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9.領地に帰還

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 婚約解消が正式に発表される前に領地に引っ込んだ。
 あのまま王都にいればに煩わされることは分かり切っていたので。
 王家としても当事者の私がいない方が新しい王太女の発表がしやすいでしょう。

「お嬢様、本当によろしいのですか?」

「ええ。領地に籠っていれば煩いハエもやってこないわ」

「……それはそうですが……」

「それに、もう王家とメイナード公爵家には関わりたくないわ」

 色々ときな臭い話しも聞こえてくるし。
 何かしら仕掛けてこないとも限らない。
 既に情報は集めさせているけど、どこまで信用していいのか。

 貴族なら当然なのかもしれない。
 ただ、暗躍する者が多過ぎて真偽の程が分からないのが現状だ。

「まあ、領地に籠るといっても来年の社交シーズンには王都にこなければならないし」

 今から憂鬱だわ。

「お嬢様……」

「大丈夫よ。お父様もお母様もいらっしゃるし、領地の皆もいるわ」

「そうでございますね」

「ええ。だから心配しないで。来年のエスコートはお兄様の誰かになるでしょうけどね」

「……」

「どうしたの?」

 メイドは無言だ。
 不思議に思って呼びかけると彼女は複雑そうな顔で私を見ていた。

「……お嬢様は……いえ、何でもございません」

「そう?何かあったら遠慮なく言ってね」

「はい」

 何もなければそれでいいけれど。








 


『婚約解消』の報が国中を駆け巡った。
 王家としては何が何でもメイナード公爵家を取り込みたかったようだ。
 第二王女殿下と公爵家長男の婚約期間は三ヶ月。
 早々に婚礼を挙げた。

 あまり頭のよろしくない第二王女を王太女に添えたのも、メイナード公爵家の後ろ盾に期待している証拠だろう。
 公爵家の財力を見せつけるかのように華やかな婚礼であった。
 パレードの最中にちょっとしたアクシデントがあったようだけど、それも大したことではないらしい。何でも随分汚れた白髪の女がパレードの邪魔をしたとか。
 白髪の女が狂ったように「クルト様!」と叫んでいたらしいが……。
 めでたい御成婚パレードを台無しにした女がどうなったのかは風の噂程度しか聞こえてこない。
 しかし、まともな精神状態ではなかったのだろうことは想像に難くない。
 彼女は「クルト様」と叫んでいたが、メイナード公爵家を始め、貧民街の住人であろう白髪女の知り合いなんていない。王太女夫妻の乗る馬車には御者や従者、護衛である騎士達が揃っている。
 女は周囲にいる男性から不審人物として拘束されて何処かに連れて行かれたという。
 王都で暮らす平民の中でも、特に貧しいと言われている貧民街の人間だろう。
 それがなぜ王太女の馬車の前に現れたのか。
 不思議ではあるけれど……まあ、きっとそれだけの理由があったのだろうと納得することにした。



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