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30話
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炎の宝剣 を掴んだ 李玲峰 の体は、今度は逆に精霊王によって押し上げられた。
炎の領域から地表の戦いの場へ。
李玲峰 の体は炎の柱を伝って、一気に昇っていった。
魔皇帝の姿が見えた。
黄金の甲冑を着た 於呂禹 も。
墜落していこうとする火の軍船。
ばらばらに分断された連合軍の戦列と逃げまどう戦士たち。
そして退いていく 根威座 軍の戦列、それに替わって、前に出ようとしている、魔皇帝の操る火の鳥!
遠くから彼らを見ていた生き残りの戦士たちから後で聞いた話によると、李玲峰 が炎の柱に飛び込んでから出てくるまでに、ほんのまばたきをする間しか無かった、という。
李玲峰 にとっては、長い一瞬だった。
炎の柱は光とともに消え、炎に包まれて空中に浮かぶ 炎の宝剣 を手にした 李玲峰 が魔皇帝と黄金の騎士の前に残った。
李玲峰 の手にある 炎の宝剣 を目にして魔皇帝の表情に、戸惑いが写った。
すぐにそれは怒りの表情に変わる。
「くそっ! また、精霊どもがよけいなことを!」
魔皇帝は口走り、すぐさま馬首を返して逃げにかかった。
どうやら、根威座 の魔皇帝はこの 宝剣 が嫌いのようだ。
「待てっ、 亜苦施渡瑠 !」
李玲峰 は、その後を追おうとした。
しかし、その 李玲峰 の前に、於呂禹 が立ち塞がった。
「於呂禹、どけよっ!」
李玲峰 は怒鳴った。
だが、於呂禹 はあの慈愛に満ちた微笑みを浮かべて、剣を構える。
「於呂禹!」
李玲峰 は、炎の宝剣 で打ちかかろうとした。
が……出来ない。
どうして出来るだろう。
たとえ、彼が自分を殺そうとしていたとしても、彼は、於呂禹 なのだ。
大切な 大地の御子、彼がもっとも愛している親友の 於呂禹。
李玲峰 が打ちかかれず、硬直している間に魔皇帝は逃げ、魔皇帝に呼ばれたのだろうか、於呂禹 もまた天馬の馬首を返すと、引き上げていく。
李玲峰 は、動けなかった。
が、すぐにハッと正気に戻る。
火の鳥が来る。
もし、もう一度、炎の波が放たれたら。
彼は平気でも、連合軍は全滅する。
「ええいっ、くそっ!」
李玲峰 は 炎の宝剣 を構えた。
出来るはずだ、あの火の鳥くらい。
炎の翼を広げる、巨大な火の鳥!
李玲峰 は炎とともに舞い上がった。
彼の手の中で、宝剣 はその火の鳥に匹敵する、巨大なエネルギーのハンマーと化す。
炎と炎が、ぶつかりあった!
閃光とともに、二つの炎は混ざり合い、よじれ、やがて、炎は鳥の姿を取れなくなり、李玲峰 の 宝剣 に吸収、収斂されていく。
李玲峰 は、自分が何をしているのか、よくわからなかった。
無我夢中だった。
はぁ……はぁ……
汗が、ぽつり、ぽつり、と 宝剣 を持つ手に落ちていく。
宝剣 は、まだ彼の手の中で炎を発していた。
紅い炎。
(根威座 軍が、逃げていく)
魔皇帝を乗せた、あの黒い不気味な鋼鉄の船が、根威座 の巨鳥兵 鵜吏竜紗 たちが、空の彼方へと消えていく。
次第に、そらの黒い染みとなって。
はぁ……はぁ……
もう、立っていられないほどに疲れている、と 李玲峰 は思った。
火の鳥は、もう、視界にいない。
やっつけたの……か……?
