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国落とし編
泣いちゃった
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ガタ……ゴト……
揺れる馬車の中、私…いや俺は、自分を含めた何人かの冒険者たちと一緒に、静かな森の中を馬車で移動させられていた。
「ルーナさん。大丈夫ですか?」
「問題ないよ。それに、もうすぐ到着しそうだしね」
俺は常時展開していた感知魔法で、目的地の国が近づいてきたことを仲間たちに伝えると、静かに準備をするよう指示をだす。
「さぁ。いよいよ無秩序国家サルマージュに入るよ。準備はいい?リリィ、ミーゼ、ナルシェ」
「はい」
「問題ありません」
「私も問題ないよ」
こうして、俺たち無秩序国家サルマージュ組は、女四人と他の冒険者数名で、馬車に揺られながら、犯罪者たちの巣窟であるサルマージュへと足を踏み入れるのであった。
武術大会が終わってから数日後。期末試験を終えた俺たちは、最後の確認をするため、もはや恒例となりつつあるSクラス生用の庭園へと来ていた。
「さて。ここに集まってもらった諸君には、これから始まる夏休みを使い、極秘任務に当たってもらう」
俺はストレージから取り出した真っ白な円卓の前に座りながら、ミリアが用意した黒い軍服を肩にかけ、足を組んで尊大な態度を取る。
「それはいいのだけれど、その格好とこのテーブルは何かしら」
「既視感」
シュヴィーナとフィエラはこの状況に覚えがあるのか、俺と同じで円卓の席に座りながらこちらを見てくる。
「ルイス様。軍服、とてもよくお似合いです」
「あなたの銀髪に黒と金の軍服は映えるわね」
「白の軍服も似合いそうですね。装飾や飾り紐は青がよろしいでしょうか」
アイリスとソニア、そしてセフィリアの三人はこの格好に対して疑問が無いらしく、各々感想を述べては他にもあれが似合いそうだと話し出す。
「イスは昔からそういうノリの良いところがあったよね。だから公爵夫人も色々と買ってきては君に着せていたのを思い出したよ」
「君にそんな一面があったなんてね。今後は君を揶揄うためのいいネタになりそうだ」
シャルエナは昔のことを思い出したのか、懐かしむように微笑んでおり、カマエルはまるで悪戯っ子がお気に入りのおもちゃでも見つけたかのようにニヤリと笑った。
「こちらは奥様がご用意した、ルイス様着飾りシリーズNo.52『軍服は男の子の憧れ』になります」
「ミリア。そこまでの説明はしなくていい」
「あはは。いいじゃないか。ちなみに、No.52ってことはまだあるのかな?」
「はい。現在のルイス様着飾りシリーズはNo.106まであり、他にも『真夏の海でバカンスを』『騎士の私が貴女をお守りする』といった男性物から、『お忍びのお嬢様は町を楽しみたい』『夜の蝶はこの私』など、女性物のシリーズまで存在しています」
「あっははは!君のお母様は本当に面白いね。女性シリーズまであるなんて、よっぽど君のことを可愛がっているみたいだね」
「カマエル。もうそれ以上は黙ろうか?」
「はいはーい。わかったからそんなに睨まないでくれよ」
俺は少しだけ殺気を込めてカマエルを睨むが、彼は何てことの無いようにそう言うと、つまらないとでも言いたげに唇を尖らせる。
「さて。話が逸れたが、これから夏休みの件について最終確認を行う。まずはメンバー確認だが、サルマージュ側には俺とアイリス、そしてミリアとシャルエナ殿下の四人。クラン側にはフィエラとシュヴィーナ、セフィリアとソニア、そして最後にカマエルの五人だ。フィエラの方はカマエルがリーダーだ。基本的に彼の指示に従うように」
「えぇ…僕がリーダー?」
「寧ろお前しかいないだろ。フィエラは考えて戦うよりも感覚で戦うし、セフィリアはそもそも戦闘経験がほとんどない。それにソニアとシュヴィーナも指示出しなんてしたことがないだろうからな。その点お前は、これまで何度も暗殺部隊を率いたことがあるだろう?それと同じだと思え」
