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二、潮風に吹かれて

1,出立(2)

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 グレイの瞼が音を立てて開いた。
 薄ぼんやりした頭で瞳をしばたたかせると、小さな窓が目に入った。
 四角い光の塊のようだ。
 光は薄いカーテンからいとも簡単に侵入して部屋中を照らしていた。
 見慣れないこじんまりとした部屋だ。
 だが、若草色の可憐な壁紙が張ってあり、小ぎれいにしてある。
 顔を付けた枕は嗅ぎ慣れない匂いがするし、少しごわついている。
 だが、綿のベッドよりも乾燥していてさっぱりしている。天蓋もない。
 一瞬、自分がどこにいるのかわからなくて、グレイは二度寝を試みた。
 毛布を顎の下まで手繰り寄せる。
 けれども、不思議なほどはっきりと覚醒してしまったので、思い切って体を起こした。
 きりりと張り詰めた空気に思わず身震いをすると、耳に何かの鳴き声が聞こえてきた。
 裸足のままつま先で窓辺から外を覗き見ると、白い生き物が緑の大地の上に点在していた。
 グレイはすぐに理解した。
 羊だ。

「そうか。俺、セルゲイの家に……」

 浮腫んで動きの鈍った手で頬を撫でると、案の定髭が手のひらをこすった。
 改めて部屋を見渡すけれども、どこにも洗面台はない。
 もちろん、洗顔の水を汲ませる使用人を呼ぶためのベルもない。
 姿見さえもだ。
 あるのは簡素なベッドとサイドボードに、申し訳程度のコート掛けだけ。
 グレイが持ってきたトランクもある。
 その近くには、昨日脱ぎ散らかした旅装束一式があった。
 グレイは諦めに頭を掻いた。
 鏡がないから定かではないが、ピンピンに跳ね散らかしているだろうこの黒い剛毛も、髭同様、今日からは自分でどうにかしなくてはならない。

「これが世間のあたりまえ、か……」

 グレイはぼんやりと夢を思い出しながら、室内履きをひっかけて部屋を出た。
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