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第一章 妖精と呼ばれし娘

三、カラスとの約束(7)

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 アルフレッドの思考が一時的に停止していると、少女は慌てて起き上がり、毛織のケープのフードを目深にかぶり直した。

「あ、あの、えっと、わたしの顔、見た?」

 アルフレッドを認識したのか、少女はあからさまに慌てはじめた。
 一方で狩人は徐々に余裕を取り戻しはじめた。

「……見た、が」

「うそ、どうしよう! 人に見られたらだめなのに……」

「どうしてだめなんだ?」

「わたしが特別だから!」

「なぜ、特別なんだ?」

 その見た目がすでに特徴的だろう、とアルフレッドは問うてから気づいた。
 だが彼女はぽかんとした。
 まるで考えたことも無かったというように。

「あれ? どうしてだっけ……?」

 少女は混乱し始め、その証拠に、突拍子もないことをアルフレッドに尋ね始めた。

「えっと、ところで! あなたは、人間なの?」

 彼女はゆっくりと腰をずらしながら後じさっていた。
 高い声が更に上ずっている。

「……見たらわかるだろ?」

 呆れる彼から、その顔を必死にフードで隠しながら少女がむきになって反論する。
 彼女が動くと、白い髪の流れもふわりと揺れて煌めいた。

「違うよ! 人間って、もっとちっちゃいもん!」

 これくらい、少女の顎の下辺りに手を置いて見せられ彼は鼻息荒く腕を組み直す。

「ちっちゃいって……。君が言うなよ……」

 アルフレッドの体は、確かに少女よりは頭一つ分大きかった。
 抱き上げたときの軽さと肉体の柔らかさを思い出し、アルフレッドは耳を染める。
 その彼の様子に気付くことなく、少女はなおも声を張り上げた。

「でっかいし、声低いし、体も態度もでっかいし、絶対、人じゃないよ!」

「さり気なく喧嘩売ってるだろ? まあいいや。じゃあ、俺は人じゃなかったら何なんだ?」

 そう言うと、彼は立ち上がり、膝についていた湿気た土と草を叩き落とした。
 少女はというと悩みはじめたようで、うんうんとうなっている。
 彼女はアルフレッドが知る同年代の異性と違って、自分の表面を繕うことをしないように見えた。
 貴族のように、笑顔の仮面を張り付けていない。
 ころころと変化する豊かな表情に、アルフレッドは視線を離せなくなる。

「え? えーっと……うーん……。……妖精さん?」

「は?」
 思いもしない単語が聞こえ、アルフレッドはその耳を疑った。
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