「はぁ。全然違う気がするけどね。みんな癖が強すぎるし。まぁそういう事なら仕方ないけど」
フィエラたちも俺が決めた事だからか特に文句を言うことはなく、彼女たちも同意したのを見て次の話に移る。
「次に、これは全員分の偽装したギルドカードだ。シャーラーさんに頼んで作ってもらった。ランクは適当だが、CランクからBランクにしてもらっている。それと、名前は俺の方で適当に決めさせてもらったから文句は言わないように」
俺はそう言ってギルドカードを円卓の上に並べるが、カードの名前を見たフィエラたちは何かに疑問を持ったらしく、何度もカードの枚数を数えていた。
「どうした?」
「あの、ルイス様。こちらにあるカードに間違いはないのですか?」
「間違いないが、何か気になることでもあったのか?」
「その…女性名のカードが何故か8枚あるようなのですが……」
どうやらフィエラたちが気になっていたのは、女性の名前で作られたカードが8枚もあることに対してだったようで、そのことを代表してアイリスが尋ねてくる。
確かに、ここには全員で九人おり、そのうち男は俺とカマエルの二人いるのだから、女性用のカードが8枚もあるというのはおかしなことだ。
「あぁ。それなら間違いない。だって、俺はこっちの姿で行くからな」
俺はそう言って指を一度鳴らすと、黒い霧が全身を包み込み、その霧が晴れると濃紺の髪に青い瞳をしたエイルの姿が現れる。
しかし、いつもと違うのは全体的に体が丸みを帯びており、背はいつもより10cmほど低く170cm程度、さらには引き締まったウエストと細くしなやかな手足、そして胸元には本来なら男には無いものが付いていた。
「どうだ?すこし背が高い気もするが、十分女らしく見えると思うんだが」
『……………』
俺はちゃんと魔法が成功しているのかを確認するため、氷魔法で鏡を作り出して今の状態を確認してみるが、特に問題は無く、イメージ通りの姿がそこには映っていた。
しかし、何故か周りから返ってくる声は無く、何だと思いながらそちらに目を向けると、全員が表情を変えることなく固まっていた。
「どこかおかしかったか?」
「エル……」
「ん?……おっと」
誰も何も言わないこの状況にどこか変だったのかと思いもう一度確認をしようとした時、目にも止まらぬ速さでフィエラが抱きついてくる。
「どうした」
「エル。可愛すぎる。いや、綺麗って言うべき?エルのお母さんに似てて凄くいい。こんなに可愛いのはずるすぎる。それに肌もいつもより柔らかいし、この胸も柔らかすぎ。どういうこと?なんでこんなことになったの?これはもはや犯罪。可愛いで世界滅ぼせる。いっそ滅ぼす?でもこの姿を他の人に見せるのは嫌。とにかく可愛すぎる」
「あ、うん。よくわからんが褒めてくれてるのはわかった。ありがとう」
フィエラが何を言っているのかはよく分からなかったが、とりあえず魔法は成功し、この姿にも問題がない事を確認できただけでも良しとする。
「あの、ルイス様。そのお姿は?」
ようやく意識が戻ったのか、それでも困惑した様子のセフィリアがこの状況について尋ねてきた。
「これは『転性の指輪』っていうアーティファクトの効果で、変えたい姿をイメージしながら魔力を流し込むと、その通りに姿が変わるんだ」
転性の指輪は前に神樹国の宝物庫から貰ってきたアーティファクトの一つで、効果は面白いが使い道がなかったため、これまでストレージの中で眠らせていたものだ。
効果は名前の通り性別を反転させるものであり、男であれば女、女であれば男といった感じで性別と姿を変えられる。
しかも、いつも使っている変装魔法とは違い、見た目だけでなく文字通り性別が肉体的にも変化するため、正真正銘の性転換なのだ。
「どうして性別を変える必要があるの?」
「いい質問だなソニア。まず、俺たちが行くサルマージュは北にあり、うちのヴァレンタイン公爵領とも近い。それに、これまでバレずに人を攫っていたことを考えると、上の奴らはそこそこ頭も良いはずだ。そうなると、俺の本来の容姿はバレているだろうし、エイルという冒険者も向こうでは有名だから使えない。そして、同じ性別で変装をしても、魔力封印とかを使われると変装魔法が解けてしまう。そんな面倒を避けるために、今回は性別自体を変えることにしたってわけだ」
