何度も死に戻りした悪役貴族〜自殺したらなんかストーリーが変わったんだが〜

琥珀のアリス

文字の大きさ
227 / 238
国落とし編

無秩序国家サルマージュ

しおりを挟む
 ガタゴトと馬車に揺られること約二週間。

 俺はようやく目的地であった無秩序国家サルマージュに着くのだと思うと、馬車の背もたれに体を預けて大きく息を吐く。

「はぁ。ほんとに長かったなぁ」

「大丈夫ですか?ルーナさん」

「問題ないよ。ただ、こんなに長い間馬車に乗るなんてこと無かったから疲れただけ」

 無秩序国家サルマージュは、ヴァレンタイン公爵領よりさらに北へと向かった場所にあり、いくつかの山を越えなければならないため移動にはかなりの時間が掛かる。

 それでも、普通であればサルマージュの中心地まで向かうのに馬車だと一ヶ月以上の時間が掛かるのだが、今回は魔法が付与された特別な馬車であることや俺自身が回復魔法を使えるため、馬には最低限の休みのみを与えて移動して来た。

 そのお陰もあり、通常よりも半分の日数で到着することができた訳だが、それでも基本的に自身の足で移動して来た俺にとっては、二週間も馬車に乗るというのはストレスでしか無かった。

「あんたら、そろそろサルマージュに入るから、その寛いだ態度を直して悲壮感を出しな。どこにそんなリラックスしてる捕えられた奴隷なんているんだい」

「はーい」

 この二週間で俺たちの保護者の様な雰囲気を出すようになったナグライアにそう言われると、疲れを軽減させるために使っていた水クッションを解除し、認識阻害の魔法を掛け直す。

「さすがルーナだね。この一瞬で私たちの姿はすっかりボロボロの奴隷のように見えるよ」

「そうですね。あとは私たちが上手く演技をすれば、周りから疑われることはないでしょう」

 今回俺が使用した認識阻害の魔法には、自分以外の相手には服が汚れ髪が乱れ、如何にも奴隷に見えるようなイメージを持たせているため、俺よりも優れた魔法使いでもない限りこの姿に疑問を持つことはない。

 さらに言えば、いくら俺たちの容姿が優れていようと、気配希薄の魔法が付与された腕輪もあるので、俺たちを気にして絡んでくる奴らもいないはずだ。

「さて。これから敵の本拠地に入るわけだけど、特に気をつけるべきことはないよ。ただ、ここは無秩序国家サルマージュだから、犯罪なんて日常茶飯事だ。殺人、スリ、詐欺に薬、存在する犯罪の全てがここにあると言われている。油断はしないように」

「そうだね。でも、改めて聞くと字面がすごいね。存在する犯罪の全てなんて、私たちも気を引き締めないとすぐに殺されそうだ」

「その通り。だから、もし私たちに何かしようとしてくる者がいれば容赦なく殺して構わない。僅かな油断、小さな同情、そして少しの躊躇いが自分たちの命を手放すことになると覚えておくように。なに、殺してもこの国なら問題ないし、元々は犯罪者たちが集まってできた国だから、襲われて殺しても誰も何も言わないよ。郷に入っては郷に従えってやつだ。だから、気にせずサクッと殺すように」

「わかりました。元々ルーナさん以外にはこの体を触れさせる気はありませんので、容赦の欠片も無くやらせてもらいます」

「人を殺すことを正当化するのは好きじゃないけど、自分の命がかかっているからね。わかったよ」

「ルーナさんには髪の毛一本さえ触れさせません。そんな輩がいれば、私が速やかに始末いたします」

 何だか2人ほどおかしな発言をしていた気もするが、そこに触れると疲れるのは俺の方なので、彼女たちの好きな様にやらせることに決めてこの話は終わりとなった。

 そして、俺たちの乗った馬車はサルマージュの街へと続く道をゆっくりと進んでいくと、いよいよ最後の目的地である無秩序国家サルマージュへと入るのであった。




「これは、はたして国と呼んでいいのだろうか」

「酷いですね。そこら辺に死体が転がっています。それに、街の中央だというのに野垂れ死にしそうな人も多くいます」

「子供の死体もありますね。それに、あそこは奴隷市場でしょうか。人がたくさん並べられていますね」

 サルマージュへと入国した俺たちだったが、ここに来るまで特に検問などで捕まることはなく、そもそも門なんて呼べるものも存在しなかったため、簡単に入ることができた。

 馬車の中から見える街の風景はあまりにも酷いもので、建物はボロボロ、道にはゴミだけで無く死体も転がっており、地面や建物には赤黒い血の跡が数え切れないほど残っている。

 そして、道の端では商人のような奴らが鎖に繋がれた大人や子供を並べて奴隷の販売を行なっているようだが、あれもはたして犯罪奴隷なのか違法奴隷なのか。

 少なくとも子供がいる時点で犯罪を犯した奴らだけでは無いようなので、どこからか攫ってきた子供を売っている可能性が高いだろう。

(ここまで来るといっそ清々しいな。遠慮せずに全員始末できそうだ)

 元々、一切の容赦情けを掛けるつもりは無かったが、少し見ただけでもこの国が国として成り立っていないこと、そして法もなければ秩序もないことが窺い知れるため、片付ける時は遠慮することなく思い切りやることができるだろう。

