煉獄の十字架

月影砂門

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第十六話〜雷神によるセレス指導と思いきや

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 翌朝、修鬼が目を覚ますと隣の布団に砂楽がいなかった。


 「しゃ、砂楽さんは?」

 「砂楽さまなら綴さんと浴場に行ったぜ」

 「1時間ほど前ですけど」


 しばらくすると、サラサラのショートボブを靡かせながら爽やかな雰囲気を醸し出す王が登場した。修鬼たちは、背後から砂楽を凝視する蛇の姿を見て苦笑する。


 「ところでな、何時頃にチェックアウトすればいいのかと問えば明日となっておりますがと言われたのだが・・・いつの間に二泊三日に?」

 「・・・え!?」


 修鬼と夜刀は一泊二日で予約したのだ。それは間違いない。しかし蓋を開けてみれば二泊三日に変更されていた。宿泊中急に変更することは旅館側に面倒をかけるためしていない。予約した後に別の誰かが変更したという可能性も無きにしも非ず。


 「砂迦さんか!?」

 「予約した人誰になってんだ」


 二人が困惑していると朝食が運ばれてきた。


 「あの・・・予約した人の名前誰になってましたっけ?」

 「夜摩斗ヤマトさまとなっておりますが」

 「え、夜摩斗って・・・」

 「この国の王だ」


 まさかのアルバ国の王が予約したことになっていた。つまり、王の家臣によるものだ。そう聞けば安心したが、どのルートからこの温泉に予約したことを知ったのかという疑問が湧く


 「俺だ」

 「綴さんだったの!?言っといて!」

 「いっつも報告遅すぎんだろ」


 毎回事後報告。これで大丈夫なのかと呆れ半分焦り半分。女将さんたちは、微笑ましそうにしながら朝食を置き会釈をして去っていった。超マイペースな王と姫君は朝食を食べ始めていた。


 「綴、今日はなにか予定はあったか?」

 「昼から防衛省の大臣と初の顔合わせだ。共に軍事本部に出向くことになっている。あとは首相と会食」

 「おぉ、ここの首相はいい。笑いが絶えん」


 首相は砂楽に気に入られている様子だ。砂楽に気に入られるというのはかなりデカい。信頼関係をしっかり気づいておくのはいい。ただ、引き篭っている王はどうにかしなければ進まない。


 「防衛大臣はどのような人物なのだろうな。楽しみだ」

 「あぁ~」


 ・・・大丈夫かな
 最先端の武器を取り入れようとしない。国を守るための設備を整えるための準備さえしていない。アルバ国の軍隊の強化もろくに出来ていない。とんでもない事をしでかさない限り、砂楽の機嫌を損ねることは無いとはいえどうなるかわからない。


 「あ、そういえば砂楽さん。褒美をやろうって言ってくれてたよな?」

 「ああ。君の腕が気に入ったのでな」

 「まだ欲しいの?」

 「あんなにエグい報酬貰ったのにか」


 ドン引き気味の修鬼と灯夜。桁違いの報酬を貰っておきながら、まだ貰おうとする。味をしめたのか


 「なんか秘術?教えて欲しいなーって」

 「そんなことで良いのか?構わんぞ」

 「おっしゃ」

 「そういえば、灯夜に教えておこうと思って忘れていたな」


 セレス使いとしても武人としても達人である砂楽。その砂楽は秘術の腕も別格だ。これもまた独学である。そんな砂楽の弟子である灯夜はいくつか秘術を扱える。砂迦は結界系の秘術。砂楽は攻撃系・破邪系・防御系・サポート系・召喚系など桁違いの技数を誇る。