いつものように変装魔法で別の男の姿に変えることも考えたが、解除魔法や魔力封印の拘束具を使われれば魔法が解けてしまう危険性があるため、予め面倒ごとを避ける意味も込めて、今回はこのアーティファクトを使うことにしたのだ。
「このアーティファクトは一度魔力を流せばもう一度魔力を流すまで戻らないから、例え魔力を封印されても問題ないんだ」
「なるほどね。でも、その姿だと逆に目立つ気がするわ。女のあたしから見ても魅力的すぎるのよ」
「魅力的っていうのはよくわからんが、他にもアイテムは用意してある」
ソニアは俺が目立つ事を心配しているようだが、もちろんその辺りも抜かりなく対策は立ててある。
「まず認識阻害と気配希薄、それと魔力隠蔽の魔法を付与した腕輪だ。これを各自一つずつ装備するように」
認識阻害は彼女たちの姿が相手からは別の姿に見えるよう調整しており、気配希薄は彼女たちの存在感を薄くすることで興味を持たれないようにする。
さらに魔力隠蔽は魔力量が多いソニアたちが魔力感知でバレないようにするためのもので、仮に魔力感知を使われたとしても、あまり魔力が多くないよう誤認させる効果がある。
俺は付与されている魔法の効果を説明しながら風魔法を使って7個全てをフィエラたちの前に置くと、彼女たちは大事そうにそれを手に取った。
「ねぇ、ルイス。僕の分が無いんだけど」
「お前は自分でできるだろ」
すると、一人だけ貰えなかったカマエルは軽く手を挙げながらそんな事を言うが、こいつは暗殺者であり、自分で同じ魔法を使うことくらいはできるはずなので彼の分は用意していない。
「次に収納魔法が付与された指輪。これは指輪だからそんなに量は入らないが、各自の武器と軽い食料とかなら入るはずだ。持ち歩く武器は奪われても良いように適当なものを使い、本命はいつでも取り出せるよう指輪の中に入れておくように」
「指輪……プロポーズ?」
「違うぞフィエラ。その指輪のサイズは各自の親指のサイズに合わせてあるから、必ず親指に付けろよ」
「ルイス…僕の分…」
「無い。お前はそもそも大きな武器を持ち歩くタイプじゃ無いだろ」
カマエルは先ほどと変わらず自身の分が無いと言ってくるが、こいつは特殊な魔法が使えるため基本的に武器は短剣しか持ち歩かない。
だからカマエルには収納魔法が付与された指輪なんて必要ないし、暗殺者として育てられたこいつなら、そもそも一ヶ月くらい何も食べなくても生きていけるはずだ。
「最後にアイテム隠蔽と状態異常無効のイヤリング。指輪とか付けてたらバレて取られる可能性があるし、変な薬とかを飲まされる可能性もあるからな。このイヤリングがあれば、他人からは装備しているアイテムが見えなくなるし、薬や毒、麻痺なんかも効かなくなる」
「ルイス……」
「無い。お前には持たせてるアイテムが無いし、耐性だって全て持ってるはずだから必要ないだろ」
「僕…この任務辞めたい。扱いがひどすぎる……ぐすん」
最後の最後までアイテムを貰うことができなかったカマエルはわざとらしく目元を涙で濡らすが、あれが嘘泣きであることは分かっているため無視をする。
「んじゃ、これでアイテム配りは終わりだ。あとは各自必要な物の準備と、仲間内でギルドカードの名前を確認しておくように。呼ばれて気づかない、あるいは呼び間違えるなんてことないようにな」
俺が最後にそう締め括れば、フィエラたちは各自で渡されたギルドカードの名前を確認していくが、ここでまたしてもカマエルが手を挙げて抗議してくる。
「あのさ、僕の名前……」
「ん?良い名前だろ?レハムーくん」
「いや、この名前悪意ありすぎじゃない?」
「仕方ないだろ。適当につけたら、偶々そうなったんだから。もう変えられないし、我慢してくれるよな。レハムー?」
「くっ。この任務が終わったら覚えてろよ」
