煉獄の十字架

月影砂門

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第十話〜真実を知る者

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 砂迦とヴァルアは近づくと、ヴァルアから抱きしめ、若干見つめあった後離れた。
 

 「それ必要なのか!?」
 
 「この国の習慣なんだ。親しい友人とかにはこうするんだ」
 

 整った顔立ちの二人だからなのか、先ほどの砂迦の発言のせいか、修鬼はもはや友人と言っていいものかと思っていた。しかし、それも習慣であるならば仕方ないのかなと納得する他なかった。とにかく二人の距離が近過ぎる。
 

 「習慣というものは、お互いに理解し合うものです」
 

 呆然としている修鬼と灯夜、夜刀を置いて正論を言う砂遠に三人は我を確かにと気を取り直した。
 

 「紹介しよう。この男がヴァル。私の幼馴染みで、仲間だ。影ノ国の法の番人で最高裁判長だ」

 「ヴァルア=シードレットだ」
 

 砂迦と同じ役職に付く存在。法律を司るだけあり、恐らく頭も切れるのだろう。
 

 「で、この四人は」
 
 「シャオン=トワイライトです」
 
 「世羅修鬼です。トワイライトに最近付いた影です」
 
 「姫さんの執事の火良灯夜です」
 
 「修鬼の相方の滝時夜刀だぜ」
 

 修鬼には、トワイライトの王家の知り合いに只者はいないと思っている。双子の天才児に、裁判長の青年。砂楽には王仲間のような人間もいるだろう。
 

 「ビュッフェだから、適当に取ってくれ。ローストビーフやトロサーモンのマリネもある」
 

 修鬼はそれを聞くと、すぐに選びに行った。華奢な体型の割に大食いで、おそらく、この中の誰よりも食べることを夜刀は知っていた。
 

 「どれだけ食べる気してんだ?」
 
 「一周は回るかな」


  修鬼の発言に、砂遠と灯夜が若干引いていた。
 
 
 「砂迦」
 
 「なんだ?」
 
 「昔消えたはずの組織の復活の噂は聞いたか?」
 
 「教団の話か?」
 

 ……教団が復活したのか?
 修鬼は、料理を食べながら二人の話を盗み聞きした。
 

 「修鬼」
 
 「は、はい?」
 
 「盗み聞きは良くないな」
 

 夢中に食べていると見せかけて、視線は二人に向いていたのだ。その視線に、砂迦が気づかないはずもなかった。
 

 「無邪気に飯食ってたわけじゃないのか」
 
 「無邪気に食べながら聞いてました」
 
 「まぁいいさ。俺んとこの国がトワイライトと同盟を組んで久しいが、今が動くときな気がするな」
 
 「そのあたりの軍事に関しては、私より兄上の方が良く知っている」
 

 修鬼は時々、砂楽が本当にバカなのか分からなくなる。何故、学力が低いのに政治や軍事や貿易に関して才能があるのか分からない。


 「そういえば」
 

 突然多聞が言い出した
 

 「砂楽さまがアルバ国で観光をしてみたいと仰っておりました。ここ1年休みがなかったから、と」
 

 王に休みはない。しかし、王をしているのは大学生くらいの若い青年だ。そんな青年が休みなく四六時中国や世界平和のために働いているのだ。心の底から尊敬できる、と砂迦が言った。修鬼は、そんな忙しい兄を放ってアルバ国に来ていた人は誰だと突っ込みたかったが、どうにかして抑えた。