 「もうセレス書的なやつ記して欲しいよ」

 「わたしも同感です。セレス量と防御力と浄化力はダントツで砂迦兄様ですが・・・それ以外で勝てないと言わせちゃってますし」

 「それでよく砂迦さんの方が強いなんて断言できるよな・・・」

 「セレス使いとしてなら砂迦の方が強い。私はトータルすれば強い。セレスと秘術と武術が揃わねばそこまで」


 スタミナ最悪である砂迦は膨大なセレス量で攻撃力を補う。対し砂楽は初めからとてつもない攻撃力を誇るセレスで弟より劣るセレス量を補う。砂迦の武術の師匠は実は砂楽である。ただし、体術に関してはセンスゼロと砂迦にストレートに伝えている。砂迦は自覚済み。体術だけならば修鬼の方が断然勝ってはいるのだが


 「そうだな。体調が悪い時に普段通りの威力を出したい時に役に立つセレス術具の作り方を教えようか」

 「なにそれ、そんなのあんの?」

 「・・・セレス使いにとって必須なのでは?」

 「三日前のセレスは実はその術具によるものなのだ」


 恐ろしい破壊力を生んだセレスがまさかの道具によるもの。それを当然の如く知っていたのは砂迦と綴だけだ。二人は普段から使用している。


 「トワイライトの兵士たちが持つものとは別物なのですか?」

 「あれは地中深くに流れる脈を糧として放つ。対し今回は、脈も使わずなんなら自分のマナさえ使わずスタミナさえ失わないミスリルというものだ」

 「・・・何も必要としないってことですか?」

 「詠唱するだけだ」


 ・・・セレス使いに絶対役立つやつ!
 詠唱するだけで普段通りの力が出せる。いつもそれを使えばいいだろ、とはとてもではないが言えない


 「一つのミスリルで五発は撃てる」

 「あのグングニルってそういうこと?」

 「そうだ」


 普段は詠唱する必要は無い。ただ込めて撃つ。今回はミスリルを発動するために必要な謂わば儀式のようなもの。


 「使い方を知っておくだけで戦闘時効率良く敵を吹き飛ばせる」

 「灯夜くん・・・これ必須科目じゃん」

 「だよな。もう少し早くご教示くださっても良かったのでは」


 ・・・毎回思うけど灯夜くんのこの恭しさはなんなんだろう
 王相手とは言っても、幼なじみの兄。少しくらい砕けた話し方をしてもいいのではと修鬼は思うのだが、灯夜は家臣であり弟子という立場。砂迦相手であればたまにタメ口に近い敬語になったりはする。王だからなのか、師匠だからなのか、灯夜自身もわからない。


 「砂迦兄様も、砂楽お兄様から教えられていたのならわたしにも・・・というかお兄様」

 「ん?」

 「兄様をお教えなさっているのなら、なぜわたしにはしてくださらないのです?」


 怒っているようなのだが、生憎全く怖くない。なんかプンプンしてるなぁとしか思われていない。砂遠はそんなことは露知らず。


 「いや、まぁな。砂迦は教えているものだと。私の場合は完全に教えるのを忘れていた。が、砂迦が忘れるとは思えん」

 「砂迦は砂楽が教えるものだと思っていたのではないか?」

 「これは・・・すまん」


 兄弟揃ってお互いに任せていたという事実が判明した。結果どちらも教えておらず、砂遠はそんな方法は知らないまま戦場に立っていたのだ。修鬼たちは砂遠に同情した。可愛い妹がかなり拗ねている。


 「これを教えたあと特別な秘術を教えるから機嫌を直してくれないだろうか」

 「仕方ありませんね」


 砂迦も知らないといえば機嫌が治った。綴も知らないとは言っていない件については突っ込まないことにした修鬼であった。


 「フローラという秘術だ。とても美しく、砂遠に似合うだろう」

 「名前もとても綺麗です。楽しみにしております」

 「綴、覚えておいてくれないか」

 「了解した」


 愛らしく微笑む妹とは裏腹に、砂楽はすぐに綴に告げた。また忘れてしまいかねないからだ。今度は拗ねるではなく泣かれかねない。それだけは困る。今度は忘れないとは思うが、備えあれば憂いなしである