レハムーもといカマエルは、何やら悔しそうにしながらそう言うが、最初に揶揄ってきたのは向こうなので、俺は何も悪くない。
例えギルドカードを用意した時点で最初に揶揄おうとしていたのが俺だとしても、絶対に悪くないのだ。
ちなみにだが、フィエラたちの名前も俺が考えたもので、フィエラがラフィ、シュヴィーナかヴィシェ、ソニアがアン、セフィリアがアリィ、アイリスがリリィ、ミリアがミーゼ、シャルエナがナルシェ、そして俺がルーナである。
「んじゃ、これで話し合いは終わりだ。四日後には夏休みに入るから、その後はそのまま各グループに分かれて行動するぞ。さっさと終わらせて、残りの夏休みをまったり過ごそうじゃないか」
本来であれば、この夏の長期休暇を利用してランクの高いダンジョンに潜ったり、公爵領でだらけながら生活するつもりだったが、今回は戦争を企む面倒な奴らのせいで俺の計画が全てダメになった。
(正直、戦争でこの国がどうなろうと構わないが、今回はヴァレンタイン公爵領も関わってくるからな。それに、あの国を潰して魔族に渡した方が旨みもある。ふふ……考えただけで楽しくなってくるな)
その後は、各グループで何を持っていくかなどを話し合うと、国落としをする前の最後の話し合いが終わるのであった。
揺れる馬車の中、私…いや俺は、自分を含めた何人かの冒険者たちと一緒に、静かな森の中を馬車で移動させられていた。
「ルーナさん。大丈夫ですか?」
「問題ないよ。それに、もうすぐ到着しそうだしね」
俺は常時展開していた感知魔法で、目的地の国が近づいてきたことを仲間たちに伝えると、静かに準備をするよう指示をだす。
「さぁ。いよいよ無秩序国家サルマージュに入るよ。準備はいい?リリィ、ミーゼ、ナルシェ」
「はい」
「問題ありません」
「私も問題ないよ」
こうして、俺たち無秩序国家サルマージュ組は、女四人と他の冒険者数名で、馬車に揺られながら、犯罪者たちの巣窟であるサルマージュへと足を踏み入れるのであった。
武術大会が終わってから数日後。期末試験を終えた俺たちは、最後の確認をするため、もはや恒例となりつつあるSクラス生用の庭園へと来ていた。
「さて。ここに集まってもらった諸君には、これから始まる夏休みを使い、極秘任務に当たってもらう」
俺はストレージから取り出した真っ白な円卓の前に座りながら、ミリアが用意した黒い軍服を肩にかけ、足を組んで尊大な態度を取る。
「それはいいのだけれど、その格好とこのテーブルは何かしら」
「既視感」
シュヴィーナとフィエラはこの状況に覚えがあるのか、俺と同じで円卓の席に座りながらこちらを見てくる。
「ルイス様。軍服、とてもよくお似合いです」
「あなたの銀髪に黒と金の軍服は映えるわね」
「白の軍服も似合いそうですね。装飾や飾り紐は青がよろしいでしょうか」
アイリスとソニア、そしてセフィリアの三人はこの格好に対して疑問が無いらしく、各々感想を述べては他にもあれが似合いそうだと話し出す。
「イスは昔からそういうノリの良いところがあったよね。だから公爵夫人も色々と買ってきては君に着せていたのを思い出したよ」
「君にそんな一面があったなんてね。今後は君を揶揄うためのいいネタになりそうだ」
シャルエナは昔のことを思い出したのか、懐かしむように微笑んでおり、カマエルはまるで悪戯っ子がお気に入りのおもちゃでも見つけたかのようにニヤリと笑った。
「こちらは奥様がご用意した、ルイス様着飾りシリーズNo.52『軍服は男の子の憧れ』になります」
「ミリア。そこまでの説明はしなくていい」
「あはは。いいじゃないか。ちなみに、No.52ってことはまだあるのかな?」
「はい。現在のルイス様着飾りシリーズはNo.106まであり、他にも『真夏の海でバカンスを』『騎士の私が貴女をお守りする』といった男性物から、『お忍びのお嬢様は町を楽しみたい』『夜の蝶はこの私』など、女性物のシリーズまで存在しています」
「あっははは!君のお母様は本当に面白いね。女性シリーズまであるなんて、よっぽど君のことを可愛がっているみたいだね」
