための燭台やランプなどを使用している時点で、かなり違和感があったのだ。


 最後に決定的だったのが、魔法の存在である。テレビゲームやアニメなどで登場することが多い魔法だが、その存在は空想上のものであり、実際に存在していたという明確な証拠はない。


 しかしながら、この世界では魔法というものが当たり前のように存在しており、実際にジュリアが“光を集え”という詠唱したあとに【ライト】という言葉を発しながら手を翳すと、その手に球体の光の玉が出現したのだ。


 その時起こった現象に、目を見開いて驚いているレイオールに向かって「これは【ライト】という光の玉を生み出す魔法ですよ」などとジュリアが宣ったものだから、いよいよもって魔法という存在が絶対的なものとなったのだ。


 以上の点から、レイオールはこの世界を異世界と断定するに至ったのだが、それ以外にも見た目が西洋風なのに日本語を話している点についても今となってはおかしいということに気付いたのである。


「あうあうあう、あうあうううあう(まだこの世界についてわからないことは多いけど、今の体では動くことすらままならないからな)」


 などとレイオールが嘆くのも無理はない。なにせ、今の彼はこの世に生を受けてから二か月程度しか経過しておらず、ハイハイもまともにできない状態なのだ。首も座っていないため、下手に動けば体ができていない現状危険であることは明白である。


 それでも、何とか寝返りや手足をばたつかせる程度のことはできるため、今の彼はその二つを使ってストレッチを行うことが日課となっていた。


「あう……あうあうあーう(それにしても魔法か……なら俺も使えるようになってみたいな)」


 この二か月という期間を過ごしたことによって、精神が肉体に引っ張られているのか、いつの間にか彼の口調は若々しくなっていた。そのことについてレイオールが気にした様子はなく、寧ろ新たな人生に順応しつつあるということで、彼にとってはいいことなのだろう。


 兎にも角にも、今は魔法についてだ。せっかく、剣と魔法のファンタジー世界に生まれ変わったのだから、地球出身のレイオールにとって未知の技術である魔法を使用してみたいというのは至極当たり前の願望であった。


 魔法というのは、何もないところから火や水を生み出すとんでも技術というのがレイオールの持つイメージだが、実際は魔力というものを用いた物理現象だ。


 つまりは、魔力という存在を認識し、その魔力を消費することで、初めて魔法というものを使用できるのである。


 レイオール自身も、前世で読んだ娘が書いていた小説でなんとなくそのことを理解していたため、まずは魔力という存在を感じるところから始めてみることにしたのだ。


(確か、丹田とかいうへその下辺りに意識を集中するとか書いてあったな。うーん……お、この暖かい感覚が魔力ってやつなのか?)


 魔力という存在を認識できたことに喜んでいたレイオールだったが、その喜びは部屋に現れた乳母のジュリアによって見事に打ち砕かれることになる。


「王太子殿下、おむつが濡れておりますね。交換させてくださいませ」

(って、ただの生理現象かよ! 少しでも魔力を感じられたと喜んだ俺が恥ずかしいだろうが!!)


 などと内心で悪態を吐くものの、その声が誰かに届くことはない。寧ろ聞かれたらさらに恥ずかしい事になるという意味では、その状況を把握しているのがレイオールだけだったというのは、彼にとって救いであったことはまず間違いない。


 ジュリアにおむつを交換してもらったあとも、レイオールはなんとか魔力を感じようと頑張ってみたが、その日期待した成果を得ることはできなかったのであった。



 ☆ ☆ ☆



 レイオールが魔力を感じるためのトレーニングを開始して十日ほどが経過した頃、少しではあるもののその成果が表れ始めていた。


 具体的には、やはり丹田と呼ばれる部分に前世では感じなかった違和感があることが判明し、その違和感を意識して動かそうと試行錯誤を繰り返しているうちに、少しずつではあるが動かせるようになってきたのだ。


(うしっ、かなり動かせるようになってきたな。これならもうすぐ魔法が使えるかもしれん)


 などと淡い期待を寄せるレイオールだったが、残念ながらその願いが叶うことになるのはまだまだ先だと言わざるを得ない。


 現時点でのレイオールは、この世界の魔法の概要を理解しておらず、体内にある魔力であろう違和感を少しだけ動かせるようになった程度でしかない。魔法を使うという目標から見れば、まだまだスタートラインにすら立てていないのだ。


 それでも、彼が行っている体内の魔力を動かすトレーニングは決して無駄なものではなく、どちらかといえば魔法を使うに際し必要な項目の一つであったりするため、赤ん坊である彼がこのトレーニング法を行うことはかえって効率がいいと言えるのである。


 わかりやすく言うのならば、サッカーが上手くなりたいと思っている人間がいたとして、贅肉の付いた太った体では思うままに動くことはできない。そのためにまずやるべきことは無駄な贅肉を落とし、動きやすい体を作ってから、改めてサッカーを練習した方が最初からサッカーを練習するよりも効率的だ。


 彼自身はそんな効率云々を重視した結果による行動ではなく、魔法というのが魔力(MP)を使用するものだということを理解しており、それを操るためには魔力を感じ取らなければならないという漠然とした先入観から今のトレーニングを行っているだけだが、現状で最も効率的な手段を取る結果になっていた。


(うーん、腹が減った。……仕方ない呼ぶか)


 赤ん坊という身でありながら早々にトレーニングを始めてしまっているため、今のレイオールはかなり腹の減り具合が早いのだ。そのため乳母のジュリアを泣き声で呼んではその都度栄養をもらっているのだが、そのあまりの頻度に彼女は訝し気に思い始めていた。


「おんぎゃー(棒)、おんぎゃー(棒)」

「はいはい、どうされましたレイオール殿下? また、お食事でしょうか?」


 通常の赤ん坊とは些か異なる挙動を取るレイオールに不審がりながらも、彼が王族の血を引いているという結論に至り、そういうものなのだろうということでジュリア本人は納得していた。


 数時間ほど前にも腹が減ったと呼び出されたため、今回もまた食事なのかと思い、ジュリアが邪推した一言を口にする。


「あうー」

「またですか。殿下は本当に食欲旺盛ですね」


 そんなことを言いつつも、幼いレイオールに頼られるということが嬉しいのか、すぐに食事を与えてくれるあたり、彼女の母性の強さが窺える。


 前世の記憶があるレイオールも、さすがに数十回と彼女や王妃から食事をもらっていれば、当初の申し訳ないという気持ちは薄れていき、今では遠慮せずに彼女たちから栄養をいただいている。


 それから、ジュリアから栄養を補給したレイオールは、再び魔力を操作するトレーニングを続けていき、彼がまともに魔力を操作できるようになったのは、一月以上経過した後であった。
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