 「で、君ら学校は?」

 
 砂楽の一言で修鬼たちは大慌て。時計を見てすぐに支度を始めた。


 「今日はおそらく無理なので、まぁ私が書いたセレス書を一冊渡すので、自主特訓でもしていろ。君らが休日の時に教えることにしよう」

 「は、はーい」


 超多忙な王様であることを若干忘れていた。防衛大臣や首相と会談することになっている。休日は出来れば観光させてあげたいというのが修鬼たちの総意である。王に休日など無いに等しいのだが。修鬼は、亜紗と雅紗がなんとかしてくれるだろうと密かに期待していた。
 学校に着くと、昨日の話で持ち切りだった。
 
 
 「砂楽王って今日もいらっしゃるのか?」

 「いや、さすがに今日は学校来ないんじゃないかな」

 「はい。お兄様はとても忙しいそうですので。残念ですが」


 クラスメイトも残念そうである。そもそも肉体年齢は大学生。高校にいる方がおかしいのだ。修鬼としては、どうせならこの国有数の大学を見に行った方が良かったのではと思うのだ。大学の講義と高校の授業はやはり違うのだろうかと首を傾げるのは夜刀だ。とはいえ、砂遠も灯夜も夜刀もこの国自体居る期間はまだ短い。そこまで把握している訳では無い。


 「この学校大学もあるんだし、ご案内した方が良かったかもしれないわね」

 「うわっ、ホントだ。音楽とかやらせてる場合じゃなかった」

 「どこの学校に王に伴奏させる生徒がいるんだよ、マジで」


 それが奇しくも夜明学園なのである。砂楽が伴奏しようと自ら申し出たのだが、普通断る。しかし生徒たちは、断わる方が失礼なのではという結論に至り、伴奏させた。間違いなく知らないし、そもそも聞いたことも無いはずの曲だった。楽しそうだったので、そこはよかった。敬語は使うが心では友人だと思っているくらいの距離感。大臣クラスになると、何をしているんだね君たちはと問題になるほどのことをしていたのだ。勿論自覚あり。しかし、もう一度会って話がしたいというのは本心だ。


 「砂楽さんの誕生日ってどうするの?」

 「お祭りが催されます」


 トワイライトの軍隊がマーチングをしたり、世界レベルのミュージカルが見られたり、出店のようなものもでる。バザールのようなものが王の誕生日から一週間開催されとてつもなく賑わう。夜になると舞踏会。その席には砂楽と親しい他国の王が出席する。


 「砂楽さんって賑やかなの結構好きなんだ。王様だけどこじんまりとしたホームパーティを想像してたよ・・・」

 「今年もこの国が笑顔に満ち、平穏に暮らせていることを確認出来る日だから幸せだとのことです」

 「祝われて嬉しいと思うより、国民の顔が見れて幸せという感覚なんだよ。砂楽さまは」


 賑やかな一日もしくは一週間になる砂楽とは違い、砂迦は近しいものたちでホテルのパーティールームを借りて過ごす方を好む。国民の平穏は、砂楽の誕生祭の日に確認出来るからだ。あと、どちらかと言えば静かな方が良い。


 「そういえば誕生日知らないね」

 「砂楽お兄様は、2月7日。誕生花はヒヤシンスと勿忘草。誕生石はアメジストとラピスラズリです」

 「本当に紫なんだ・・・」

 「はい。高貴で神秘的。お兄様にピッタリです」


 瞳の色はアメジスト色。髪の色もやや紫がかった銀髪。雷も何故か紫。槍も紫。服も紫色が多い。砂楽本人もお気に入りのラッキーカラーもしくはシンボルカラーともいう。


 「砂迦お兄様は、12月9日。誕生花はポインセチア。誕生石はクリソプレーズとタンザナイトです。花は情熱的な赤色なのです」

 「でも心の中に情熱抱えてるって感じだから似合ってるよ」


 はい。本当にと嬉しそうに頷く砂遠。


 「わたしは、3月16日です。アクアマリンとローズクォーツ、それから誕生花はクチナシとスペアミント」


 ・・・誕生石と誕生花の情報なんなんだろう。好きなのかな
 砂遠は、石言葉や花言葉や占いなどに興味があり、占いに関してはかなりの確率で当たる。そもそも未来予知の能力を持つのだから、当たっても不思議ではない。