 「砂迦さま!」

 「どうした、智恵」


 焦った様子の智恵に、ただ事ではないのだと察したのは砂迦と修鬼だけではない。ほぼ全員だ。


 「先ほど敵軍がトワイライトに押し寄せてきたという情報が」

 「何だと?」

 「それでどうなったのです?お兄様が?」

 「はい。一撃で迎え撃ったのですが・・・問題のある客人が」


 問題のある客人の時点で砂迦だけでなく、砂遠と灯夜、ヴァルアも目を見開いた。修鬼と夜刀は蚊帳の外である。


 「母か?」

 
 砂迦の問いに、智恵は恐る恐る頷いた。砂迦が唯一嫌う相手だった。修鬼は、何らかのトラウマがあるのだろうと察した。


 「そういうことか」

 「ヴァルア?」

 「いやな、砂楽王から『明日は裁判の日であろう。久しぶりに食事会を催してはどうだろう』っていう手紙が届いてな」


 ・・・砂楽さん、そのお母さんが来ることを予め知ってたんだ
 知ったために砂迦と合わせないようにと手を回していたのだ。そんなことは梅雨知らず、ヴァルアは予想通り砂迦を誘った。そしてホテルをとったのも砂楽だった。本来なら高級レストランで談笑しているところだが、あえてホテルを選んだのはこのことがあると知っていたからだ。


 「まんまとしてやられたな」

 「で、前世の夢を見ちまった弟を頼むってことで俺に預けたってことか」

 「敵わないな」


 修鬼も同調する。恐ろしいところで頭が回る。それをこの場で嫌でも思い知らされた。


 「砂楽さんはその母との因縁はないんだな」

 「砂迦さまを傷つけてる時点で因縁ありだと思うぜ。あの人が怒ったらマジで時空歪む。あと大地が割れる」

 「そ、そんなにすごいの?」

 「兄上は私たちの中でも桁違いの攻撃力だからな」


 下手すれば修鬼よりも高い攻撃力を誇る砂楽の雷のセレス。常軌を逸した精神力により、理性をなくすことはない。自分で外すことはあっても。


 「兄上は私の過去を知っていると思う」

 「マジか、ウソだろ」

 「だが、兄上は私がいなかったあいだ何があったのかは言ってくれなかった」


 最も隠し事のなさそうな砂楽が、最も何かを抱えているのではないかと砂遠もいう。


 「よくよく考えたらわたし、お兄様のご友人を知りません」

 「名前だけなら知っている。確か・・・綴」

 「王様繋がりなんですかね?」

 「さあ、わからん。いつか会いたいものだな」


 砂楽が幼い頃から面倒を見ている亜紗と雅紗ならば、知っているかもしれないなと砂迦は見当をつけた。


 「綴なんて名前の王は知らないよ、オレ」

 「まぁ、私もだ」

 
 砂迦がいない間に出会った友人であることはわかる。見たことも無いというのもおかしな話だ。砂迦は、砂遠にヴァルアのことを教えなかった自分が言えたことではないなと思う。


 「ん?待てよ」

 「ヴァルアどうした?」

 「綴ってなんか聞いたことあるぞ、俺」

 「私は全くないぞ」

 
 ・・・綴って苗字なんなんだろ
 苗字も知らない、顔も知らない。謎の男か女かも分からない人物のことで話題は持ち切りになった。そのとき
 ──バンッ
 勢いよく扉が開いた。そこにいたのは砂楽直属の家臣亜紗だった。


 「亜紗?」

 「どうなさいました?」


 亜紗は、荒い呼吸を整え、多聞が渡してくれた水で落ち着かせた。


 「砂楽さまが・・・」

 「兄上に何かあったのか?」

 「お倒れに・・・」

 「お兄様が!?体調が悪かったのでしょうか・・・」


 まさかの事態に家族ではない修鬼もさすがに動揺した。一国の王が倒れる事態になっては食事をしている場合ではない。
 修鬼たちは、トワイライト家のプライベートジェットでヴァルアも乗せトワイライト城に戻った。


 「兄上!」

 「お兄さま!」


 病人がいるにも関わらず叫びながら入った。目にキングベッドで眠る砂楽が入ってきた。明らかに顔色が悪い。元々色白だが、今は病的なまでに白い。傍らに雅紗とアルバ国にいるはずのキラがいた。


