何度も死に戻りした悪役貴族〜自殺したらなんかストーリーが変わったんだが〜

琥珀のアリス

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冒険編

王子様という名の…

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 俺は話しかけてきた5人に対して怠さを隠さず視線を向けた後、これまた怠そうに言葉を返す。

「なにか?」

「な、なんだその態度は!」

 すると、俺の態度が気に入らなかったのか、真ん中にいた金髪をオールバックにしている目つきの悪い太った男が声を荒げる。

「態度って何だ?これが俺の普通だが。なぁ?」

「ん。エルはいつも通り」

「そうね。いつもこんな感じね」

「てか。そもそもお前誰だよ」

 いつも一緒に行動しているフィエラとシュヴィーナは、俺が尋ねると迷いなく答えてくれる。

 そして、ついでにこの男が誰なのか聞いてみるが、ソニアはこの男が誰なのか知っているようであわあわしながら俺たちと男の間で視線を彷徨わせていた。

 男はそんな俺たちの態度がよほど気に入らなかったのか、プルプルと震えながら顔を真っ赤にして怒鳴り出す。

「お前!俺が誰か知らないだと!!俺はこの国の第一王子であり次期賢者でもあるダイト・ファルメルだぞ!」

「ふーん。で?」

「なっ?!」

 身分を明かしたにも関わらず、まさかの返しにダイトだけでなく周りにいた他の生徒たちも驚いた顔をする。

「で、だと!!王族である俺に対して何という態度!貴様!ただじゃ置かないぞ!」

「めんどくさ」

 ダイトは大きなお腹をぶるんぶるん揺らしながら怒るだけで、一向に話しかけてきた要件を話す様子がなく、相手にするのが面倒になってくる。

「ソニア」

「な、なにかしら?」

「お前が相手をしてくれ。俺はめんどくさいから寝る」

「…え?」

 王子のことをソニアに任せた俺は、席に座ると水クッションを机の上に出し、それを枕にして寝る準備に入る。

 フィエラも俺の隣に座ると、何故か尻尾を俺の太ももに乗せてきて、シュヴィーナはさすがにソニアが可哀想だったのか、彼女の側で様子を見ていた。

「…あの、ダイト様。とりあえず、ご用件をお伺いしてもよろしいですか?」

 ソニアは恐る恐るダイトの方を見て話しかけるが、彼は完全に無視されたことにより、もはやソニアの話が全く聞こえていなかった。

 そして…

「決闘だ!!」

「……はい?」

「この俺、ダイト・ファルメルは!そこの男に決闘を申し込む!」

 ダイトがそう叫ぶと、クラス内にいた全員がざわめき出し、ソニアは理解が追いつかないのかポカンとしていた。

「何の騒ぎだい?」

 すると、そのタイミングで聞き覚えのある声が聞こえて顔を上げてみると、そこには昨日クラス分けの試験を担当していたハミルが立っていた。

「ハミル先生!俺はこの新入生に決闘を申し込みます!」

 ダイトは俺のことを指差しながらハミルにそう言うと、彼はすぐに状況を察したのか俺の方に話しかけてくる。

「決闘ねぇ。エイルくんはどうする?」

「そもそも決闘についてがわからないのですが?」

「あぁ、そうだったね。決闘とは、挑んだ者と挑まれた者が戦うものなんだけど、勝った側は相手に一つだけ命令ができるんだ。

 その命令については、見届け役である教師を交えながら当事者たちで話し合い、教師が認めた場合、または当事者同士がお互いに同意した場合にのみ、その命令をかけて決闘ができるというものだよ」

「なるほど。それって断れますか?」

「え?ま、まぁ断ることはできるけど、本当に断るのかい?」

 ハミルは俺が断れるのか聞くと、少し驚いたような顔をして聞き返してくる。

「だってそれ、受ける側にほとんどメリットありませんよね?」

「確かにそうなんだけど…ほら、君も魔法使いなわけだし、プライドとか無いのかなって思って」

 彼が何を言いたいのか分からず少し考えると、プライドと言われて俺はようやく納得することができた。

 魔法使いとは、己の使う魔法や知識に大なり小なりプライドや自信を持っている。
 そのため、自身の魔法を馬鹿にされたり、それに関わる決闘を申し込まれれば、大抵の魔法使いはそれを受けるということなのだろう。

「ありませんね。俺は格上と戦うのは好きですけど、何も考えていない格下と戦うのは何の得にもならないので嫌いなんですよ。
 それに、相手との実力差も分からないようなやつから何を学べと言うんですか?」