 「俺は5月7日だぜ」

 「ご、5月なんだ。てっきり真夏くらいかと」


 どこか爽やかな静かなそよ風のようなイメージがある5月。修鬼のかなりの偏見である。元気いっぱいといった様子なので8月当たりを予想していたのだが、大きく外れた。


 「俺は6月28日。雨季はあんまり好きじゃねぇな。ジメジメしてて」

 「夜刀はなんか秋っぽいと思ってたけど。意外だったな」

 「確かに。夜刀のイメージカラーというかシンボルカラーは黄土色?だしね」


 土だけではないが、主に使うのは土系統のセレスだ。修鬼と同じ影属性持ちだ。光にも闇にも耐性を持つ。


 「オレだね。オレは1月7日」

 「1月か。なんでか7月っぽいな。赤だからか?」

 「ルビーって感じがします。ガーネットでしたか。いや、まぁ赤ですけど」

 
 友情の印や絆などを象徴すると言われている(諸説あり)。いつの間に誕生日の発表をすることになったのだろうと思っているのは灯夜だ。砂楽の誕生日はいつなのかと言う話題からなのだが、まさか全員言うことになるとは


 「灯夜くん誕生日過ぎちゃってるね。ということは、夜刀のバースデーかな」

 「お、なにを頼もうかな。砂楽さんに」

 「だからお前な、砂楽さまにどれだけ頂いたら気が済むんだよ。あんな笑顔見れただけでも光栄と思えよ」


 嬉しそうな懐かしむような笑顔のことを言っている。あの笑顔はなかなか見られない。かなり貴重。感情の起伏はあるが、あまり抑揚がないためもしくは不屈すぎる理性により抑え込まれているためか、表情のバリエーションがあまりない。それは砂迦にも言える。砂遠はバリエーションがあり過ぎるのだが、そこが魅力。そこにいるだけで王も王子もリラックスできるという効果がある


 「その前に、砂楽さんの刀そろそろ出来るぜ」

 「え、早っ!?」

 「今日籠って仕上げようと思ってんだ。最高傑作だぜ、多分」

 「夜刀がそこまで言うなら、そうなんだね」


 確実に砂楽に喜んでもらえるという自信がある。これまで作ってきた刀の中でもかなり上出来だった。父である夜架ヤカやそれこそ前世である夜叉を超える鍛冶師になることを目標としている。ラクサーの槍は夜叉もしくは夜叉の父あたりに作ってもらったものだと推測した。
 砂楽のコレクションルームにあった武器たちは鍛冶師ではなく、少し暇ができたときに寄った武器屋で買ったものと思われる。双槍は間違いなく鍛冶師。かなりの腕を持つ。しかし、何度か修理していくうちにやはり重さが少しずつ変わっていってしまった。夜刀は、しれっとその双槍の重さも元に戻し、砂楽に返している。かなり喜んでもらえた。


 「夜刀ってどうやって武器作ってんだ?普通もうちょっとかかるよな?」

 「俺は錬金術に似たセレスで固めたやつなんだよ。一度見た材質なら何でも古代の物質だろうと再現出来る」

 「すごいです。だから砂楽お兄様の槍も再現できたのですね」

 「そういうこった」


 突出しすぎじゃない?と思うほどの才能を持つ夜刀。普段はそんなものはお首にも出さないが、武器を作る時は真剣そのものだ。修鬼でも見慣れないほどのまさに鬼の形相で造り上げる。一度その様子を見たが、セレスで作るためそれなりに負担がかかる。鬼ならではのスタミナにより倒れたことは一度もない。砂迦が聞けば驚愕するほどの特技である。
 普段通り。退屈とも言えるほど平穏な学校での一日を過ごし、旅館に戻った。急に秘術を使えるわけが無いため、予習のために砂楽にもらったセレス書で勉強し始めた。


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