思い思われ嵌め嵌まり

凛子

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三話

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翌日も期待に胸を膨らませ、景子はまた同じ時間にその場所へ向かった。
車道を挟んだ向かい側で彼が来るのを待ち、青信号をニ回見送った。そして赤信号になったところで、彼が姿を見せた。
おそらく彼の会社はこの辺りなのだろう、という景子の読みは当たったようだ。
彼は今日も手ぶらで何処ということもない場所を見ながら、信号待ちをしていた。

景子の胸は高鳴った。
長身の男性の陰に隠れて、彼を盗み見する。
信号が青に変わると景子は姿勢を正してゆっくりと歩き始めた。こちらに向かって歩いて来る彼の位置に合わせて微調整しながら……。

彼との距離が三メートル程になった時、目が合った。
少し驚いたように眉を上げてから景子が会釈すると、彼も同じ表情で会釈した。勿論景子は演技だが、彼は本当に驚いている様子で、一瞬立ち止まったように思えた。
三日連続で同じ人物と顔を合わせているのだから、そうなるのも当然だろう。


そして翌日。少し進展があった。
いつもの横断歩道の向こう側にいる彼が景子に気付き、じっとこちらを見てしばらく目を合わせたままでいた。距離はあるが、景子は視力がいいので間違いない。
恥ずかしさから景子のほうが目を逸らした。
信号が青に変わり歩き始める。いい頃合いを見て彼に目を遣ると視線が絡まり、また会釈を交わす。

景子は胸を弾ませて店に戻った。

「広ちゃん! 何か今日はちょっといい感じだった……と思う」

何となくそんな感じがしたのだ。少なくとも、自分に対して悪い印象は持っていないように思えた。

「そっか。良かったじゃん。何か……廊下で好きな人とすれ違った中学生みたいだけどね」

からかうように、広美が軽く笑った。
人見知りのわりに、彼氏がいない時期が殆どないのは、やはり広美が言った、内面から溢れだす何かのせいなのだろうか。
数は多くはないが、それなりにいい恋愛はしてきた、と景子は思う。結婚を意識した相手もいた。けれど、一目惚れは今回が初めてだった。

マネキンにジャケットを着せていると、景子はふと気付いた。

――明日休みじゃん。

折角少し進展したところだったのに、と残念で仕方がなかった。
仕事は休みだが、彼に会えないわけではない。明日いつもの時間にあの場所へ行ってみようか、と考えが浮かんだが、すぐに打ち消した。

――クールな女はそんなことしないか。

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