「カマエル。もうそれ以上は黙ろうか?」
「はいはーい。わかったからそんなに睨まないでくれよ」
俺は少しだけ殺気を込めてカマエルを睨むが、彼は何てことの無いようにそう言うと、つまらないとでも言いたげに唇を尖らせる。
「さて。話が逸れたが、これから夏休みの件について最終確認を行う。まずはメンバー確認だが、サルマージュ側には俺とアイリス、そしてミリアとシャルエナ殿下の四人。クラン側にはフィエラとシュヴィーナ、セフィリアとソニア、そして最後にカマエルの五人だ。フィエラの方はカマエルがリーダーだ。基本的に彼の指示に従うように」
「えぇ…僕がリーダー?」
「寧ろお前しかいないだろ。フィエラは考えて戦うよりも感覚で戦うし、セフィリアはそもそも戦闘経験がほとんどない。それにソニアとシュヴィーナも指示出しなんてしたことがないだろうからな。その点お前は、これまで何度も暗殺部隊を率いたことがあるだろう?それと同じだと思え」
「はぁ。全然違う気がするけどね。みんな癖が強すぎるし。まぁそういう事なら仕方ないけど」
フィエラたちも俺が決めた事だからか特に文句を言うことはなく、彼女たちも同意したのを見て次の話に移る。
「次に、これは全員分の偽装したギルドカードだ。シャーラーさんに頼んで作ってもらった。ランクは適当だが、CランクからBランクにしてもらっている。それと、名前は俺の方で適当に決めさせてもらったから文句は言わないように」
俺はそう言ってギルドカードを円卓の上に並べるが、カードの名前を見たフィエラたちは何かに疑問を持ったらしく、何度もカードの枚数を数えていた。
「どうした?」
「あの、ルイス様。こちらにあるカードに間違いはないのですか?」
「間違いないが、何か気になることでもあったのか?」
「その…女性名のカードが何故か8枚あるようなのですが……」
どうやらフィエラたちが気になっていたのは、女性の名前で作られたカードが8枚もあることに対してだったようで、そのことを代表してアイリスが尋ねてくる。
確かに、ここには全員で九人おり、そのうち男は俺とカマエルの二人いるのだから、女性用のカードが8枚もあるというのはおかしなことだ。
「あぁ。それなら間違いない。だって、俺はこっちの姿で行くからな」
俺はそう言って指を一度鳴らすと、黒い霧が全身を包み込み、その霧が晴れると濃紺の髪に青い瞳をしたエイルの姿が現れる。
しかし、いつもと違うのは全体的に体が丸みを帯びており、背はいつもより10cmほど低く170cm程度、さらには引き締まったウエストと細くしなやかな手足、そして胸元には本来なら男には無いものが付いていた。
「どうだ?すこし背が高い気もするが、十分女らしく見えると思うんだが」
『……………』
俺はちゃんと魔法が成功しているのかを確認するため、氷魔法で鏡を作り出して今の状態を確認してみるが、特に問題は無く、イメージ通りの姿がそこには映っていた。
しかし、何故か周りから返ってくる声は無く、何だと思いながらそちらに目を向けると、全員が表情を変えることなく固まっていた。
「どこかおかしかったか?」
「エル……」
「ん?……おっと」
誰も何も言わないこの状況にどこか変だったのかと思いもう一度確認をしようとした時、目にも止まらぬ速さでフィエラが抱きついてくる。
「どうした」
「エル。可愛すぎる。いや、綺麗って言うべき?エルのお母さんに似てて凄くいい。こんなに可愛いのはずるすぎる。それに肌もいつもより柔らかいし、この胸も柔らかすぎ。どういうこと?なんでこんなことになったの?これはもはや犯罪。可愛いで世界滅ぼせる。いっそ滅ぼす?でもこの姿を他の人に見せるのは嫌。とにかく可愛すぎる」
「あ、うん。よくわからんが褒めてくれてるのはわかった。ありがとう」
フィエラが何を言っているのかはよく分からなかったが、とりあえず魔法は成功し、この姿にも問題がない事を確認できただけでも良しとする。
「あの、ルイス様。そのお姿は?」
ようやく意識が戻ったのか、それでも困惑した様子のセフィリアがこの状況について尋ねてきた。
