思い思われ嵌め嵌まり

凛子

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四話

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休み明け店に出勤したのは、土曜日だった。
ショップ勤務はシフト制で休日をとるが、平日が休みとなる為、一般の会社員とは逆になる。恐らく彼の休日も土日なのだろう、と思いながらも昼休憩にいつもの場所でしばらく待ったが、案の定彼は現れなかった。

翌週と翌々週にいつもの場所で彼と顔を合わせた後、景子は彼に会うのをやめた。
『ザイアンス効果』は充分効力を発揮しただろう。
流石にもう顔は覚えてもらえただろうし、悪い印象は持たれていないようにも感じたので、次のステップに進むことにしたのだ。
景子はすぐ近くのカフェで、昼食を兼ねて休憩時間を過ごそうと考えていた。

今度は、しばらく彼と顔を合わせないようにするのだ。次の狙いは『最近見ないな』と思わせることだ。そうすることで次に顔を合わせた時、更なる進展がある……と景子は踏んでいた。
うまくいけば、彼から声が掛かるかもしれない――と。


次の出勤日、景子は例のカフェにやってきた。
このカフェのニ階からは、いつもの交差点が見渡せる。彼の様子を眺めるのに最高のロケーションなのだ。
そろそろかな、と思っていると彼がやってきた。景子は目を凝らして彼の様子を見ていた。
信号待ちをしている彼が、キョロキョロと辺りを見回している。何かを探しているのだろうか。そうしているうちに信号が青に変わり、彼は横断歩道を渡って景子の視界からいなくなった。
何だかとても切ない気持ちになった。


翌日は雨だった。
景子は昨日のカフェの同じ席に座って、そわそわしながら彼を待った。傘をさしていてわからないだろうか、と思ったが、予想に反していとも簡単に人混みの中の彼を見付けることができた。傘で胸元から下しか見えていなかったが、歩き方や歩幅やリズムで彼だとわかった。
信号で止まり傘を後ろに傾けて顔を覗かせたのは、やはり彼だった。
視界を広げた彼は、またキョロキョロと辺りを見回していた。

――これってもしかして……私を探してる?

そんな甘い期待を抱いているうちに信号が青に変わり、あっという間に通り過ぎる彼の姿を見送った。


さらに翌日。今日彼の姿を見たら、次は景子の休日と彼の休日を挟んで、また景子の休日と続いて、しばらく会えない。しっかりと目に焼き付けておかなければ……などと考えていると、彼が姿を見せた。
信号が青に変わったが、彼はその場に留まっていた。そして辺りを見回しているうちに信号が赤に変わった。
どうしたというのだろう。
彼は端のほうに移動して、ずっとキョロキョロしている。誰かと待ち合わせをしているのだろうか。仕事中だとすると、会社の人か仕事関係の人、最悪の場合は、彼女が現れるなんてこともあり得るわけで……景子は固唾を呑んで見守った。
しかし結局誰も現れず、十分程経つと彼は横断歩道を渡り姿を消した。

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