李玲峰 の背後で、わぁっ、と歓声が起こった。
それは、命長らえた九大陸連合の残存兵たちが上げた、鬨の声だった。
藍絽野眞 の旗艦は、まだ無事でいた。
「父上」
炎の宝剣 を持って船へと戻った王子を、競絽帆 王は抱擁で迎えた。
「よくやった、息子よ。
そなたは 宝剣の英雄 となった」
黒煙が至るところを流れ、船の甲板の上は負傷兵たちで溢れている。
危機は脱した。
しかし損害は量り知れず、九大陸連合の傷痕は大きい。
「これからだ、本当の戦いは。
魔皇帝は、またやってくるだろう。
そして、我々が頼りにできるのはそなたの力。その 宝剣 の力のみだ。
李玲峰 。炎の試練はこれから始まるのだ」
「ええ、わかります、父上」
李玲峰 は答えた。
(本当の試練は、これから始まる)
李玲峰 は額の汗を拭い、空を振り仰いだ。
精霊の力の宿る、三振りの剣。
宝剣。
宝剣のすべてが見いだされた時、世界は変容し、精霊たちの恵みは回復する。
その言葉の意味も、李玲峰 は、今、知ったのだ。
彼自身は 炎の宝剣 を見いだした。
彼はこの 宝剣 で戦うことが出来る。
しかし、彼は一人だった。
水の御子 たる麗羅符露 もいない。
大地の御子 たる 於呂禹 もいない。
そして、二人を取り戻すためにも、彼はこの 宝剣 で戦わなければならない。
根威座 と。
そして、根威座 の支配者たる 亜苦施渡瑠 魔皇帝と。
(レイラ……於呂禹 )
李玲峰 は心の中で、二人の仲間に語りかけた。
(おれは 宝剣 を見つけ出したよ。 炎の宝剣 を。
きみたちは一体、どこにいるんだい?
三人で 宝剣 を探すはずだったじゃないか!)
だが、返事は無い。
世界の変容の時はまだ遠く、 李玲峰 の前に広がっているのは、ただ、風が吹き渡る虚空のみだった。
炎の領域から地表の戦いの場へ。
李玲峰 の体は炎の柱を伝って、一気に昇っていった。
魔皇帝の姿が見えた。
黄金の甲冑を着た 於呂禹 も。
墜落していこうとする火の軍船。
ばらばらに分断された連合軍の戦列と逃げまどう戦士たち。
そして退いていく 根威座 軍の戦列、それに替わって、前に出ようとしている、魔皇帝の操る火の鳥!
遠くから彼らを見ていた生き残りの戦士たちから後で聞いた話によると、李玲峰 が炎の柱に飛び込んでから出てくるまでに、ほんのまばたきをする間しか無かった、という。
李玲峰 にとっては、長い一瞬だった。
炎の柱は光とともに消え、炎に包まれて空中に浮かぶ 炎の宝剣 を手にした 李玲峰 が魔皇帝と黄金の騎士の前に残った。
李玲峰 の手にある 炎の宝剣 を目にして魔皇帝の表情に、戸惑いが写った。
すぐにそれは怒りの表情に変わる。
「くそっ! また、精霊どもがよけいなことを!」
魔皇帝は口走り、すぐさま馬首を返して逃げにかかった。
どうやら、根威座 の魔皇帝はこの 宝剣 が嫌いのようだ。
「待てっ、 亜苦施渡瑠 !」
李玲峰 は、その後を追おうとした。
しかし、その 李玲峰 の前に、於呂禹 が立ち塞がった。
「於呂禹、どけよっ!」
李玲峰 は怒鳴った。
だが、於呂禹 はあの慈愛に満ちた微笑みを浮かべて、剣を構える。
「於呂禹!」
李玲峰 は、炎の宝剣 で打ちかかろうとした。
が……出来ない。
どうして出来るだろう。
たとえ、彼が自分を殺そうとしていたとしても、彼は、於呂禹 なのだ。
大切な 大地の御子、彼がもっとも愛している親友の 於呂禹。
李玲峰 が打ちかかれず、硬直している間に魔皇帝は逃げ、魔皇帝に呼ばれたのだろうか、於呂禹 もまた天馬の馬首を返すと、引き上げていく。
李玲峰 は、動けなかった。
が、すぐにハッと正気に戻る。
火の鳥が来る。
もし、もう一度、炎の波が放たれたら。
彼は平気でも、連合軍は全滅する。
「ええいっ、くそっ!」
李玲峰 は 炎の宝剣 を構えた。
出来るはずだ、あの火の鳥くらい。
炎の翼を広げる、巨大な火の鳥!