「死ねぇぇぇ!!」

「がはっ!?てめぇ、は……あの、時の……」

「お前のせいで!お前のせいでお前のせいで!!」

 すると、街のどこかで威勢の良い声と弱々しくなっていく声が聞こえたのでそちらに目を向ければ、そこには地面に倒れて血の海を作る男と、すでに息絶えた男に何度も短剣を振り下ろす狂気じみた女の姿があった。

「殺人……ですか」

「何だか理由がありそうだけど、それでも街の真ん中であんなに堂々と人を殺すとはね」

「ですが、あれも日常茶飯事なのでしょう。周りの誰も気にも止めず歩いてるのがその証拠かと」

 俺たちが目にしたのは間違いなく殺人行為であり、理由が何であれ人殺しであれば、普通なら騎士が止めに来たり周りの人間が騒ぐだろう。

 しかし、この街ではよくあることなのか誰一人として足を止めようとはせず、寧ろ当たり前であるかのように通り過ぎていく。

「でも、一応は気にしてる奴らもいるみたいだよ。ほら、あそこ」

 俺がそう言って指をさした方向にアイリスたちが目を向ければ、そこには建物の影に隠れた子供たちが殺人現場の様子を伺っており、女が満足してその場を離れると、子供たちが建物の影から出てきて死体のもとへと集まっていく。

 そして、殺された男の死体を漁っては金目のものを取ると、全員が散り散りになって逃げていき、その場にはあっという間に最低限の服しか着ていない男の死体だけが残った。

「本当に、この国は酷いところだね。本来であれば守られるべき子供が死体を漁らなければ生きていけないなんて」

「まぁ、仕方ないよ。それがサルマージュという国な訳だし、あんな光景がここだけにある訳じゃない。視野を広げれば、あんな子供は数え切れないほどいる。それを全部気にかけていたら、私たちの方が精神的におかしくなるよ」

「そう、だね」

 この世界は、命の価値というものがそもそも低い。

 簡単に人を殺す人もいれば、欲に塗れた統治者によって戦争だって簡単に起こる。

 その戦争があった場所で死体を漁り、剣や鎧などを手に入れては売り、それで生活をしている人もいるし、最悪の場合には死体を食べて命を繋いでる人もいる。

 残酷であり悲惨であることは分かっているが、その全てを気にしていれば領主や王は精神的に壊れてしまい、暴君や廃人へと成り果てるだろう。

 統治者とは、時には誰よりも冷徹であり、そして残酷な判断を下さなければならないのだ。

 ただ、世の中にはそれを理解できない奴らも存在している。

 そいつらは悪が無くなれば平和になるとか、根拠のない自信から全ての人を救えると本気で考えている。

 今回シャルエナには視野を広く持つよう伝えたが、これは今後の彼女にとっても重要なことであり、この先の未来で過去のあの出来事が起こるのかはまだ分からないが、もしあれが起こるのであれば、彼女の未来は今よりも厳しいものへと変わるだろう。

(あとの選択は彼女自身がすべきことだが、今回は俺の頼みに付き合ってもらったからな。これくらいはいいだろう)

 今後、彼女がどんな選択をし、どんな未来に辿り着くのかはまだ分からない、お礼代わりにこれくらいのアドバイスをしておくのは悪くないはずだ。

「そろそろあんたらを預ける場所に着くから静かにしな」

 その後も俺たちがサルマージュの街を眺めている間も馬車は動き続けており、ナグライアがそう言うと目の前に大きな建物が見えてくるのであった。





しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国の辺境で、ただ静かに生き延びたいと願う少年、ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、前世の記憶と、母が遺した『物理法則を応用した高圧魔力』という危険な理論だけだ。 敵の大軍が迫る中、ヴァンは剣も振るわず、補給線と心理を切り裂く。 結果、敵軍は撤退。代償も、喝采も、彼には無意味だった。 だが、その「効率的すぎる勝利」は帝国の目に留まり、彼は最高峰の『帝国軍事学院』へと引きずり出される。 「英雄になりたいわけじゃない。生き残りたいだけだ」 謎の仮面メイド『シンカク』、命を取引に差し出した狼耳の少女『アイリ』。 少年は選択する。正義ではなく、最も費用対効果の高い道を。 これは、合理が英雄譚を侵食していく、学園ミリタリーファンタジー。 【※作者は日本語を勉強中の外国人です。翻訳ソフトと辞書を駆使して執筆しています。至らない点もあるかと思いますが、物語を楽しんでいただければ幸いです。】

スキル買います

モモん
ファンタジー
「お前との婚約を破棄する!」 ローズ聖国の国立学園第139期卒業記念パーティーの日、第3王子シュナル=ローズレアは婚約者であるレイミ・ベルナール子爵家息女に宣言した。 見習い聖女であるレイミは、実は対価と引き換えにスキルを買い取ることのできる特殊な能力を有していた。 婚約破棄を受け入れる事を対価に、王子と聖女から特殊なスキルを受け取ったレイミは、そのまま姿を消した。 レイミと王妃の一族には、数年前から続く確執があり、いずれ王子と聖女のスキル消失が判明すれば、原因がレイミとの婚約破棄にあると疑われるのは明白だ。 そして、レイミを鑑定すれば消えたスキルをレイミがもっている事は明確になってしまうからだ。 かくして、子爵令嬢の逃走劇が幕を開ける。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

処理中です...