 「キラ、来てくれていたのか」

 「飛んできました」

 「お兄さまの容態は・・・」

 「過労とか?」

 「言いにくいのですが・・・砂楽さんの心にはもうひとつの人格が混在しているようです」

 
 その場にいる全員が愕然とした。砂楽が、修鬼と同じくもうひとつの人格を持つという。そのもうひとつの人格は、復讐心を抱く攻撃的な性格だという。その人格を無理やり押し込んだのだ。つまり闇の部分。体内の光のセレスと闇のセレスがぶつかり合っていたために身体に負担をかけた。その結果倒れてしまった。原因は一つ。トワイライト兄弟の母砂羅が現れたことだ。


 「あの女、兄上まで追い詰めるのか・・・」

 「うっ・・・っ・・・」

 「あ、兄上」

 「お兄さま?」

 「砂迦、砂遠・・・いるか?」

 「ああ、いるぞ」

 「わたしもいますよ」

 「そうか、よかった・・・」


 砂遠と砂迦は、安堵した様子の兄に対し困惑した。何故いるかどうかの確認をしたのか。何故そんなにも安心した表情を見せたのか。兄のような、兄でないような。しかし紛れもなく大事な時に頼れる兄だ。


 「具合はどうだ?」

 「まあ、マシだな。心配をかけたな」

 「そのだな・・・」

 「自分のなかにもう一人自分がいることを知ったのは、砂迦が急にいなくなったあとのことだ。進んで旅に出た時ではなく」


 やはり、砂迦が母によってこの国からいなくなったことに関係していた。
 そもそも砂楽には、もうひとつの人格など存在していなかった。苦しみや悲しみをもう一人の自分が引き受けてくれる。あまりにも辛い現実に不屈の心が耐え切れなかった。そのもう一人に抱え込ませることで耐えてきたのだ。その結果、復讐や怒りを表に出す攻撃的な人格が出来上がってしまった。
 いまは、その全てを受け入れることに決め、もうひとつの人格の怒りを鎮めている。しかし今でも、トラウマの相手や出来事が発生すると表に出て暴れようとする。それが今回だ。


 「身体、だるくはないか?」

 「そうだな。二人の顔を見られたので鎮まってくれたよ」


 ・・・大切な人が傍にいれば治るんだ
 砂楽にとって、家族は特別過ぎる存在なのだ。前世の心を継いでいるのだろう、と修鬼は推測した。恐ろしいことに、砂遠も砂迦も砂楽の前世ラクサーのことをほとんど知らないのだ。
 レクスは、母に捨てられたために兄や妹との空白の期間のことは知らない。
 レイナは、ラクサーと住んでいながら兄を遠くからしか見ることが出来なかった。一緒に遊べたのは二歳まで。その後、レイナは城の一室に隔離された状態だった。
 