「これは『転性の指輪』っていうアーティファクトの効果で、変えたい姿をイメージしながら魔力を流し込むと、その通りに姿が変わるんだ」
転性の指輪は前に神樹国の宝物庫から貰ってきたアーティファクトの一つで、効果は面白いが使い道がなかったため、これまでストレージの中で眠らせていたものだ。
効果は名前の通り性別を反転させるものであり、男であれば女、女であれば男といった感じで性別と姿を変えられる。
しかも、いつも使っている変装魔法とは違い、見た目だけでなく文字通り性別が肉体的にも変化するため、正真正銘の性転換なのだ。
「どうして性別を変える必要があるの?」
「いい質問だなソニア。まず、俺たちが行くサルマージュは北にあり、うちのヴァレンタイン公爵領とも近い。それに、これまでバレずに人を攫っていたことを考えると、上の奴らはそこそこ頭も良いはずだ。そうなると、俺の本来の容姿はバレているだろうし、エイルという冒険者も向こうでは有名だから使えない。そして、同じ性別で変装をしても、魔力封印とかを使われると変装魔法が解けてしまう。そんな面倒を避けるために、今回は性別自体を変えることにしたってわけだ」
いつものように変装魔法で別の男の姿に変えることも考えたが、解除魔法や魔力封印の拘束具を使われれば魔法が解けてしまう危険性があるため、予め面倒ごとを避ける意味も込めて、今回はこのアーティファクトを使うことにしたのだ。
「このアーティファクトは一度魔力を流せばもう一度魔力を流すまで戻らないから、例え魔力を封印されても問題ないんだ」
「なるほどね。でも、その姿だと逆に目立つ気がするわ。女のあたしから見ても魅力的すぎるのよ」
「魅力的っていうのはよくわからんが、他にもアイテムは用意してある」
ソニアは俺が目立つ事を心配しているようだが、もちろんその辺りも抜かりなく対策は立ててある。
「まず認識阻害と気配希薄、それと魔力隠蔽の魔法を付与した腕輪だ。これを各自一つずつ装備するように」
認識阻害は彼女たちの姿が相手からは別の姿に見えるよう調整しており、気配希薄は彼女たちの存在感を薄くすることで興味を持たれないようにする。
さらに魔力隠蔽は魔力量が多いソニアたちが魔力感知でバレないようにするためのもので、仮に魔力感知を使われたとしても、あまり魔力が多くないよう誤認させる効果がある。
俺は付与されている魔法の効果を説明しながら風魔法を使って7個全てをフィエラたちの前に置くと、彼女たちは大事そうにそれを手に取った。
「ねぇ、ルイス。僕の分が無いんだけど」
「お前は自分でできるだろ」
すると、一人だけ貰えなかったカマエルは軽く手を挙げながらそんな事を言うが、こいつは暗殺者であり、自分で同じ魔法を使うことくらいはできるはずなので彼の分は用意していない。
「次に収納魔法が付与された指輪。これは指輪だからそんなに量は入らないが、各自の武器と軽い食料とかなら入るはずだ。持ち歩く武器は奪われても良いように適当なものを使い、本命はいつでも取り出せるよう指輪の中に入れておくように」
「指輪……プロポーズ?」
「違うぞフィエラ。その指輪のサイズは各自の親指のサイズに合わせてあるから、必ず親指に付けろよ」
「ルイス…僕の分…」
「無い。お前はそもそも大きな武器を持ち歩くタイプじゃ無いだろ」
カマエルは先ほどと変わらず自身の分が無いと言ってくるが、こいつは特殊な魔法が使えるため基本的に武器は短剣しか持ち歩かない。
だからカマエルには収納魔法が付与された指輪なんて必要ないし、暗殺者として育てられたこいつなら、そもそも一ヶ月くらい何も食べなくても生きていけるはずだ。
「最後にアイテム隠蔽と状態異常無効のイヤリング。指輪とか付けてたらバレて取られる可能性があるし、変な薬とかを飲まされる可能性もあるからな。このイヤリングがあれば、他人からは装備しているアイテムが見えなくなるし、薬や毒、麻痺なんかも効かなくなる」
「ルイス……」
「無い。お前には持たせてるアイテムが無いし、耐性だって全て持ってるはずだから必要ないだろ」