 俺は基本的に売られた喧嘩は買う主義ではあるが、今回は違う。

 ダイトは相手との実力差が分かっていない上に、こいつには本当の目的が別にあることが分かっていたからだ。

 というのも、こいつは先ほどから俺の隣にいるフィエラやシュヴィーナ、それにソニアのことをチラチラと見ており、明らかに下心が透けて見えていたのだ。

「か、格下だと?!試験にたまたま合格したゴミの分際で調子に乗るなよ!今すぐ俺と決闘しろ!!!」

「君って結構容赦なく言うんだね」

「まぁ本当のことですから。それより決闘についてですが、代理を立てることは可能ですか?」

「代理?うーん、ルール上では禁止されていないし大丈夫だと思うけど…」

「わかりました。フィエラ」

「ん」

「遊んでやれ」

「わかった」

 フィエラはそう言って席を立つと、ダイトの方を見て話しかける。

「エルの代わりに私が決闘を受ける。勝った場合の命令はなに」

 しかし、すぐにダイトから返事が返ってくることは無く、疑問に思いながら彼の方を見てみると、彼はフィエラの胸に視線が釘付けになっていた。

「アホくさ。フィエラ、さっさとゴミを片付けろ」

「ん。早く答えて。命令はなに」

 フィエラがダイトに再び勝った場合の命令について聞くと、彼はようやくフィエラの胸から視線を外して彼女の方を見る。

 しかし、そんな彼をクラスにいる全員の女子が軽蔑のこもった目で見ており、少なくともこの一瞬だけは女子の味方が誰一人としていなくなった。

「…こほん。命令についてだが、俺が決闘に勝った場合、お前たち3人には俺の女になってもらう!獣人を女にするなど本当はあり得ないことなのだが、お前は見た目が良いから特別だ!感謝しろ!

 それとそこの男には退学してもらう!俺を馬鹿にしたのだから当然だよなぁ!!これが俺が勝った時の命令だ!」

「だ、そうだけど。フィエラさんはどうするんだい?」

「なら、私が勝ったらあなたが退学して。そして二度と私たちの前に現れないで」

 何とも清々しいくらいに私欲に塗れた命令に対し、フィエラは汚物を見るような目でダイトに自分が勝った場合の命令を告げる。

「ふん!いいだろう!!獣人ごときに次期賢者であるこの俺が負けるはずもない!その条件で勝負を受けよう!」

 いつの間にか勝負を受ける側と挑む側が逆になったような台詞を吐くダイトは、お腹についた脂肪をぶるんぶるん揺らしながら鼻の穴を大きくしていた。

(はぁ。すでに勝った後のことを考えているみたいだな)

「では、双方が勝利後の命令について納得したと言うことで、2人に制約魔法をかけるね」

 話がまとまったところで、見届け役のハミルがフィエラとダイトに制約魔法をかける。

 制約魔法とは、お互いに約束したことを守らせるための魔法であり、決められた内容を守らなかった場合には全身を激痛が襲い続けるという魔法だ。

「では、制約魔法も終了したし、これから訓練場に行こうか。本当は新入生の自己紹介の予定だったけど、終わってからでもいいよね。どうせすぐに終わるだろうし」

 ハミルもこの決闘の結末が分かっているようで、早く終わらせるためにクラスの全員で訓練場の方へと移動する。




 訓練場へとやってきた俺たちは、フィエラとダイトから少し離れたところにある観客席に座ると、彼女たちの方へと目を向ける。

 そしてフィエラが軽く準備運動を始めた頃、どこから話を聞いたのか、いつのまにか観客席にはかなりの人が集まっており、他の生徒たちもフィエラとダイトの方を見ていた。

「それではこれより、ダイトくん対フィエラさんの決闘を始める。双方、準備はいいかな?」

「もちろんだ!」

「問題ない」

「それでは…はじめ!」

 ハミルは開始の合図を出すと、2人から距離をとって様子を眺める。

「おい獣人!お前に先手を譲ってやろう!好きに攻めてくるがいい!!」

 ハミルが開始の合図をした瞬間、ダイトは何を思ったのかフィエラにそんな事を言うと、彼は魔法の詠唱もせずに棒立ちになる。

「わかった」

「終わったな」

「えぇ。本当に時間の無駄だったわね」

 フィエラはそう言うと、身体強化を足にだけかけてその場から消えたように移動し、気づいた時にはダイトの目の前で拳を振りかぶっていた。

「え…ぐはぁ!!!」

 顔面をモロに殴られたダイトは、血を撒き散らしながら地面を転がっていき、壁にぶつかってようやく止まる。
 
「勝負あり!ダイトくんが気を失ったため、勝者はフィエラさん!」

 先ほどまでダイトを応援していた生徒や、フィエラを貶していた生徒たちは一気に静まり返り、訓練場は静寂に包まれる。

「丸いからよく転がったな」

「そうね。壁が無ければもっと転がりそうだったのに残念ね」

「ふ、2人とも辛辣ね」

 俺とシュヴィーナの会話にソニアが若干引いていると、ゴミの片付けを終えたフィエラが俺たちのもとへと戻ってくる。

「おわった」

「お疲れ。良い一発だったな」

「えぇ。見ててスッキリしたわ」

「ありがと。エル。ご褒美にあとで尻尾撫でて」

「はいよ」

 その後、ハミルの指示でいまだ意識を失っているダイトは担架で医務室へと運ばれていき、見学していた他の生徒たちも各自の教室へと戻されていく。

 俺たちも訓練場にはもう用が無かったので、4人でクラスへと戻るのであった。





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