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~第三章~
55.アンハルト国王side
しおりを挟む『かの人は女性であれば誰でも口説くことで有名なお方。閨で囁いただけで訳の分からない薬を簡単に服用する有り様です。実に簡単でこちらが拍子抜けするほどでしたよ』
クスクス笑う姿はとてもじゃないが正気とは思えないほど恐ろしいものだった。
宰相が口にしたのは薬で子種を無くしたということだ。それも密かに行われたということなのだから恐ろしいこと極まりない!
同じ男として同情するが、これで他の女性から不義の子が出来る心配がないということは喜ぶべきことだろう。問題は娘の事だ。
『ならば王女との婚約を白紙にしてもいいだろう!子供ができない事を理由にな!!』
『申し訳ありませんが、それはまだ出来かねるかと思います』
宰相の顔からは表情が無くなっていた。
そして声音もとても冷たかった。
今までに聞いたことのないような底冷えするような声だった。
思わず背筋に冷たい汗が流れたほどだった。
『どういう意味だ?』
『王女殿下の二度目の婚約白紙は体裁が悪いと申し上げているのです』
『しかし!あんな男と結婚させられぬ!!』
『そんな男を選んだのは王女殿下ではありませんか』
『アレは一時の気の迷いだ!現に王女は後悔している!!』
『遅すぎる後悔でございますな』
『そなたは王女が幸せになれなくともよいと言うのか!!』
『王女殿下の幸せよりも国の面子の方が何百倍も大事です』
宰相ははっきりと告げてきた。
国のために王女を捨てろというのだ!
そんな事できるはずがないだろう!!
私は当然抗議した。
宰相だけではない。彼に賛同する家臣達にだ。時には頭を下げる……事はできなかったが、それでも必死になって説得を試みた! しかし、誰一人として私の考えに賛成してくれる者はいなかった! それどころか、王女自身が望んでいるという理由だけでは弱いと言われた。私に王女の件は諦めるよう説得する者までいた。
『王族が一度口にした事を曲げるなどあってはならない事です。例え、調査一つせずに偽物と断罪して未成年の侯爵子息を罪人として放逐したとしたとしてもです。王族が黒と言えば白いモノも黒になるのですよ』
そう言って微笑む宰相の姿は恐ろしかった。
笑顔なのに目が全く笑ってない。
目が合った瞬間に身動きが取れなくなるほどの圧力があった。
何なのだ!これが国王に対する態度か!!
憤慨する私に家臣達は呆れた眼差しを送ってきた。まるで馬鹿なことをしている子供を見るかのような目をしていた。
『もっとも、このままアヴィド・パッツィーニを侯爵家に居座らせるつもりはございません。彼は侯爵家にとっては加害者側ですからね。例え勘違いで迎えられた者だとしても、侯爵家にしたら堪ったものではないでしょう。ですので、反省期間が終わり次第、彼の身柄を王宮に移させていただきます』
宰相の言葉に耳を疑った。
王宮に移すだと?
バカな!!
そんな事をすればあの節操無しの男の事だ。絶対に王女に手を出すに決まっているではないか!!
私の抗議の声は届かなかった。
結局、王女の婚約は白紙になる事はなかった。
誰一人としてそれを認めなかったのだ。
そうして、あの男を引き取る事になってしまった。
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