 「ラクサーはな、レクスが国を発展させていた頃、レイナが鬼羅国に行っていた頃にリンチの末に死んだのだ」

 「・・・」


 最悪の真実を知った。修鬼たちは言葉を無くした。微妙な空気が流れたが、病み上がりだからと砂楽を休ませ、修鬼たちは寝室を後にした。


 「兄上、よく休んでくれ・・・」


 最後に不安そうな表情を浮かべる弟が出て行くのを見届けると、視線を窓側に向けた。


 「砂迦や修鬼にも気付かせない気配遮断の力、か」

 
 濃紫色の髪をひとつに束ねた紅い双眸の青年が姿を現した。倒れたときからいたのだが、透明になっていたために誰にも気づかれることはなかった。


 「そろそろ砂迦たちに会ってあげてほしいのだが」

 「そうだな」


 不服そうな顔で返事をした青年を、砂楽は苦笑を浮かべながら見つめた。青年はその笑みにさらに不服そうな顔をした。
 そのとき


 『兄上、入るぞ』

 「砂迦?」


 青年はすぐに隠れた。気配遮断のせいで外には聞こえないようになっていたため、修鬼に聞かれることは無いだろうと高を括った


 「なぜ隠れる?」

 
 ・・・まぁ気付くわな
 入ってくるなり静かにそう言った。ずっとこの部屋にいることに気付いていたのだ。さらに言えば、修鬼も気づいていた。


 「よく気付いたな」

 「気付かれないとでも思っていたのか?」

 「・・・俺は綴。砂楽の友人だ。砂迦だな?」

 「そうだ、よろしく頼む」

 「ああ、こちらこそ」


 ・・・よかった、砂迦は大丈夫のようだな
 隠れるのは警戒心からだ。返事をするということは、信用し始めている証拠だ。友人の弟を警戒する必要は無いはずなのだが、そこは綴の性分だからと砂楽は目を瞑る。


 「少し話そう」

 
 砂迦と綴は砂楽の寝室を出たあと、一時間弱は話をし、戻ってきた。


 「ふむ、砂楽」

 「なんだ?」

 「俺は砂迦が気に入った」

 「そうか、それは良かった。というか当たり前だ」

 「で、嫁にしたい」


 綴のとんでもない発言に、砂楽は言葉を失った。今この男は自分の弟を嫁にしたいと言ったのだ。反応に躊躇うしかない。


 「お、男なんだが・・・」

 「好きに男も女もあるか?」

 「そう言われればなんとも言えなくなるが・・本人に言ったら殺されるぞ?」

 「ああ、言った途端に嫌そうな顔をされた」


 ・・・当たり前だ
 和気藹々とした雰囲気だったのに、急にそう言ったために一気に室内の温度が下がったという。だろうなとしか思えなかった。返事は友人であれば良しだった。


 「デートはどうするべきだろう」

 「ヴァルアでさえそこに至っていないというのに・・・」

 「ヴァルアとは?」

 「砂迦の親友だ。下手したら私よりも砂迦を知っている」

 「ふむ、ライバルか」


 ・・・いや、違うだろ
 同じ線にもいない。数百年にわたって共に居たヴァルアと、今日出会ったばかりで告白したために別の意味で警戒されてしまった綴では同じラインにも立てない。


 「まあ、がんばれ・・・」


 砂楽は呆れ混じりでそう言うと、相手にせず寝始めた。
 そして、自分の部屋に戻ってきた砂迦は


 「えっと・・・」

 「どうしたんだろうな・・・」

 「明らかに機嫌が・・・」

 
 修鬼たちは、不穏な雰囲気を醸し出す砂迦を前に若干離れていた。砂遠とヴァルアと弟子は顔を伺いつつもそばにいた。


 「兄上の友人という綴にあってな・・・」

 「へぇ、やっぱりいたんですね」

 「ああ」

 「何か言われたのか?」

 「嫁になってくれと言われた。悪い人ではない。が、気に入らぬ」

 
 なんと美しく可憐な人。ぜひ嫁になってくれと言われたのだ。ただ、ヴァルアは綴の感情が分からなくはない。


 「それは不憫な・・・」


 多門が言った。ヴァルアは冷や汗をかいていた。それを修鬼が不思議そうな顔で見つめていた。


 「おい」

 「ん?」


 青年が突然現れるなりヴァルアを睨みつけながら近付いた。


 「お前がヴァルアか?」

 「は?初めて会った相手に対する態度か?」

 
 ・・・ヴァルアさんも同じじゃない?
 まさかの砂迦をかけた戦いが始まりかけていた。しかし、一方の砂迦は余計に機嫌を悪くした。修鬼は、弟子の二人が一生懸命宥めているのを傍目に見つつ苦笑を浮かべた。


 「戦え」

 「なんだいきなり」

 「俺が勝ったら砂迦を貰う」

 「へぇ、いい度胸じゃねぇか」

 
 砂迦をかけた戦いが唐突に始まってしまった。奪い合いに勝手に含まれてしまった砂迦の気持ちは無視である。
 当事者ではない修鬼たちは、その光景を苦笑を浮かべながら見ていた






 


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