李玲峰 は炎とともに舞い上がった。
彼の手の中で、宝剣 はその火の鳥に匹敵する、巨大なエネルギーのハンマーと化す。
炎と炎が、ぶつかりあった!
閃光とともに、二つの炎は混ざり合い、よじれ、やがて、炎は鳥の姿を取れなくなり、李玲峰 の 宝剣 に吸収、収斂されていく。
李玲峰 は、自分が何をしているのか、よくわからなかった。
無我夢中だった。
はぁ……はぁ……
汗が、ぽつり、ぽつり、と 宝剣 を持つ手に落ちていく。
宝剣 は、まだ彼の手の中で炎を発していた。
紅い炎。
(根威座 軍が、逃げていく)
魔皇帝を乗せた、あの黒い不気味な鋼鉄の船が、根威座 の巨鳥兵 鵜吏竜紗 たちが、空の彼方へと消えていく。
次第に、そらの黒い染みとなって。
はぁ……はぁ……
もう、立っていられないほどに疲れている、と 李玲峰 は思った。
火の鳥は、もう、視界にいない。
やっつけたの……か……?
李玲峰 の背後で、わぁっ、と歓声が起こった。
それは、命長らえた九大陸連合の残存兵たちが上げた、鬨の声だった。
藍絽野眞 の旗艦は、まだ無事でいた。
「父上」
炎の宝剣 を持って船へと戻った王子を、競絽帆 王は抱擁で迎えた。
「よくやった、息子よ。
そなたは 宝剣の英雄 となった」
黒煙が至るところを流れ、船の甲板の上は負傷兵たちで溢れている。
危機は脱した。
しかし損害は量り知れず、九大陸連合の傷痕は大きい。
「これからだ、本当の戦いは。
魔皇帝は、またやってくるだろう。
そして、我々が頼りにできるのはそなたの力。その 宝剣 の力のみだ。
李玲峰 。炎の試練はこれから始まるのだ」
「ええ、わかります、父上」
李玲峰 は答えた。
(本当の試練は、これから始まる)
李玲峰 は額の汗を拭い、空を振り仰いだ。
精霊の力の宿る、三振りの剣。
宝剣。
宝剣のすべてが見いだされた時、世界は変容し、精霊たちの恵みは回復する。
その言葉の意味も、李玲峰 は、今、知ったのだ。
彼自身は 炎の宝剣 を見いだした。
彼はこの 宝剣 で戦うことが出来る。
しかし、彼は一人だった。
水の御子 たる麗羅符露 もいない。
大地の御子 たる 於呂禹 もいない。
そして、二人を取り戻すためにも、彼はこの 宝剣 で戦わなければならない。
根威座 と。
そして、根威座 の支配者たる 亜苦施渡瑠 魔皇帝と。
(レイラ……於呂禹 )
李玲峰 は心の中で、二人の仲間に語りかけた。
(おれは 宝剣 を見つけ出したよ。 炎の宝剣 を。
きみたちは一体、どこにいるんだい?
三人で 宝剣 を探すはずだったじゃないか!)
だが、返事は無い。
世界の変容の時はまだ遠く、 李玲峰 の前に広がっているのは、ただ、風が吹き渡る虚空のみだった。
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