「僕…この任務辞めたい。扱いがひどすぎる……ぐすん」
最後の最後までアイテムを貰うことができなかったカマエルはわざとらしく目元を涙で濡らすが、あれが嘘泣きであることは分かっているため無視をする。
「んじゃ、これでアイテム配りは終わりだ。あとは各自必要な物の準備と、仲間内でギルドカードの名前を確認しておくように。呼ばれて気づかない、あるいは呼び間違えるなんてことないようにな」
俺が最後にそう締め括れば、フィエラたちは各自で渡されたギルドカードの名前を確認していくが、ここでまたしてもカマエルが手を挙げて抗議してくる。
「あのさ、僕の名前……」
「ん?良い名前だろ?レハムーくん」
「いや、この名前悪意ありすぎじゃない?」
「仕方ないだろ。適当につけたら、偶々そうなったんだから。もう変えられないし、我慢してくれるよな。レハムー?」
「くっ。この任務が終わったら覚えてろよ」
レハムーもといカマエルは、何やら悔しそうにしながらそう言うが、最初に揶揄ってきたのは向こうなので、俺は何も悪くない。
例えギルドカードを用意した時点で最初に揶揄おうとしていたのが俺だとしても、絶対に悪くないのだ。
ちなみにだが、フィエラたちの名前も俺が考えたもので、フィエラがラフィ、シュヴィーナかヴィシェ、ソニアがアン、セフィリアがアリィ、アイリスがリリィ、ミリアがミーゼ、シャルエナがナルシェ、そして俺がルーナである。
「んじゃ、これで話し合いは終わりだ。四日後には夏休みに入るから、その後はそのまま各グループに分かれて行動するぞ。さっさと終わらせて、残りの夏休みをまったり過ごそうじゃないか」
本来であれば、この夏の長期休暇を利用してランクの高いダンジョンに潜ったり、公爵領でだらけながら生活するつもりだったが、今回は戦争を企む面倒な奴らのせいで俺の計画が全てダメになった。
(正直、戦争でこの国がどうなろうと構わないが、今回はヴァレンタイン公爵領も関わってくるからな。それに、あの国を潰して魔族に渡した方が旨みもある。ふふ……考えただけで楽しくなってくるな)
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彼に正義感はない。あるのは、前世の記憶と、母が遺した『物理法則を応用した高圧魔力』という危険な理論だけだ。
敵の大軍が迫る中、ヴァンは剣も振るわず、補給線と心理を切り裂く。
結果、敵軍は撤退。代償も、喝采も、彼には無意味だった。
だが、その「効率的すぎる勝利」は帝国の目に留まり、彼は最高峰の『帝国軍事学院』へと引きずり出される。
「英雄になりたいわけじゃない。生き残りたいだけだ」
謎の仮面メイド『シンカク』、命を取引に差し出した狼耳の少女『アイリ』。
少年は選択する。正義ではなく、最も費用対効果の高い道を。
これは、合理が英雄譚を侵食していく、学園ミリタリーファンタジー。
【※作者は日本語を勉強中の外国人です。翻訳ソフトと辞書を駆使して執筆しています。至らない点もあるかと思いますが、物語を楽しんでいただければ幸いです。】
スキル買います
モモん
ファンタジー
「お前との婚約を破棄する!」
ローズ聖国の国立学園第139期卒業記念パーティーの日、第3王子シュナル=ローズレアは婚約者であるレイミ・ベルナール子爵家息女に宣言した。
見習い聖女であるレイミは、実は対価と引き換えにスキルを買い取ることのできる特殊な能力を有していた。
婚約破棄を受け入れる事を対価に、王子と聖女から特殊なスキルを受け取ったレイミは、そのまま姿を消した。
レイミと王妃の一族には、数年前から続く確執があり、いずれ王子と聖女のスキル消失が判明すれば、原因がレイミとの婚約破棄にあると疑われるのは明白だ。
そして、レイミを鑑定すれば消えたスキルをレイミがもっている事は明確になってしまうからだ。
かくして、子爵令嬢の逃走劇が幕を開ける。
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