上 下
10 / 23

10.突然の求婚

しおりを挟む
「ソーニャ!」

 私が領地から戻ると訪ねて来た者がいた。
 ローレンスだ。
 彼は私の姿を認めるなり駆け寄ってくる。その勢いは今にも抱きつかんばかりのもので私は思わず一歩引いてしまった。

「ああ、ソーニャ!会いたかったよ!」

「え、ええ……」

 彼は私の前で跪き、私の手を取った。
 まるで壊れ物に触れるかのように優しく手に唇を寄せる。

「っ!」

 ゾワリと悪寒がした。
 え?なに?

「結婚しよう、ソーニャ」

「は?」

 思わず間抜けな声が漏れた。
 ローレンスは跪いたまま私を見上げている。
 幻聴ではないらしい。

 彼は私と結婚したいと言っている。

「ど、どうしたの?ローレンス」

「ソーニャは僕のことが嫌いかい?」

「……いえ、別にそういうわけでは……」

「じゃあ好きかな?」

「そ、そうね。友人としては好ましく思っているわ」

 思わず戸惑いながらも答えると彼は嬉しそうに笑った。

「なら決まりだね」

 ……え?何が?何が決まったの?
 そこからが早かった。
 トントン拍子で話が進み、私はローレンスと婚約した。

 展開が早すぎて付いていけない。どうしてこうなった?







「何か問題?」

 心底不思議そうにのたまうローレンス。

「ええ……あまりにも急展開過ぎて」

「そうかい?僕との結婚はもっとも最善だよ?」

「その根拠はなに?」

「だって、考えてごらん。僕とソーニャの年齢は七歳しか違わない。年回りの合う結婚相手なんて他にいないだろう?」

「……私はそうだけど、ローレンスは違うでしょう?」

「大ありだよ。僕は『婚礼式直前で花嫁に逃げられた男』なんだから」

「それは王家の過失でしょう」

「そうと分っていても揚げ足取りはされるものさ。それに、僕の結婚相手は公爵夫人になる。それなりの教育を受けた高位貴族に限られてくるんだ。ね?早々いないだろう?その点、ソーニャは既に公爵夫人としての教育を受けている。能力に何も問題ない。これだけの条件を揃えているのはソーニャだけ。君以上に最適な結婚相手はいないよ」

「……そうかしら?」

「そうだよ!」

 力強く断言するローレンス。
 その自信は何処からくるのか。
 確かに納得する部分はある。
 王女殿下との結婚が無効になったので正式に公爵家を継ぐ身になっている。
 必ずしも長子が継ぐとは限らない。
 王家に男児が誕生した場合を見越して第一王女は立太子されなかった。
 一応、公爵家に嫁ぐ身だった王女殿下。
 数年して男児が望めなければそのまま立太子し、ローレンスは王家に婿入りだったはず。

 ……そうか。そうよね。
 王配になるはずだった公爵家の跡取り。

 そこら辺の貴族の令嬢ではダメよね。

 あら?
 それでいうのなら私も同じ?

 元婚約者は公爵子息で王太女の夫……うん。この微妙な肩書は私ぐらいかもしれない。
 確かに。
 私と結婚できる男は限られる。

 場合によっては王家に目を付けられかねない女よね。
 王太女殿下も夫の元婚約者の女だなんて気分の良い存在ではないはず。

 信頼が地に落ちたといってもこれから挽回すればいいこと。
 お金のない王家はメイナード公爵家のおかげでその心配はなくなった。
 となると、私の結婚相手はいざとなれば王家と事を構えても一向にビクともしない鉄の精神と財力と権力を持った男でなければならない。
 ……まあ、ローレンスは条件に当てはまるわね。
 うん。悪くないわ!



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

国王陛下が愛妾が欲しいとおほざき遊ばすので

豆狸
恋愛
よろしい、離縁です! なろう様でも公開中です。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました

Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、 あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。 ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。 けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。 『我慢するしかない』 『彼女といると疲れる』 私はルパート様に嫌われていたの? 本当は厭わしく思っていたの? だから私は決めました。 あなたを忘れようと… ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

今夜で忘れる。

豆狸
恋愛
「……今夜で忘れます」 そう言って、私はジョアキン殿下を見つめました。 黄金の髪に緑色の瞳、鼻筋の通った端正な顔を持つ、我がソアレス王国の第二王子。大陸最大の図書館がそびえる学術都市として名高いソアレスの王都にある大学を卒業するまでは、侯爵令嬢の私の婚約者だった方です。 今はお互いに別の方と婚約しています。 「忘れると誓います。ですから、幼いころからの想いに決着をつけるため、どうか私にジョアキン殿下との一夜をくださいませ」 なろう様でも公開中です。

危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました

しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。 自分のことも誰のことも覚えていない。 王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。 聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。 なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。

今の幸せを捨て新たな幸せを求めた先にあったもの

矢野りと
恋愛
夫トウイ・アロークは13年間も連れ添った妻エラに別れを切り出す。 『…すまない。離縁してくれないか』 妻を嫌いになったわけではない、ただもっと大切にするべき相手が出来てしまったのだ。どんな罵倒も受け入れるつもりだった、離縁後の生活に困らないようにするつもりだった。 新たな幸せを手に入れる夫と全ての幸せを奪われてしまう妻。その先に待っていたのは…。 *設定はゆるいです。

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう

まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥ ***** 僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。 僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

二度目の恋

豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。 王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。 満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。 ※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。

処理中です...